Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 9月 8th, 2008
Cate: LS5/1A, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その7)

アルテックの604シリーズは、38cmコーン型ウーファーとホーン型トゥイーターの同軸型で、
クロスオーバー周波数は、モデルによって多少異るが1.5kHz前後。 
中高域はマルチセルラホーン採用なので、水平方向の指向性は十分だろう。 
問題はクロスオーバー周波数から1オクターブ半ぐらい下までの帯域の指向性だろう。 
実測データを見たことがないのではっきりしたことは言えないが、
604の、このへんの帯域の指向性はあまり芳しくないはず。 

BBCモニターのLS5/1Aは、
38cmウーファーとソフトドームのトゥイーター(2個使用)の2ウェイ構成で、クロスオーバーは1.75kHz。
当時すでにBBCの研究所では指向性の問題に気がついており、
ウーファーをバッフルの裏から固定し、バッフルの開口部は円にはせずに、
横幅18cm、縦30cmくらいの長方形とすることで、水平方向の指向性を改善している。 
ユニークなのは、30cm口径よりも38cm口径のほうが、高域特性に優れている理由で採用されていること。 

1980年ごろ登場したチャートウェルのPM450E(LS5/8)は30cm口径ウーファーだが、
バッフルの裏から固定、開口部はやはり長方形となっている。 
LS5/8のネットワーク版のロジャースPM510も、初期のモデルでは開口部は長方形だ。

アルテックがスタジオモニターとして役割を終えた理由として、いくつか言われているが、
指向性の問題もあったのではないかと思う。 
同じことはタンノイの同軸型ユニットについても言える。

Date: 9月 8th, 2008
Cate: 4343, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その6)

JBLの4341(4343)について考えてみる。 
JBLのモニターシリーズには、4333が同時期にあった。 
ユニット構成は、4341(4343)に搭載されたミッドバス2121を除けば、
ウーファーは2231A、ドライバーは2420、トゥイーターは2405と同じ。 
スピーカーの周波数特性としては、エンクロージュアのプロポーション、内容積は異るが、
上限と下限はほぼ同じである。 

4333のウーファーとミッドレンジのクロスオーバーは800Hz。
4341(4343)のウーファーとミッドバスのクロスオーバーは300Hz。 
周波数特性的には4333も4341(4343)も、2231の良好なところで使っているが、
指向性に関しては、4333は多少狭まっている帯域まで使用している。 

スピーカーの指向性は狭い方がいい、という意見もある。
部屋の影響をうけにくいから、ということで。 
けれど、再生周波数帯域内で、指向性が広いところもあれば極端に狭いところもあり、
スコーカーの帯域に行くと、また広がる、そんな不連続な指向性がいいとは思えない。 
狭くても広くても、再生帯域内では、ほぼ同じ指向性であるのが本来だろう。 

4341(4343)から、JBLの真のワイドレンジがはじまった、と言える理由が、ここにある。

Date: 9月 7th, 2008
Cate: EMT

便利な小物

EMTのカートリッジのクリーニングに便利なものが、 
ステッドラー社のファイバーブラシ、 MARS-FIBRASOR。 

EMTのカートリッジ、TSD(XSD)15の、 
トーンアームとのコネクター部分は、すぐに硫化して黒ずんでしまう。
微小信号の通るところだけに、マメにきれいにしておきたいもの。

MARD-FIBRASORで軽く磨くと、きれいになる。液体を使わないのもうれしいところ。 
それにステッドラーもドイツ製というのが、またうれしい。

Date: 9月 7th, 2008
Cate: JBL

マテリアル2ウェイ

JBLのD130、LE8Tのようにセンターキャップがアルミのものを、
一般的にはメカニカル2ウェイのフルレンジと呼ぶ。 
でも、ほんとうにメカニカル2ウェイなのか。 

アルテックのフルレンジユニット420−8Bのように、
コーン紙の中間あたりにコンプライアンスをもたせたコルゲーションを設け、そこを境に高域と低域を分割する。
しかもコーン紙の頂角も高域のコーン(内側)は浅くて、
ウーファー(外側)のコーンの頂角は深いという工夫がこらされおり、
こういう設計思想によるものなら、メカニカル2ウェイと納得できる。 

けれどセンターキャップだけアルミ(金属製)で、
メカニカル2ウェイといえる動作をしているのか。 
420-8Bのセンターキャップとコーン紙のつなぎ目と同じように、コンプライアンスをもたせていれば、わかる。 

D130は38cm口径、センターキャップは10cm、
材質も紙とアルミ(内部音速もかなり違う)だけに、
センターキャップにアルミを採用した良さは、音を聴いても、出ていると感じる。 
大口径のフルレンジ(振動板は紙のもの)は、
真正面で聴けば、それなりに高域は出ているように感じるが、
軸をずらすと、高域が明らかに落ちている印象になったように記憶している。 

だからといってメカニカル2ウェイとは呼びたくない。マテリアル2ウェイと呼びたい。

Date: 9月 6th, 2008
Cate: LNP2, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その7)

オーディオ機器との出会いには、幸運なときもあれば、
そうでないこともある。

たとえば瀬川先生とマーク・レビンソンのLNP2との出会い。
瀬川先生は、LNP2との出会いについて、次のように書かれている。
     *
彼(註:山中敬三氏のこと)はこのLNP2を「プロまがいの作り方で、しかもプロ用に徹しているわけでもない……」と酷評していた。
 ところで音はどうなんだ? という私の問いに、山中氏はまるで気のない様子で、近ごろ流行りのトランジスターの無機的な音さ、と一言のもとにしりぞけた。それを私は信用して、それ以上、この高価なプリアンプに興味を持つことをやめにした。
 あとで考えると、大きなチャンスを逸したことになった。
 74年夏のことである。
 75年になって輸入元が変わり、一度聴いてみないかと連絡があったときも、最初私は全く気乗りしなかった。家に借りて接続を終えて音が鳴った瞬間に、びっくりした。何ていい音だ、久しぶりに味わう満足感だった。早く聴かなかったことを後悔した。それからレビンソンとのつきあいが始まった。
     *
早く聴かなかったことを後悔した、と書かれているけど、
ほんとうにそうだろうか。
瀬川先生自身、気がつかれてなかったのか。

山中先生が「無機的な音さ」と言われたLNP2は、
シュリロ貿易がサンプル輸入したモノで、 岡俊雄先生が購入されたモノ。
つまりバウエン製モジュール搭載のLNP2である。
一方、75年になって、RFエンタープライゼスが輸入したLNP2、
瀬川先生がはじめて聴かれたLNP2は、
ジョン・カールの設計によるマーク・レビンソン製のモジュール搭載になっている。

もしバウエン製モジュールのLNP2を聴かれていたら、
瀬川先生はどういう反応をされただろうか。

岡先生は、LNP2が製造中止になったときに、ステレオサウンド誌に、
LNP2物語を書かれている。
この記事でもそうだし、過去に何度か発言されているが、

岡氏は、マーク・レビンソン製モジュールのLNP2よりも、
バウエン製モジュールのLNP2を高く評価されている。

岡先生と瀬川先生の音の嗜好の違い、捉え方の違い、ひいては再生音楽の聴き方の違いは、
1970年代のステレオサウンド別冊に掲載されている
岡俊雄、黒田恭一、瀬川冬樹、三氏の鼎談を
読んだことのある人ならば、ご存知のはず。

勝手な推測だが、
もし瀬川先生がバウエン製LNP2を聴かれていたら、
山中先生と同じような感想を持たれたことだろう。

山中先生の言葉を信用してバウエン製LNP2に興味を持つことにやめにし、
輸入元がかわったLNP2に対しても、全く気乗りしなかった瀬川先生だけに、
もしバウエン製LNP2音を聴かれていたら、
レビンソン製LNP2を聴く機会すら拒否されたかもしれない。
聴く機会が、それこそもっと後になったかもしれない。

そう考えると、瀬川先生とLNP2との出会いは、幸運だった、
出会うべくして、出会うべきときに出会った、と私は思っている。

不思議なのは、シュリロ時代のLNP2が
バウエン製モジュールだということに、
なぜ瀬川先生は気がつかれなかったのこということ。
気がつかれなかったからこそ、LNP2との出会いについて書かれるとき、
山中先生を引き合いに出されるわけなので。

実は、バウエン製モジュールのLNP2と、
マーク・レビンソン製モジュールのLNP2を
じっくり聴き較べてみたことがある。

岡先生がLNP2の記事を書かれたとき、
写真撮影に岡先生所有のLNP2をお借りしていたときに、
ステレオサウンド試聴室常備のLNP2Lと聴き比べてみた。

ステレオサウンドのLNP2Lは、もちろんマーク・レビンソン製モジュール搭載で、
しかも瀬川先生が、こちらのほうがさらに音が良いと書かれている、
追加モジュール搭載仕様で、その意味ではよりLNP2Lらしさは強い。

そのときの印象からいえば、
瀬川先生にとってのLNP2は、
やはりマーク・レビンソン製モジュールのモノだということである。

Date: 9月 4th, 2008
Cate: LNP2, LS5/1A, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その3)

瀬川先生の追悼記事がステレオサウンドに載ったのは、61号。 
62号と63号の二号にわたって、第二特集として、 瀬川先生の記事が掲載されている。

私がステレオサウンド編集部にバイトで入ったのが、 1982年1月下旬。
19歳の誕生日の約1週間前のこと(ぎりぎり18歳だったので、ずっと「少年」と呼ばれていました)。 

初めて試聴室に入ったときに、ハッとして、目が奪われたが、試聴室隣にある器材倉庫の一角。
そこにはKEFのLS5/1Aとマーク・レビンソンのLNP2L、 スチューダーのA68が、
なんとも表現しがたい雰囲気をただよわせて置かれていた。

編集部の方に訊ねるまでもなく、瀬川先生の遺品であることは、すぐにわかった。
まったく予想していなかったこと、だからうれしくもあり、かなしくもあり、綯交ぜの気持ちにとまどう。

だから「瀬川先生のモノですよね……」という言葉しか言えなかった。

数ヶ月間、LS5/1AもLNP2LもA68も、そこに置かれていた。
「お金があれば……」と思った。すべてを自分のモノにしたかった。
どれかひとつだけ、と思っていても、学生バイトにそんなお金はなく、
「欲しい」と言葉にすることすら憚られた。

Date: 9月 3rd, 2008
Cate: 4343, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その1)

トーレンスのアナログ・プレーヤー 〝リファレンス〟の実物をはじめて見て、 
その音を聴いたのは、もうずいぶん前のこと。 
まだ熊本にいたころ、高校3年生の時だから、27年前になる。 

熊本市内のオーディオ店(寿屋本庄店)で、 
(たしか)三カ月に1度、土日の二日連続で開催されていた 
瀬川先生の「オーディオ・ティーチイン」というイベントにおいて、である。 

そのときのラインナップは、 
トーレンスのリファレンス、 
マークレビンソンのLNP2L とSUMOのTHE GOLDの組合せで、 
スピーカーは、もちろんJBLの4343。

この時、正直にいえば、パワーアンプはTHE GOLDではなく、
LNP2LとペアになるML2L で聴きたいのに……と思っていた。

いろんなレコードの後、 
最後に、当時、優秀録音と言われていて、 
瀬川先生もステレオサウンドの試聴テストでよく使われていた 
コリン・デイヴィス指揮の ストラヴィンスキーの「火の鳥」をかけられた。 

もうイベントの終了時間はとっくに過ぎていたにもかかわらず、 
なぜか、レコードの片面を、最後まで鳴らされた。 

そのときの音は、いま聴くと、 
いわゆる「整った」音ではなかっただろう。
けれど、その凄まじさは、いまでもはっきりと憶えているほど、つよく刻まれている。

レコードによる音楽鑑賞、ではなくて、音楽体験、 
それも強烈な体験として、残っている。

聴き終わって、瀬川先生の方を見ると、 
ものすごくぐったりされていて、顔色もひどく悪い。 

いつもなら、イベント終了後、しばらく会場におられて、 
質問やリクエストを受けつけられるのに、その日は、すぐに引っ込まれた。 

「体の調子が悪いんだ。 なのに『火の鳥』、なぜ最後まで鳴らされたのかなぁ
途中で針をあげられればよかったのに……」と、 
そんなことを考えながら、店の外に出ると、
駐車場から出てきた車のうしろで、さらにぐったりされている瀬川先生の姿が見えた。