Archive for category 真空管アンプ

Date: 3月 3rd, 2019
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの自作とプロジェクトマッピング

アメリカの戦闘機F35の製造に、
プロジェクトマッピングを使われていることをtwitterで知る。

Projected Work Instructions on the F-35 Lightningという動画が公開されている。

F35と真空管アンプとでは、使われている部品の数が桁が大きく違うのはわかっているけれど、
F35の製造に採用されている技術は、真空管アンプの自作にも応用できるはず。

F35の製造だけでなく、日本でも製造の現場ではすでに採用されている、らしい。

プロジェクトマッピングの技術がもっと普及して、安価に使えるようになれば、
オーディオ雑誌の真空管アンプの製作記事では、
回路図だけでなく、プロジェクトマッピング用のデータもダウンロードできるようになるかもしれない。

そうなれば初心者でも、失敗はそうとうに少なくなるはず。
それに往年の真空管アンプのプロジェクトマッピング用のデータも、
誰かが制作してくれ、有料でもいいから公開してくれたら、
あやしいメインテナンス業者に、愛用の真空管アンプの修理をまかせずに済むようになるかもしれない。

私としては、
誰か奇特な方が伊藤先生のアンプのプロジェクトマッピング用のデータをつくってくれないだろうか、
そんなことを考えてしまう。

もっともプロジェクトマッピングに頼らなければならないようでは、
伊藤アンプの再現は無理なのはわかっていても──、である。

Date: 3月 3rd, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その5)

私が考えている300Bプッシュプルアンプは、
別項「現代真空管アンプ考」で書いていることとは、また別のモノだ。

究極の300Bプッシュプルアンプを、と考えているわけではない。
なんといったらいいんだろうか、気の向くままに作ってみたい、と思っている。

プッシュプルアンプも突き詰めて考えれば、
出力トランスそのものがプッシュプル動作をしているのか、まで考えていくことになる。
そうなってくると、出力トランスをどこかに特註ということになる。

そこまでやるのならばフィラメントも定電流点火にしたくなる。
出力管の300Bだけでなく、電圧増幅段の真空管も定電流点火──、
ここまでくると電源トランスも、ヒーター(フィラメント)用に専用トランスということになる。

そんなふうにだんだんと大がかりなモノになってしまう。
そういう世界のアンプを追求することもまた楽しいが、
私は300Bプッシュプルアンプに、そんなことは求めたくない、という気持がある。

300Bの固定バイアスでなく自己バイアスでいい。
出力トランスも市販のモノから選びたい。
そうなってくると、プッシュプルの平衡度を厳密に考えようとは思わないから、
電圧増幅段、位相反転回路の構成も変ってくる。

入力にトランスを使えば、そのまま一段増幅し、出力段(300B)という構成になる。
真空管の数も少なくてすむし、位相反転回路も要らない。

プッシュプルアンプとして、シンプルな、理にかなった構成なわけだが、
そんなアンプが作りたければ、それは「現代真空管アンプ考」でのアンプとしたい。

それにそんなプッシュプルアンプだと、出力トランスのことが再び気になってきて、
大げさ、大がかりなプッシュプルアンプへと発展してしまう。

そうなるのを抑えたい、
そんな気にならなくなるアンプを目指したい。

Date: 3月 1st, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その4)

300Bのアンプで、シングルかプッシュプルか。
フィラメントの点火という点も、プッシュプルを選択する理由のひとつだ。

300Bのシングルアンプだと、どうしても直流点火が必要となる。
そんなの簡単ではないか、と考える人もいるだろうが、
以前書いているように、直流点火にはいくつかの方法があり、
比較的簡単に直流点火が可能なのは、三端子レギュレーターによる定電圧点火である。

ハムもすんなりなくなる。
けれど三端子レギュレーターによる定電圧点火は、すすめられない(やりたくない)。
音がいい、とは思えないからだ。

以前書いていることなので詳細は省くが、
定電圧点火ではなく定電流点火すべきであり、
三端子レギュレーターによる定電流点火も可能だが、これもすすめられない。

定電流点火をきちんとやろうとするならば、
ラジオ技術に石塚峻氏が発表された回路こそがすすめられる。

とはいえ定電流回路は、意外に難しい。
ここでは詳しくは述べないが、実際に定電流点火を試みようと、
あれこれ考えてみると、大変さは作らなくても実感できる。

それに出力管の300Bを定電流点火するならば、前段の真空管も定電流点火したくなる。
そうなるとさらに大変なことになる。

ならばいっそのこと交流点火でいけるプッシュプルでいいではないか、と思う。
けれど、ここで考えるのは、300Bはアメリカの真空管である、ということだ。

アメリカの電源周波数は60Hzである。
東京は50Hzである。

別項「日本のオーディオ、これまで(ラックスのアンプ)」で指摘したように、
アメリカのアンプは60Hzで聴いてこそだ、と思っている。
同じ理由で、300Bも交流点火ならば、60Hzで聴いてこそなのだろう、と思うわけだ。

Date: 2月 17th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その3)

今回の300Bは、けっこう売れるんだろうなぁ、と思う。
メーカー製の300Bのアンプを使っている人、
真空管アンプを自作している人(ここにはメーカーも含まれる)、
それからオーディオを投資として捉えている人などが買う。

私は、再生産されるのは300Bだけなのか、と思ってしまう。
どのくらい前だったかは忘れてしまったが、
ウェスターン・エレクトリックによる274B、310Aの再生産のウワサもあった。

私はいまでも300Bのアンプでいちばん美しいたたずまいをもつのは伊藤先生のシングルアンプだ、
と思う人間である。

たとえメーカー製の、お金をかけた300Bのアンプであっても、
伊藤アンプのたたずまいに並ぶモノはない。

そうなると300Bだけでなく、274B、310Aも再生産してほしい。
274B、310A(特にメッシュタイプ)は、300B以上に入手が難しくなっている。

310Aの再生産はまずない、と思っている。
300Bと違い、それほど数が出るとは思えないからだ。

整流管の274は、310Aよりは売れるだろうが、
300Bのアンプを作っているメーカー、個人にしても、
必ずしも整流管を使うわけではない。

ダイオードのほうが内部抵抗が低い、レギュレーションがよくなるから、ということで、
整流管は時代遅れだという考えの人もいる。

それに274は整流管の中でも内部抵抗は高い。
私にすれば、だからこそ、と考えるわけだが、
人の考えは人の数だけあるのだから、それはそれとしかいいようがない。

そういう状況において、いま300Bのアンプを自作するならば、
私ならばシングルアンプは選択しない。
どうやっても伊藤先生の300Bシングルアンプのたたずまいに追いつけないからだ。

ならばプッシュプルアンプだ。

Date: 2月 17th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その2)

オーディオ店を通じて、エレクトリへの予約された方によると、
製造が始まるのは来月からで、日本に入ってくるのは夏以降とのこと。

管球王国では、きっと秋以降の号で、300Bの比較試聴を行うだろう。
どの時代の300Bが音がいいのかは、昔から話題になっていた。

一般的には刻印の300Bがいいことになっている。
何度か聴いているが、確かにいい。

けれど伊藤先生によると、必ずしも刻印が常に最高とは限らない、とのこと。
比較的新しい300Bでも、音のいいのがある、とはいう話を伊藤先生から直接聞いている。

伊藤先生ほど300Bという真空管にぞっこんだった人はいない。
その伊藤先生がいうことである。

伊藤先生によると、音のいい300Bは触ってみるとわかるそうだ。
どこが見分けるポイントか、そういうことではなく、
手にとった瞬間、いい音をだしてくれそうな300Bは直観でわかる、とのこと。

これは伊藤先生だからいえることであり、
ものすごい数の300Bにふれ、アンプを作ってきた人だからいえることである。

今回の再生産について、あれこれいう人はいるだろう。
裏事情を知っている人もいよう。
いまはブランドが売り買いされる時代である。

そういう時代において、昔のブランドの威光がどれほどあてになるか。
そんなことはいわれなくともわかっている。

そのうえで、今回の300Bの再生産は、私にとっては嬉しいニュースのひとつである。

Date: 2月 16th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その1)

ウェスターン・エレクトリックの300Bの再生産がようやく始まる。
30年ほど前にも、ウェスターン・エレクトリックの300Bは再生産された。

その後、300B同等管が、いくつかのメーカーから登場している。
どのメーカーの300B互換球が音がよいのかも話題になっている。

どの300Bがどうなのか、比較試聴する機会はないのでなんともいえないが、
音と同じくらいに気になるのは、ぞの外観である。

ガラスの形状の違い、
ベースの色の違い、
ベースに印刷されている文字、
それからモノによってはガラスにも印刷されていたりする。

そういったことがすごく気になる。

やっぱり外観は、ウェスターン・エレクトリックの300Bがいちばんである。
ベースが黒の300Bも各社から出ているが、
どうにもガラスの形状、特に肩の部分の曲線の違いが、いつも気になっていた。

今回再生産される300Bのプレオーダーは始まっている。

300B(一本)が699ドル、
マッチドペアが1499ドル、さらに四本マッチングしたものだと3099ドルとなっている。

日本からだと、直接のオーダーはできない。
輸入元エレクトリ経由となる、とのこと。

300B再生産のニュースは昨年秋ごろに知った。
ウェスターン・エレクトリックのウェブサイトをみると、
以前は完実電気が輸入元だったが、エレクトリに変更になっていた。

けれどエレクトリのサイトをみても、ウェスターン・エレクトリックのことはどこにもない。
今日もエレクトリのサイトをチェックしたけれど、なかった。

エレクトリが扱う(はずである)。

Date: 12月 16th, 2018
Cate: 真空管アンプ, 訃報

佐久間駿氏のこと

12月13日に、佐久間駿氏が亡くなられたことを、今日の午後知った。

佐久間駿(すすむ)氏のことを知らない人もいるだろう。
ステレオサウンドだけを読んでいる人は知らないはずだし、
他のオーディオ雑誌を読んでいても、無線と実験を読んでいなければ知らなくても当然かもしれない。

私が無線と実験を読みはじめたのは、確か1977年。
そのころ既に佐久間駿氏は無線と実験にアンプ記事を書かれていた、と記憶している。

私は伊藤先生の真空管アンプに、とにかく魅了されてきた。
伊藤先生のアンプの世界と、佐久間駿氏のアンプの世界はかなり違う。

伊藤先生のアンプも伊藤アンプと呼ばれているように、
佐久間駿氏のアンプも佐久間式アンプと呼ばれ知られていた。

無線と実験では半導体のDCアンプは金田明彦氏の記事があり、
真空管は佐久間駿氏の記事が、その両極のようにあった。

どちらもわが道をゆくアンプであるが、その道は違う。
それでも読み物として、私は金田明彦氏の文章も佐久間駿氏の文章は、
高校生のときぐらいまでは必ず読んでいた。

佐久間駿氏は千葉県の館山市にコンコルドというレストランをやられていた。
そこに行けば、佐久間式アンプの音が聴けることも早くから知っていた。
けれど、いままで行かなかった。

数年前に、誰かから体調を崩れされているようだ、と聞いてはいた。
伊藤先生のアンプが、タブローといえるとすれば、
佐久間駿氏のアンプは、そういう世界ではまったくなかった。

佐久間駿氏のアンプはなんといったらいいのだろうか。
エチュード的といえなくもないが、それだけではない。
不思議なアンプである。

何をもって佐久間式というのか。
それすらはっきりと書けないけれど、
佐久間式アンプは見れば、それとわかる。

行っておけばよかった……、と、ここにも後悔がある。

房日新聞というサイトがある。
佐久間駿氏のこと、コンコルドのこと、佐久間式アンプのことが記事になっている。

Date: 11月 14th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(最大出力)

マイケルソン&オースチンのTVA1は、KT88のプッシュプルで出力は70W+70Wだった。
TVA1に続いて登場したEL34プッシュプルのTVA10は、50W+50Wだった。

TVA1の70Wの出力は理解できた。
けれどTVA10の50Wという出力は、EL34のプッシュプルにしては大きい。
EL34のプッシュプルで、AB1級ならば出力は35W程度である。

TVA10に続いて登場したM200は、EL34の4パラレルプッシュプルで200Wの出力。
出力管の本数がTVA10の四倍に増え、出力も四倍になっている。

TVA1は何度か聴いている。
TVA10も一度か二度聴いているけど、M200は聴く機会がなかった。

TVA1とTVA10は、出力管が違うとはいえ、ずいぶん音が違うな、と感じたものだった。
TVA1の音には魅力を感じたが、TVA10には、まったくといっていいほど魅力を感じなかった。

M200までになると、印象は変ってくるかもしれないが、
TVA1とTVA10は、同じ人が設計しているとは思えなかった。

そのことがはっきりしたのは聴いてから数年経ったころで、
TVA10とM200の設計者はティム・デ・パラヴィチーニであることがわかった。

パラヴィチーニはラックスに在籍していたこともある。
コントロールアンプのC1000とパワーアンプのM6000は、彼の設計といわれているし、
管球式モノーラルパワーアンプのMB3045もそうである。

ならば、パラヴィチーニは、ラックス時代に上原晋氏と一緒に仕事をしていた可能性もある。

上原晋氏は、ラジオ技術の1958年8月号で、EL34のプッシュプルアンプを発表されている。
このアンプの出力は60Wと、一般的なEL34のプッシュプルよりもかなり大きい。

だからといって、EL34の定格ぎりぎりまで使っての、やや無理のある設計ではない。
記事の冒頭に、こう書かれている。
     *
このアンプでは、定格いっぱいの用法は敬遠し、できるだけ球に余裕を持たせ、とくにSgの損失を軽くすることによって寿命を延ばすようにしました。結果からいいますとSgの損失を定格の半分くらいに押えましたので、いちおうこの点での不安は解消しましたが、これでも球によってはグリッドのピッチの不揃いからか、2〜3本の線が焼けるものに当る時もありますが、この程度ならたいして実害はないようで、かなり長く使っていてなんともありませんから、まず大丈夫だと思っていいでしょう。
     *
パラヴィチーニは、この上原晋氏のEL34のプッシュプルアンプの動作点を参考にしての、
TVA10とM200の出力の実現なのかもしれない。

Date: 10月 29th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その26)

トランスの取り付け方、取り付け位置は注目したいポイントである。

カタログやウェブサイトなどでの製品の説明で、
良質で大容量の電源トランスを使用していることを謳っているものはけっこうある。

オーディオ雑誌の記事でも、製品の内部写真の説明でも、
電源トランスは……、という記述があったりする。

アンプにしても、CDプレーヤーにしても交流電源を直流にして、
その直流を信号に応じて変調させて出力をさせているわけだから、
電源のクォリティは、音のクォリティに直結しているわけで、
電源トランスは、その要ともいえる。

だからこそ良質で(高価な)トランスを採用するわけだが、
その取り付け方をみると、このメーカーは、ほんとうに細部までこだわっているのだろうか──、
そう思いたくなるメーカーが、けっこう多い。

ケースなしの電源トランス、
特にトロイダルコアの電源トランスをどう固定するか。

どんなに電源トランスのクォリティにこだわりました、と謳っていても、
こんな取り付け方しかしないのか、取り付け方を自分たちで工夫しないのか、考えないのか、
そういいたくなることがある。

安価な製品であれば、それでもかまわない、と思うけれど、
数十万円、百万円をこえる製品なのに、
電源トランスも大きく立派そうにみえるモノであっても、
取り付け方は標準的な方法そのままだ。

ここまで書けば、製品内部をきちんと見ている人ならば、
どういうことをいいたいのかわかってくれよう。

細部まで疎かにせず、とか、細部までこだわりぬいた、とか、
そういう謳い文句が並んでいても、電源トランスの取り付け方が、
そのこだわりがどの程度のものなのかを、はっきりと示している。

Date: 9月 30th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その25)

無線と実験、ラジオ技術には、毎号、真空管アンプの製作記事が載っている。
この二誌以外のオーディオ雑誌にも、真空管アンプの製作記事が載ることがある。

トランスにはシールドケースに収納されているタイプと、
コアが露出しているタイプとがある。

シールドケースに入っているタイプだとわかりにくいが、
コアが露出しているタイプを使っているアンプ、
それもステレオ仕様のアンプだと、出力トランスの取り付け方向を見てほしい。

きちんとわかって配置しているアンプ(記事)もあれば、
無頓着なアンプも意外と多い。

EIコアのトランスだと、漏洩磁束の量がコアの垂直方向、水平方向、
それに巻線側とでは、それぞれに違う。

そのことを忘れてしまっている製作例がある。

複数のトランスが、一つのシャーシー上にあれば、必ず干渉している。
その干渉をなくすには、トランス同士の距離を十二分にとるのがいちばん確実な方法だ。

けれどこんなやり方をすれば、アンプ自体のサイズがそうとうに大きくなるし、
それに見た目も間延してしまう。

それにトランス同士の距離が離れれば、内部配線も当然長くなる。
どんなワイヤーであってもインダクタンスをもつ。
そうであれば高域でのインピーダンスは必然的に上昇することになる。

配線の距離が長くなるほど、インピーダンスの上昇も大きくなるし、
長くなることのデメリットは、外部からの影響も受けやすくなる。

NFBを、出力トランスの二次側からかけている回路であれば、
NFBループ内のサイズ(面積)が広くなり、このことにも十分な配慮が必要となる。

配線の長さ、仕方によるサイズの変化については、以前書いているので、ここでは触れない。

Date: 9月 29th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その24)

オルトフォンのSTA6600のトランスを流用して自作したモノは、
うまくいった。
トランスの取り付け方だけが工夫を凝らしたところではなく、
他にもいろいろやっているのだが、その音は、
誰もが中身はSTA6600のトランスとは見抜けないほど、音は違っている。

もっといえば立派な音になっている。
自画自賛と受けとられようが、
この自作トランスの音を聴いた人は、その場で、売ってほしい、といってくれた。

その人のところには、ずっと高価な昇圧トランスがあった。
当時で、20万円を超えていたモノで、世評も高かった。

だから、その人も、その高価なトランスを買ったわけだが、
私の自作トランスの方がいい、とその人は言ってくれた。

そうだろうと思う。
トランス自体の性能は、高価なトランスの方が上であろう。
ただ、その製品としてのトランスは、トランス自体の扱いがわかっていないように見えた。

この製品だけがそうなのではなく、ほとんど大半の昇圧トランスが、そうである。
インターネットには、高価で貴重なトランスをシャーシーに取り付けて──、というのがある。

それらを見ると、なぜこんな配線にしてしまうのか。
その配線が間違っているわけではない。
ほとんどのトランスでやられている配線である。

それを疑いもせずにそのまま採用している。
私にいわせれば、そんな配線をやっているから、
トランス嫌いの人がよくいうところの、トランス臭い音がしてしまう。

取り付けにしても配線にしても、ほんのちょっとだけ疑問をもって、
一工夫することを積み重ねていけば、トランスの音は電子回路では味わえぬ何かを聴かせてくれる。

MC型カートリッジの昇圧トランスと、真空管パワーアンプの出力トランスとでは、
扱う信号のレベルが違うし、信号だけでなく、真空管へ供給する電圧もかかる。

そういう違いはあるけれど、どちらもトランスであることには変りはない。
ということは、トランスの扱い方は、自ずと決ってくるところが共通項として存在する。

Date: 8月 30th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(番外)

現代真空管アンプ考というタイトルをつけている。
現代スピーカー考」という別項もある。

現代、現代的、現代風などという。
わかっているようでいて、いざ書き始めると、何をもって現代というのか、
遠くから眺めていると、現代とつくものとつかないものとの境界線が見えているのに、
もっとはっきり見ようとして近づいていくと、いかにその境界線が曖昧なのかを知ることになる。

1989年、ティム・バートン監督による「バットマン」が公開された。
バットマンは、アメリカのテレビドラマを小さかったころ見ていた。

バットマンというヒーローの造形が、こんなに恰好良くなるのか、とまず感じた。
バットモービルに関しても、そうだった。

「バットマン」はヒットした。
そのためなのかどうかはわからないが、
過去のヒーローが、映画で甦っている。

スーパーマン、スパイダーマン、アイアンマン、ハルク、ワンダーウーマンなどである。
スパイダーマンは日本で実写化されたテレビ版を見ている。
ハルクとワンダーウーマンのテレビ版は見ている。

スーパーマンの映画は、
1978年公開、クリストファー・リーヴ主演の「スーパーマン」から観てきている。

これらヒーローの造形は、現代的と感じる。
特にワンダーウーマンの恰好良いこと。

ワンダーウーマンの設定からして、現代的と感じさせるのは大変だったはずだ。
けれど、古い時代の恰好でありながらも、見事に成功している。

日本のヒーローはどうかというと、
仮面ライダー、キカイダー、ガッチャマン、破裏拳ポリマーなどの映画での造形は、
アメリカのヒーローとの根本的な違いがあるように感じる。

較べるのが無理というもの、
予算が違いすぎるだろう、
そんなことを理由としていわれそうだが、
ヒーローものの実写映画において、肝心のヒーローの造形が恰好良くなくて、
何がヒーローものなのか、といいたくなる。

日本の、最近制作されたヒーローものの実写映画での造形は、
どこか根本的なところから間違っているように思う。

「現代」という言葉の解釈が、アメリカと日本の映画制作の現場では大きく違っているのか。
日米ヒーローの造形の、現代におけるありかたは、
「現代」ということがどういうことなのかを考えるきっかけを与えてくれている。

Date: 8月 29th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その23)

トランスのことに話を戻そう。

重量物であるトランスをうまく配置して、重量バランスがとれたからといって、
トランスが複数個あることによる問題のすべてが解消するわけではない。

トランスは、まず振動している。
ケースにおさめられ、ケースとトランスの隙間をピッチなどが充填されていても、
トランスの振動を完全に抑えられるわけではない。

トランスはそれ自体が振動発生源である。
しかも真空管パワーアンプでは複数個ある。
それぞれのトランスが,それぞれの振動を発生している。

チョークコイルも、特にチョークインプット方式での使用ではさらに振動は大きく増す。
しかも真空管アンプなのだから、能動素子は振動の影響を受けやすい真空管である。

一般的な真空管アンプのように、一枚の金属板に出力トランス、電源トランス、チョークコイル、
そして真空管を取り付けていては、振動に関してはなんら対策が施されていないのと同じである。

トランスと金属板との間に緩衝材を挿むとか、
その他、真空管ソケットの取付方法に細かな配慮をしたところで、
根本的に振動の問題を解消できるわけではない。

もちろん、振動に関して完璧な対策があるわけではないことはわかっている。
それでも真空管アンプの場合、
トランスという振動発生源が大きいし多いから、
難しさはトランジスターアンプ以上ということになる。

30年ほど前、オルトフォンの昇圧トランスSTA6600に手を加えたことがある。
手を加えた、というより、STA6600に使われているトランスを取り出して、
別途ケースを用意して、つくりかえた。

その時感じたのは、トランスの周囲にはできるだけ金属を近づけたくない、だった。
STA6600のトランスはシールドケースに収められていた。
すでにトランスのすぐそばに金属があるわけだが、
それでも金属板に取り付けるのは、厚めのベークライトの板に取り付けるのとでは、
はっきりと音は違う。

金属(アルミ)とベークライトの固有音の違いがあるのもわかっているが、
それでも導体、非導体の違いは少なからずあるのではないのか。

そう感じたから、トランスの周りからは配線以外の金属は極力排除した。
ベークライトの板を固定する支柱もそうだし、ネジも金属製は使用しなかった。

Date: 8月 24th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その22)

ここまで書いてきて、また横路に逸れそうなことを思っている。
現代真空管アンプとは、いわゆるリファレンス真空管アンプなのかもしれない、と。

ステレオサウンド 49号の特集は第一回STATE OF THE ART賞だった。
Lo-DのHS10000について、井上先生が書かれている。
     *
 スピーカーシステムには、スタジオモニターとかコンシュマーユースといったコンセプトに基づいた分類はあが、Lo-DのHS10000に見られるリファレンススピーカーシステムという広壮は、それ自体が極めてユニークなものであり、物理的な周波数特性、指向周波数特性、歪率などで、現在の水準をはるかに抜いた高次元の結果が得られない限り、その実現は至難というほかないだろう。
     *
こういう意味での、リファレンス真空管アンプを考えているのだろうか、と気づいた。
製品化することを前提とするものではなく開発されたオーディオ機器には、
トーレンスのReferenceがある。

ステレオサウンド 56号で、瀬川先生がそのへんのことを書かれている。
     *
「リファレンス」という名のとおり、最初これはトーレンス社が、社内での研究用として作りあげた。
アームの取付けかたなどに、製品として少々未消化な形をとっているのも、そのことの裏づけといえる。
 製品化を考慮していないから、費用も大きさも扱いやすさなども殆ど無視して、ただ、ベルトドライヴ・ターンテーブルの性能の限界を極めるため、そして、世界じゅうのアームを交換して研究するために、つまりただひたすら研究用、実験用としてのみ、を目的として作りあげた。
 でき上った時期が、たまたま、西独デュッセルドルフで毎年開催されるオーディオ・フェアの時期に重なっていた。おもしろいからひとつ、デモンストレーション用に展示してみようじゃないか、と誰からともなく言い出して出品した。むろん、この時点では売るつもりは全くなかった??、ざっと原価計算してみても、とうてい売れるような価格に収まるとも思えない。まあ冗談半分、ぐらい気持で展示してみたらしい。
 ところが、フェアの幕が開いたとたんに、猛反響がきた。世界各国のディーラーや、デュッセルドルフ・フェアを見にきた愛好家たちのあいだから、問合せや引合いが殺到したのだそうだ。あまりの反響の大きさに、これはもしかしたら、本気で製品化しても、ほどほどの採算ベースに乗るのではないだろうか、ということになったらしい。いわば瓢箪から駒のような形で、製品化することになってしまった……。レミ・トーレンス氏の説明は、ざっとこんなところであった。
     *
トーレンスのReferenceには、未消化なところがある。
扱いやすいプレーヤーでもない。
あくまでもトーレンスが自社の研究用として開発したプレーヤーをそのまま市販したのだから、
そのへんは仕方ない。

その後、いろいろいてメーカーからReferenceとつくオーディオ機器がいくつも登場した。
けれど、それらのほとんどは最初から市販目的の製品であって、
肝心のところが、トーレンスのReferenceとは大きく違う。

Lo-DのHS10000も、市販ということをどれだけ考えていたのだろうか。
W90.0×H180.0×D50.0cmという、かなり大きさのエンクロージュアにもかかわらず、
2π空間での使用を前提としている。

つまりさらに大きな平面バッフルに埋めこんで使用することで、本来の性能が保証される。
価格は1978年で、一本180万円だった。
しかもユニット構成は基本的には4ウェイ5スピーカーなのだが、
スーパートゥイーターをつけた5ウェイへの仕様変更も可能だった。

HS10000も、せひ聴きたかったスピーカーのひとつであったが、
こういう性格のスピーカーゆえに、販売店でもみかけたことがない。
いったいどれだけの数売れたのだろうか。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その21)

これまで市販された真空管パワーアンプを、
トランスの配置(重量配分)からみていくのもおもしろい。

ウエスギ・アンプのU·BROS3は、シャーシーのほぼ中央(やや後方にオフセットしているが)に、
出力トランス、電源トランス、出力トランスという順で配置している。
重量物三つをほぼ中央に置くことで、重量バランスはなかなかいい。

同じKT88のプッシュプルアンプのマイケルソン&オースチンのTVA1は、
シャーシーの両端にトランスを振り分けている。
片側に出力トランスを二つを、反対側に電源トランスとなっている。

電源トランスは一つだから、出力トランス側のほうに重量バランスは傾いているものの、
極端なアンバランスというほどではない。

ラックスのMQ60などは、後方の両端に出力トランスをふりわけ、前方中央に電源トランス。
完璧な重量バランスとはいえないものの、けっこう重量配分は配慮されている。

(その20)で、マッキントッシュのMC275、MC240はアンバランスだと書いたが、
MC3500はモノーラルで、しかも電源トランスが二つあるため、
内部を上から見ると、リアパネル左端に出力トランス、フロントパネル右端に電源トランスと、
対角線上に重量物の配置で、MC275、MC240ほどにはアンバランスではない。

現行製品のMC2301は、マッキントッシュのパワーアンプ中もっとも重量バランスが優れている。
シャーシー中央にトランスを置き、その両側に出力管(KT88)を四本ずつ(計八本)を配置。

出力は300W。MC3500の350Wよりも少ないものの、MC3500の現代版といえる内容であり、
コンストラクションははっきりと現代的である。
2008年のインターナショナルオーディオショウで初めてみかけた。
それから十年、ふしぎと話題にならないアンプである。
音を聴く機会もいまのところない。

インターナショナルオーディオショウでも、音が鳴っているところに出会していない。
いい音が鳴ってくれると思っているのに……。