Archive for category 真空管アンプ

Date: 4月 11th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その9)

ウェストレックスのA10は、初段が6J7(五極管)で、
位相反転回路が一種のオートバランス型で、ここには6SN7が使われている。

そして出力段が350Bのプッシュプル(五極管接続)となっている。
350Bを四本使用のパラレルプッシュプルがA11である。

実際には6J7による前段回路が、初段の前にあるが、
一般的なオーディオアンプとして、A10のレプリカの製作記事では、
この6J7による回路は省かれる。

伊藤先生が無線と実験に発表された349Aのプッシュプルアンプは、
初段がEF86、位相反転回路がE82CC、出力段が349Aとなっていて、
やはり前段の6J7の回路は省かれている。

NFBは出力トランスの二次側からではなく、出力段からでもなく、
位相反転回路から初段へとかけられている。

A10そのままの回路では、300Bの深いバイアス電圧に対して十分な電圧とはならない。
6SN7による位相反転回路の出力電圧は上側の6SN7が30V程度で、
下側は2V弱高くなる。

30Vちょっとでは300Bには足りない。
だから位相反転回路と出力段のあいだにE80CCによる増幅段を挿入する。

信号部には、300Bの二本を含めて、計五本の真空管を使う。
電源部もダイオードではなく整流管にするから、
真空管は六本使うことになる。

この回路で300Bプッシュプルを作りたい、と考えている。
300Bは固定バイアスではなく、自己バイアスにする予定。

NFBのかけ方も、A10に準ずる。
出力トランス、出力管からNFBを戻すようなことはしない。

もちろんそうしたほうが周波数特製も歪率も良くなるのはわかっていても、
そういうことは、ここでの300Bプッシュプルアンプには必要ない、と決めてかかっている。

Date: 3月 18th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その8)

それにしても、ウェスターン・エレクトリックはこういう回路にするのだろうか。
ウェスターン・エレクトリックの機械は、映画館で使われる。
つまりお金を稼ぐ機械である。

だからこそ、音と同じくらいに信頼性の高さが求められる。
故障しにくいこと、故障したとしても修理がすばやく確実に行えること。
そういったことが求められている。

にもかかわらずのTA4767は部品点数を増やし、配線を複雑にする回路を選択している。
故障は部品点数が少なければ発生率は低くなるし、
簡単な回路で配線がシンプルであるほど、修理もしやすくなる。

なのにウェスターン・エレクトリックはそうしない。
そういう回路構成のアンプもある。
けれどそうでないアンプの方が多い。

私が初めてきいた伊藤先生製作のアンプ、
ウェスターン・エレクトリックの349Aのプッシュプルアンプは、
ウェストレックスのA10の回路をベースにしたもので、
位相反転にはオートパランスの一種といえる回路を採用している。

A10も、上側の信号経路と下側の信号経路とでは、信号が徹真空管の数が違う。
もちろんA10も入力トランスを備えている。

こうなるとウェスターン・エレクトリックは意図的に、
上側と下側の信号経路が、いわばアンバランス的になるようにしているとしか考えられない。

あえて、そんなことをするのか。
本当のところは設計者に訊くしかないけれど、もうそれは無理なこと。
想像するしかないことだが、結局のところ、音のはずだ。

伊藤先生はTA4767型の300Bプッシュプルアンプを、《作って見て納得した》と書かれている。
頭で考えれば、V69a型300Bプッシュプルアンプのほうが、
特性的にも音的にも、TA4767型よりも優秀である、ということになる。

けれど、音は理屈で推し量れるとは限らない。
だから私が作りたい300Bプッシュプルアンプは、そういうアンプである。

348Aも310Aも、いまではいい球が入手し難い。
だから私はウェストレックスのA10型の300Bプッシュプルアンプを構想している。

Date: 3月 18th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その7)

誠文堂新光社から1987年に出た伊藤先生の「音響道中膝栗毛」の巻末に、
300Bのプッシュプルアンプの回路図が二つ載っている。

一つはウェスターン・エレクトリックのTA4767をベースにしたモノ、
もう一つはテレフンケンのV69aをベースにしていて、
どちも真空管は前段に348A、出力段に300B、整流管には274Bを使っている。
真空管の本数も348A、300Bが二本ずつ(片チャンネル)で、274Bが一本と同じ。

さらにどちらも入力トランスを搭載している。
けれど前段(348A)の使い方が、この二つの300Bプッシュプルアンプでは違う。

V69aをベースにしたアンプは、
入力トランスからの信号を348Aにそのまま渡している。
つまり前段、出力段ともにプッシュプル動作となっていて、
位相反転回路はない。

入力トランスを使うからこそ、これ以上真空管の本数を減らせないといえる回路で、
伊藤先生は《回路が簡単で安定性が良好であるから》と書かれている。

以前、別項で書いているように、私は349Aのプッシュプルアンプを製作しようとしていた。
その時、V69aと同じ回路構成で作ろうと考えてもいた。
348Aもメッシュタイプも手に入れていた。

プッシュプルアンプならば、こういう回路がいちばん理に適っている、ともいえる。
なのに、考え直した。

伊藤先生の、TA4767をベースにした300Bプッシュプルは、
348Aの前段で位相反転を行っている。
しかもここでの位相反転回路はカソード結合型ではなく、
オートバランス型と呼ばれる回路の一種である。

入力トランスからの信号を上側の348Aが受け増幅する。
この348Aの出力は二つに分岐され、一つは300Bへ、
もう一つは抵抗分割回路を経て、下側の348Aに渡される。
下側の348Aの出力が下側の300Bへと行く。

つまり上側の信号経路は348A→300Bなのに対し、
下側は348A→抵抗アッテネーター→348A→300Bとなる。

そのため部品数はV69a型アンプよりも多くなる。
当然配線もその分複雑になる。

Date: 3月 4th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その6)

そういう300Bプッシュプルアンプならば、ウェスターン・エレクトリックの300Bでなくとも、
数多くある互換球の300Bでいいじゃないか、という考えをもつ人はいよう。

ウェスターン・エレクトリック以外の300Bでは、PSVANあたりかな、と思いはする。
それでも実際にPSVANの300Bで作ろうとしたら、
私のなかにあるウェスターン・エレクトリックの300Bの印象へと少しでも近づけようとする。

そうなるとフィラメントの点火も、定電流点火にしたくなる。
ウェスターン・エレクトリックの300Bと、それ以外の300Bの音の違いは、
理由はあれこれあるだろうが、そのひとつとしてエミッションに起因しているような気もする。

そうであれば安定化という意味でも、
ウェスターン・エレクトリック以外の300Bだと定電流点火にしたくなる。

つまり定電流点火をやらなくするためにも、
私にとってはウェスターン・エレクトリックの300Bなのである。

それじゃ300Bのフィラメントの点火には何も工夫しないかというと、
いくつかのことはやろうと予定している。

ひとつは、別項で何度も書いているCR方法である。
この方法は、スピーカーユニットに対して、これまで効果的であった。
同じことを300Bのフィラメントにも試してみたい。

300Bのフィラメントの定格は5V、1.2Aである。
つまり直流抵抗は約4.16Ωである。

300Bのフィラメントに対して、
4Ωの無誘導巻線抵抗と4pFのコンデンサーを直列接続したものを並列に接続する。

まだ他の真空管でも試していないが、何らかの効果は得られる(はず)と確信している。

同じことを電源トランスの巻線、
つまりフィラメント点火用の巻線にも施す。

あとはフィラメント用の配線材に銀線を使ってみたい。
このくらいのことならば、大がかりではない。

もう回路も決めてある。
コンストラクションもおおまかに決めている。

Date: 3月 3rd, 2019
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの自作とプロジェクトマッピング

アメリカの戦闘機F35の製造に、
プロジェクトマッピングを使われていることをtwitterで知る。

Projected Work Instructions on the F-35 Lightningという動画が公開されている。

F35と真空管アンプとでは、使われている部品の数が桁が大きく違うのはわかっているけれど、
F35の製造に採用されている技術は、真空管アンプの自作にも応用できるはず。

F35の製造だけでなく、日本でも製造の現場ではすでに採用されている、らしい。

プロジェクトマッピングの技術がもっと普及して、安価に使えるようになれば、
オーディオ雑誌の真空管アンプの製作記事では、
回路図だけでなく、プロジェクトマッピング用のデータもダウンロードできるようになるかもしれない。

そうなれば初心者でも、失敗はそうとうに少なくなるはず。
それに往年の真空管アンプのプロジェクトマッピング用のデータも、
誰かが制作してくれ、有料でもいいから公開してくれたら、
あやしいメインテナンス業者に、愛用の真空管アンプの修理をまかせずに済むようになるかもしれない。

私としては、
誰か奇特な方が伊藤先生のアンプのプロジェクトマッピング用のデータをつくってくれないだろうか、
そんなことを考えてしまう。

もっともプロジェクトマッピングに頼らなければならないようでは、
伊藤アンプの再現は無理なのはわかっていても──、である。

Date: 3月 3rd, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その5)

私が考えている300Bプッシュプルアンプは、
別項「現代真空管アンプ考」で書いていることとは、また別のモノだ。

究極の300Bプッシュプルアンプを、と考えているわけではない。
なんといったらいいんだろうか、気の向くままに作ってみたい、と思っている。

プッシュプルアンプも突き詰めて考えれば、
出力トランスそのものがプッシュプル動作をしているのか、まで考えていくことになる。
そうなってくると、出力トランスをどこかに特註ということになる。

そこまでやるのならばフィラメントも定電流点火にしたくなる。
出力管の300Bだけでなく、電圧増幅段の真空管も定電流点火──、
ここまでくると電源トランスも、ヒーター(フィラメント)用に専用トランスということになる。

そんなふうにだんだんと大がかりなモノになってしまう。
そういう世界のアンプを追求することもまた楽しいが、
私は300Bプッシュプルアンプに、そんなことは求めたくない、という気持がある。

300Bの固定バイアスでなく自己バイアスでいい。
出力トランスも市販のモノから選びたい。
そうなってくると、プッシュプルの平衡度を厳密に考えようとは思わないから、
電圧増幅段、位相反転回路の構成も変ってくる。

入力にトランスを使えば、そのまま一段増幅し、出力段(300B)という構成になる。
真空管の数も少なくてすむし、位相反転回路も要らない。

プッシュプルアンプとして、シンプルな、理にかなった構成なわけだが、
そんなアンプが作りたければ、それは「現代真空管アンプ考」でのアンプとしたい。

それにそんなプッシュプルアンプだと、出力トランスのことが再び気になってきて、
大げさ、大がかりなプッシュプルアンプへと発展してしまう。

そうなるのを抑えたい、
そんな気にならなくなるアンプを目指したい。

Date: 3月 1st, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その4)

300Bのアンプで、シングルかプッシュプルか。
フィラメントの点火という点も、プッシュプルを選択する理由のひとつだ。

300Bのシングルアンプだと、どうしても直流点火が必要となる。
そんなの簡単ではないか、と考える人もいるだろうが、
以前書いているように、直流点火にはいくつかの方法があり、
比較的簡単に直流点火が可能なのは、三端子レギュレーターによる定電圧点火である。

ハムもすんなりなくなる。
けれど三端子レギュレーターによる定電圧点火は、すすめられない(やりたくない)。
音がいい、とは思えないからだ。

以前書いていることなので詳細は省くが、
定電圧点火ではなく定電流点火すべきであり、
三端子レギュレーターによる定電流点火も可能だが、これもすすめられない。

定電流点火をきちんとやろうとするならば、
ラジオ技術に石塚峻氏が発表された回路こそがすすめられる。

とはいえ定電流回路は、意外に難しい。
ここでは詳しくは述べないが、実際に定電流点火を試みようと、
あれこれ考えてみると、大変さは作らなくても実感できる。

それに出力管の300Bを定電流点火するならば、前段の真空管も定電流点火したくなる。
そうなるとさらに大変なことになる。

ならばいっそのこと交流点火でいけるプッシュプルでいいではないか、と思う。
けれど、ここで考えるのは、300Bはアメリカの真空管である、ということだ。

アメリカの電源周波数は60Hzである。
東京は50Hzである。

別項「日本のオーディオ、これまで(ラックスのアンプ)」で指摘したように、
アメリカのアンプは60Hzで聴いてこそだ、と思っている。
同じ理由で、300Bも交流点火ならば、60Hzで聴いてこそなのだろう、と思うわけだ。

Date: 2月 17th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その3)

今回の300Bは、けっこう売れるんだろうなぁ、と思う。
メーカー製の300Bのアンプを使っている人、
真空管アンプを自作している人(ここにはメーカーも含まれる)、
それからオーディオを投資として捉えている人などが買う。

私は、再生産されるのは300Bだけなのか、と思ってしまう。
どのくらい前だったかは忘れてしまったが、
ウェスターン・エレクトリックによる274B、310Aの再生産のウワサもあった。

私はいまでも300Bのアンプでいちばん美しいたたずまいをもつのは伊藤先生のシングルアンプだ、
と思う人間である。

たとえメーカー製の、お金をかけた300Bのアンプであっても、
伊藤アンプのたたずまいに並ぶモノはない。

そうなると300Bだけでなく、274B、310Aも再生産してほしい。
274B、310A(特にメッシュタイプ)は、300B以上に入手が難しくなっている。

310Aの再生産はまずない、と思っている。
300Bと違い、それほど数が出るとは思えないからだ。

整流管の274は、310Aよりは売れるだろうが、
300Bのアンプを作っているメーカー、個人にしても、
必ずしも整流管を使うわけではない。

ダイオードのほうが内部抵抗が低い、レギュレーションがよくなるから、ということで、
整流管は時代遅れだという考えの人もいる。

それに274は整流管の中でも内部抵抗は高い。
私にすれば、だからこそ、と考えるわけだが、
人の考えは人の数だけあるのだから、それはそれとしかいいようがない。

そういう状況において、いま300Bのアンプを自作するならば、
私ならばシングルアンプは選択しない。
どうやっても伊藤先生の300Bシングルアンプのたたずまいに追いつけないからだ。

ならばプッシュプルアンプだ。

Date: 2月 17th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その2)

オーディオ店を通じて、エレクトリへの予約された方によると、
製造が始まるのは来月からで、日本に入ってくるのは夏以降とのこと。

管球王国では、きっと秋以降の号で、300Bの比較試聴を行うだろう。
どの時代の300Bが音がいいのかは、昔から話題になっていた。

一般的には刻印の300Bがいいことになっている。
何度か聴いているが、確かにいい。

けれど伊藤先生によると、必ずしも刻印が常に最高とは限らない、とのこと。
比較的新しい300Bでも、音のいいのがある、とはいう話を伊藤先生から直接聞いている。

伊藤先生ほど300Bという真空管にぞっこんだった人はいない。
その伊藤先生がいうことである。

伊藤先生によると、音のいい300Bは触ってみるとわかるそうだ。
どこが見分けるポイントか、そういうことではなく、
手にとった瞬間、いい音をだしてくれそうな300Bは直観でわかる、とのこと。

これは伊藤先生だからいえることであり、
ものすごい数の300Bにふれ、アンプを作ってきた人だからいえることである。

今回の再生産について、あれこれいう人はいるだろう。
裏事情を知っている人もいよう。
いまはブランドが売り買いされる時代である。

そういう時代において、昔のブランドの威光がどれほどあてになるか。
そんなことはいわれなくともわかっている。

そのうえで、今回の300Bの再生産は、私にとっては嬉しいニュースのひとつである。

Date: 2月 16th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その1)

ウェスターン・エレクトリックの300Bの再生産がようやく始まる。
30年ほど前にも、ウェスターン・エレクトリックの300Bは再生産された。

その後、300B同等管が、いくつかのメーカーから登場している。
どのメーカーの300B互換球が音がよいのかも話題になっている。

どの300Bがどうなのか、比較試聴する機会はないのでなんともいえないが、
音と同じくらいに気になるのは、ぞの外観である。

ガラスの形状の違い、
ベースの色の違い、
ベースに印刷されている文字、
それからモノによってはガラスにも印刷されていたりする。

そういったことがすごく気になる。

やっぱり外観は、ウェスターン・エレクトリックの300Bがいちばんである。
ベースが黒の300Bも各社から出ているが、
どうにもガラスの形状、特に肩の部分の曲線の違いが、いつも気になっていた。

今回再生産される300Bのプレオーダーは始まっている。

300B(一本)が699ドル、
マッチドペアが1499ドル、さらに四本マッチングしたものだと3099ドルとなっている。

日本からだと、直接のオーダーはできない。
輸入元エレクトリ経由となる、とのこと。

300B再生産のニュースは昨年秋ごろに知った。
ウェスターン・エレクトリックのウェブサイトをみると、
以前は完実電気が輸入元だったが、エレクトリに変更になっていた。

けれどエレクトリのサイトをみても、ウェスターン・エレクトリックのことはどこにもない。
今日もエレクトリのサイトをチェックしたけれど、なかった。

エレクトリが扱う(はずである)。

Date: 12月 16th, 2018
Cate: 真空管アンプ, 訃報

佐久間駿氏のこと

12月13日に、佐久間駿氏が亡くなられたことを、今日の午後知った。

佐久間駿(すすむ)氏のことを知らない人もいるだろう。
ステレオサウンドだけを読んでいる人は知らないはずだし、
他のオーディオ雑誌を読んでいても、無線と実験を読んでいなければ知らなくても当然かもしれない。

私が無線と実験を読みはじめたのは、確か1977年。
そのころ既に佐久間駿氏は無線と実験にアンプ記事を書かれていた、と記憶している。

私は伊藤先生の真空管アンプに、とにかく魅了されてきた。
伊藤先生のアンプの世界と、佐久間駿氏のアンプの世界はかなり違う。

伊藤先生のアンプも伊藤アンプと呼ばれているように、
佐久間駿氏のアンプも佐久間式アンプと呼ばれ知られていた。

無線と実験では半導体のDCアンプは金田明彦氏の記事があり、
真空管は佐久間駿氏の記事が、その両極のようにあった。

どちらもわが道をゆくアンプであるが、その道は違う。
それでも読み物として、私は金田明彦氏の文章も佐久間駿氏の文章は、
高校生のときぐらいまでは必ず読んでいた。

佐久間駿氏は千葉県の館山市にコンコルドというレストランをやられていた。
そこに行けば、佐久間式アンプの音が聴けることも早くから知っていた。
けれど、いままで行かなかった。

数年前に、誰かから体調を崩れされているようだ、と聞いてはいた。
伊藤先生のアンプが、タブローといえるとすれば、
佐久間駿氏のアンプは、そういう世界ではまったくなかった。

佐久間駿氏のアンプはなんといったらいいのだろうか。
エチュード的といえなくもないが、それだけではない。
不思議なアンプである。

何をもって佐久間式というのか。
それすらはっきりと書けないけれど、
佐久間式アンプは見れば、それとわかる。

行っておけばよかった……、と、ここにも後悔がある。

房日新聞というサイトがある。
佐久間駿氏のこと、コンコルドのこと、佐久間式アンプのことが記事になっている。

Date: 11月 14th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(最大出力)

マイケルソン&オースチンのTVA1は、KT88のプッシュプルで出力は70W+70Wだった。
TVA1に続いて登場したEL34プッシュプルのTVA10は、50W+50Wだった。

TVA1の70Wの出力は理解できた。
けれどTVA10の50Wという出力は、EL34のプッシュプルにしては大きい。
EL34のプッシュプルで、AB1級ならば出力は35W程度である。

TVA10に続いて登場したM200は、EL34の4パラレルプッシュプルで200Wの出力。
出力管の本数がTVA10の四倍に増え、出力も四倍になっている。

TVA1は何度か聴いている。
TVA10も一度か二度聴いているけど、M200は聴く機会がなかった。

TVA1とTVA10は、出力管が違うとはいえ、ずいぶん音が違うな、と感じたものだった。
TVA1の音には魅力を感じたが、TVA10には、まったくといっていいほど魅力を感じなかった。

M200までになると、印象は変ってくるかもしれないが、
TVA1とTVA10は、同じ人が設計しているとは思えなかった。

そのことがはっきりしたのは聴いてから数年経ったころで、
TVA10とM200の設計者はティム・デ・パラヴィチーニであることがわかった。

パラヴィチーニはラックスに在籍していたこともある。
コントロールアンプのC1000とパワーアンプのM6000は、彼の設計といわれているし、
管球式モノーラルパワーアンプのMB3045もそうである。

ならば、パラヴィチーニは、ラックス時代に上原晋氏と一緒に仕事をしていた可能性もある。

上原晋氏は、ラジオ技術の1958年8月号で、EL34のプッシュプルアンプを発表されている。
このアンプの出力は60Wと、一般的なEL34のプッシュプルよりもかなり大きい。

だからといって、EL34の定格ぎりぎりまで使っての、やや無理のある設計ではない。
記事の冒頭に、こう書かれている。
     *
このアンプでは、定格いっぱいの用法は敬遠し、できるだけ球に余裕を持たせ、とくにSgの損失を軽くすることによって寿命を延ばすようにしました。結果からいいますとSgの損失を定格の半分くらいに押えましたので、いちおうこの点での不安は解消しましたが、これでも球によってはグリッドのピッチの不揃いからか、2〜3本の線が焼けるものに当る時もありますが、この程度ならたいして実害はないようで、かなり長く使っていてなんともありませんから、まず大丈夫だと思っていいでしょう。
     *
パラヴィチーニは、この上原晋氏のEL34のプッシュプルアンプの動作点を参考にしての、
TVA10とM200の出力の実現なのかもしれない。

Date: 10月 29th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その26)

トランスの取り付け方、取り付け位置は注目したいポイントである。

カタログやウェブサイトなどでの製品の説明で、
良質で大容量の電源トランスを使用していることを謳っているものはけっこうある。

オーディオ雑誌の記事でも、製品の内部写真の説明でも、
電源トランスは……、という記述があったりする。

アンプにしても、CDプレーヤーにしても交流電源を直流にして、
その直流を信号に応じて変調させて出力をさせているわけだから、
電源のクォリティは、音のクォリティに直結しているわけで、
電源トランスは、その要ともいえる。

だからこそ良質で(高価な)トランスを採用するわけだが、
その取り付け方をみると、このメーカーは、ほんとうに細部までこだわっているのだろうか──、
そう思いたくなるメーカーが、けっこう多い。

ケースなしの電源トランス、
特にトロイダルコアの電源トランスをどう固定するか。

どんなに電源トランスのクォリティにこだわりました、と謳っていても、
こんな取り付け方しかしないのか、取り付け方を自分たちで工夫しないのか、考えないのか、
そういいたくなることがある。

安価な製品であれば、それでもかまわない、と思うけれど、
数十万円、百万円をこえる製品なのに、
電源トランスも大きく立派そうにみえるモノであっても、
取り付け方は標準的な方法そのままだ。

ここまで書けば、製品内部をきちんと見ている人ならば、
どういうことをいいたいのかわかってくれよう。

細部まで疎かにせず、とか、細部までこだわりぬいた、とか、
そういう謳い文句が並んでいても、電源トランスの取り付け方が、
そのこだわりがどの程度のものなのかを、はっきりと示している。

Date: 9月 30th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その25)

無線と実験、ラジオ技術には、毎号、真空管アンプの製作記事が載っている。
この二誌以外のオーディオ雑誌にも、真空管アンプの製作記事が載ることがある。

トランスにはシールドケースに収納されているタイプと、
コアが露出しているタイプとがある。

シールドケースに入っているタイプだとわかりにくいが、
コアが露出しているタイプを使っているアンプ、
それもステレオ仕様のアンプだと、出力トランスの取り付け方向を見てほしい。

きちんとわかって配置しているアンプ(記事)もあれば、
無頓着なアンプも意外と多い。

EIコアのトランスだと、漏洩磁束の量がコアの垂直方向、水平方向、
それに巻線側とでは、それぞれに違う。

そのことを忘れてしまっている製作例がある。

複数のトランスが、一つのシャーシー上にあれば、必ず干渉している。
その干渉をなくすには、トランス同士の距離を十二分にとるのがいちばん確実な方法だ。

けれどこんなやり方をすれば、アンプ自体のサイズがそうとうに大きくなるし、
それに見た目も間延してしまう。

それにトランス同士の距離が離れれば、内部配線も当然長くなる。
どんなワイヤーであってもインダクタンスをもつ。
そうであれば高域でのインピーダンスは必然的に上昇することになる。

配線の距離が長くなるほど、インピーダンスの上昇も大きくなるし、
長くなることのデメリットは、外部からの影響も受けやすくなる。

NFBを、出力トランスの二次側からかけている回路であれば、
NFBループ内のサイズ(面積)が広くなり、このことにも十分な配慮が必要となる。

配線の長さ、仕方によるサイズの変化については、以前書いているので、ここでは触れない。

Date: 9月 29th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その24)

オルトフォンのSTA6600のトランスを流用して自作したモノは、
うまくいった。
トランスの取り付け方だけが工夫を凝らしたところではなく、
他にもいろいろやっているのだが、その音は、
誰もが中身はSTA6600のトランスとは見抜けないほど、音は違っている。

もっといえば立派な音になっている。
自画自賛と受けとられようが、
この自作トランスの音を聴いた人は、その場で、売ってほしい、といってくれた。

その人のところには、ずっと高価な昇圧トランスがあった。
当時で、20万円を超えていたモノで、世評も高かった。

だから、その人も、その高価なトランスを買ったわけだが、
私の自作トランスの方がいい、とその人は言ってくれた。

そうだろうと思う。
トランス自体の性能は、高価なトランスの方が上であろう。
ただ、その製品としてのトランスは、トランス自体の扱いがわかっていないように見えた。

この製品だけがそうなのではなく、ほとんど大半の昇圧トランスが、そうである。
インターネットには、高価で貴重なトランスをシャーシーに取り付けて──、というのがある。

それらを見ると、なぜこんな配線にしてしまうのか。
その配線が間違っているわけではない。
ほとんどのトランスでやられている配線である。

それを疑いもせずにそのまま採用している。
私にいわせれば、そんな配線をやっているから、
トランス嫌いの人がよくいうところの、トランス臭い音がしてしまう。

取り付けにしても配線にしても、ほんのちょっとだけ疑問をもって、
一工夫することを積み重ねていけば、トランスの音は電子回路では味わえぬ何かを聴かせてくれる。

MC型カートリッジの昇圧トランスと、真空管パワーアンプの出力トランスとでは、
扱う信号のレベルが違うし、信号だけでなく、真空管へ供給する電圧もかかる。

そういう違いはあるけれど、どちらもトランスであることには変りはない。
ということは、トランスの扱い方は、自ずと決ってくるところが共通項として存在する。