Western Electric 300-B(その18)
菅野先生が、こんなことを書かれていた。
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私は食べるのも好きだが、つくるほうにも興味があり、忙中閑ありで、しばしばキッチンに立つが、料理でもう一つ面白いのが味つけの妙である。例えば、塩加減など一発で決めないとうまい料理は絶対にできない。一回塩を入れて、濃かったらもう駄目だ。いくら薄めてもうまい味は出ない。逆に、薄いところに、後で追加しても思い通りの味には絶対ならない。これは書道における一筆描きの如きもので、かすれていようとなぞったら駄目なのと同じことであろう。また、これは私の体験から分ったことだが、よく料理の時間などで、三人前で塩小さじ一杯などというが、では、六人前なら二杯かというと、そうはいかないのだ。これも料理の実に面白いところだと思う。
(「うまい料理」より引用)
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「うまい料理」(「音の素描」におさめられている)を最初に読んだ時は、
まだ自炊はしていなかった。
なので、塩加減について、そうものなのかぁ、ぐらいの受け止め方だった。
でも自炊を積極的にするようになってくると、菅野先生が書かれているとおりである。
《一回塩を入れて、濃かったらもう駄目だ》
そのとおりである。薄めてもうまくいかないし、
《薄いところに、後で追加しても思い通りの味には絶対ならない》のもそうである。
塩加減は、一発勝負である。
私の、たいしたものではない料理の腕でも、年に一回ほど、
見事な塩加減ができるときがある。
そういうときは、ほんとうに美味しい。
けれど、料理の素人である私は、その絶妙の塩加減を再現できるわけではない。
まぐれでうまくいくことが、年に一回ほどある、というだけである。
塩加減の、ほんとうにうまくいったといえる範囲というのは、
ワンポイントなのかもしれない、と思う。
ちょっとでも増えたら(減ったら)、もうその絶妙な塩加減から外れてしまう。
外れたからといって、美味しくならないわけではないが、
ぴたっと絶妙の塩加減におさまった味というのは、自炊を続けているから味わえるともいえる。
菅野先生は、上で引用した文章に続けて、こう書かれている。
《私は録音の時、マイクロフォンを〝念じておけ〟という言葉を使う》。