Archive for category ステレオサウンド

Date: 9月 12th, 2016
Cate: ステレオサウンド

夏の終りに(ステレオサウンド)

野球にほとんど関心のない私でも、
広島カープが25年ぶりに優勝したことは知っているし、
いくつかのニュースを読んでいる。

その中に、広島カープは1番から9番まで、チーム生え抜きの選手、というものがあった。
他球団の有名選手を金銭トレードで獲得して、チーム強化を図るのを悪いことだとも思っていないが、
それでも広島カーブのような球団があるのか、と少し驚くとともに、
ステレオサウンドは広島カープではないな、と思っていた。

ステレオサウンドは、はっきりと広島カープとは対極の方針である。
いわば読売ジャイアンツ的である。

このことは私がいたころから編集部で何度か話していた。
生え抜きの書き手がいるだろうか。
一から書き手を育てるのかどうか。
そういうことを話していた時期がある。

ステレオサウンドに書いている人たちは、ほとんどがどこかで書いていて、
それからステレオサウンドに書くようになった人たちだ。

野球選手とオーディオ評論家は同じには語れないのはわかっている。
野球選手は同時に複数の球団に所属できないが、
書き手はいくつもの出版社の雑誌に書いていける。

そんな違いがあるのはわかったうえで書いている。
ステレオサウンド生え抜きの書き手は……、と。

Date: 8月 25th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンド 200号に期待したいこと(その2)

〆切本」が8月下旬に発売になる。
90人の書き手の〆切にまつわる話を収録したもの。おもしろそうな本だと思う。

9月になったら発売されるステレオサウンド 200号。
200号に、〆切話が載っていたら……、とちょっと期待してしまう。

瀬川先生、岩崎先生は遅かった、と聞いている。
それでも大関クラスで、横綱は五味先生だったそうだ。

私がいたころでも、〆切に関する話はいくつかある。
原田勲会長からきいた瀬川先生と五味先生の話は、実に興味深いものだった。

もしかするとステレオサウンド 200号に乗っているかもしれないから、
どういう違いがあったのかについては書かない。

Date: 8月 22nd, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その68)

ステレオサウンド 52号については、あとひとつだけどうしても書きたいことがある。
166ページに載っているグラフだ。

このグラフはJBLの4343のクロスオーバー特性である。
ウーファー、ミッドバス、ミッドハイ、トゥイーター、
四つのユニットのそれぞれの周波数特性(ネットワーク経由の特性)が測定されている。

4ウェイのスピーカーシステムでは、
三つのクロスオーバーポイントがあると思いがちだが、
実際には四つであったり五つであったりする。

三つのクロスオーバーは、
ウーファーとミッドバス、
ミッドバスとミッドハイ、
ミッドハイとトゥイーターではあるが、
それぞれのユニットの受持帯域の広さと、それからネットワークのスロープ特性によっては、
ウーファーとミッドハイ、ミッドバスとトゥイーターがクロスするポイントが生じることもある。

52号のクロスオーバー特性をみると、4343の場合、
ウーファーとミッドハイ(しつこく書くがミッドバスではない)は、800Hz付近でクロスしている。
通常のクロスオーバーポイントは-3dBであるが、
4343のウーファーとミッドハイのクロスオーバーポイントは、レベル的には-17dBくらいである。
とはいえ確実にウーファーとミッドハイはクロスしている。

ここで気づくのは、やはり800Hzなのか、ということ。
ミッドバスのない4333のウーファーとスコーカーのクロスオーバー周波数は、
カタログでは800Hzと発表されている。

いうまでもなく4343のウーファーとミッドハイ、
4333のウーファーとスコーカーは同じユニット(2231Aと2420、ホーンは少し違う)。

ミッドバスとトゥイーターは、4kHzより少し低いあたりでぎりぎりクロスしているかしていないか、
そんな感じである。
もちろんミッドバスのレベルを上げれば、ぎりぎりクロスすることになるだろう。

4343のクロスオーバー特性。
少なくとも他のオーディオ雑誌では見たことがなかった。

Date: 8月 21st, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その67)

ステレオサウンド 52号には、残念ながら「ひろがり溶け合う響きを求めて」が休載だった。
でも、瀬川先生の原稿の量を見れば、それもしかたないことだと思った。

編集後記には、原稿が入らずに、とある。
瀬川先生の原稿が入っていたら、
「ひろがり溶け合う響きを求めて」は、52号のどこにあったのだろうか。

もしかすると「EMT927Dstについて、わかったことがもう少しあります」が、
代替記事だったのかもしれない。

52号では、ちょっと驚いたことがあった。
音楽欄の安原顕氏の「わがジャズ・レコード評」の冒頭にあった。
     *
 周知の通り、マーク・レヴィンソン(1946年12月11日、カリフォルニア州オークランド生れ)といえば、われわれオーディオ・ファンにとって垂涎の的であるプリアンプ等の製作者だが、彼は一方ではバークリー音楽院出身のジャズ・ベース奏者でもあり、その演奏は例えばポール・ブレイの《ランブリン》(BYG 66年7月ローマで録音)などで聴くことが出来る。
     *
マーク・レヴィンソンはコネチカット州に住んでいたし、
マークレビンソンという会社もそこにあったわけだから、てっきり東海岸出身だと、
52号を読むまで、そう思っていた。

生れは西海岸だったのか。
いつごろコネチカット州に移ったのだろうか。

Date: 8月 20th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その66)

ステレオサウンド 52号の特集はセパレートアンプのページが終れば、
広告をはさんでプリメインアンプのページが始まる。

プリメインアンプの試聴記の前には、
上杉先生による「最新プリメインアンプの傾向と展望」がある。
この後に試聴記がある。

プリメインアンプの試聴記の後には、
プリメインアンプ機能一覧表、コントロールアンプ機能一覧表、
パワーアンプ機能一覧表がある。
これで特集は終りだな、と思った。

一覧表の後には広告があったからだ。
もうこれだけでも充分なボリュウムである。

けれどまだ続いているといえるページがあった。
柳沢功力氏による「ピュアAクラスと特殊Aクラスの話題を追って」である。

この記事はまずトランジスターの動作原理から始まる。
といっても技術解説書のような内容ではなく、
真空管とトランジスターの違い、
A級動作とB級動作の違いなどをわかりやすいイラストを使い、丁寧に説明してある。

その上でスイッチング歪についての説明があり、
メーカー各社の出力段の新方式について解説がある。

この記事の白眉は、最後のページ(368ページ)にある。
各社からさまざまな方式が出ていたが、それらを他社のエンジニアはどう捉えているのか。
それについてのコメント(匿名ではあるが)が並ぶ。

このページの隣は、連載の「サウンド・スペースへの招待」である。
だから、これでやっと特集のページが終った、と思った。

だがまだ続きがあった。
「サウンド・スペースへの招待」、広告のあとに「JBL#4343研究」がある。
今回は瀬川先生の担当である。

副題にこう書いてある。
「#4343はプリメインアンプでどこまで実力を発揮するか、
価格帯別にサウンドの傾向を聴く」

特集のプリメインアンプのところで登場した中から八機種をピックアップされての記事である。
特集冒頭の「最新セパレートアンプの魅力をたずねて」のプリメインアンプ版ともいえる。

ここまでが52号の特集といってもいいだろう。
終ったと思ったところに、あとひとつ記事が用意されていたのは、
特集だけではなく、新連載のTHE BIG SOUNDもそうだ。

「EMT927Dstについて、わかったことがもう少しあります」というタイトルの、
編集部原稿の記事がある。

これがステレオサウンド 52だった。

Date: 8月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その65)

ステレオサウンド 52号のアンプの測定に関しては、
もっともっと書きたいことがあるけれど、
ひとつひとつ書いていくと、アンプについて書いているのか、
52号について書いているのかが曖昧になりすぎるので、このへんにしておく。

52号の特集の試聴についても、
測定と同じで、これまでは少し違う試みがなされている。

試聴は二部構成といえる。
メインは岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦、三氏による試聴記だが、
その前に瀬川先生の、アンプ考察といえる文章がある。
ここにも52号で登場するアンプの中からいくつかが取り上げられている。

つまり瀬川先生が注目されているアンプが取り上げられているわけだ。
瀬川先生がメインの試聴記を担当されていたとしたら、
個人的に知りたかったことが載らなかったかもしれない。

ひとつの例を挙げれば、マークレビンソンのML6とML3のペアである。
読み手は、ここでLNP2とML6の違い、ML2とML3の違い、
それぞれを組み合わせたときの音について知りたい、と思う。

けれどメインとなる試聴記は、あくまでもML6とML3のものであり、
そこまで求め難いところがある。

瀬川先生は、そこのところをていねいに書かれている。
従来の総テストでは、こういうところが抜けがちになってしまう。
それを補うには、52号の二部構成はひとつの解決策ともいえる。

マークレビンソンを例に挙げたが、これひとつではない。
瀬川先生の文章は俯瞰的でもある。
そこに登場するアンプの位置づけがなされているから、
ディテールについての表現が活きてくるし、読み手に伝わってくる。

52号のやり方をもって、アンプ総テストの完成形とまではいわないが、
ここには編集部の、それまでのやり方に安住しない意気込みがあらわれている。

そこに感化されたからこそ、私はステレオサウンド編集部に手紙を書いたのかもしれない。

Date: 8月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その64)

ステレオサウンド 52号(1979年9月)のころになると、
アンプの動特性の向上が各メーカーの目標となり、謳い文句にもなっていた。

カタログにはスルーレイトやライズタイムの項目が加わってきたし、
アンプによってはNFB量を記載しているものもあった。
けれどこれらの動特性も、静特性も、すべて抵抗負荷で測定された値である。

実際にスピーカ実装時に、静特性がそのまま保証されているかというと、
おそらくそうでないことは誰もが思っていても、
では実際にどうやって測定するのか、その測定方法が各社で統一されていたわけではなかった。

52号でのダミースピーカーを負荷とした測定が、すべてにおいて理想的かといえばそうではない。
けれどとにかく、抵抗負荷でしか測定されてこなかった(発表されてこなかった)特性を、
ダミーとはいえスピーカー実装時といえるところで測定している意義は大きい。

実際に52号に掲載されている測定データは興味深い結果となっている。
よく高NFBのアンプの歪率は逆レの字型になる傾向がある。
最大出力あたりで歪率は最小になり、それ以上は急激に歪が増す。

52号に登場するアンプにも、そういうアンプがある。
そういうアンプはダミースピーカー負荷だと混変調歪率のカーヴが、
抵抗負荷のカーヴと大きく違ってくる。
歪率もかなり大きくなる傾向にある。

そういうアンプがある一方で、抵抗負荷とダミースピーカー負荷のカーヴが割と近いアンプもある。
そういうアンプは歪率の増加はそれほど大きくない。

抵抗負荷、ダミースピーカー負荷のカーヴはほほ同じというアンプは、
数は少ないながらある。歪率も同じといえる。
GASのGODZiLLAである。
QUADの405もGODZiLLAほどではないが、かなりふたつのカーヴは近い。

おもしろいのはスレッショルドの4000 Customで、
抵抗負荷よりもダミースピーカーの歪率が低い。
抵抗負荷では少しうねっているのが、ダミースピーカー負荷の方だと素直なカーヴになっている。

全高調波歪はオシロスコープの画面を撮影したものが掲載されているので、
歪率の大小だけでなく波形の状態も確認できる。

52号の測定データは一機種あたり1/2ページというスペースだが、飽きない。
そこから得られることは、当時よりもいまのほうが多い。

Date: 8月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その63)

ステレオサウンド 52号の特集は、アンプである。
42号はプリメインアンプの特集だった。
その後、52号までアンプの特集はなかった。

セパレートアンプに関しては、1978年夏に別冊が出ている。
ステレオサウンド本誌でセパレートアンプの総テストはひさしぶりのことである。
編集後記によれば、
セパレートアンプとプリメインアンプの合同試聴は九年ぶりとある。

ひさしぶりのことだけはあった、と思える内容だ。
特集の巻頭には、瀬川先生の文章がある。
三万字近い文章がある。
読み応えが、本当にある。

この後にテストリポートが続く。
52号のテストリポートは試聴(岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦)と測定(長島達夫)からなる。
プリメインアンプの試聴は、岡俊雄、上杉佳郎、柳沢功力。

この52号の測定で注目したいのは、抵抗負荷の特性だけでなく、
ダミースピーカー負荷時の特性も測定しているところだ。

このダミースヒーカーは三菱電機によるもので、
インピーダンス特性をみるとフルレンジユニットのような特性を持つ。
f0は40Hzで、高域にかけてインピーダンスが素直に上昇している。

一見するとやや薄めのコンプレッションドライバーのように見えるダミースピーカーは、
通常のスピーカーとは逆に音が出ないように工夫されている。
アンプの測定に使うものだから、ハイパワーアンプの測定にも使えなければならない。
ダンパーは二重になり、ボイスコイルの振幅は32mm(±16mm)で、放熱対策もとられている。

このダミースピーカーを負荷として、混変調歪と全高調波歪が測定されていて、
抵抗負荷時の特性と比較できるようになっている。

その他にプリ・パワーのオーバーオールの周波数特性に関しては、
抵抗負荷だけでなく、試聴スピーカーである4343を負荷としたときの特性も載っている。

測定項目としてはそう多くはないが、手間のかかる測定だったはずだ。

Date: 8月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その62)

もうひとつの新連載ザ・スーパーマニアの一回目には、
福島・郡山のワイドレンジクラブの五人の方が登場されている。

ザ・スーパーマニアの扉には、
「郡山では、100組の3Dシステムが、さわやかな超低音をひびかせている」
とある。

ワイドレンジといえば、スーパートゥイーターで高域レンジの拡大をイメージする人が多いけれど、
ここでのワイドレンジとは低域レンジの拡大である。
しかもワイドレンジクラブの人たちは、みな3D方式をとられている。

3D方式とは日本独特の言い方で、
今風にいえばセンターウーファーのことである。

ステレオサウンドは48号で、サブウーファー(センターウーファー)の試聴を行っている。
48号では試聴室での、メインとなるスピーカーを変え、
サブウーファーも変えての試聴(いわば実験)である。

52号のザ・スーパーマニアは、いわば実践ともいえる内容である。
48号の記事と52号のザ・スーパーマニアの担当者は同じではない。

ザ・スーパーマニアの担当編集者は、51号の編集後記で「新入社員です」と書かれているOさんである。
THE BIG SOUNDもOさんの担当である。

ふたつの記事の担当編集者は違っていても、
そんなことは読者には関係のないことで、
読者にとっては関連付けられる記事が載っていることだけが重要である。

Date: 8月 18th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その61)

ステレオサウンド 52号には「続・五味オーディオ巡礼」が載っている。
47号から再開したオーディオ巡礼が載っているかいないかで、
ステレオサウンドの印象が、私にとっては大きく変ってくる。

48号、49号と二号続けて載っていなかったから、
50号、51号、52号と三号続けて読める嬉しさと喜びは一入であった。

52号のオーディオ巡礼に登場されるのは、岩竹義人氏。
48号で、井上先生とサブウーファーの記事に登場されていた人であり、
HIGH-TECHNIC SERIES 3(トゥイーター号)に原稿を書かれている。

岩竹氏の回は、「オーディオ巡礼」にはおさめられていない。
52号でしか読めない。

52号ではTHE BIG SOUNDとザ・スーパーマニア、ふたつの連載が始まった。
THE BIG SOUNDの一回目には、EMTの927Dstが登場している。
コンシューマー用のアナログプレーヤーとは明らかに異る威容をもつ927Dstの詳細を、
初めて紹介した記事のはずだ。

山中先生が書かれている。
     *
 シャフトと軸受の嵌合とか、そういった機械的精度の出しかたは非常に常識的に、まともに作られている。ターンテーブルというものが機械屋の手から電気屋の手に移った現在では、この「まともに作る」ということが忘れられている。この927は、機械屋がまともに設計して作ったものという意味でも貴重な存在といえる。
     *
機械屋の手からから電気屋の手に……、
52号は1979年秋号で、国産プレーヤーの大半はダイレクトドライヴであり、
マイクロが半年ほど前に糸ドライヴのRX5000を出したころである。

機械屋の手から電気屋の手へ移ったアナログプレーヤーの設計は、
電子屋の手に渡った、ともいえる。

Date: 8月 17th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その60)

ステレオサウンド 52号の表紙は、マッキントッシュのC29とMC2205のペアである。
黒をバックに、夏号(51号)とはがらりと雰囲気を変えた秋号らしさ、と感じた。

52号を手にして気づくのだが、
49号はマッキントッシュのMC2300、50号はMC275、51号がアルテックの604-8Hで、
52号がC29とMC2205ということは、
一年四冊のステレオサウンドの表紙の三回をマッキントッシュのアンプが飾っている。

こういうことを書くと、へんなことを勘ぐる人が出てくる。
念のために書いておくが、このころのマッキントッシュの輸入元はヤマギワ貿易である。

52号の特集は「いま話題のアンプから何を選ぶか──最新56機種の実力テスト」である。
セパレートアンプ、プリメインアンプの試聴と測定である。
特集の冒頭には、
瀬川先生の「最新セパレートアンプの魅力をたずねて」が載っている。

51号とは打って変っての内容である。
特集だけではない、新連載も二つ始まっている。
主菜も副菜も充実していた、というか、充実させようという意気込みのようなものがあった。

嬉しくなった。
51号がああだっただけに、その嬉しさを伝えたかった。
だからステレオサウンド編集部に手紙を書いた。

しばらくしたら編集部から返信があった。
返事があるとはまったく思っていなかっただけに、また嬉しくなった。

いま思えばつたない文章の手紙だった。
そういうのに対してもきちんとした返事を送ってくれた。
念のためにいっておく、この時代から電子メールではなく封書の手紙だ。

Date: 8月 16th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その59)

ステレオサウンド 51号に関しては、もうひとつ書いておきたいことがある。
といっても記事ではなく、広告である。

当時マークレビンソンやSAEなどの輸入元であったRFエンタープライゼスの広告のことだ。
そこには大きな文字で「さようならSAE」とあった。

文字だけの広告だった。
〈SAE社からの手紙〉が上段にあり、
下段に〈RF社からSAE社への返信〉があった。

SAEが拡大路線を、輸入元のRFエンタープライゼスに要請したものの、
RFエンタープライゼスとしては望むべき道ではない、ということで、
SAEの取り扱い業務を停止する、というものだった。

SAEは三洋電機貿易が取り扱うことになった。
これはけっこうショックだった。

SAEのパワーアンプMark 2500は、瀬川先生の愛用アンプであり、
私の欲しいアンプのひとつだった。
51号のころはMark 2500からMark 2600にモデルチェンジしていた。

基本的な内容は同じであっても、パワーアップしたMark 2600の音は2500とは違っていた。
私はMark 2500の方が好きだったし、いいと思う。
瀬川先生もMark 2600になって、気になるところが出てきた、ともいわれていた。

RFエンタープライゼス取り扱いのSAEがなくなる。
そんなことをいって輸入元が変るだけだろう、と人はいうだろう。

けれど当時のRFエンタープライゼスは、輸入して売るだけの商売をやっていたわけではない。

広告には、こう書いてあった。
     *
当社では、これまで米国SAE社製品の輸入業務を行うとともに、日本市場での高度な要求に合致するよう、各部の改良につとめてまいりました。例えば代表的なMARK 2600においては、電源トランスの分解再組立てによるノイズ防止/抵抗負荷による電源ON-OFF時のショック追放/放熱ファンの改造および電圧調整によるノイズ低減/電源キャパシターの容量不足に対し、大型キャパシターを別途輸入して全数交換するなど、1台につき数時間を要する作業を行うほか、ワイヤーのアースポイントの変更による、方形波でのリンギング防止やクロストークの改善など、設計変更の指示も多数行ってまいりました。
     *
これだけの手間を、次の輸入元がやるとは思えなかった。
三洋電機貿易が輸入したMark 2600を聴く機会はなかったが、
特に聴きたいとも思っていなかった。

そのMark 2600だが、
数年前、ある人から「瀬川さんがいいというからMark 2600を買ったけれど、ちっとも良くなかった」
といわれた。
だから聞き返した。「輸入元はどっちですか」と。
「三洋電機貿易のモノじゃないか」ともきいた。
そうだ、という。

だからだ、と答えた。
RFエンタープライゼスがどういうことをやっていたのかも説明した。
でも、その人は納得していない様子だった。
同じ型番のアンプなのだから、輸入元の違いで音の違いなどあるはずがない、
そう思っているようだった。

そして執拗に「瀬川さんがいいといっていた……」とくり返す。
この手の人に対する私の態度は冷たい。

Date: 8月 16th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その58)

このころのステレオサウンドの音楽欄は、
いまとはずいぶん趣の違う構成だった。

ジャズに関しては「わがジャズ・レコード評」というページを、
安原顕氏が書かれていた。

いまとなっては安原顕氏がどういう人なのか説明するところから始めないと、
「誰ですか、安原顕って?」となる。

51号の「わがジャズ・レコード評」の書き出しはこうだ。
     *
 ジャズ喫茶に詳しい人なら、国分寺から千駄ヶ谷に引っ越してきたPeter-cat(マッチに例のジョン・テニエル描くところの『不思議の国のアリス』の笑いながら消えていくチェシャー猫の絵を使っている)という洒落たお店のことは知っていると思うが、そこのマスターの村上春樹君が、『風の歌を聴け』と題する中編小説で第22回群像新人賞を受賞した。この村上君は、ぼくのジャズ友達で現在『カイエ』の編集長をしている小野君から紹介されて、国分寺時代のころから知っていた人だったので早速読んでみたのだが、これがちょっと信じられないくらい(といっては村上君に悪いが)面白くかつ感動的な小説だった。
     *
村上春樹氏についての記述はもう少し続くが、このへんにしておくし、
これは、余談である。

51号464ページは、告知板という記事である。
メーカーのショールームがオープンしたり、キャンペーンを行っているとか、
オーディオ機器の価格改定が行われたとか、そういった告知をあつめたページである。

ここにフィリップスが発表したコンパクトオーディオ・ディスクが載っている。
このころはまだディスクの直径は11.5cmである。
このころフィリップスのスピーカーやカートリッジは、オーディオニックスが輸入していた。
だから、このコンパクトオーディオ・ディスクの問合せ先も、オーディオニックス。

CDの誕生前、ひっそりと記事となっている。

51号を弁当にたとえれば、主菜が期待外れだった。
けれど副菜が意外なもので美味しかったりしたので、
弁当として満足はそれなりに得られたものの、
やはり51号のベストバイは失敗と断言してもいい。

Date: 8月 16th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その57)

瀬川先生の「ひろがり溶け合う響きを求めて」は、
単にリスニングルームだけのことに留まらず、さざまなことに関係してくる予感があるだけに、
ここではこれ以上書かない。

いずれ項を改めて欠くつもりだが、
どういうテーマにするのかも含めて、まだ何も決めていない。

ブログを書いていると、こんなふうにして書きたいことが次々に出てくる。
項を改めて……、と保留にしているテーマがもうすでにいくつかもある。

ステレオサウンド 51号の記事については、だから次にうつる。
「#4343研究」である。

副題は「JBL#4343のファイン・チューニング」である。
4343をチューニングするのはオーディオ評論家ではなく、
JBLプロフェッショナル・ディヴィジョンのゲーリー・マルゴリスとブルース・スクローガンのふたり。

1979年4月中旬に、
山水電気主催でJBLのプロフェッショナル・ユーザーを対象としたセミナーが開催され、
講師として、このふたりが来日している。

「JBL#4343のファイン・チューニング」は10ページの記事。

海外メーカーの人は、昔からよく来日している。
その度にステレオサウンドをはじめオーディオ雑誌はインタヴュー記事を掲載する。
けれど、読者が読みたいのは、それら多くのインタヴューの先にあるものである。

51号の、この記事はそういえる初めての記事、
少なくとも私にとっては、ステレオサウンド以外にもオーディオ雑誌を読んでいたけれど、
こういう記事は初めてであった。

自社のスピーカーシステム(4343)をセッティングしていく様には、
ロジックがあるといえよう。
特にレベルコントロールの方法は、まさに目から鱗であった。

この時の4343の音は、心底聴いてみたかった。

ファイン・チューニングという言葉を、
数年前のステレオサウンドも記事のタイトル使っている。
ずいぶん51号とは意味合いが違っている。

Date: 8月 16th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その56)

51号掲載の「ひろがり溶け合う響きを求めて」の二回目は、
IEC(International Electrotechnical Commission)が1977年に各国に配布した
リスニングルーム原案について紹介されている。

この原案の要約が表になっている。
 ①部屋の容積:801(±30)㎥
 ②天井までの高さ:2.75(±0.25)m
 ③寸法比:L:B:H=2.4=1.6=1
 ④残響時間:100Hz 0.4s(Min), 1.0s(Max) 400Hz 0.4s(Min), 0.6s(Max) 4kHz 0.4s(Min), 0.6s(Max) 
       8kHz 0.2s(Min), 0.6s(Max) 
 ⑤スピーカーの背面(半斜面)は吸音性でないこと。
 ⑥スピーカー直前の床面にカーペット等を用いないこと。
 ⑦リスナーの背面は吸音性の材料を含んでもかまわない。
 ⑧天井にはいかなる吸音材を用いてはならない。
 ⑨屋内でのフラッターエコーが感知できないこと。
 ⑩基本的にこの屋内は拡散音場であること。
 ⑪室温:15〜35℃ ただし20℃が好ましく、リスニングテストの際は25℃を限度とする。
 ⑫湿度:45〜75%
 ⑬気圧:860mbar〜1060mbar

瀬川先生は、日本流に直していえば、
やや天井の高い十八畳弱の、残響時間が長めのリスニングルーム、と表現されている。

そして、こう書かれている。
     *
 わたくし自身が(前号にも書いたように)長いあいだ数多くの愛好家のリスニングルームを訪問した体験によって、とても重要だと考えていた条件がひとつある。このことは、ふつう、こんにちの日本ではほとんど誰も取上げていない問題だが、それは表1の⑧の、「天井にはいかなる吸音材も用いないように……」という部分である。これは、新しいリスニングルームを作る計画を立てる以前から、ずっと固持してきたわたくしの考えと全く同じであった。
     *
瀬川先生の連載「ひろがり溶け合う響きを求めて」は、
単にリスニングルームの記事で終っているわけではない。

欧米のオーディオ機器の音とも深く関係してくる。