Archive for category Mark Levinson

Mark Levinsonというブランドの特異性(その47)

LNP2のブロックダイアグラムを見ればすぐにわかることだが、REC OUTをパワーアンプの入力に接続しても、
VUメーターの両脇にあるINPUT LEVELのツマミによってボリュウム操作はできる。
こうすることによって3バンドのトーンコントロール機能をもつ最終段のモジュールをパスできる。
モジュールだけでなくOUTPUT LEVELのポテンショメーターや接点もパスできる。

中学生のころ、こうした使い方のほうが、
ボリュウム操作のため左右チャンネルで独立しているINPUT LEVELを動かす面倒はあるものの、
音の透明感ということでいえば、この使い方がいいはず、と短絡的にもそう思ったことがある。

短絡的、とあえて書いたのは、こういう使い方、そしてこういう使い方をされている方を否定するためではない。
あくまでも私にとってのLNP2というコントロールアンプの存在、
つまり、それは瀬川先生の存在と決して切り離すことのできないモノである、
ということを忘れてしまっていた己に対しての、短絡的という意味である。

まあ、それでも、したり顔で「LNP2はこうやって使った方が音が圧倒的にいい」などと面と向っていわれると、
「あなたにLNP2の魅力の何がわかっているのか」と、口にこそ出さないものの、そう思ってしまう。
そんなことをいう人と私が感じているLNP2の良さとは、実はまったく違うのかしれない。

こんなことを書いても、信号経路は単純化した方が絶対いい、と主張する人にとって、
LNP2にバッファーアンプを搭載することは、わざわざ余分なお金を費やして音を悪くしてしまうことでしかない。

理屈は、確かにそうだ。でも理屈はあくまでも理屈である。
音の世界において、理屈は時として実際に出てくる音の前では意味をなさなくなることもある。
それに理由付けなんて、後からいくらでもできるものだ。

理屈は、あくまでも、いま現在判明していることを説明しているにすぎない。
まだまだオーディオには判明していないことが無数にある。

だから、短絡的、と私は言う。
それに、そういう使い方をするのであれば、LNP2でなくて、他のアンプにした方がいい。

LNP2にあえてバッファーアンプを搭載することは、どうことなのだろうか。
過剰さ・過敏さ・過激さを研ぎ澄ますことであり、
そして、この3つの要素こそ、ジョン・カールと組んでいたマーク・レヴィンソンの「音」だと思う。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その46)

レコードの音は、徹底的に嘘であるところが好きだ。虚構だから好きだ。日常的でないから好きだ。そしてそれを鳴らすメカニズムには、レコードの虚構性、非日常性をさらに助ける雰囲気があるから好きだ。
一人の人間を幸せにする嘘は、人を不幸にする真実よりも尊い。「百の真実にまさるたったひとつの美しい嘘」というのは私の好きな言葉で、これを私は、レコードの演奏やそれを鳴らすメカニズムやそこから出てくる音にあてはめてみる。レコードの音は、ほんらい生とは違う。どこまで行ってもこの事実は変わらない。オーディオの技術がこの先どこまで進んだとしても、そしていまよりもっと生々しい音がスピーカーから出せるようになったとしても、ナマとレコードは別ものというこの事実は変わらない。
だからナマと同じ音など求めるのはバカげている、という考え方がある。どこまでナマに近づけるかという追及などナンセンスじゃないか、という意見がある。一面もっともだが、私は違う。たとえば小説が虚構の中で現実以上の真実をみせてくれるように、映画が虚構の中で実生活以上の現実感を味わわせてくれるように、私は、スピーカーが鳴らす虚構の音にナマ以上の現実感を求める。生の音と同じ、ではない、いわば生以上の生、を求めるのである。虚構の世界のこれは最も重要な機能である。虚構は日常性を断ち切ることによって、虚構にいよいよ徹することによって、真実を語ることができる。(「人世音盤模様」より)
     *
瀬川先生が、なぜLNP2の音に惹かれたのか、が、この文章につながっていっていると思う。
そして、もうひとつのなぜ──ここまで虚構世界に追い求められるのはなぜなのか。
その答はここにあるのではなかろうか。
     *
なぜ、趣味が人を純粋にさせるのか。それは、趣味というものは実生活のあらゆる束縛から解き放たれた虚構の世界のものであるからだ。虚構の世界では、人は完全に自由である。実生活上の利害とも無縁だ。これを買ったらトクかソンかなんていう概念は、趣味の世界にありえないコトバなのだ。外から強制されるものではなく、自らが自らのルールを(虚構の中で)定め、虚構世界の束縛の中に、束縛による緊張の世界に、自発的に参加する。そこに無限の飛躍と喜びがある。これはある意味で子供たちの遊びの世界に似ている。子供たちは遊びの世界で——というより遊びこそが子供たちの全宇宙と言うべきなのだが——、石ころや木の葉をさえすばらしい宝ものに変えてしまう。子供たちは魔法つかいだ。(「続・虚構世界の狩人」より)
     *
私がなぜ、そう感じたのか、その理由については、まだ書きたくないし、書くべきでもないよう気がする。
だからあえて舌足らずのままにしておくことをお許し願いたいが、それでもひとつだけ書いておく。
「子供」──、このことばこそ、ここでは、とても大事な意味を持っているはずだ。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その45)

この項(その32)に、瀬川先生のKEFの105の試聴記を引用している。
そこに「組合せの方で例えばEMTとかマークレビンソン等のようにツヤや味つけをしてやらないと、
おもしろみに欠ける傾向がある。」と書かれている。
このことは、瀬川先生がマークレビンソンのアンプ(このときはML7はまだ登場していない)の音を、
どう感じておられたかがわかる。

もしこのとき、LNP2やJC2(ML1)、ML2などがとっくに製造中止になっていて、ML7とML3だけになっていたら、
こんなことは書かれなかったと思う。
ステレオサウンドの1981年夏の別冊の巻頭原稿「いま,いい音のアンプがほしい」に、どう書かれているか。
     *
その当時のレヴィンソンは、音に狂い、アンプ作りに狂い、そうした狂気に近い鋭敏な感覚のみが嗅ぎ分け、聴き分け、そして仕上げたという感じが、LNP2からも聴きとれた。そういう感じがまた私には魅力として聴こえたのにちがいない。
そうであっても、若い鋭敏な聴感の作り出す音には、人生の深みや豊かさがもう一歩欠けている。その後のレヴィンソンのアンプの足跡を聴けばわかることだが、彼は結局発狂せずに、むしろ歳を重ねてやや練達の経営者の才能をあらわしはじめたようで、その意味でレヴィンソンのアンプの音には、狂気すれすれのきわどい音が影をひそめ、代って、ML7Lに代表されるような、欠落感のない、いわば物理特性完璧型の音に近づきはじめた。かつてのマランツの音を今日的に再現しはじめたのがレヴィンソンの意図の一端であってみれば、それは当然の帰結なのかもしれないが、しかし一方、私のように、どこか一歩踏み外しかけた微妙なバランスポイントに魅力を感じとるタイプの人間にとってみれば、全き完成に近づくことは、聴き手として安心できる反面、ゾクゾク、ワクワクするような魅力の薄れることが、何となくものたりない。いや、ゾクゾク、ワクワクは、録音の側の、ひいては音楽の演奏の側の問題で、それを、可及的に忠実に録音・再生できさえすれば、ワクワクは蘇る筈だ──という理屈はたしかにある。そうである筈だ、と自分に言い聞かせてみてもなお、しかし私はアンプに限らず、オーディオ機器の鳴らす音のどこか一ヵ所に、その製品でなくては聴けない魅力ないしは昂奮を、感じとりたいのだ。
     *
「その当時のレヴィンソン」とは、ジョン・カールと組んでいた頃のマーク・レヴィンソンだ。

Date: 6月 13th, 2010
Cate: Mark Levinson, the Reviewの入力, 瀬川冬樹

the Review (in the past) を入力していて……(その44)

ステレオサウンド 46号に、
瀬川先生によるHQDシステムの記事「マーク・レビンソンHQDシステムを聴いて」が載っている。

試聴の場所は、ホテルの宴会場で、マーク・レヴィンソンによると、HQDシステムにとってやや広すぎて、
デッド過ぎる音響特性だったらしい。

最初に鳴ったのは、レヴィンソン自身の録音によるギターのソロ。
瀬川先生の次のように書かれている。
「ギターの音色は、スピーカーがそれを鳴らしているといった不自然さがなくて、全く誇張がなく、物足りないほどさりげなく鳴ってくる。左右のスピーカーの配置(ひろげかたや角度)とそれに対する試聴位置はマークによって細心に調整されていたが、しかしギターの音源が、椅子にかけた耳の高さよりももう少し高いところに呈示される。」

つぎに鳴ったコンボジャズの印象は
「かなり物足りなさを憶えた。音質の点では、24インチ・ウーファーの低音を、予想したようなパワフルな感じでは彼は鳴らさずに、あくまでも、存在を気づかせないような控え目なレベルにコントロールして聴かせる。」

このコンボジャズもレヴィンソンによる録音で、一般市販のアナログディスクは、
セル指揮の「コリオラン」序曲をかけたとある。
「ハーモニィはきわめて良好だし、弦の各セクションの動きも自然さを失わずに明瞭に鳴らし分ける。非常に繊細で、粗さが少しもなく、むしろひっそりとおさえて、慎重に、注意深く鳴ってくる感じで、それはいかにもマーク・レビンソンの人柄のように、決してハメを外すことのない誠実な鳴り方に思えた。プログラムソースからスピーカーまでを彼自身がすべてコントロールして鳴らした音なのだから、試聴室の条件が悪かったといっても、これがマークの意図する再生音なのだと考えてよいだろう。」

4343をオール・レビンソンで鳴らした音の印象とはずいぶん異るように感じられる。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・ML4について)

ここで、マークレビンソンのラインナップに、ML4がなかったことを書いた。
なかったわけでないことが、今日思い出すことができた。

さきほど坂野さんから、ステレオサウンドのバックナンバーが、まとまって送られてきた。
そのなかに50号が含まれていて、
編集部原稿による「マーク・レビンソンのニューライン完成間近」という記事がある。
ここにML4の試作品の写真と説明が載っている。

そうだ、そうだ、ここに載っていた、と思い出した。

ML4は、大幅に値上がりしたML1のローコスト版を望む声がアメリカでは強く、
それに応える形で開発されたもの、らしい。
モジュール構成ではなく、電源部も内蔵されている、とある。

フロントパネルは、ML1と同じように中央にMark Levinsonの、例のロゴがあり、
その左右にツマミが3個ずつ左右対称に配置されている。

電源部内蔵とあって、パネル高もML1よりもはありそうな感じだ。
これがML10の原型か、は、はっきりとしない。

この記事中では、ML10はKEFのModel 105をベースに、
ネットワークと内部配線材(おそらく銀線使用か)を中心にモディファイされたもの、となっている。

さらにML7の型番もあり、これはのちに登場するコントロールアンプのことではなく、
ML5の姉妹機にあたるもので、
ML5がスチューダーのA80のトランスポート採用であるのにたいし、
このときのML7は、ルボックスのB77のトランスポートを使い、
マークレビンソン製の録音・再生アンプを組み込んだもの。

今日届いたステレオサウンドのバックナンバーのおかげで、
書くことを控えていた、いくつかの項目の続きが書けるようになった。

the Review (in the past) の入力に関しても、
そろそろ手もとにあるステレオサウンドのバックナンバーが足りなくなってきたころだっただけに、
助かっている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その44)

バッファーアンプ用のモジュールLD2を抜きとれば、バッファーアンプなしの音が聴けるのであれば、
すぐにでも試してみるところだが、残念ながらそうはいかない。
バッファーアンプの有無により、どれだけ音が変化するのは、だから想像で語るしかない。

マークレビンソンのLNP2、JC2の音は、あきらかに硬水をイメージさせる。
ここが、ML7と大きく違うところでもある、と私は思っている。

パッファーアンプ仕様にするということは、LNP2を構成するLD2モジュールのもつ硬水的性格を、
より高めていくことになるのではなかろうか。
その意味では、単に音としての純度ではなく、LNP2としての純度、
マークレビンソンのアンプとしての純度を高めていくことでもあるように感じられる。

硬水をさらに硬水にすることで、細部に浸透させるミネラル分を濃くすることで、
音楽の細部の実体感を増し、音像のクリアネスを高めていくことにつながっていくようにも思う。

世田谷のリスニングルームに移られるまでは、音量を絞って聴くことの多かった瀬川先生にとって、
これらの音の変化は、大切なことであったのかもしれない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その43)

LNP2を構成するモジュールは、信号系に使われているLD2が、片チャンネルあたり3つ、
その他にVUメーター駆動用のモジュールの、両チャンネルで8つである。

モジュールが取付けられているプリント基板には、あと2つスペースがあり、
ここにコンデンサーマイクロフォン用のファントム電源用モジュールか、
LD2を、バッファーアンプとして、もう1組追加することができる。

瀬川先生は、何度か書かれたり語られているように、バッファーアンプつきのLNP2Lを愛用されていた。
理由は、音がいい、からである。
バッファーアンプを加えた場合、カートリッジからの信号は、計4つのLD2を通って出力されるわけだ。
信号経路を単純化して、音の純度を追求する方向とはいわば正反対の使い方にも関わらず、
瀬川先生は、このほうが、音楽の表現力の幅と深さが増してくる、と言われている。

ステレオサウンドに常備してあったLNP2Lも、このバッファーアンプ搭載仕様だった。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その42)

カートリッジが、レコード盤から音を拾ってくる。
機械的な音溝を、電気的な信号に変換する。
優秀なプレーヤーシステムを、見事に調整していれば、驚くほどの音を拾いあげる。

その拾いあげられた音を、
つまり音溝という形で眠っていた音を、完全に目覚めさせるのはコントロールアンプの役割なのかもしれない。

感覚的な表現でいえば、寝起きの乾いた体に新鮮な水を飲むのと同じように、
水を浸透させ目覚めさせるといった具合に。

コントロールアンプによっては、その水の量が足りないものがある。
水そのものが澱んでいるものもある。
細部まで水が浸透しないものもある。

軟水もあれば硬水もある。
マークレビンソンのLNP2やJC2は、硬水を音の細部にまで浸透させ、音が目覚める。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その41)

水にも、いろいろある。含有される各種ミネラル成分のバランス、量によって、
まず大きく分けて、軟水と硬水とがあり、口に含んだときの感じ方はずいぶん違う。

近い硬度の水でも、ミネラル成分の割合いによって、味は異り、
同じ水でも、温度が違えば味わいは変わってくる。
水のおいしさは、利き酒ならぬ利き水をするのもいいが、
そのまま飲んだときよりも、珈琲、紅茶、アルコールに使ったときのほうが、
違いがはっきりとわかることがある。味わう前に、香りの違いに気がつくはずだ。

料理もそうだ。
いつも口にしている料理、たとえば味噌汁を、ふだん水道水そのままでつくっているのであれば、
軟水のナチュラルミネラルウォーターでつくってみれば、何も知らずに出され口にした人は、
いつもとなにかが違うと感じるはず。

Date: 5月 30th, 2009
Cate: Mark Levinson, 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(余談)

2345、つまりツウー、スリー、フォー、ファイブ、というカッコいい型番を与えられているホーンを読者はご存知だろうか。23ナンバーで始まる四ケタ番号は、JBL・プロ用の中高音ホーンだ。そのあらゆるホーンの中で2345という名は、決して偶然につけられたものではなかろう。このナンバーのもつ響きの良さ、語呂のスムーズさは、それだけでも商品としての魅力を持ってしまうに違いない。名前が良くて得をするのはなにも人間だけではない。オーディオファンがJBLにあこがれ、プロフェッショナル・シリーズに目をつけ、そのあげく2345という型番、名前のホーンに魅せられるのは少しも変なところはあるまい。マランツ7と並べるべくして、マッキントッシュのMR77というチューナーを買ってみたり、さらにその横にルボックスのA77を置くのを夢みるマニアだっているのだ(実はこれは僕自身なのだが)。理由はその呼び名の快さだけだが、道楽というのは、そうした遊びが入りやすい。
     ※
「ベスト・サウンドを求めて」で、こんなことを書かれている岩崎先生は、
真空管時代からトランジスターの初期の時代のマランツのモデルナンバーに、
#11と#17が欠けているのを、とても気にされていた、と沼田さんがレコパルに書いている。
#13も欠番なのだが、欧米では凶数だから、なくて当然だろう。

私が気になるのは、マークレビンソンのMLナンバーの欠番である。
レヴィンソンは、型番を順番通りにつけている。
LNP2にしても、その前に4台しかつくられなかったLNP1というモデルが存在しているし、
MLシリーズにしても、JC2からモデルチェンジしたML1からはじまり、ML2、ML3……とつづき、
ML12までラインナップされているが、ML4、ML8が欠番になっている??、
そう思い込んでいただけで、ML8は存在している。

ML8は、Brüel & Kjaerの測定用マイクロフォン・カプセル、4133/2619用につくられたプリアンプである。
ML5の資料に書いてあった。
日本ではあまり知られていないようだが、ML5は、
スチューダーのオープンリールテープレコーダーA80のエレクトロニクス部を、
マークレビンソンでつくりかえたもの。
このML5には、ML5Aという改良モデルがあったようで、これに搭載されているアンプが、L1カードである。
L1カードは、ML7のラインアンプでもある。とうぜん設計者は、トム・コランジェロ。

ただML5の設計者がコランジェロかどうかははっきりとしない。
ジョン・カールの可能性も捨てきれない。
ジョン・カールは、マークレビンソンのアンプを設計する以前は、アンペックスのエンジニアだった。
テープレコーダーの設計にも携わっていた。
だからジョン・カールがML5を設計し、ML5Aに採用されたL1はコランジェロということなのかもしれない。

ML4が存在していたのか、それともほんとうに欠番だったのかは、まだはっきりとしない。
日本が大きな市場だったマークレビンソンにとって、4は日本では嫌われているのを知っていて、避けたのか。
MLシリーズが12で終ってしまったのは、やはり13が凶数だからなのか。

この他にR1というモデルが存在していたこともわかった。
マランツ#10BやセクエラのModel1の設計者と知られるリチャード・セクエラによる
リボン型トゥイーターT1の、マークレビンソンによるモディファイ版である。

HQDシステムに採用されたデッカのリボン型トゥイーターは7kHzからの使用なのに対し、
磁気回路もリボン・ダイアフラムもひとまわり近く大きいT1(R1)は、5kHzから、となっている。

Date: 5月 25th, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson, 瀬川冬樹

930stとLNP2(その5・補足)

(その5)に書いた4343の組合せのトーンアームに、フィデリティ・リサーチのFR64がある。
これはFR64Sのほうではなく、アルミニウム製のFR64を選ばれている。
こちらを瀬川先生は高く評価されていた。

一般に評価の高いステンレス製のFR64Sについては、「私の試聴したものは多少カン高い傾向の音だった。
その後改良されて音のニュアンスが変っているという話を聞いたが、現時点(1977年)では64のほうを推す次第。」
とステレオサウンド 43号に書かれている。

もう1本のほう、オルトフォンのRMG309については、こう書かれている。
「SPU(GおよびA)タイプのカートリッジを、最もオルトフォンらしく鳴らしたければ、
やはりRMG309を第一に奨めたい。個人的には不必要に長いアームは嫌いなのだが、
プレーヤーボードをできるだけ堅固に、共振をおさえて組み上げれば、しっかりと根を張ったようなに安定な、
重量感と厚みのある渋い音質が満喫できる。こういう充実感のある音を、
国産のアームで聴くことができないのは何ともふしぎなことだ。」

この時期、オルトフォンのRMG212が再発売されている。
かなり以前に製造中止になっていたのだが、
瀬川先生が、1975年に来日したオルトフォンの担当者に要請したのが、再生産のきっかけである。

こうやって読んでいくと、瀬川先生がアナログプレーヤーに求められていたものが、
すこしずつはっきりしてくるような気がする。

Date: 5月 24th, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson

930stとLNP2(補足)

EMTとプロ用機器のメーカー、トーレンスはコンシューマー用機器のメーカー、
トーレンスのプレーヤー(TD125)をプロ用機器として仕上げたのがEMTの928であり、
トーレンス同様、コイルスプリングによるサスペンション機構を備えているし、
三相シンクロナスモーターを使用していところは、930stも928も同じだが、
928は発振器とアンプによる駆動方式を採用することで、電源周波数の50Hz、60Hzに関係なく使用できる。

ただストロボスコープに関しては、切替スイッチがついている。

930stと928は、アイドラーかベルトかという違い以上に、
細部を見ればみるほどコンセプトそのものの違いがわかってきておもしろい。

930stとトーレンスの101 Limitedにも、ちいさな違いがある。
すべてのロットがそうなっていたのかまでは不明だが、少なくとも私が使っていた、ごく初期のモノは、
出力端子の裏側に抵抗がハンダ付けしてある。
930stの回路図には、この抵抗は存在しない。

101 Limited (930st) の出力端子は、1a、1bが右チャンネルの+と−、4a、4bが左チャンネルの+と−で、
この抵抗は1aと1b、4aと4bを結ぶように取りつけられている。
出力に対し並列に入っているわけで、インピーダンス整合のためのものであることは、はっきりしている。

930stはプロ用機器でプロが使うモノとして、この抵抗は取りつけられていない。
930stが使われる現場では、必要のないものだし、使う人もインピーダンス整合のことは理解しているからだ。

その930stをコンシューマー機器として出すにあたっての、これは、トーレンスの配慮であろう。

101 Limitedが使われるであろう、一般家庭にあるコントロールアンプで
600Ω(もしくは200Ω)の入力をもつモノは、まず存在しないからだ。

トーレンス101 Limitedは、930stの色を塗り替えただけのモノではない。
たった抵抗2本のことにすぎないが、ここにメーカーの良心を感じる。

Date: 5月 23rd, 2009
Cate: 930st, EMT, JC2, LNP2, Mark Levinson

930stとLNP2(その12)

LNP2のフォノアンプには、このようなキメ細かい対応は用意されていない。
両機種のブロックダイアグラムやこれらのこと、
さらにLNP2は信号系のモジュールはすべて共通だが、
JC2はフォノアンプとラインアンプのモジュールは回路構成からして異ることなどを比較してはっきりしてくるのは、
JC2はアナログディスク再生に、LNP2はライン入力に主眼がおかれていることだ。

JC2の、この構成は、のちにディネッセンのJC80を生むことにつながっていく。
そしてJC2のもつ可能性が本領発揮となるには、ML6までの時間を必要とした。
JC2は未完の大器的色あいが濃い。

このことは別項「Mark Levinsonというブランドの特異性」で書く予定だが、
もう少し先、というかかなり先になりそう。

実は、この項は2回で終るつもりだったのが書いているうちに(その12)になってしまった。
ML6のことも書き始めると、かなり長くなりそうな気がする……。

Date: 5月 23rd, 2009
Cate: 930st, EMT, JC2, LNP2, Mark Levinson

930stとLNP2(その11)

LNP2のモジュールの数は通常で、VU駆動用のものを含めて8つ、オプションのパッファーを加えると10。
JC2とはいうと、フォノアンプ、ラインアンプのモジュールがそれぞれ2つずつ、
それにフォノアンプ・モジュール用の専用の電源モジュールの計5つ。
オプションとして、ヘッドアンプのJC1のモジュールタイプ(JC1SM)を、
フォノアンプ・モジュールの間に組み込めるようになっている。

フォノアンプ・モジュールはフロントパネル寄りにあり、モジュールとリアパネルのあいだに、
RIAAイコライザー用のカードが挿さっている。
コンデンサー、抵抗から構成されている。このカードが、フォノアンプのNFB素子となる。
このカードを交換することで、JC2のフォノアンプは、A3、D5、D6システムへとなる。
シリアルナンバー2148以前のJC2はどうなっていたかというと、ABCDEFの6つのシステムが用意されていた。
JC2のINSTRUCTION MANUAL には、こうある。

A System
Two UP-1A  cards are normally supplied with the JC-2 unless otherwise specified. This system accepts Input impedance: 47kOhms.
B System
The UP-1B system offers lower sensitivity but increased headroom for the highest output magnetic phono cartridges.
C System
This set provides exact equalization for the Brüel & Kjaer series of cartridge measurement records. Information on request.
D System
This system includes two UP-1D cards and a JC-1SM module. It offers DIRECT moving coil cartridge input.
E System
Provides equalization and DC current source for certain gauge cartridges. Information on request.
F System
Flat response amplification. Specify application and requirements.

Date: 5月 23rd, 2009
Cate: 930st, EMT, JC2, LNP2, Mark Levinson

930stとLNP2(その10)

レヴィンソンがスイスに渡ったときに、
トーレンスのベルトドライブ機をベースにしたEMTの928の存在を知ったのか、
それ以前に知っていたのか、どうかは判断しようがないが、
ほとんどなんの根拠もない推測(妄想にちかい)だが、928を使っていたのではないかと思えてくる。

927Dst、930stのイメージと若き日のレヴィンソン自身のイメージがうまく結びつかないのと、
928ならば、なんとなくレヴィンソンが使っていても不思議ではないという気がするというだけなのだが……。

もしそうだとしたら、JC2のREMOTE PHONOの説明がつく。
電源がPLS150への変更による強化、入出力端子がRCA端子からCAMAC規格のLEMO端子になったときに、
シリアルナンバー2148番からのJC2(日本での型番はJC2L)にはREMOTE PHONO端子はない。
かわりにPHONO入力が2系統に増えている。

さらに内部も変更が加えられ、フォノカードに、A3、D5、D6の3種類が用意されるようになった。
A3が、いわゆる通常のフォノ入力で、MM型カートリッジもしくは昇圧トランス、ヘッドアンプ用。
D5、D6はMC型カートリッジ用で、D5カードの説明には、
System D5 offers 54 and 60dB gain positions. 54dB is recommended as the optimum for the EMT cartridge. The gain setting will yield an incredible signal to noise ratio without overloading for EMT.
と記されている。

D5カードがゲインを54、60dBに切り換えられるように、A3カードも、30、40dBと切換え可能だ。
こちらの説明は次のとおり。
Certain high output moving coil cartridges such as the EMT, the Supex 901, the Satin, and the Ultimo, may be used in more efficient systems with the 40dB gain implemented.

少なくともEMTのカートリッジは使っていたのだろう。