Archive for category 日本のオーディオ

Date: 9月 30th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その5)

瀬川先生がステレオサウンド 52号「最新セパレートアンプの魅力をたずねて」で書かれている。
     *
 新型のプリアンプML6Lは、ことしの3月、レビンソンが発表のため来日した際、わたくしの家に持ってきて三日ほど借りて聴くことができたが、LNP2Lの最新型と比較してもなお、歴然と差の聴きとれるいっそう透明な音質に魅了された。ついさっき、LNP(初期の製品)を聴いてはじめてJBLの音が曇っていると感じたことを書いたが、このあいだまで比較の対象のなかったLNPの音の透明感さえ、ML6のあとで聴くと曇って聴こえるのだから、アンプの音というものはおそろしい。もうこれ以上透明な音などありえないのではないかと思っているのに、それ以上の音を聴いてみると、いままで信じていた音にまだ上のあることがわかる。それ以上の音を聴いてみてはじめて、いままで聴いていた音の性格がもうひとつよく理解できた気持になる。これがアンプの音のおもしろいところだと思う。
     *
52号は1979年に出ている。
私はまだ16だった。
オーディオをどれだけ聴いていたか──、わずかなものだった。

アンプとはそういうものなのか、アンプの音とはそういうものなのか、と思い読んでいた。
そして考えた。これがスピーカーだったら、アンプの音の透明度に相当するもの、
つまり「それ以上の音を聴いてみてはじめて、いままで聴いていた音の性格がもうひとつよく理解できた気持になる」音とは、
何なのかを考えていた。すぐには思いつかなかった。

そんなことを考えて半年、ステレオサウンド 54号が出た。
スピーカーシステムの特集だった。

黒田先生、菅野先生、瀬川先生が国内外の45機種のスピーカーシステムを聴かれている。
その中に黒田先生のエスプリ(ソニー)のAPM8の試聴記がある。
これを読み、これかもしれないと思った。
     *
化粧しない、素顔の美しさとでもいうべきか。どこにも無理がかかっていない。それに、このスピーカーの静けさは、いったいいかなる理由によるのか。純白のキャンバスに、必要充分な色がおかれていくといった感じで、音がきこえてくる。
     *
とはいえ、この時はいわば直感でそう感じただけだった。

Date: 9月 27th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その4)

ダイヤトーンが40周年記念モデルとして、1985年にDS10000を出してきた。
このころのダイヤトーンはDS5000、DS1000、DS2000といったスピーカーが主力であり、
これらをきちんとセッティングして鳴らした音は、オーディオマニアとして惹かれるところがあった。

とはいっても自分のモノとして買うかとなると、それはなかった。
それでもきちんとした状態で鳴るこれらのスピーカーの音には、
オーディオマニアとして挑発されるところがあった。

DS10000は型番からわかるようにDS1000をベースにした限定モデルである。
ウーファーは27cm口径、スコーカー、トゥイーターはハードドーム型。
エンクロージュアはピアノフィニッシュのブックシェルフ型だった。

こう書いていくと、今回のヤマハのNS5000も同じといえる構成である。
構成、外観が共通するところがあるにとどまらない。

昨日、NS5000の音を聴きながら、DS10000の音を初めて聴いた時のことを思い出していた。
DS10000を聴いた時の驚きを思い出していた。

NS5000にも、そういった驚きがあった。
同じといえる驚きの部分もあったし、そうでない驚きもあった。

Date: 9月 27th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その3)

24日のNS5000の発表された内容を読んでいて、
インターナショナルオーディオショウに行って音を聴きたい、と思うようになったのは、
まず型番がそうだった。

現在のヤマハのプリメインアンプとCDプレーヤーは、1000番、2000番、3000番の型番がつけられている。
NS5000はNS1000でも、NS2000でもNS3000でもなく、NS5000である。
NS1000とNS2000は既に使われている型番だとしても、なぜNS3000でないのか。

もしかするとNS3000という型番で開発は始まったのかもしれない。
それがなんらかの理由で、NS5000になったとしたら……、そんなことを考えていた。

そして価格をみると一本75万円(予価)とある。ペアで150万円。
ヤマハのCD-S3000、A-S3000の価格からしても高い価格設定である。
ということは、CD-S5000、A-S5000が今後登場してくるのかもしれない。
それだけではない、いまはプリメインアンプだけだが、セパレートアンプの復活もあるのではないか。

そんな勝手な期待をしていた。
これがインターナショナルオーディオショウに行こうと思った理由のひとつ。

もうひとつはNS5000の外観にある。
30Cm口径ウーファーに、ドーム型のスコーカーとトゥイーター、
エンクロージュアのサイズはいわゆる日本的なブックシェルフ。

エンクロージュアも写真を見る限りはラウンドバッフルではない。
ただの四角い箱に見える。
いくら仕上げがピアノフィニッシュであっても、
598のスピーカーと一見似たような内容で、十倍以上の価格をつけて出してくる。

あえて、このスタイルでヤマハは出してくるのか──、
これがふたつめの理由である。

もうひとつは昨年のショウ雑感にも書いているように、
ヤマハのプレゼンテーションは、なかなかよかった。
今年もいいプレゼンテーションであるだろうし、
昨年と同じということもないであろう。そういう期待も理由のひとつであった。

Date: 9月 27th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その2)

ヤマハのスピーカーシステムの型番には基本的にはNSとついている。
NSとはナチュラルサウンド(Natural Sound)の略である。

NS1000M、NS690、NS10M、NS500、NS8902などの製品があった。
これら以外にも数多くのヤマハのNSナンバーのスピーカーシステムは登場してきた。

1980年代に登場したヤマハのスピーカーの大半は、
ステレオサウンドで聴いている。
そうやって聴いてきて、
ヤマハが目指している・考えているナチュラルサウンドがどういう音なのか、
それがわかった・つかめたかというと、そんなことはなかった。

こちらの聴き方が悪いのかもしれない。
でも、それだけではなかったはずだ。

たとえばNS690IIとNS1000Mは、どちらも30cm口径のウーファーの3ウェイ、
スコーカーとトゥイーターはどちらもドーム型だが、NS690IIはソフトドームでNS1000Mはハードドーム型。
エンクロージュアの仕上げ、色もまったく違う。

それぞれのスピーカーから鳴ってくる音は、
他社製スピーカーとの比較においてはどちらもヤマハのスピーカーであることははっきりしているのだが、
NS690IIとNS1000Mとでは性格が同じスピーカーとはいえないところもあった。

ヤマハはどちらの音をナチュラルサウンドと呼ぶのか。
私にとって、このことはながいこと疑問だった。

今回NS5000を聴いて、
やっとヤマハの「ナチュラルサウンド」をはっきりと耳で聴きとれた、と実感できた。

Date: 9月 26th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その1)

25日からインターナショナルオーディオショウが始まった。
今回は仕事の関係で行けない(行かない)かもと思っていた。

けれど24日にヤマハからNS5000のリリースが発表になった。
これだけは聴いておきたいと思い、なんとか時間のやりくりで、26日の夕方の、二時間半ほど会場を廻っていた。

目的のヤマハのブースでは私が到着する少し前に試聴が始まっていた。
これまでならばそれでもブースに入れたものだけど、今回は無理だった。
となると本日の最後のデモ(18時から)を聴くしかない。
そのためにはヤマハのブースに最低でも15分前には入っておきたい。

つまり他のブースを廻る時間は一時間ちょっとになってしまう。
NS5000以外にも聴いておきたいモノはあった。
でも今回はNS5000を最優先とすることにした。

おかげでNS5000を約50分間聴けた。
予想をこえていた音が鳴っていた。
詳細は明日以降書いていくが、明日(27日)に行かれる方は、とにかくNS5000の音を聴いてほしいと思う。

NS5000からは「日本のオーディオ、これから」を聴き取ることができたからだ。

Date: 6月 24th, 2015
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(マクソニックの同軸型ユニット)

同軸型ユニットは古くから存在している。
けれどウーファーとトゥイーターのボイスコイルの位置を揃えたユニットとなると、
KEFのUni-Qの登場を待たなければならなかった──、
そうだとずっと思っていた。

同軸型ユニットにはメリットもあればデメリットもある。
トゥイーターにホーン型を採用した場合、メリットとデメリットが表裏一体となる。
構造上、どうしてもトゥイーターのダイアフラムは、ウーファーのコーン紙よりも奥まった位置にくる。

タンノイもアルテックもジェンセンもRCAも、
ホーン型とコーン型の同軸型ユニットいずれもそうだった。

この構造上のデメリットを排除するためにUREIは内蔵ネットワークに工夫をこらしている。
これも解決方法のひとつであるが、
スピーカーユニットを開発するエンジニアであれば、構造そのもので解決する方法を選ぶだろう。

いまごろ気づいたのか、遅すぎるという指摘を受けそうだが、
マクソニックの同軸型ユニット、DS405は、
トゥイーターがホーン型であるにもかかわらず、
ウーファーとトゥイーターのボイスコイル位置が揃っている。

DS405は1978年5月に登場している。KEFのUni-Qよりも約10年も早い。
なぜ、このことにいままで気づかなかったのだろうか、と自分でも不思議に思う。

DS405の広告はステレオサウンド 46号に載っている。
そこに《同位相を実現した同軸型超デュアルスピーカ。》とある。
構造図もある。

確かにウーファーとトゥイーターのボイスコイルの位置は揃っている。
この広告は見た記憶はある。
けれど、当時はよく理解していなかったわけだ。

DS405は割と長く販売されていたように記憶している。
いまは製造中止になっているが、マクソニックには同軸型ユニットがふたつラインナップされている。
そのうちのひとつ、DS701はDS405を受け継ぐモノで、同位相同軸型ユニットであることを謳っている。

それにしても……、と反省している。
見ていたにも関わらず気づいていなかった。
おそらく他にも気づいていなかったことはあるだろう。

それでも、まだ気づいているだけ、いいのかもしれない。
そして気づくことで、日本のオーディオが過小評価されていたことをあらためて感じている。

いまこそ、日本のオーディオを再検証すべきだと思う。

Date: 6月 4th, 2015
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(その4)

アメリカで1970年代におこったMC型カートリッジの再評価は、
半導体アンプの進歩により優秀なヘッドアンプの登場と、
日本製のMC型カートリッジがあってのことだといわれている。

そうであろう。
けれど日本製のMC型カートリッジが評価されたのは、
日本製のMM型カートリッジが輸出できなかったことも遠因のように考えられる。

日本には当時多くのMM型カートリッジがあった。
優秀なモノもあった。けれどこれらはすべて海外に輸出できなかったのは、
MM型カートリッジの特許をシュアーとエラックを取得していたからである。

日本では特許が認められなかった。
これには理由があって、日本では各社MM型カートリッジを開発・製造・販売することができた。

シュアー、エラックのMM型カートリッジの構造と、
日本製MM型カートリッジの構造には、ひとつ大きな違いがある。

つい先日ステレオサウンドから出た「MCカートリッジ徹底研究」。
このムック後半の「図説・MC型カートリッジ研究」におそらく載っているはずの図を見てほしい。

見開きで、右ページにMM型カートリッジの構造図、左ページにはMC型カートリッジの構造図、
それぞれレコードの溝をトレースしている。

MM型カートリッジの構造図ではカンチレバーがありその奥にマグネットがあり、
このマグネットの周囲にダンパーがある。
そしてこれらを囲むように、コイルが巻かれたヨークが四方に配置されている。

つまりヨークが形成しているのは四角形なのに対し、
マグネットの形状は円筒形である。
誰もがなぜマグネットを四角にしなかったのかと思うだろう。
事実、シュアー、エラックのマグネットは四角になっている。

円筒形のマグネットは日本のMM型カートリッジということになる。
これは推測すぎないのだが、おそらくマグネットの形も特許に関係しているのだろう。

MM型カートリッジの発電に関する基本特許は日本では認められなかったけれど、
細部に関する特許は認められていたのかもしれない。
少なくともなんらかの都合で、日本製のMM型カートリッジは円筒形にせざるをえなかったのではないのか。

Date: 5月 23rd, 2015
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(続ハンダ付け)

魚を焼く網へのハンダ付け。
山水電気だけでなく、他の国産メーカーもやっていたところはあるし、
やっていないとこもあっただろう。

この研修をやっていたメーカーの工場でハンダ付けを担当されていた人たちは、
このことは出来てあたりまえのハンダ付けの腕前であったわけだ。

当時の国産のオーディオ機器は、そういう人たちの腕前によって作られていた。
いまはどうなっているのたろうか、と思う。
いまも同じレベルのところもあるだろうし、
そうでないところもあると思う。

そして、想像でしかないのだが、後者のほうが増えて来つつあるのかもしれない。
それだけではない、海外はどうなのか、とも思ってしまう。

海外製品の中には、ひじょうに高価すぎるオーディオ機器がある。
それらは、国産メーカーのハンダ付けと少なくとも同等、もっと上のレベルなのだろうか。
ついそんなことを考えてしまう。

ハンダ付けは基本である。
だからこそ、たとえば往年の管球式アンプを修理もしくはメンテナンスに出す際には、
ハンダ付けの技術を確認するのもひとつの手だといえる。

多くの業者が、完璧なメンテナンスを行います、と謳っている。
オリジナルパーツを使います、とか、よりよいパーツと交換します、とか。
そんなことよりも大事なのは、メンテナンスを施す人のハンダ付けの技術である。

調子のいいことをいう業者はいる。
それだけではない、自分より上の技術を目にしたことがない人は、
自分のレベルが高いと思い込んでいることだってある。

そういう人に、大事に使ってきたオーディオ機器の修理をまかせても平気な人はいない。
そういう人を見抜くには、魚を焼く網にハンダ付けをしてもらうのもひとつの手である。
そして、ハンダ付けが終った網を硬いものに力いっぱい叩きつける。
ハンダがひとつも落ちなかったら、その人のハンダの技術はしっかりしたものといえる。
ボロボロ落ちるような人には、決して愛器の修理はまかせてはいけない。

Date: 5月 22nd, 2015
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ハンダ付け)

ずっと以前の話だ。
山水電気は新入社員の研修の一環として工場に行き、ハンダ付けをやらされる。
プリント基板にではなく、魚を焼くときに使う金属製の網をである。

網のワイヤーとワイヤーが交わっている箇所を、すべてハンダ付けしなければならない。
山水電気はオーディオ専業メーカーだから、
新入社員の多くはラジオ、アンプの自作の経験を持つ者も多い。
ハンダ付けにもみな自信を持っている。

すべての箇所がハンダ付けされた網を、
工場勤務の女性が手にとり、作業台の天板の角に網を叩き付ける。
するとハンダがボロボロと落ちていくそうだ。

工場勤務のハンダ付けのベテランの人たちによる網は、当然のことながらひとつも落ちない。

昔はそういう人たちの手によって、オーディオ機器が作られていた。
高価で信頼性の高い部品をどれだけ使おうと、
余裕のある動作をする設計しようと、
ハンダ付けの技術が未熟な手で作られてしまえば、どうなるか。

山水電気の新入社員たちは工場に勤務するわけでhなく、
開発や、営業、広報の仕事につくわけで、網にハンダ付けができてもできなくと、
工場から出来上がってくる製品の出来には直接関係ないわけだが、
だからといって、このハンダ付けの研修が無駄とは思わない。

Date: 5月 19th, 2015
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(NIRO Nakamichiの復活・その3)

NIROのデビュー作、NIRO 1000 Power Engineを、ステレオサウンドの記事で知ったときの衝撃は、
私にとってはナカミチのどんなカセットデッキの登場よりも大きかった。

よくこんなモノを作ったな、と写真を見て思っていた。
そして、この会社が長続きするのだろうか……、とも思っていた。

いまもNIROというブランドは残っている。
会社名はniro1.com(ニロウワンドットコム)で、社長はもう中道仁郎氏ではない。
なぜかNIRO 1000シリーズのページは残ったままになっている。

中道仁郎氏がいつNIROから離れられたのか正確には知らない。
そして2013年、NIRO Nakamichiを興されたことは、なにかのニュースで知っていた。
けれど新製品として発表されたのは、カセットデッキでもなく、NIRO時代のようなアンプでもなく、
カーオーディオだった。

自身の名前をブランドとする例は、日本にも外国にもいくつもある。
オーディオだけでなくさまざまな業種にある。
けれどたいていは苗字だけである。
フルネームを会社名、ブランド名にするのは、そう多くない。

マーク・レヴィンソンがMark Levinsonとしたのが、オーディオでは最初だろう。
NIROのあとにNIRO Nakamichi。
フルネームの会社名でありブランド名である。

これが最後であるという覚悟なのだろう、と私は受けとめている。
だから最初の製品がカーオーディオで少しがっかりしていた。
そして、いつの間にかNIRO Nakamichiのことは忘れてしまっていた。

そこに今回のスピーカーシステムの発表である。

Date: 5月 16th, 2015
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(オーディオと黒・その1)

岩崎先生の「私のサンスイ観」を読んでいて、サンスイのプリメインアンプAU111から、
アンプのブラックパネルが始まっている可能性に気づいた。
     *
 三題ばなしのテーマではないけれど、どうも「サンスイ」というと「トランス」「黒(ブラック)パネルのアンプ」というイメージが、オーディオ・ファンの脳裏に浮かぶ。それから続いて連鎖反応的に出てくるのが、米国のマッキントッシュの名だ。
 同じように黒いパネルの、重厚きわまりないアンプは一流中の一流ブランドとして知られ、個性的な風格は世界中のオーディオ製品中にあっても、もっとも強烈なるオリジナリティをもって受け止められているはずだ。このマッキントッシュの前にあってはさすがにサンスイの名もかすみそうに誰しもが感じるだろう。
 ところがである。なんと「黒(ブラック)パネル」はサンスイ・ブランドの方が早いのだ! アンプにおける個性的なブラックパネルは、サンスイのAU111において一九六五年に日本市場に製品として出た。
 マッキントッシュは上半分が黒、下半分がゴールドのパネルのC24に変え、一九六八年になって初めて真黒なパネルのC26が米国でデビューするから、先がけること3年である。マッキントッシュはモノーラル時代はゴールドパネルであった。
     *
AU111は1965年8月発売である。
同じ年の3月にJBLと総代理店契約を結び、輸入を開始している。

JBLのプリメインアンプSA600もこの年に登場している。
このSA600のパワーアップヴァージョンのSA660は、1968年の登場。
ここでフロントパネルがブラックに変更される。
マッキントッシュのC26とほぼ同時期である。

記憶をたどってもAU111以前にブラックパネルのアンプがあったとは思い出せない。
日本だけではない、アメリカのアンプでもC26、SA660以前に、
何かあっただろうかと思い出そうとしているが思い浮ばない。

AU111が、ブラックパネルの元祖だと謳っていたことは知っていた。
でも日本においてのことだと、勝手に思い込んでいた。

AU111以前にアメリカ、ヨーロッパでブラックパネルのアンプは存在していたのだろうか。

Date: 5月 13th, 2015
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(NIRO Nakamichiの復活・その2)

Nakamichi(ナカミチ)といえば、テープデッキである。
それもカセットデッキである(オープンリールデッキもフィデラ・ブランドで出していた)。

カセットテープにそれほど関心があったわけではない私にとって、
ナカミチという存在は、積極的にカセットデッキを開発しているメーカーという印象に留まり、
個人的にナカミチというブランドに思い入れがあったわけではない。

ナカミチもカセットデッキだけでなく、ターンテーブルの開発も行った。
TX1000というターンテーブルである。
いまでも中古市場では人気があるらしい。

技術的には意欲的なところをもつターンテーブルではあった。
TX1000はステレオサウンドの試聴室で聴いている。
レコードの偏芯による音の変化も確認している。
たしかに、その音の効果は耳で確認できる。

とはいえTX1000が素晴らしいターンテーブルだと思っていないので、
中古市場での高値を見ていると、不思議な感じがしてくる。

そしてナカミチはB&Wの輸入元でもあった(その前はラックスと今井商事だった)。
同時期にスレッショルドと技術提携してステイシス回路搭載のパワーアンプ、
ペアとなるコントロールアンプも出してきた。

これ以前にも、傾斜したフロントパネルをもつセパレートアンプを出していたけれど、
やはりナカミチといえばカセットデッキのメーカーという印象が強すぎていた。

1980年代にはいり、ナカミチは総合オーディオメーカーを目指しはじめていたのかもしれない。
結果的にうまくいかなかった、といえよう。
カセットデッキ専門メーカーというイメージが強すぎたためなのか。
とにかくナカミチは香港のファンドに買収されてしまった。

そしてNIROが、中道仁郎氏によって1998年に設立された。

Date: 5月 12th, 2015
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(NIRO Nakamichiの復活・その1)

先ほどfacebookを見て知ったばかり、
NIRO NakamichiがHE1000というスピーカーシステムを発表している。
まだNIRO Nakamichiのウェブサイトはあることにはあるが今日現在何も公開されておらず、
岡山のオーディオ店AC2のサイトでの公開である。

Nakamichiブランドでもない、NIROブランドでもない、
NIRO Nakamichiブランドである。

Date: 4月 22nd, 2015
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(その3)

ステレオサウンドを読みはじめたころは、記事だけでなく広告も丹念に読んでいた。
すべての広告がそうだったとはいわないけれど、少なからぬ広告には記事的な要素もあったように感じていた。
だから記事も広告もじっくり読んでいた。

なので広告のこともけっこういまでも記憶している。
そんな広告の中で、不思議と目に留ったのがスペックスだった。
MC型カートリッジSD909の広告で、毎号広告の内容は変っていっても、必ず共通するコピーがあった。

このころのステレオサウンドを読んでいた人ならば、
あぁ、あれね、とすぐに思い出されるだろう。
スペックスのSD909の広告には、必ず「日産21個」とあった。

SD909は当時30000円のカートリッジだった。
日産21個ということは、63万円になる。
カートリッジの製造原価がどの程度なのか当時は中学生だったからまったく知らなかった。

正直、日産21個が、MC型カートリッジの生産量として多いのか少ないのかはわからなかった。
けれど、こうやって毎号広告に出しているくらいだから、それは少ない数なのだろう、ということは察しがつく。

それにスペックスの会社の規模についても、ほとんど知らなかった。
規模の大きい会社ならば21個は非常に少ないことになるけれど、
規模が小さい会社ならばそれほどでもなくなる。

1975年発行のステレオサウンド別冊HI-FI STEREO GUIDEによれば、スペックスのカートリッジは六機種。
MM型のSM100MKII、MC型のSD801 EXCEL、SD900SP、SD700 TYPEII/E、SD901、SD900。
まだ、日産21個のSD909は登場していない。

SD909登場のころは、SM100MKIIとSD900SPだけが残っている。
SD909以外のカートリッジの生産量は広告で謳っていないことからも、
やはり日産21個は少ない数といっていいだろう。

Date: 4月 18th, 2015
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(その2)

私がオーディオに関心・興味をもちはじめた1976年は、すでにMC型カートリッジのブームのはじまりだった。
オルトフォンからはSPUに代るモノとして成功したといえるMC20が登場していた。

けれどそれ以前のMC型カートリッジはどんなモノがあったのかというと、
オルトフォンでは、この会社の代名詞といえるSPUの他は、
決して成功とはいえなかったSLシリーズがあったくらい。

瀬川先生がいわれたことがあった。
いまのMC型カートリッジのブームは、日本ではMC型が作られ続いていたことが大きい、と。
いわれてみると、たしかにそうである。

有名なデンオンのDL103シリーズの他に、
フィデリティ・リサーチのFR1、スペックスのカートリッジ、サテンの独特な発電構造によるカートリッジ、
ダイナベクターもあったし、武蔵野音響研究所の光悦もあった。

もしこれらの日本のMC型カートリッジが存在していなかったら、
MC型カートリッジのブームは起らなかったであろう。

MC型カートリッジのブームは、日本だけの現象ではなかった、ともきいている。
むしろ海外において日本のMC型カートリッジが見直されて起ってきた、という話もある。

MC型カートリッジのブームについて話された時に、
瀬川先生はこんな話もされた。

カートリッジの製造原価はそんなに高くはない。
なのにMM型よりもMC型は高価になってしまうのは、おもに人件費がかかるから。
MM型と違い、MC型カートリッジはほとんど手づくりゆえに、つくれる人が限られるし、
製造できる個数も少なくなる──、そんな内容だった。

手先が器用だとはいわれる日本人にとって、MC型カートリッジは向いていた、
そういってもいいかもしれない。

とにかくMC型カートリッジは日本のメーカーによって続いてきたことは事実である。