Archive for category JBL

Date: 1月 8th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その11)

自作スピーカーのごく一部の例外を除けば、そして既製のスピーカーシステムは、
ウーファーの能率がいちばん低く、それより上の帯域を受け持つユニット、
トゥイーター、スコーカーのレベルを絞り、能率を合わせている。

言いかえれば、能率の基準はウーファーにあり、
レベルコントロールの調整の基準もウーファーにある、ということだ。

つまり、いちばん低い能率のウーファーのレベルは、当然だが固定されているわけだ。
スピーカーシステムのレベル調整において、この当然すぎることを意識することは、あまりないのかもしれない。

これが、4350には、あてはまらない。
瀬川先生は、ステレオサウンドの43号に、
「使い手がよほど巧みなコントロールを加えないかぎり、
4350Aは、わめき、鳴きさけび、手のつけられないじゃじゃ馬にもなる」と書かれている。

4350のもつ、この性格は、レベルコントロール調整時の意識のなかにも潜んでいる、といえないだろうか。

Date: 1月 5th, 2010
Cate: 4343, JBL
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4343における52μFの存在(その10)

4ウェイの4341、4343、4344、4345のレベルコントロールは3つ。
3ウェイの4333は2つ、2ウェイの4320、4331は1つ。

当然のことだが、低域(ウーファー)以外のすべての帯域に、
それぞれレベルコントロールがあり、ウーファーを基準に、それぞれのユニットのレベルは変えられる。

4355はバイアンプ駆動だから、低域とそれより上の3つの帯域については、
チャンネルデバイダーのレベルセットでコントロールできる。
そのうえで、ミッドハイとトゥイーターは、4355のレベルコントロールを使えば、
それぞれのユニットのレベルは変えられる。

4350のレベルコントロールはトゥイーターの2405用であって、
つまりチャンネルデバイダーでレベルコントロールしようと、
ミッドバスとミッドハイのふたつのレベルは固定されている。

2202Aと2440の組合せによる2ウェイ・スピーカーが4350の中心にあり、
この2ウェイに関しては、ユーザーはいっさい触れられない設計になっている。
いじることが許されているのは、ウーファーとトゥイーターの、この2ウェイに対する相対的なレベルである。

Date: 1月 5th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その9)

4350と4355の違いは、ネットワークの回路図を見なくても外観からでもわかることだが、
改めて回路図を比較していて、決定的な違いを思い出した。

4350は、ウーファーが2230(4350Aは2231A)、ミッドバスは2202A、
ミッドハイが2440とホーン2311と音響レンズ2308の組合せ、トゥイーターが2405。バスレフポートは6つ。

4355は、ウーファーが2235H、ミッドバスが2202H、ミッドハイは2241と2311+2308の組合せ、
トゥイーターは2405で、バスレフポートは2つ。

ユニットそのものに大きな変更はない。
外観上の変更で目につくのはバスレフポートの数の違いだが、
それにひっそりと隠れているのが、レベルコントロールの数の違いである。
4350は1つ、4355は2つ。
数の違いとしては「1」だから、それほど大きな違いとは受けとれないかもしれないが、
4350、4355ともにバイアンプ駆動であるから、大きな違いである。

Date: 1月 4th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その8)

以前書いているが、4343を設計したのは、パット・エヴァリッジ。
彼は、4350、4341(4340)も手がけていることは判っているが、4343以降はJBLを離れてしまったようだ。

4343のネットワーク3143、4350用の3107、4341用の3141
4341のバイアンプ駆動モデル4340用の3140を比較してもらいたい。

まず気がつくのは、3143と3141は、ほとんど同じものだということである。
違いは、4343は切替スイッチにより、ネットワーク駆動とバイアンプ駆動が可能になっている。
そのためのスイッチが加えられたのが4343用の3143で、回路構成、部品の定数は、3143と3141は同一である。
もっとも4341と4343は使用ユニットも共通しているため、ネットワークが同じでも不思議はない。

バイアンプ駆動が前提の4350と4340のネットワークを比較すると、あることに気がつく。
そのことは、4350と4355との、あまり話題になることはないのが不思議だが、
決定的な違いともいえることがらだ。

Date: 1月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その7)

部屋の広さ、最大音圧レベルが特定される条件では、ホーン型でも6dB/oct.での使用は、
十分ありだと、個人的に考えているが、
使用条件が千差万別で、どういう使われ方をされるのかわからない、市販品をつくる側にたてば、
やはりホーン型スピーカーには、6dB/oct.のネットワークは採用しない。

エド・メイが4320のネットワーク3110において、やっていることは至極当然のこと。
彼の凄さは、同時期の4310において、まったく正反対ともいえる、
これ以上部品点数を削ることのできないネットワークを設計し、
4320も4310も、要求通りのものをつくりあげていることである。
この発想の柔軟さは、見事である。

さらに4310のネットワークをつくることもできれば、
マランツに移ってからは、ネットワークによる位相補正まで行なっている。

ひとつの手法に固執することなく、目的・要求に応じて、最適と判断される手法を使い分けてこそ、
オーディオエンジニアリングのあるべき姿といえよう。

Date: 1月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その6)

4333を、4310(4311)のようなコンデンサーだけによるローカットフィルターによるネットワークで鳴らす場合、
もしくはコイルを使ったハイカットフィルターも使い、いわゆる通常の6dB/oct.のネットワークにしたとする。

ゆるやか減衰特性で、クロスオーバー周波数が同じあれば、トゥイーター(ドライバー)には、
かなり下の帯域まで、そこそこなレベルで入力されることになる。
こう書いていくと、すぐにでも破損しそうで、音量もかなり小さめになると想像されるだろう。

JBLのホーン型ユニットを使ったスタジオモニターを6dB/oct.のネットワークなり、
チャンネルデバイダーを用いて鳴らしたとして、どこまでの音量までいえるのか。

もう20年近く前の話になるが、早瀬さんは、4355を鳴らされていた時に、
パッシヴのチャンネルデバイダー(もちろん6dB/oct.)で、4ウェイのマルチアンプドライブを試みられている。

かなり広いリスニングルームにおいて、4355は不足ない音量まで再生できていたようだ
爆音というレベルでの再生はおそらく無理だったろうが、その感触からすると、
10畳程度の広さの空間ならば、4ウェイでなくとも、4333でも、意外と6dB/oct.でいけるのかもしれない。

6dB/oct.のネットワークとは直接関係のない話だが、ウェストレイクのスピーカーシステムで、
JBLの2420をホーンなしで、トゥイーターとして使われていた例もある。
意外と丈夫なのかもしれないが、それでも4333や4343で6dB/oct.で鳴らされるのあれば、
注意は、12dBや18dBのネットワークとは違い、それなりに必要になってくる。

Date: 1月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その5)

同じ時期に、同じ人間が設計したふたつのネットワーク(4310用と4320用の3110)の違いは、
そのまま4311と4320の使用目的の違いでもある。

4310は、アルテック604の音のキャラクターを模倣しようとしたものに対し、
4320は、604ユニットを搭載した612システムにとってかわろう、
とJBLが開発した本格的なモニタースピーカーである。
当然中高域にはホーン型を採用している。
すべてコーン型の4310とはユニットの規模が、ウーファーのサイズをはじめ、投入されている物量が大きく異る。
システムとしての規模も、そうだ。

そして想定されるモニタリング時の音量も違いもある。

4320、受け継いだ4331、その3ウェイ仕様の4333のネットワークが、もし6dB/oct.仕様であったとすれば、
ドライバーユニットの破損が、録音スタジオの現場では相次ぐことは容易に想像できる。

いうまでもないことだが、コンプレッションドライバー型ではホーンロードがかからなくなった帯域では、
わずかの過大入力でもダイアフラム破損につながる。
コーン型ユニットのように受持ち帯域もさほど広くはない。

しかも4300シリーズでつかわれているホーンは、それほど大型のものではない。

Date: 1月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その4)

3110は、ウーファー、トゥイーターともにスロープ特性は12dB/oct.である。
ウーファー側の信号系路には、コイルとコンデンサーが、それぞれ直列と並列にはいり、
そのあとに、10Ωの抵抗と13.5μFのコンデンサーを直列接続したものを、ウーファーに対して並列にいれている。

ホーン側の信号系路には、タップ付きのインダクター(コイル)が使われている。
BBCモニター系のネットワークにもよく使われる手法である。

高域側にホーン型を採用した場合、一般的にウーファーよりも能率が高く、
固定抵抗および連続可変抵抗を入れて、能率の合わせるわけだが、これでは損失が出て、
抵抗器からの発熱もある。

コイルの途中からいくつかのタップをもうける、この手法は、
マッキントッシュのトランジスターパワーアンプの出力に設けられているオートフォーマーと同じで、
電圧の低下だけを行ない、電流の損失はほとんどない、といわれているものだ。

各ユニットの能率合わせには好適な手法であるのだが、ひとつのタップならまだしも、
複数のタップとなると製造過程が大変となるため、
JBLのスタジオモニターでも、必ずしも採用されているわけではない。

Date: 1月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その3)

意外とうまく鳴ってくれるかもしれない。ただし音量の制約がつく。
4311は、ウーファー、スコーカー、トゥイーターすべてコーン型ユニットを採用している。
4311の前身4310は、1971年に登場している。
正確に、1968年には登場しており、4310の型番を与えられたのが、3年後である。
開発エンジニアは、のちにマランツに移り、900シリーズのスピーカー設計を主導したエド・メイである。

ステレオサウンド刊行の「JBL 60th Anniversary」によると、
4310は、当時スタジオモニターとして最も多く使われていた
「アルテックの604の音のキャラクターを、小さなサイズで模倣しよう」というものであったらしい。

同時期、エド・メイは4320のネットワークも手がけている。
4320に搭載されたネットワークの型番は3110。回路図はJBLのサイトから入手できる。
4310のネットワークの回路図は不明だが、4311、その後継機の4312の回路図から推測するに、
コンデンサーによるローカットのみ、であろう。

Date: 1月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その2)

4311のネットワーク3111の回路図には、コイルの存在がない。
ウーファーへの配線には、ネットワーク構成部品はなにもない。アンプからの信号はそのまま送り込まれる。
スコーカーとトゥイーターに、ローカット用のコンデンサーがそれぞれにひとつずつはいっているだけで、
あとはレベルコントロールが、やはりそれぞれにひとつずつ記載されているだけ。

部品点数は4つである。
同じJBLの3ウェイでも、4333となると、構成部品は多くなり、スロープ特性も違う。

4311はハイカットはユニットの特性をコントロールすることで行ない、
ローカットのみコンデンサーによる6dB/octのカットとなっている。
3ウェイである以上、4311よりも部品点数を減らすことは、スコーカーとトゥイーターの能率を、
ウーファーはまったく同じに設計すれば、レベルコントロールが省けるぐらいで、無理である。

では4333を4311のようなネットワークで鳴らすことはできないのか。

Date: 1月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL
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4343における52μFの存在(その1)

JBLの古い製品の技術的資料は、JBLのサイトから入手できる。
すべてではないが、知りたいものの多くは公開されているし、JBLが買収したUREIの資料も、ここにある。

4300シリーズのネットワークの回路図も、上記サイトにある。
4343、4333、4341、4355、4345などの他にも、オリンパスのネットワークの回路図も、
SG520、SE400S、SE408S、SA600、SA660のマニュアルもある。

JBLプロフェッショナル・シリーズのネットワーク、3100シリーズは、下2桁の型番によって、
どのスピーカーシステムに採用されたものかが区別される。
4343用は3143、4355用は3150、4345用は3145というふうに、である。
ただしすべてのネットワークの型番が、システムの下2桁と一致しているわけではない。
4350用は3107で、4301用は3103で、それ以外のネットワークについて簡単に説明すると、
3106はクロスオーバー周波数、 8kHzで、16Ω仕様、
3110Aは、 800Hzのクロスオーバー周波数で、ウーファーは8Ω、トゥイーターは16Ω仕様、
3115Aは、500Hzで、ウーファー・8Ω、トゥイーター・16Ω仕様、
3120Aは、 1250Hzで、ウーファー・8Ω、トゥイーター・16Ω仕様、などである。
3135は、バイラジアルホーンを搭載した4435用だ。
シングルウーファーの4430用も初期のモデルは3135で、のちに61449Pに変更されている。

リストには、3111がある。
型番からわかるように、3ウェイのブックシェルフ型スタジオモニター4311用のネットワークだが、
クリックすると、3110の回路図が表示される。
3110のところをクリックすると、3110が表示されるから、リンクミスだが、
3111はブラウザーに表示されるURLの「3110」を「3111」に変えればダウンロードできる。

Date: 10月 12th, 2009
Cate: 4343

4343とB310(その1)

B310は、井上先生がメインスピーカーとして愛用されてきたボザークのフロアー型システムで、
30cm口径のウーファーを4発、スコーカーは16cm口径を2発、
トゥイーターは、2個1組のものが4発使われており、すべてコーン型ユニットである。

いまもボザークは存在しているが、1981年だったか、一度倒産している。
そんなこともあって、スピーカーの開発・製造は行なっていない。

ユニット構成の特徴からも判断できるように、東海岸のスピーカーメーカーであり、
最高のスピーカーユニットは、それぞれ1種類のみというポリシーで、
20cm口径のフルレンジユニット、B800、30cm口径ウーファーのB199、16cm口径のスコーカーのB209A、
5cm口径トゥイーターのB200Yの4種類のユニットだけを製造し、
これらの組合せを用途に応じて変え、スピーカーシステムを構築している。
ただし普及機は違う。

ウーファー以外は、ゴム系の制動材を両面に塗布したメタルコーン、
ウーファーは、羊毛を混入したパルプコーンで、どちらも振動板の固有音をできるだけ抑えている。

Date: 7月 12th, 2009
Cate: BBCモニター, JBL, Studio Monitor

BBCモニター考(その15)

JBLの4343もモニタースピーカーだし、ロジャースのLS3/5AもLS5/8も、やはりモニタースピーカーである。

モニタースピーカーとはいったいどういう性格の、性能のスピーカーのことをいうのだろうか。
コンシューマー用スピーカーとの本質的な違いは、あきらかなものとして存在するのであろうか。

たとえばヤマハのNS1000Mの型番末尾の「M」はMonitorの頭文字である。
だからといって、NS1000Mが、モニタースピーカーとして企画され、開発製造されていたとは思わない。
あきらかにコンシューマー用スピーカーなのだが、1970年代、スウェーデンの国営放送局が、
このスピーカーをモニタースピーカーとして正式に採用している。
そうなると、単なる型番の名称ではなく、「モニタースピーカー」と堂々と名乗れる。

QUADのESLも、純然たる家庭用スピーカーの代表機種にもかかわらず、
レコーディングのスタジオモニターとして採用されていたこともある。

スタジオモニターといえば、大きな音での再生がまず絶対条件のように思われている方もおられるかもしれないが、
モニタリング時の音量は、アメリカ、日本にくらべるとイギリス、ドイツなどは、かなり低めの音量で、
一般家庭で聴かれているような音量とほとんど変らないという。

だから、ESLでも、多少の制約は、おそらくあっただろうが、
もしくはESLで、なんら制約も感じないほどの音量がイギリスでのモニタリング時の一般的な音量なのだろう。
とにかくESLは、十分モニターとしての役割を果していた。

Date: 6月 17th, 2009
Cate: 4345, JBL, 瀬川冬樹

4345につながれていたのは(その2)

the Review (in the past) のための、この記事の入力をしながら思っていたのは、
この4343の組合せは、瀬川先生が目黒のマンションで、4345を鳴らされていた組合せと基本的に同じだということ。
その1に書いたように、4345を、アンプはアキュフェーズのC240とM100のペア、
アナログプレーヤーは、エクスクルーシヴP3。
4343にエレガントな雰囲気をもたせるための組合せが、そのままスケールアップして、
スピーカーもアンプも、それぞれのブランドの最新のモノになっている。

ステレオサウンドの50号台の後半あたから、瀬川先生の文章の中に、
「聴き惚れていた」ということばが、それまでよりも頻繁に出てくるような感じをもっている。

たとえばステレオサウンド 56号のトーレンス・リファレンスロジャースのPM510の記事。
それぞれに「ただぼかんと聴き惚れていた」「ぼんやり聴きふけってしまった」とるある。

手もとにはないからはっきりとは書けないが、アキュフェーズのM100の記事のなかにも、
同じことを書かれていたはずだ。

Date: 5月 31st, 2009
Cate: BBCモニター, D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

BBCモニター考(その8)

そういえば瀬川先生が、ステレオサウンド 56号に書かれていたことを思い出す。

JBLのパラゴンのトゥイーター(075)・レベルについて
「最適ポイントは決して1箇所だけではない。指定の(12時の)位置より、少し上げたあたり、少なくとも2箇所に、それぞれ、いずれともきめかねるポイントがある。そして、その位置はおそろしくデリケート、かつクリティカルだ。つまみを指で静かに廻してみると、巻線抵抗の線の一本一本を、スライダーが摺動してゆくのが、手ごたえでわかる。最適ポイント近くでは、その一本を越えたのではもうやりすぎで、巻線と巻線の中間にスライダーが跨った形のところが良かったりする。まあ、体験してみなくては信じられない話かもしれないが。」
という記述だ。

パラゴンと4344というシステムの違いはあるが、巻線抵抗のレベルコントロールは共通している。
その微妙さ(ときには不安定さ)も共通しているといえよう。

さきほどまでの、いい感じで鳴ってくれた音と、もう少しと欲張り、先に戻せなかった音の、
レベルコントロールの位置の差は、
まさに「巻線と巻線の中間にスライダーが跨った」かどうかの違いだったのかもしれない。

そうやって微妙な調整を経て、音はピントが合ってくるもの。
だから、巻線抵抗のレベルコントロールに文句を言っているように感じられるだろうが、
否定しているわけではない。

BBC モニター系列のスピーカーにレベルコントロールがついている機種は、あまりない。
ついていても連続可変ではなく、タップ切替による段階的なものである。