4350の組合せ(その15)
(その2)で触れている菅野先生の組合せは、
「コンポーネントステレオの世界 ’78」でのものである。
ここでは架空の読者から手紙を受けての組合せであり、
菅野先生の4350の組合せは、
菅野先生録音のオーディオ・ラボのレコードを、
制作者の意図したイメージで聴きたい、というものだった。
そういうこともあって、菅野先生としては、予算はある程度無視しての、
1977年時点での「私なりの理想像をえがいてみる」組合せとなっている。
JBLの4350Aを選択された大きな理由として、
《私自身のレコードの楽しみ方として、きわめてハイ・レベルで聴くという姿勢》があり、
《私自身が制作・録音したジャズのレコードは、実際よりも大きな音量で楽しんで》いるから、
そのためのJBLであり、そのためのJBLのラインナップで最大の4350である。
「コンポーネントステレオの世界 ’78」での菅野先生の4350の組合せは、
記事としては、12ページであり、4350の組合せだけでなく、
予算を考慮した組合せもあっての12ページなのだが、
それでも菅野先生の録音を再生するにあたって、何を大事にすべきなのかが、
きちんと書いてある。
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菅野 再生装置というものは、いかなる場合であってもいまあなたがおっしゃった物理的な追求が、音のレベルアップと同時に破壊にもつながっていくことになりうる、そうぼくは思います。だから、このシステムはその心配はないといいきるわけにはいきません。この部屋、つまりステレオサウンド試聴室は、素直な音響特性をもったいい部屋だけど、ここでも簡単にきまるというわけではない。結局、自分自身で、そこから先のことは努力なさっていただくよりしかたがない、としか申し上げられないんですね。そしてそれが、マルチ・チャンネルの、さらにいえばオーディオというものの楽しさであり魅力であると、ぼくは思います。
少し具体的にいうと、『サイド・バイ・サイド』で使われているベーゼンドルファーというピアノの音は、フェルトハンマーで打弦されたまろやかな音が基調にあり、そのうえに打鍵によって生じる打楽器的な鋭い立ち上りととげのようなハーモニックスがブレンドされたものです。いろいろな再生装置で試聴してみると、しばしばそのどちらかしか聴こえてこないことが多い。つまり、まろやかさだけか鋭いだけか、ということですね。だからぼくが『サイド・バイ・サイド』を使って、再生装置を聴くとき、いちばん注意して聴いているのはそのバランスなんです。そしてそういったニュアンスを出すのには、やはり相当な物理特性が確保されていないと無理なのではないかと思っています。
たとえばベルリン・フィルとかウィーン・フィルが演奏しているレコードは、割合に小型のスピーカーで、しかも小さな音量で結構楽しめるんですよ。ところがそういった形でこのレコードを聴くと、全く楽しめない。このレコードは、やはりひじょうにハイレベルのリアリティをもった大きな音量で、そして優秀な物理特性の裏づけをもった再生音で聴かないと、十分に楽しんでいただけないとぼくは思います。したがって、いまここに選んだようなシステムにならざるをえないんですね。
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別項で以前書いているが、オーディオショウで、
菅野先生録音の「ザ・ダイアログ」をかけているブースがあった。一つではない。
そのどちらも常識的な音量よりも、少し小さな音量での「ザ・ダイアログ」だった。