終のスピーカー(その16)
終のスピーカーとは、
自分自身を進化ではなく、己を純化させてくれるモノなのだろう。
終のスピーカーとは、
自分自身を進化ではなく、己を純化させてくれるモノなのだろう。
エラックの4PI PLUS.2は現行製品だと思っていた。
別項「終のスピーカーがやって来る」で書いているように、
昨年10月下旬に、ジャーマン・フィジックスのTroubadour 40ともに、
4PI PLUS.2もやって来ることになった。
その時点で、4PI PLUS.2の価格を調べようとしたところ、
エラックの輸入元のユキムのサイトでは、調べられなかった。
製造中止となっているわけではないが、
もしかしてそうなってしまったのか? と思い、エラック(ELAC)のサイトを見ると、
4PI PLUS.2のページはなかった。
ほんとうに製造中止なのか。
それがはっきりしないまま年が明けて、つい先日、
4PI PLUS.2の販売再開のニュースがあった。
製造(販売)が休止されていたのか。
それとも製造中止になっていたのが、復活したのか。
そのへんの事情はわからないけれど、とにかく現行製品として入手できる。
ステレオサウンド 51号掲載の「オーディオ巡礼」で、
五味先生はH(原田勲)氏のリスニングルームを訪問されている。
*
H氏は、じつはまだ音が不満で、何故なら古い録音のレコードなら良いのだが、多チャンネルで収録した最新録音盤では、高域の輝きに欠けるし、測定データをとってみてもクリプッシュホーンは340ヘルツあたりで10デシベルちかく落ちこんでいる。このためチェロが玲瓏たる音をきかせてくれないので、高域にはリボン・トゥイーターを加え、340ヘルツあたりも何とか工夫したいと言う。このオーディオの道ばかりは際限のない、どうかするとドロ沼におち込む世界だ、それは私も知っているが、特性を追いすぎるとシンセサイザーになるのを危惧して、夫人に「いじらせないように」と言ったわけである。もっとも、私を送ってくれる車中で彼はこう言った。「どれほど優秀なシステムでも、今は、オリジナルにどこかユーザーが手を加えねば、マルチ・チャンネル方式で録音される現在のオーディオサウンドを十全には再生できない。どこにどう手を加えるかがリスナーの勝負どころだろうと思うんです。オリジナルをいじるというのは邪道かもしれないし、本当はたいへんむつかしいことでしょう、しかしうまくそれがなし得たとき、はじめて、その装置は自分のものになったといえるんじゃないですか」そうかも知れない、私もそれは感じていることだが、まあそういうものが完成したら又きかせてもらいましょう、と言った。内心では、家庭で音楽を鑑賞するためのオーディオなら、今の音で十分ではないか、とやっぱり思っていた。
*
《高域にはリボン・トゥイーターを加え》とある。
どこのリボン・トゥイーターなのかは書かれていないが、
私は、ピラミッドのT1だと思っている。
このころのリボン型トゥイーターは、パイオニア、デッカ、ピラミッドぐらいしかなかった。
だとしたら、ピラミッドのはずだ。
H氏の、このころのスピーカーはヴァイタヴォックスのCN191である。
ヴァイタヴォックスのスピーカーは、終のスピーカーを手に入れたいまでも、
いつかは自分の手で鳴らしてみたい、と思い続けている。
現実には置き場所もないし、復刻されたヴァイタヴォックスはそうとうに高価だし、
導入できるだけの経済的余裕はないけれど、
それでもいつかは、一度は──、というおもいは持ち続けている。
もしヴァイタヴォックスを鳴らせる日がおとずれたら、
私もやっぱりトゥイーターを加えたい。
そうなると過去の製品を含めても、エラックの4PI PLUS.2を選ぶ。
私にとって4PI PLUS.2は、そういう存在のトゥイーターだ。
ここで、しつこいぐらいに、伊藤先生の言葉──、
《スピーカーを選ぶなどとは思い上りでした。良否は別として実はスピーカーの方が選ぶ人を試していたのです。》
を引用しておく。
ステレオサウンド 72号に載っている。
記事ではなく、上弦(かみげん、と読む。シーメンス音響機器調進所)の広告に載っている。
ジャーマン・フィジックスのTroubadour 40は、
さしずめ私を試すために、終のスピーカーとしてやって来たのだろう。
終のスピーカーがやって来た。
だから、終の組合せというものを考えているところだ。
ここでの終の組合せは現実的に購入できる価格帯のモノではなくて、
予算に制約のない、いわば妄想組合せでもある。
ジャーマン・フィジックスのTroubadour 40が、
終のスピーカーとして私のもとにある。
では、このTroubadour 40を中心にしての終の組合せをどう考え、どう展開していくのか。
いまのところ、ただぼんやりとしているだけだ。
はっきりしているのは、D/AコンバーターはメリディアンのULTRA DACということだけ。
この二点だけは決っている。
私にとっては変えようがない決定でもある。
あとはアンプとトランスポートである。
妄想組合せといっても、現行製品のなかから選んでいきたい。
価格の制約こそないものの、
すべての制約をなくしてしまっては組合せを考える愉しみは薄れてしまう。
とはいうものの、これがいちばんの制約のようにも感じている。
JBLのハークネスの上には、預かりもののJBLの375+537-500がのっている。
そのすぐ近くにTroubadour 40と4PI PLUS.2を置く。
菅野先生のところと見た目だけは近くなる。
エラック 4PI PLUS.2の外箱には、
“PERFECT FOR YOU”とある。
なるほどなぁ、と感心する。
4PI PLUS.2は、そういうトゥイーターといえる。
私がステレオサウンド働きはじめた1982年1月、
そのころのリファレンススピーカーは、まだ、というか、
ぎりぎりとでもいおうか、JBLの4343だった。
ちょうど4344が出た頃でもあった。
だからといって、すぐにリファレンススピーカーが4343から4344に切り替ったわけでもなかった。
なので、ステレオサウンドの試聴室でも、4343を聴いた時間はたっぷりあった。
4343の後継機といわれる4344は、当然だけど、もっと長い時間、
さまざまなアンプやCDプレーヤー、アナログプレーヤー(カートリッジ)などで聴いている。
まぁ、でも4344は、別項で書いているように、
4343の改良モデル(後継機)というよりも、
18インチ・ウーファーの4345の15インチ版といえる。
私は4343の後継機は、JBLのラインナップにはない、と思っているし、
それでも一つ挙げるとしたら、4348なのだが、これは音的にはそうであっても、
デザイン的にはそうとはいえない(それでも4344よりはいいと思っている)。
そんなことがあったから、4343を終のスピーカーとして意識したことがなかったのか、
というと、そういうことではない。
何度も書いているように、コンディションのよい4343があったら欲しい。
そういう4343を、もし手に入れることができたら、手離すことなく、ずっと鳴らしていくことだろう。
ならば、4343も終のスピーカーとなるのではないか。
そうなのだが、自分でもうまく説明できないのだが、
それでも4343を、終のスピーカーとはいえない私がいる。
「終のスピーカーがやって来る」を書き始めた頃、
これを読まれた方のなかには、終のスピーカーは何なのだろうか、
と予想された人も何人かいる。
JBLの4343ではないだろうか、と予想された人もいる。
4343については、これまでもかなりの数書いてきている。
4343は1976年に登場している。
4343の登場と同じくして、私はオーディオの世界に興味をもった。
私にとっての初めてのステレオサウンドは、41号。
4343が表紙の号だ。
当時、熊本の片田舎に住んでいた私でも、4343を聴く機会には比較的恵まれていた。
それだけ4343は売れていた。
当時としてはかなり高価なスピーカーシステムなのに、
それが聴ける、ということは、すごいことだ。
当時、熱心に読んでいたステレオサウンドにも、ほぼ毎号4343は登場していた、といえる。
4343が完璧なスピーカーではないことはわかっていても、それでも輝いて見えたし、
4343はスターであった、といまでもおもう。
4343が製造中止になってけっこうな時が経っても、4343を聴く機会はけっこうあった。
私と同じ1963年生れの友人のAさんとは、2006年に、二人の年齢を合せると4343だ、
そんなことをいっていたくらいである。
いまでも4343のコンディションのいいモノがあれば、欲しい。
置き場所がないけれど、それでも欲しい、とおもっている。
それでも、4343は私にとって終のスピーカーとなるだろうか(なっただろうか)、
そんなことをおもう。
日本製の非常に高価なリボン型トゥイーターといえば、
オーディオマニアの方ならば、あそこね、とすぐに思い浮ぶだろう。
なのに、あえて、このブランド名を書かないのは、
あることを、あるオーディオ評論家から聞いたからである。
それがどんなことかもぼかすしかないが、
この時代、いまだそんなことをやるオーディオメーカーがあるのか、
しかもこんな高価なモデルを出しているところが──と、
呆れもしたし、怒りもおぼえた。
ここのリボン型トゥイーターは聴いている。
その実力の高さは感じている。
だから、そんな姑息なことをしなければいいのに──、と思ったりするのだが、
そういうことをやってしまうところに、このリボン型トゥイーターに携わっている人たちの、
性根の腐ったようなところ、さもしさを感じてしまい、
それ以上、関心をもつことはなくなった。
ピラミッドのT1を超えるリボン型トゥイーターは、もう世に出ないのか。
そんなところに登場したのが、エラックの4PIだった。
単に優れたリボン型トゥイーターというだけでなく、
水平方向に無指向性のリボン型トゥイーターである。
少なくとも、私の知る限りエラックのリボン型と同じ構造のモノはなかったはずだ。
エラックのリボン型トゥイーターは、菅野先生のリスニングルーム以外でも聴いている。
決して安いトゥイーターではないけれど、非常に高価なわけでもない。
いい製品だと、素直に褒めたくなる。
タンノイのコーネッタのレンジに特に不満はないけれど、
それでもワイドレンジを目指したい、という気持がつねにある私にとって、
コーネッタの高域をあと少しのばすのであれば、エラックだな、と思っていた。
コーネッタの上に、ということだけでなく、
まだ鳴らさずにいるアルテックの604-8Gに関してもそうだ。
6041のような604-8Gを中心とした4ウェイを構築するのであれば、
トゥイーターはやはりエラックである。
エラックのリボン型トゥイーターは、
ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットを手に入れるかどうかには関係なく、
手に入れたい、と考えていた。
五年前、別項「続・再生音とは……(英訳を考える)」で、
再生音の英訳として、artificial wavesがあってもいいのではないか、と書いた。
終のスピーカー(Troubadour 40と4PI PLUS.2)がやって来て、
またartificial wavesについて考え始めている。
ジャーマン・フィジックスのTroubadour 40とともに、
エラックのリボン型トゥイーター 4PI PLUS.2もやって来た。
リボン型トゥイーターといえば、私のくらいの世代では、
まずパイオニアのPT-R7が浮ぶ。まっさきに浮ぶ。
リボン型トゥイーターの音の一般的な印象は、
このPT-R7によってつくられた、といってもけっして大袈裟ではない。
繊細、柔らかい、しなやかといった印象は、まさしくPT-R7の音そのもの。
けれど一方で、どこかはかない音、実体感の薄さ、実像ではなく虚像。
そういう音の印象も、また残している。
そこに登場したのが、アメリカ生れのリボン型トゥイーターのピラミッド T1だった。
当時、PT-R7が83,600円(ペア)だったのに対し、T1は399,000円(ペア)だった。
T1の高能率版T1Hは435,000円(ペア)だった。
T1の登場は衝撃だった。
リボン型の印象ががらりと変った。
とはいえ、T1を聴く機会はなかった。
だからこそ、T1に関する記事は何度も読み返しては、その音を想像していた。
いつかはT1、と夢見ていた。
ピラミッドの製品は、それほど長くは輸入されなかった。
T1もいつごろ製造中止になったのかは、正確には知らない。
PT-R7は上級機PT-R9が登場したものの、T1に迫った、という印象はなかった。
価格が大きく違うのだからないものねだりをしていることは承知しているが、
パイオニア自身、
PT-R7でつくりだしたリボン型の音の印象から脱することができなかったのではないのか。
そんな音の印象を払拭した製品が、日本から登場した。
非常に高価なリボン型トゥイーターで話題になった製品だ。
T1並の物量を投じて、T1よりもずっと精度の高さを誇る。
そういうリボン型トゥイーターなのだが、T1に感じていたワクワク感は、
この製品には感じなかったのは、どうしてなのだろうか。
(その13)で、
縁があったから、私のところにやって来た、と私は思っている。
縁をただ坐って待っていたわけではない。
とはいえ積極的に縁をつくろうとしてきたわけではない。
ふり返れば、これらのオーディオが私のところにやって来た縁は、
audio sharingをやってきたから、続けてきたから、そこから生れてきた縁のおかげである。
そう書いている。
今日やって来たTroubadour 40と4PIも、そうだとはっきりといえる。
audio sharingをやってこなかったら、
このブログ、audio identity (designing)をやってなかったら、
Troubadour 40と4PIはやって来ることはなかった。
10月26日夕方に届いたメール。
そこには、「Troubadour 40と4PIを託したい」とあった。
Troubadour 40と4PI、
どちらもいつかは手に入れたいと思い続けてきたスピーカーユニットだ。
この二つのユニットを「託したい」とはどういうことなの?
とにかく急いでメール本文を読む。
すでに書いているように、そこには私にとって夢のような内容だった。
そして今日(11月20日)、メールをくださったSさんのところに行ってきた。
Troubadour 40と4PIが、
私にとっての終のスピーカーがやって来た。
満足のゆく音で鳴らすには、これからいろいろやることがある。
それはそれで楽しい日々のはず。
とにかく今日、終のスピーカーがやって来た、
このことがとても嬉しい。
別項「D130とアンプのこと(その22)」で、こんなことを書いている。
スピーカーに関しては、
ホーン型とかコーン型とか、その動作方式で分類する前に、
まずピストニックモーションかベンディングウェーヴかに分類できる。
そしてスピーカーの駆動についても、
真空管アンプかトランジスターアンプかという分類もあり、
回路や出力段の動作方式によって分類する前に、
定電圧駆動か定電流駆動かに分類できる。
つまりスピーカーとアンプの組合せでみれば、
現在圧倒的主流であるピストニックモーションのスピーカーを定電圧駆動があり、
ベンディングウェーヴのスピーカーを定電圧駆動、
ピストニックモーションのスピーカーを定電流駆動、
ベンディングウェーヴのスピーカーを定電流駆動、
──この4つのマトリクスがある。
この4つのマトリクスのなかで、私がもっとも聴いてみたいのは、
ベンディングウェーヴのスピーカーの定電流駆動の音である。
うまくいくいかない、そのことも大事なのだが、
それ以上にベンディングウェーヴのスピーカーを定電流駆動することで、
ベンディングウェーヴについての理解が深まる予感があるからだ。