Archive for category Cornetta

Date: 7月 14th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その23)

蘇音器の本来の意味から離れて、
蘇音器を構成する漢字からイメージすることだけで、思い出すのが、
瀬川先生の1981年の「いま、いい音のアンプがほしい」のなかに出てくる、
マッキントッシュ、マランツ、JBLのアンプについてのところである。
     *
 昭和41年の暮に本誌第一号が創刊され、そのほんの少しあとに、前記のプリメインSA600を、サンスイの新宿ショールーム(伊勢丹の裏、いまダイナミックオーディオの店になっている)の当時の所長だった伊藤瞭介氏のご厚意で、たぶん一週間足らず、自宅に借りたのだった。そのときの驚きは、本誌第9号にも書いたが、なにしろ、聴き馴れたレコードの世界がオーバーに言えば一変して、いままで聴こえたことのなかったこまかな音のひと粒ひと粒が、くっきりと、確かにしかし繊細に、浮かび上り、しかもそれが、はじめのところにも書いたようにおそろしく鮮度の高い感じで蘇り息づいて、ぐいぐいと引込まれるような感じで私は昂奮の極に投げ込まれた。全く誇張でなしに、三日三晩というもの、仕事を放り出し、寝食も切りつめて、思いつくレコードを片端から聴き耽った。マランツ♯7にはじめて驚かされたときでも、これほど夢中にレコードを聴きはしなかったし、それからあと、すでに十五年を経たこんにちまで、およそあれほど無我の境地でレコードを続けざまに聴かせてくれたオーディオ機器は、ほかに思い浮かばない。今になってそのことに思い当ってみると、いままで気がつかなかったが、どうやら私にとって最大のオーディオ体験は、意外なことに、JBLのSA600ということになるのかもしれない。
 たしかに、永い時間をかけて、じわりと本ものに接した満足感を味わったという実感を与えてくれた製品は、ほかにもっとあるし、本ものという意味では、たとえばJBLのスピーカーは言うに及ばず、BBCのモニタースピーカーや、EMTのプレーヤーシステムなどのほうが、本格派であるだろう。そして、SA600に遭遇したのが、たまたまオーディオに火がついたまっ最中であったために、印象が強かったのかもしれないが、少なくとも、そのときまでスピーカー第一義で来た私のオーディオ体験の中で、アンプにもまたここまでスピーカーに働きかける力のあることを驚きと共に教えてくれたのが、SA600であったということになる。
 結局、SA600ではなく、セパレートのSG520+SE400Sが、私の家に収まることになり、さすがにセパレートだけのことはあって、プリメインよりも一段と音の深みと味わいに優れていたが、反面、SA600には、回路が簡潔であるための音の良さもあったように、今になって思う。
 ……という具合にJBLのアンプについて書きはじめるとキリがないので、この辺で話をもとに戻すとそうした背景があった上で本誌第三号の、内外のアンプ65機種の総試聴特集に参加したわけで、こまかな部分は省略するが結果として、JBLのアンプを選んだことが私にとって最も正解であったことが確認できて大いに満足した。
 しかしその試聴で、もうひとつの魅力ある製品を発見したというのが、これも前述したマッキントッシュのC22とMC275の組合せで、アルテックの604Eを鳴らした音であった。ことに、テストの終った初夏のすがすがしいある日の午後に聴いた、エリカ・ケートの歌うモーツァルトの歌曲 Abendempfindung(夕暮の情緒)の、滑らかに澄んで、ふっくらとやわらかなあの美しい歌声は、いまでも耳の底に焼きついているほどで、この一曲のためにこのアンプを欲しい、とさえ思ったものだ。
 だが結局は、アルテックの604Eが私の家に永く住みつかなかったために、マッキントッシュもまた、私の装置には無縁のままでこんにちに至っているわけだが、たとえたった一度でも忘れ難い音を聴いた印象は強い。
 そうした体験にくらべると、最初に手にしたにもかかわらず、マランツのアンプの音は、私の記憶の中で、具体的なレコードや曲名と、何ひとつ結びついた形で浮かんでこないのは、いったいどういうわけなのだろうか。確かに、その「音」にびっくりした。そして、ずいぶん長い期間、手もとに置いて鳴らしていた。それなのに、JBLの音、マッキントッシュの音、というような形では、マランツの音というものを説明しにくいのである。なぜなのだろう。
 JBLにせよマッキントッシュにせよ、明らかに「こう……」と説明できる個性、悪くいえばクセを持っている。マランツには、そういう明らかなクセがない。だから、こういう音、という説明がしにくいのだろうか。
     *
ここでのマッキントッシュ、マランツ、JBLのアンプとは、
ずいぶん昔のアンプのことである。
マッキントッシュはC22とMC275のことであり、
マランツとはModel 7のことである。

この三つのブランドのアンプで、マランツだけが、
いわゆる蘇音器的ではない、と私は感じる。

Date: 7月 13th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その22)

タンノイは蓄音器的といわれている。

そのことは、ステレオサウンドの試聴室でタンノイを聴いても、そう感じるところはあった。
コーネッタは、私がステレオサウンドで聴いたタンノイのスピーカーシステムと比較すれば、
口径も小さいし、エンクロージュアもコーナー型で、フロントショートホーン付きと、
さらに蓄音器的といえる内容だ。

ことわっておくが、ウェストミンスターは省いて、である。

そういうコーネッタだから、鳴らすのであれば、真空管アンプだな、と考えていた。
能率は、いまでは高い方に属するけれど、当時のスピーカーとしては低い。

300Bのシングルアンプというのは、出力として不足するであろう。
ならばEL34のプッシュプルアンプか。

伊藤先生がサウンドボーイに発表されたEL34のアンプが、第一候補となる。
けれど、電圧増幅、位相反転回路を共通で、
出力段のみEL34の三極管接続にしたデッカ・デコラ内蔵のパワーアンプの回路にするか。

そんなところを、音を聴く前に考えていたけれど、
音を聴いてしまうと、がらりと変ったところが出てきてしまった。

確かに真空管アンプで鳴らしてみたい、という気持はいまも捨てきれずにいる。
でも、ケイト・ブッシュをMQAで聴いて、こんなふうに鳴ってくれるのであれば、
最新の、とまではいかなくても、比較的新しいパワーアンプ、
もちろんトランジスター式のパワーアンプで鳴らしてみたい、という気持に大きく傾いた。

蓄音器的ということでは、真空管アンプだ。
蘇音器的というとこでは、トランジスターアンプである、私にとっては。

Date: 7月 7th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その21)

タンノイは蓄音器的といわれている。

瀬川先生は《電気蓄音器の音と共通の響きであったように思えてならない》と、
「私のタンノイ」で書かれているし、
井上先生は《アコースティック蓄音器を思わせる音》と、「私のタンノイ観」で書かれていた。
どちらも「世界のオーディオ」のタンノイ号で読める。
長島先生も同じことをステレオサウンド 49号、ロックウッドのMajorのところで書かれている。

いまのタンノイがそうだとはいわない。
違うともいわない。
なにしろ、いまのタンノイのスピーカーがきちんと鳴った音を聴く機会がなさすぎる。
インターナショナルオーディオショウでの音を聴いて、
あれがタンノイの音とは思わない方がいい。

電気蓄音器とアクースティック蓄音器とでは、音の印象として違うところもあるが、
郷愁をくすぐるところがあるという意味では、同じことである。

エジソンの蓄音器が日本に最初に入ってきた時には、
蘇音器(機)、もしくは蘇言器(機)と呼ばれていた。

今回コーネッタの音を、じっくりと聴いていて、
私にとっては蓄音器的というよりも、蘇音器的だな、と感じていた。

蘇音器的といっても、エジソンの蓄音器的ということではない。
聴いていて思い起されること、というよりも、思い起こされる音がいくつもあったからだ。

Date: 7月 6th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その20)

ケイト・ブッシュのCDは、2018年にすべてリマスター盤が出ている。
今回、HくんがもってきてくれたCDもそうである。

この時にMQAも配信が始まった。
44.1kHz、24ビットだった。

デジタル録音のアルバムにあわせるためなのだろう。
でもアナログ録音のものは、サンプリング周波数を高くしてほしかったのが本音だ。

大きな期待は、その時はしてなかった。
MQAの音は、ULTRA DACで聴いて衝撃を受けていたけれど、
まだ自分の部屋でMQAが鳴っていたわけでもなかった。

なのでMQAということに期待しながらも、
音に大きな違いはないのかもしれない──、そんなことも考えていた。

これが違っていたことは、218で聴くようになってからである。
数値上は、44.1kHz、16ビットと44.1kHz、24ビットは、どれだけの違いがあるのか。
そのわずかな違いにMQAということが加わる。

そこで、どれだけの音の変化が生れるのか。

実際に聴いてみると、MQA、MQAとバカの一つ覚えのように、
ここ二年ほどの、私が何度も書いたり話したりしている理由がわかる。

コーネッタで聴いても、その違いははっきりとしているし、大きい。
最後のところでかけた“Hello Earth”の音には、ほんとうに驚いた。

20代のころ、QUADのESLをSUMOのThe Goldで鳴らしていたころの音がよみがえってきた。
“Hello Earth”でESLの仰角や振りを調整していたものだ。

コーネッタで聴くケイト・ブッシュは、
ケイト・ブッシュがイギリスの歌手であることも、感じさせてくれた。

アメリカの英語ではなく、イギリスの英語で、ケイト・ブッシュは歌っている。
そう感じられたのが、なによりもうれしいことだった。

Date: 7月 6th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その19)

喫茶茶会記では、コーネッタをコーナーに設置することは難しかった。
床も壁も理想的な条件からほど遠い。

それでもアルテックのいつものセッティングよりは、後面の壁との距離はかなり近い。
けれど左右の壁との距離は、けっこうあいている。

コーナー型のセッティングとしては、フリースタンディングに近い、といえる。
こういうときに、メリディアンの218のトーンコントロールはありがたい。

7月のaudio wedneadayでは、鳴らし始めてしばらくして1.0dB低音をブーストしていた。
途中で1.5dBにして、最後までそのままで鳴らしていた。

そうやってえられたコーネッタの低音の表現力は、
私にとって意外だった。いい方向に意外であった。

喫茶茶会記のスピーカーは、アルテックで、38cm口径。
コーネッタは、タンノイで、25cm口径。

コーネッタは四十年以上前のスピーカーで、
コーナー型という、これも古い形式であり、
同軸型というスピーカーユニットも、古い形式といえる。

しかも新品ではなく、中古で手に入れたモノだ。

音を聴かずに頭でのみ判断して、その日のCDを前夜選んでいた。
結果は、あのディスクももってくればよかった……、と後悔することになった。
そのくらい、よく鳴ってくれたからだ。

兵庫から来てくれるHくんが、ケイト・ブッシュの“Hounds of Love”をもってきていた。
私のiPhoneには、ケイト・ブッシュのアルバムはすべてMQAで入っている。

audio wednesdayが始まる前にCDで聴いて、MQAで聴いた。
最後のほうに、もう一度MQAで聴いた。

ケイト・ブッシュの鳴り方も、私には意外だった。
よく鳴ってくれるのだ。

Date: 7月 6th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その18)

ステレオサウンド 37号、38号、39号掲載のコーネッタの記事は、
エンクロージュアの設計がどう決っていったのか、どう変化していったのかがわかる。

最初に試作されたエンクロージュアはフロントショートホーンが付いていない、
いわゆる四角い箱(レクタンギュラー型)である。
W53.0×H68.0×D45.0cmの外形寸法で、
バスレフの開口部が18.0×10.0cmで、ポート長16.5cmである。

この状態での周波数特性が載っている。
約45Hzまでほほフラットで、それ以下の周波数では急激にレスポンスが下降する。
典型的なバスレフ型の特性といえる。

コーネッタはコーナー型である。
つまり部屋のコーナーに設置するわけだ。

コーナーは二つの壁と床が交叉するところであり、コーナー効果が発生する場所でもある。
理想的な壁と床が用意されていれば、
低域のレスポンスは無響室での結果よりも、18dB上昇することになる。

これはあくまでも理論値であって、
壁と床が理想的な条件とは遠いほど、レスポンスはそこまで上昇しない。
一般的には8dBから12dB程度だと考えられる。

そのためコーネッタの低域特性は、コーナー効果を前提とした設計となる。
つまり低域に向ってなだらかにレスポンスが下降していくのが望ましい。

バスレフ型であるならば、ポート長は長いほど、コーナー型に適した低域レスポンスが得られる。
ただし、そのポート長がエンクロージュア内におさまらなければ意味がない。

記事には、48.6cmのポート長で、コーナー型として適した低域特性になる、とある。
こんなに長いポートは処理がむずかしい。
結果として、レクタンギュラー型と同じポート長にして、
エンクロージュアの内容積を増すことで、約100Hzからなだらかに下降するレスポンスを得ている。
約45Hz以下では急激にレスポンスが下降していく。

コーネッタの周波数特性は、38号に載っている。

Date: 7月 5th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その17)

いまもそうなのだろうと思うが、
タンノイの同軸型ユニットは、ウーファーの口径に関係なく、
中高域のダイアフラム口径は同じである。

HPD385A、HPD315A、HPD295A、
中高域のダイアフラムは共通である。
そしてクロスオーバー周波数も、三つのユニットとも1kHzで同じである。

ということはウーファーの口径に起因する指向特性の変化を考慮すれば、
38cm口径の場合、ウーファーの受持帯域にわたって良好な指向特性は無理である。
30cm口径でも、やや苦しい、といえる。

単純に指向特性の良好さということだけで判断すれば、
25cm口径ということになる。

それでも、私は、どこかHPD295Aの実力を侮っていたところがあった。
タンノイのユニットを代表するのは、やはり38cm口径である。

30cm口径はそのジュニア版といえる。
HPDシリーズをみても、ウーファーに補強リブがあるのはHPD385AとHPD315Aで、
HPD295Aにはないことからも、
HPD295Aは、ラインナップにおいて上二つのユニットとは設計方針が違うのだろう。

発表時期も、30cm口径は、モニターシルバーになる直前であるが、
25cm口径は1961年、モニターレッドになってからだった。

そして25cm口径のIIILZをおさめたシステムは、
IIILZ in Cabinetは、タンノイ初の密閉ブックシェルフ型であることからも、
25cm口径のタンノイのユニットは、ブックシェルフ型向けといえる。

そのユニットを、見かけの割には内容積が確保しにくいコーナー型とはいえ、
それでも誰の目にもあきらかなフロアー型エンクロージュアにおさめたのが、コーネッタである。

Date: 7月 5th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その16)

その9)で、コーネッタに手持ちのサーロジックのサブウーファーを追加したい──、
そんなことを書いた。

HPD295Aは、25cm口径。
それほど低いところまで再生できるとは考えていなかったからなのだが、
実際にコーネッタを鳴らしてみると、意外にもかなり低いところまで再生できることに気づく。

HPD295Aのカタログ上のf0の値は、22Hzなのは知っていた。
喫茶茶会記のアルテックのシステムのウーファー416-8Cとそれほど変らない。

25cm口径としてはけっこう低いf0である。
ステレオサウンド 38号では実測データが載っている。
HPD295は、シリアルナンバー200427と200003の二本が測定されていて、
200427が18.5Hz、200003が18.4Hzである。

IIILZ MkIIの実測データもある。
シリアルナンバー138822と141464で、前者が38.2Hz、後者が55.3Hzである。

HPD295のf0は低いだけでなく、
この実測データをみるかぎりは、バラツキも少ないことがわかる。

でも、これだけで数値でどれだけの低音の再生能力があるのかを、
正しく予想できるわけではない。

サブウーファーを考えていたぐらいだから、
私は、f0の数値の低さをそれほど重視していたわけではなかった。

なのに聴いてみると、サブウーファーは必要ないかも……、と思っていた。
もちろんサブウーファーを持っているのだから、試すことになるだろう。

かなり低いところをうまく補うだけで、全体の音の印象は大きく変る。
ピアノを聴くと顕著である。
サブウーファーがうまくつながっていると、フォルティシモでの音ののびがまるで違う。

それにaudio wednesdayでかけたクナッパーツブッシュの「パルジファル」は、ライヴ録音。
こういうライヴ録音こそ、サブウーファーがあるとないとでは、
全体の雰囲気が、これまた大きく変ってくる。

そんなことがわかっているから、やることになる。
それでもコーネッタだけで、何の不足があるのだろうか、とも感じていたのは本音でもある。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その15)

タンノイの同軸型ユニットは、ウーファーのコーン紙が中高域のホーンの延長になっている。
このことはすでに書いているし、
それだからこそコーン紙のカーヴ、それから材質、強度などがホーンとして、
その音に関係してくるわけだが、昨晩コーネッタを聴いていて感じたのは、
コーン紙をホーンの延長とする同軸型ユニットは、
プログラムソースがデジタルになってこそ本領発揮となることである。

アナログディスクだと、どうしても低域共振の影響から完全に逃れることはできない。
それゆえに1970年代の終りごろに、
アナログディスクのRIAAカーブの改訂が行われ、20Hz以下を減衰させるようになった。

それまでのRIAAカーヴは、35Hzから15kHzまでは厳格な規格が定められているが、
それ以下、それ以上の周波数帯については、35Hzから15kHzまでのカーヴの延長であればいいとなっていた。

いまでもいるようなのだが、サブソニックの影響でウーファーの振動板が前後に振れているのをみて、
低音が出ている、と勘違いする人がいた。

そういえば二年前のインターナショナルオーディオショウのあるブースでは、
あるアナログプレーヤーのデモで、ウーファーがかなり激しく前後していた。
にも関らず、そのブースのスタッフは誰一人として気にしていない様子だった。

アナログディスク再生の難しさ、大変さを体験していない人は、
サブソニックの影響について何も知らないのだろうか。

とにかくウーファーの振動板の動きが目に見えるようでは、それは音になっていない。
つまりタンノイの同軸型ユニットにおいて、ウーファーの振動板が目に見えるほど動いている、
サブソニックの影響を受けて振動している状態は、
ホーンの前半分が、そういう状態にあるということだ。

低域の安定性に欠けていては、タンノイの同軸型ユニットのメリットは損われる。
そう考えて間違いない。

タンノイが気難しいスピーカーといわれていたのは、
こういうところにも一つ原因があったように考えられる。

デジタルがプログラムソースであれば、機械の故障でもないかぎり、
サブソニックの影響はない。

しかも以前のCDの44.1kHz、16ビットだけでなく、
いまではサンプリング周波数も高くなり、DSD、MQAなども登場してきている。
同軸型ユニットにとって、いい時代といえる。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(余談)

コーネッタは、沈黙したがっている──、
そう書いている私は、コーネッタについて書きたがっている。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その14)

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」でソニーについて、
井上先生が書かれたことを引用しておく。
     *
 とかく趣味の世界には、実際に使ったことがなくても、本やカタログなどを詳細に調べ、同好の士と夜を徹して語り明かし、ユーザー以上に製品のことを熟知しているという趣味人も多い。それはそれでよいのだろうが、オーディオ、カメラ、時計など、物を通じて楽しむ趣味の場合には、対象となる製品は基本的に人間が人間のために作った優れた工業製品であるべきだと考えるため、最初に巡り合った製品が、そのメーカーやブランドの価値を決定することになるようだ。
     *
《最初に巡り合った製品が、そのメーカーやブランドの価値を決定》するところは、
オーディオには、はっきりとある。
しかも、最初に巡り合った製品が同じでも、
どこで、どういう人が鳴らした音を聴いたかによって、また違ってくる。
さらに《同好の士と夜を徹して語り》あうことによっても、左右されてくることだろう。

だから(その13)で、タンノイ、アルテック、JBLといったブランド名をあげているが、
世代が違えば、そのブランドへの印象は大きく違うことは承知している。

私と同世代であっても、どの製品と巡り合っているのかによって、
その時鳴っていた音によっても違ってくる。

そういう危うさがあるのはわかったうえで、(その13)では井上先生の発言を引用した。
わかる人には、よくわかる、となるだろうし、
そうでない人がいることもわかっている。

いまではそうでない人のほうが多数なのかもしれない。
それでも、昨晩コーネッタの音を聴いていて思い出していたので、引用した次第だ。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その13)

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」のタンノイ号で、
井上先生が菅野先生との対談で、こんなことを語られている。
     *
井上 ただ、いまのHPDはだいぶ柔和になりましたけれども、それだけに妥協を許さないラティチュードの狭さがありますから、安直に使ってすぐに鳴るようなものではない。現実に今日鳴らす場合でも、JBLとかアルテックなどとは全然逆のアプローチをしています。つまり、JBLとかアルテックの場合、いかに増幅段数を減らしクリアーにひずみのないものを出していくかという方向で、不要なものはできるだけカットしてゆく方向です。ところが、今日の試聴ではLNP2Lのトーンコントロールを付け加えましたからね。いろいろなものをどんどん付けて、それである音に近づけていく。
     *
オートグラフについてのことであり、
このことがそのまますべてのタンノイのスピーカーにぴったりあてはまり、
それ以外の手法はない、ということでもないが、
それでも、昨晩コーネッタの音を聴いていて、確かにそんな感じがする、と思い出していた。

でも、昨晩は、いつものと同じように、
メリディアンの218の出力を、
マッキントッシュのプリメインアンプのパワーアンプ部の入力に接続。
ボリュウムコントロール、トーンコントロールは218でやっていた。

JBL、アルテックを鳴らす場合でも、
トーンコントロールをつけ加えてという手法はもちろんある。

井上先生もそこのところは理解されたうえでの、
タンノイのスピーカー、
特にオートグラフというスピーカーの特質を表現するためのたとえでもある、と思っている。

そして、私にはこのことは、
音の姿勢と音の姿静の違いを、具体的に表わしているとも受け止めている。

音の姿勢、音の姿静」を書いたのは、6月5日。
翌日にコーネッタを落札している。

偶然であるのはわかっていても、
コーネッタを鳴らしてみて、ほんとうにたんなる偶然だったのか、とも思ってしまう。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その12)

昨晩のaudio wednesdayでの音を、ことこまかに書いた所で、
自画自賛のように受け止められるだろうから、そういうことは基本的にしない。

音の描写よりも、コーネッタの音を聴いて考えていたことを書いていこう。
一ヵ月ほど前に「音の姿勢、音の姿静」を書いた。

コーネッタの音は、音の姿静だった。
「五味オーディオ教室」で何度も何度も読み返したことを、
コーネッタを自分で鳴らして実感していた。

《再生装置のスピーカーは沈黙したがっている。音を出すより黙りたがっている》、
五味先生はこれを悟るのに三十年余りかかったように思う、と書かれている。

この三十年余りとは、タンノイを聴いての時間、
イギリスのスピーカーを聴いての時間のようにも感じていた。

タンノイのスピーカーは、沈黙したがっている。
まさに感じていた。

といっても、ことわっておくが、現在のタンノイのスピーカーもそうだ、とはいわない。
否定もしないが、インターナショナルオーディオショウで聴くタンノイの音は、決してそうではない。
そんなふうには感じないが、それはエソテリックのブースの音がひどいからであって、
タンノイのスピーカーが昔とは違ってしまった、ということにはならない。

結局、そのところは自分で鳴らしてみて判断するしかない。

なので、私にいまのところいえるのは、コーネッタは、沈黙したがっている、ということだけだ。
では、他のスピーカーはどうなのか。

すべてのブランドのスピーカーが、沈黙したがっているかというと、
必ずしもそうとは感じていない。

あくでも感覚的な表現なのだが、
アルテックやJBL(ここでの両ブランドのイメージはコーネッタと同時代のもの)は、
最後の一音まで絞り出すようなところがある。

これは、一部のハイエンドオーディオが得意とする精確な音とは、またちょっと違う。
絞り出すには力が必要となる。

その力ゆえ、時として沈黙とは反対の方向に傾いてしまう。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その11)

「タンノイ コーネッタ」検索して表示される記事いくつかを読んでみた。
その多くが、ステレオサウンド 37号、38号、39号の記事を読んでいない、と思われる内容だった。

1976年に出たステレオサウンドだから、
読んだ人でさえ、記憶は朧げだったしても不思議ではない。
読んでいない人が、オーディオ業界に増えていても、そうだろうなぁ……、と思うだけだ。

それでも、もう少しきちんとしたことを書こうよ、と思う。
当時のステレオサウンドを読んでいない人が、
そういった記事を読んで、コーネッタとはそういうものなのか、と信じてしまう。

すべてでたらめな内容ならば、信じる人も少ないだろうからまだいいのだが、
中途半端な内容だから、よけいに始末が悪い、とも感じている。

何を信じて何を信じないかは、その人の自由(というより勝手)なのだから、
私がとやかくいうことでないのかもしれないが、
何も書かずにいると、そういった状況はますますひどくなっていくばかりでもある。

とにかくコーネッタというスピーカー・エンクロージュアに興味を持った人は、
ステレオサウンドのバックナンバーを、まずじっくり読むことから始めてほしい。

インターネット上の、いいかげんな記事は、その後読めばいい。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その10)

昨晩のaudio wednesdayで、コーネッタを鳴らした。
ほんとうにひさしぶりに聴くコーネッタというだけでなく、
自分ので鳴らす初めてのコーネッタでもあった。

すでに書いているように、ヤフオク!で落札したコーネッタだから、
写真だけでの判断だった。
公開されていた写真を、穴が開くほど見たわけではない。
パッと見て、なんとなく程度がよさそうだな、と感じたので、入札した。

コーネッタの中古相場がだいたいどのくらいなのかは知っていた。
私が入札した金額は、その半分以下だった。
その金額で落札できるとは、まったく思っていなかった。

なのに落札できた。
昨晩も訊かれたのだが、ペアで76,000円である。
個人の出品ではなく、リサイクルショップの出品なので、消費税が10%つく。
それでも、コーネッタの相場を知っている人ならば、驚く。

問題は、程度である。
ボロボロだったら、どこかに不具合があったりするのならば、
結果としては高い買い物になる。

見た感じでは、特に問題はなさそうなのだが、
中を丹念にチェックしたわけではないし、音を聴いての判断でもない。

昨晩、音を出してみるまで肝心なことはわからない。
とにかく結線をして、音を鳴らしてみる。

スピーカーの位置、アンプ、CDプレーヤーのセッティングも、
置いただけの状態で、とにかく音を鳴らしてみた。

ほっとした。
その音がいいか悪いかではなく、
鳴ってきた音は、どこかに問題が隠れてそうな印象ではなかった。

なので、ここからセッティングをいつもやっているように詰めていった。