Archive for category アナログディスク再生

Date: 3月 11th, 2016
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーのアクセサリーのこと(その20)

アナログプレーヤー関連のアクセサリーは、いまもいろんなモノがあるが、
昔はアナログディスク全盛だったから、もっと多くのアクセサリーが出ていた。

使ったこともあるモノもあれば、まったく縁のなかったモノもある。
スタイラスタイマーと呼ばれているアクセサリーがあった。
ピカリング、ナガオカ、スウィングなどから出ていた。

カートリッジの針先はダイアモンドならば、寿命は約300時間といわれていた。
毎日一枚のLPを聴けば、一年で針先は寿命を迎えることになる。

まめな人ならば、その日その日、何枚のLPをかけたかを記録していくだろうが、
私はそんなことはしなかった、
私と同じで、そんなことはめんどうだと思う人がいるから、
スタイラスタイマーというアクセサリーが登場したのだろう。

まわりにスタイラスタイマーを使っている人はいなかった。
実物を見たこともない。
特に欲しいとも思わなかった。

いまも欲しいとは思っていない。

無関心だったわけだが、ひとつ気付いたことがある。
カートリッジを交換しない人にはスタイラスタイマーは使用時間の目安となるが、
頻繁にカートリッジを交換する人には対応していないはずだ。

まめな人ならば、カートリッジの数だけスタイラスタイマーを用意して、
カートリッジの交換とともに、スタイラスタイマーも交換する。
カートリッジAにはスタイラスタイマーA、カートリッジBにはスタイラスタイマーB……、という具合にだ。

いまならばスタイラスタイマーはiPhoneと組み合わせることで、
センサーとiPhone(アプリ)とに分けられる。
アプリ側で使用カートリッジを登録し、
カートリッジ使用時にどのカートリッジなのかをメニューから選ぶ。

そうすれば使用時間のトータルだけでなく、
どのカートリッジをいつどの程度使ったのかもグラフや数字で管理・表示できる。

Date: 12月 9th, 2015
Cate: アナログディスク再生

2065年のアナログプレーヤー

マイノリティ・リポートは、フィリップ・K・ディックの短編小説「少数報告(The Minority Report)を、
スティーブン・スピルバーグが監督した作品で、2002年に公開されている。
トム・クルーズが主演だったから、観た人もけっこういると思う。

映画で描かれていたのは2054年の世界だった。
車は自動運転がすでに実用化されているし、道路も立体的になっていた。
広告も紙に印刷されたものから、
ディスプレイに、それもいまそこを歩いている人を対象としたものを表示するようになっていた。

広告の技術でも駅の改札でも、網膜スキャンが常に行われていた。
映画の公開から10年以上が経ち、自動運転が話題になっているし、
スマートフォンの普及、インターネットの広告など、映画で描かれていた世界に近づいている。

今年から映画「マイノリティ・リポート」のテレビドラマがアメリカで放映されている。
日本でもHuluが配信しているので、いまのところ一話と二話が見れる。

舞台は映画の11年後の2065年、いまから50年後である。
この「マイノリティ・リポート」の制作にはMITの研究所が強力しているということだ。

そこで描かれる社会は、MITによる予測といっていいのかもしれない。
ここにアナログプレーヤーが登場する。
50年後のアナログプレーヤーである。

主人公のダッシュ・パーカーと組む刑事のララ・ヴェガの自宅に、アナログプレーヤーはある。
これもおそらくMITが予測したモノなのだろう。

レコードはターンテーブルプラッターに置くスタイルではない。
プラッターはないようだ。
レーベル部分をクランプして、ディスクは垂直状態で回転している。

クランパーは底部から垂直に立っていて、ピックアップも兼ねているようだ。
このアナログプレーヤーが登場するのはわずかなシーンで、
特に技術的な説明はされていない。

なので推測になるが、現在のような機械式のピックアップではなく、
レーザーによるピックアップを採用しているようだ。
クランパーから紅い光がもれているから、おそらくそうであろう。

それから垂直状態のディスクの左右の縁を挟むかのように、アクリル製と思われる板が立っている。
これがどういう役割なのかははっきりとしない。
ディスクをホールドしているのかもしれない、
回転しているディスクのスタビライザー的なものかもしれない。

それとも単なる飾りかもしれない。

今後、このアナログプレーヤーが登場するのかはわからない。
ただいえるのは、MIT、マイノリティ・リポートの制作陣は、
50年後もアナログディスクは聴かれ続けていると予測していることは、はっきりといえる。

Date: 11月 19th, 2015
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーのアクセサリーのこと(その19)

スタビラザーにはコレットチャック式のモノもあった。
日本製ではマイクロのST20(銅製、重量800g、13000円)、
オルソニックのDS250、DS200G、DS500Gなどがあった。
オルソニックのスタビラザーは型番の数字が重量を表していた。

DS500Gは圧着力1500gと発表されていた。
ST20にはオーディオクラフトのSR6と同様の金属製のリングが三枚附属していた。

SR6は、これそのものがなくても他のもので代用できる。
圧着力を高めて補正リングを何枚か使っても、
外周部の反りを抑え込むには、外周部を抑えるのが確実だ。

トリオのスタビラザーDS20(28000円)が、そのもののスタビラザーだった。
DS20は真鍮削りだしの内周スタビラザーと、同じく真鍮削りだしの外周スタビラザーからなる。

内周スタビラザーは、いわゆる一般的なスタビラザーで、
外周スタビラザーは外径34.8cm、内径29.8cm、重量1.6kgのリング状で、
これでレコードの最外周を抑え反りを補正するもの。

DS20には内周・外周スタビラザーの他に、
直径29.78cmのアクリル製の外周スタビラザー位置決めゲージがついていた。

レコードをターンテーブルにのせたら、レコードの上に位置決めゲージをのせる。
次に外周スタビラザーをのせ、位置決めゲージを取り去り内周スタビラザーをのせる、という手順が、
レコードをかけかえるごとに求められる。

位置決めゲージを使わずに外周スタビラザーをのせればオフセットしてしまう。
そうなればターンテーブルプラッターのダイナミックバランスが崩れてしまう。
これを防ぐには正しく外周スタビラザーをのせる必要がある。

この行為を面倒だと感じない人にとっては、DS20は手放せないアクセサリーとなるだろう。
でも、そういうい人はどのくらいいる(いた)のだろうか。
私はレコードのかけかえごとにそんなことをくり返すのは面倒だと感じる。

試聴室という場ではまったくそう感じないけれど、試聴室から出たところでは感じ方は違ってくる。

Date: 11月 19th, 2015
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーのアクセサリーのこと(その18)

私が初めて買ったスタビライザーは、オーディオクラフトのSD33だった。
真鍮製で重量は730g。価格は7500円だった。

SD33にした理由は、このころのオーディオクラフトのつくる製品は、
大きなメーカーのアクセサリーとは、なにか違うものを感じさせるところがあった。

当時のオーディオクラフトの社長であった花村圭晟氏が、自身のためにつくったモノだったからかもしれない。

当時は各社からスタビライザーが出ていた。
材質も違っていたし、形状も違う。
それらの違いによって、スタビライザーを使ったときの音は、違ってくることは容易に想像できた。
では、どれにするのか。
価格的には大きな差はなかった。
スタビライザーが試聴できるオーディオ店もなかった。

そうなると直感しかない。

SD33にはSD33B(7000円)という、重量を追加できるアダプターもあった。
SD33とSD33Bにはしっかりと嵌合するようにネジが切ってあった。

その他にSR6(1500円)も用意されていた。
これは反り補正リングで、金属製の平ワッシャーが数枚入っていた。

レーベルが盛り上っているレコードならばスタビライザーの使用である程度は反りを抑えられる。
けれど、そのレコードを裏返してのせれば周囲が持ち上っているわけだから、
スタビライザーに反りの補正は期待できない。

SR6はターンテーブルシートとレコードのレーベルの間に挿入して使う。
スピンドルに、レコードの反り具合に応じてSR6を挿す。
反りがひどければ枚数を足していき、スタビラザーの重量で反りを抑えるというものだ。
抑えの重量が不足と思えたらSD33Bを足すことで、SD33+SD33Bの重量は1460gになる。

SD33Bを買うことはなかったが、SR6は買った。
使ってみると、よく考えられたアクセサリーだと実感できた。

Date: 7月 20th, 2015
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その34)

ステレオサウンド 51号の五味先生のオーディオ巡礼にも、
フィデリティ・リサーチのFR7は登場している。

51号の訪問先はH氏。
数年後にステレオサウンドの原田勲氏だと知ることになるが、
このときはまだH氏がどういう人なのかは知らなかった。
五味先生の知りあい、それもかなり親しい知りあいだということしかわからなかった。

このH氏が、EMTの927DstにFR7を取りつけられている。
スピーカーシステムはヴァイタヴォックスのCN191、アンプはマランツのModel 7と9のペア。

ここで鳴っていた音がどうでもない音であればFR7のことが気になることはなかった。
五味先生はH氏の音について、こう書かれている。
     *
〝諸君、脱帽だ〟
 ショパンを聴いてシューマンが叫んだという言葉を私は思い出した。このあと、モニク・アースなるピアニストの演奏で同じパバーヌを聴いたためかも知れない。さらにバックハウスでベートーヴェンの作品一〇九、ブタペスト・カルテットで作品一三一、魔笛をクレンペラーで、グリュミオーのヴァイオリンでヴィオッティの協奏曲、更にはヴィヴァルディのヴィオラ・ダ・モーレなど、こちらの好みを知っていて彼は私の気に入りそうなレコードばかり掛けてくれたが、たいがい口のわるい私を承知でこれだけ、こちらの聴き込んだ曲を鳴らせるのは、余程、自信があったからだろうが、それがけっして過信ではないことを私は認めた。この「オーディオ巡礼」では、奈良市南口邸の装置で、サン=サーンスの交響曲第三番の重低音を聴いて以来の興奮をおぼえたことを告白する。
     *
FR7が並のカートリッジではないことがわかる。
だから51号を読んでからというもの、瀬川先生のFR7の評価が気になっていた。
だがFR7に対して、瀬川先生は評価されていない──、というよりも無視にちかい。

なぜなのか。
いまとなっては確かめようはないが、FR7のカタチにあると私は思っている。

47号の新製品紹介のページで初めてFR7の写真を見た時もそう感じていた、
でもこの時は、まだぼんやりとした感じであった。
それからしばらくしてFR7の音を聴くことができた、ステレオサウンドの試聴室である。

音については書かない。
FR7を聴いたということは、FR7がトーンアームに取りつけられたところを見たということである。
ここで47号で感じていたものをはっきりと認識できた。
そして、やっぱりそうだったのかもしれない、ともおもっていた。

Date: 7月 20th, 2015
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その33)

カートリッジにはヘッドシェルと一体になったモノがある。
EMTのTSD(XSD)15がそうだし、テクニクスのEPC100Cもそうである。

オルトフォンのSPUも、Gシェル、Aシェルどちらも本体をカートリッジ本体取り外して、
アダプターを介すれば他のヘッドシェルに取りつけられるといっても、
ヘッドシェル一体型のカートリッジということになる。

カートリッジ本体だけであれば、ヘッドシェルを選択できる。
音のよいヘッドシェルを選ぶ、ということになるのだろうが、
ヘッドシェルの選択においては指かけのつくりはひじょうに重要なポイントになってくるし、
なによりもカートリッジを取りつけて、さらにトーンアームに取りつける。
そしてカートリッジをレコード盤面上におろしてトレースしていく姿もまた重要となる。

一体型カートリッジでは、だから単体のカートリッジ、単体のヘッドシェル以上に、
デザインが優れたモノであってほしい。
なにしろ変更できないのだから。

フィデリティ・リサーチからFR7というカートリッジが登場した。
ステレオサウンド 47号での新製品紹介のページでの取り上げ方も力がはいっていた。
それまでのフィデリティ・リサーチのカートリッジFR1とは、
大きく違う発電構造、それにFR7はヘッドシェル一体型で、
音もデザインも大きく変貌を遂げた、といえた。

FR7の発電構造図を見ていると、確かにユニークなカートリッジではあるし、
ぜひ聴いてみたいという気持になるけれど、
FR7の写真を見ていると、うーん、どうなのだろう……、という気持になっていた。

内部構造が FR1とは大きく異っているためああいう形状になるのは理解できても、
あのデザインが好きにはなれなかった。

47号の特集はベストバイだった。
FR7は、井上卓也、上杉佳郎、菅野沖彦、長島達夫、山中敬三の五人が三星をつけている。
FR7に星をつけていないのは岡俊雄、瀬川冬樹のふたりだけだった。

岡先生は59号のベストバイで、FR7、FR7fの両方に三星をつけられているから、
47号のベストバイにおいては、試聴が間に合わなかったのが理由だったのだろう。

けれど瀬川先生は、やはり星をつけられていない。

Date: 7月 4th, 2015
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その32)

テクニクスがもしSL10、SL15といったLPジャケットサイズのアナログプレーヤーを開発していなければ、
ビクター、ソニー、デンオンと同じように、電子制御のトーンアームを出していただろうか。

SL10はリニアトラッキング方式で、電子制御である。
ただし一般的なリニアトラッキング方式では、
ストレートのトーンアームパイプがある。

SL10とほぼ同時代の他社のリニアトラッキングアームのプレーヤー、
ヤマハのPX1、パイオニアのPL-L1のように。

テクニクスのジャケットサイズでは、
同じリニアトラッキング方式ではあっても、このパイプはない。

テクニクスがSP10との組合せを前提としたリニアトラッキングアームを開発したとしたら、
どんな形になっていただろうか。
パイプのないリニアトラッキングになっていたのだろうか。

パイプがなかったとしたら、
パイプに起因する問題もなくなる。
つまり低域共振の問題もほとんど無視できるはずであり、
そうなると他社の電子制御のトーンアームで行っていた低域共振の制御は不要となる。

Date: 6月 5th, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その8)

私は(その4)で、
ゲイルのGT2101は大小の三角形から成り立っている、と書いた。

こう書いたのは、GT2101のカタチを想像しやすいようにであり、
ゲイルのGT2101のカタチは本来的には二重円(◎)である。

円の外周を三分割する。
それぞれの弧の向きを反転させる。
つまり内側にカーヴを描くように反転させれば、GT2101の三角形になる。

ターンテーブルプラッターが二重円の内側、
ベースが二重円の外側。
それぞれを三分割して、弧を反転させたカタチがGT2101である。

そこに黒い円盤がのり、回転する。
つまり二重円(◎)の内側の円が黒に反転するわけだ。

GT2101を最初見た時には、こんなことには気づかなかった。
いまごろ気づいた。

GT2101のデザイナーの意図がどうだったのかは知りようがないが、
私は、いまGT2101のカタチを、こう解釈している。

Date: 6月 2nd, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その7)

フランスのメトロノームからカリスタが登場したのはいつごろだったのか。
忘れてしまったけれど、ステレオサウンドでカリスタの写真を見て、
ゲイルのGT2101だ、と思ったことは憶えている。

非常に高額で、音もいいという評判のカリスタだけど、
GT2101が登場したときの衝撃を味わった者には、どうしても二番煎じとうつってしまう。

ターンテーブルとCDトランスポートという違いがあるけれど、
あとから登場したのだから、より洗練したモノであってほしい、と思ったことも憶えている。

GT2101の衝撃が大きかったのは、デザインだけではなかった。
私にとって、ジョン・カールがエレクトロニクス部分を設計していることも、理由のひとつである。

GT2101は10〜99rpmまで、0.1rpmステップで回転数を設定できる。
本体とカールコードで接続されている円筒状のコントローラー上部中心にあるボタンを押せば、
33 1/3rpmに固定可能なことは知っていたけれど、それ以上の操作方法に関しては、
当時のオーディオ雑誌からの情報ではよくわからなかった。

いまは「Gale GT2101」で検索すれば、画像だけでなく動画もすぐに見つかる。
今回、その動画を見て、こうやって回転数を変えるのか、その操作に関しても驚きがあった。

こんなアナログプレーヤーが1977年か78年ごろに登場している。
ゲイルのデザイナーは誰だったのか、どんな人だったのか。

Date: 6月 2nd, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その6)

カートリッジの振動系以外は絶対に振動してはならない、
これをアナログディスク再生の理想とすれば、
レコード盤はターンテーブルプラッターに吸着することが、
より理想的であるわけで、レコード盤を浮すなどもってのほかということにもなる。

けれど世の中に無共振ということはありえないのだから、
それに振動を完全にコントロールすることも不可能なのだから、
ノイズも音のうち、と同じで、振動(共振)も音のうち、という考え方もできる。

究極を追い求めながらも、現実ではどこかで折り合いをつけることも求められる。
どこで折り合いをつけるのかは、人によって違ってきて当然であり、
どちらが正しいとか間違っているとか、他人が干渉すべきことではない。

アナログディスク再生の面白さは、こういうところにもある。
人それぞれ与えられた環境は違う。
その環境の中で、どう折り合いをつけていくのか。
また自分の感性とどう折り合いをつけるのか。

そのことに対して、いろいろなアプローチがやれるのがアナログディスク再生である。
こうでなければならないと決めつけてしまうのも、その人の自由ではあるけれど、
アナログディスク再生はそれでは面白さの半分も味わえないままになってしまうかもしれない。

ゲイルのGT2101、トランスクリプター、シネコのプレーヤーシステムのように、
レコード盤を浮すやり方は試そうと思えば簡単に試せることである。

確かにレコード盤の振動はターンテーブルシートに密着させるよりも増えることは、
実測データが示しているが、そのことがどう音に影響するのかは、
どんな本を読んでも書いてないし、それにケース・バイ・ケースでもある。

こうでなければならないと決めつけてしまったら、経験値を高めることはできない。
アナログディスク再生に必要なのは、高価なアナログプレーヤーやカートリッジではない。
使い手のアナログディスク再生への深い理解であり、
これを得るには、思い込みに捕われることのない耳(感性)とあらゆることを試してみる好奇心ではないだろうか。

Date: 6月 1st, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その5)

ゲイルGT2101の振動実測データをみると、やっぱりな、と多くの人が思うことだろう。

「プレーヤー・システムとその活きた使い方」は、
当時の日本ビクターの音響研究所長の井上敏也氏の監修によるもので、
多くの実測データはビクターによる測定である。

Galeでのハウリングの実験とついている章では、ふたつの実装データが載っている。
ひとつは、ターンテーブルプラッター外周に三つあるレコードを支持する箇所に、
カートリッジを降ろしての測定、
もうひとつはレコード支持部間にカートリッジを降ろしての測定である。
つまりレコードが浮いている状態の測定となる。

レコード支持部での結果は25Hzにピークがあるがそれもそれほど大きくはない。
それ以上の周波数ではかなり低く抑えられていて、かなり優秀な特性を示している。

レコードが支持部から離れて浮いている状態だとどうなるのか。
21Hzと50Hzに大きなピークがある。
60Hz以上の周波数ではうねりが見られ、
あきらかにスピーカーからの音圧によってレコードが揺すられていることがわかる。

その状態であっても、マグネフロートが効果的に働いているのか、
アクリルというベースの特質なのか、面積をできるだけ抑えたベース形状のおかげなのか、
ハウリング特性は優秀である。

レコードを浮すと音が大きくなる、という人がいる。
カートリッジは振動を電気信号に変換するものだから、
レコードそのものがスピーカーからの音圧でゆすられ振動が大きくなっているのだから、
その振動も含めてカートリッジはピックアップして電気信号へと変換するのだから、
音が大きくなって当然といえよう。

Date: 6月 1st, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その4)

「続コンポーネントステレオのすすめ」で、瀬川先生は次のように書かれている。
     *
 たとえば、イギリス・トランスクリプターの Transcriber や、同じくイギリスのゲイルGT2101のように、一種前衛彫刻を眺めるようなデザインの奇抜さは、他に類のないという点で、とりあげるに値するかもしれない。フランスのシネコMark2002は、前二者ほどユニークではないにしても、透明のアクリルベースの美しさがユニークだ。
     *
ゲイルもトランスクリプターも同じ時代に、同じイギリスから生れている。
《一種前衛彫刻を眺めるようなデザイン》に関しては、ゲイルのGT2101の方につよく感じる。

GT2101は大小の三角形から成り立っている。
この三角形は直線から成るものではなく、内側にカーヴしている三角形で、
アクリル製なので透明な三角形でもある。

大きな三角形がベースで、三つの頂点に脚部がある。
この脚部は希土元素酸化物マグネット使用のマグネフロート方式で、
そのためベース部分は二枚のアクリルが使われている。

ターンテーブルプラッターは小さな三角形で、レコードは頂点にある円形のステンレス、
スピンドル周辺の円形のステンレスの四点によって浮くことになる。

瀬川先生が挙げられているトランスクリプターもシネコも同じようにレコードを浮している。
シネコは外周の六点とスピンドルの計七点支持、
トランスクリプターは外周六点、スピンドルとその間に三点の計十点支持である。

レコードをターンテーブルプラッターに密着させない。
これは昔からアマチュアの間でも試みられている。
私もずっと昔に実験したことがある。
いまも、レコードは浮した方がいいと主張する人はいる。
エアーキャップ(通称プチプチ)をターンテーブルシート代りにする人もいる。

音に関してはあえて書かないが、
レコードを浮すことによるレコードそのものの振動についての実測データはある。
誠文堂新光社から出ていた「プレーヤー・システムとその活きた使い方」に、
ゲイルのGT2101を使った実測データが載っている。

Date: 5月 31st, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その3)

1970年代、イギリスにゲイル(Gale)というメーカーが登場した。
輸入元はテレオンだった(スピーカーだけはオンライフが以前輸入していた)。

現在ゲイルは輸入されていないが、会社は存在している。
ウェブサイトを見ると、あの頃の意気込みはまったく感じられない、
別の会社になったかのようである。

当時のゲイルの製品はスピーカーシステムとターンテーブルが輸入されていた。

スピーカーシステムはGS401。
日本では、というよりもステレオサウンドではGS401Aが取り上げられていた。
GS401Aは横に長いプロポーションのブックシェルフ型だが、
しゃれたパイプ製の専用スタンドが用意されていた。

両サイドがクロームメッキされ、
フロントバッフルを囲むように黒のサランネットがエンクロージュアを一周している。
カラー写真でみると、黒とシルバー(というよりも輝く白ともいえる)のコントラストが、
とにかく印象に残るデザインだった。

GS401には通常の木製エンクロージュアのCタイプも用意されていた。
こちらは同じ内容ながら縦置きのブックシェルフ型。

GS401Aは、ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’78」で、
亀井良雄氏による素敵な写真で確認できる。

最初スピーカーシステムが紹介され、しばらくしてターンテーブルのGT2101が登場した。
GS401A以上に、モダンな印象をあたえるターンテーブルだった。

GT2101は音の良いターンテーブルだったのかどうかはなんともいえない。
私が当時見たのは、さほど大きくないモノクロの写真だけ。
実物をぜひとも見たかったターンテーブルである。

Date: 5月 30th, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その2)

別項でラックスのPD121について書いた。
そこに、アナログプレーヤーにおける主役は、やはりレコードだと思う、と書いた。

PD121のように、無駄がなくシンプルな表情をみせてくれるアナログプレーヤーにふれると、
そのことを強く思うとともに、最近登場したアナログプレーヤーのいくつかは、
そのことを忘れてしまったのか、それとも気づいてさえいないのか、
アナログプレーヤーこそ(我こそ)が主役とでも言わんばかりの形相をしている。

そんなアナログプレーヤーでも音が良ければ気にしない人もいれば、
どうしても使う気になれないという、つまり私と同じ人もいる。

アナログプレーヤーは他のオーディオ機器と違い、
それ単体でデザインが完結するモノではない。
ターンテーブルプラッターの上にレコードがのせられ、回転する姿が美しくあるべきだ。

Date: 3月 9th, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その1)

スタートレックに登場するU.S.S. ENTERPRISE NCC-1701。
スタートレックをみるたびに、アメリカが生んだ最高のデザインのひとつだと思うとともに、
アナログプレーヤーに、このカタチをもってこれないだろうか、とも思ってしまう。

エンタープライズ号は建造物である。
アナログプレーヤーもまた建造物として捉えた方がいいのではないか。

これまでにいくつかの、そう捉えられるアナログプレーヤーが登場しているものの、
エンタープライズ号の域に達しているとは、まだまだいえない。