Author Archive

Date: 5月 28th, 2014
Cate: オリジナル

オリジナルとは(あるスピーカーの補修・その10)

以前、JBLの4411を使っている知人から、エッジがボロボロになっているけど、どうしたらいいか、ときかれた。
ウレタンエッジにすればまたいつの日かボロボロになる。
できればウレタンエッジに替るものでいいものはないのか、ということだった。

もう七年ほど前のことだったから、
ヒノオーディオが扱っているエッジを奨めておいた。
自分でエッジ交換をする必要があるが、知人は結果に満足していた。

それから数年後に、今度はLE8Tのエッジが……、という相談があった。
その人にもヒノオーディオのエッジを奨めた。
彼もまた自分でエッジを交換している。

スピーカーユニットは振動板からのみ音が放射されているわけではない。
何度か書いているようにフレームからの輻射もあるし、エッジも振動しているわけで、
しかも外周にあるから面積としても決して小さいわけではない。
この部分からも、音が出ている。

しかもエッジは常にきれいに動いているわけではない。
大振幅で振動板が動いているときのエッジの変形は、けっこう複雑なものである。
エッジの種類、材質によってもそれは異ってくるものの、
振動板が前に動いているときにエッジの一部は前、他の部分は後と、いわゆる分割振動的な動きをすることもある。

これらは何がしかの音として、振動板からの音に絡み合ってくる。

だからエッジのコンプライアンスが、
もともとついているウレタンエッジと交換したヒノオーディオのエッジとがまったく同じであり、
交換したあとのf0も変化しなかったとしても、音がまったく同じということはあり得ない。

どちらがいいのかは、その人が判断することである。
少しばかり音は変っても、もうエッジ交換の心配をしなくて済む方が精神的に安心して聴ける、
このことの価値を大事にする人にとっては、ウレタンエッジへの交換よりも、
ヒノオーディオが取り扱っていたエッジを、私は奨める。

今回のスピーカーの補修にあたって、ヒノオーディオのエッジのことが真っ先に浮んだ。
できれば、この先エッジの交換をしなくて済むことが大事なことであったからだ。
だがヒノオーディオはもうない。エッジも手に入らなくなっている。

Date: 5月 27th, 2014
Cate: マルチアンプ

マルチアンプのすすめ(その30)

五味先生が指摘されていることと同じこと(私はそう感じている)を、
長島先生も指摘されている。

ステレオサウンド 99号の新製品紹介のページで長島先生は、ATCのSCM200について書かれている。
その中にこうある。
     *
 例えば、3ウェイシステムの場合、ウーファー、スコーカー、トゥイーターが三位一体となって動いて欲しいのであるが、通常のLCネットワークであれば、電気的には各ユニットが接続された状態にあり、それぞれいい意味で影響しあって有機的に結合した状態をつくりだすことができる。もちろん悪影響を与えるということもある。しかし僕はそこにメリットのほうを見出していたのである。
 それに対してマルチ駆動の場合、ユニット同士の関係というものは一応セパレートしているものと考えることができ、はたして各ユニットがうまくブレンドしてくれるのだろうか、という不安があるのだ。
     *
五味先生はタンノイの、長島先生はジェンセンの、それぞれの同軸型スピーカーを鳴らされてきた。
そのふたりがマルチアンプに対して、同じことを感じられているのは興味深い。

オーディオにやり始めたころに疑問に思っていたことがある。
スピーカーの再生周波数帯域を拡げるためにマルチウェイにするのはわかる。
2ウェイでも、3ウェイでもいいのだが、
ウーファーはほとんどがコーン型であり、
トゥイーターはコーン型もあれば、ドーム型、リボン型、ホーン型……、といろいろな方式がある。

ウーファー、トゥイーターともにコーン型であれば、振動板も紙ということがある。
けれどトゥイーターがコーン型以外の方式となると、振動板の材質はさまざまだ。
布系の振動板もあれば、プラスチック系のモノもあるし、金属を使ったモノもある。
金属にもアルミニウムもあれば、チタニウム、マグネシウム、ベリリウムなど、いくつもの材質がある。

昔から使われてきて馴染みのある紙の振動板のコーン型ウーファーと、
紙とはまったく異質の振動板を使った、それも振動板の形状も違う方式のトゥイーターが、
システムとしてまとめたときにほんとうに調和するのだろうか。

こういう疑問だった。

Date: 5月 27th, 2014
Cate: きく

音を聴くということ(試聴のこと・その6)

フロントバッフルも天板も振動している。
その振動は同じではない。
つまりフロントバッフルに取り付けられているときにフロントバッフルから伝わってくる振動と、
天板から2405へと伝わってくる振動は決して同じではない。
しかもフロントバッフルに取り付けた状態では前方から振動が伝わってくる。
天板の場合に2405の下部から振動が伝わってくる。

それにフロントバッフルに取り付けられているとウーファーの背圧の影響も受けている。

天板に置くためには、ネットワークから2405までのケーブルをはわせなければならない。
4343にもともとついているケーブルをそのまま利用したとしても、
ケーブルの這わせ方が違ってくる。

天板に置いた2405にサブバッフルをつけるどうか。
さらには天板のどの位置に置くのか。前後方法の調整はほかのユニットとの位相関係の変化にもつながる。

2405を天板に直置きするのか、間にフェルトやゴム、その他の素材を介するのかどうか。

こういったこまごまとしたことが、2405を天板に置きインライン配置にしたことによる変化である。
もっと細かな変化もあるが、それを書き出すことがここでの目的ではないし、
いいたいのは、これだけの要素が変化している中で、
インライン配置にしたから音が良くなった、とはいえない、ということだ。

さまざまな要素が変化している。
しかもそれらは独立しているわけではない。
それらが結びついた結果として音は変化している。

だからこそ、何を聴いているのかを明確にする必要がある。

Date: 5月 27th, 2014
Cate: きく

音を聴くということ(試聴のこと・その5)

オーディオマニアたるもの少しでもいい音が出せる可能性があるのなら、あれこれ試してみる。
例えばJBLの4343。
4ウェイ・4スピーカーの4343はウーファーミッドバス、ミッドハイの三つのユニットはインライン配置。
ならば9.5kHz以上を受け持つ2405をフロントバッフルから取り外して、エンクロージュアの天板にのせれば、
四つのユニットすべてインライン配置にできる。

実際にやってみたとする。
音はずいぶんと変る。
それを実行した人にとって、それがいい結果だったと仮定する。
すると、その人は、やっぱりすべてのユニットをインライン配置にしたほうがいい、というかもしれない。
そういいたくなる気持はわかる。
わかるけれど、2405をインライン配置にしたことで、変った要素は、ユニット配置だけではない。

まず2405をフロントバッフルから取り外す。
この時点でフロントバッフルへの荷重が変化する。
それにフロントバッフルの振動モードも変化する。

2405を取り外したところにはメクラ板をとりつける必要がある。
するとメクラ板がミッドハイの両側に位置することになり、この影響も無視できない。
メクラ板はフロントバッフルから伝わってくる振動に対しても、
エンクロージュア内部の音圧によっても共振しているからだ。

2405を天板の上にのせる。
ただこれだけでも音は変化する。
試しに2405を本来の位置に取り付けたままで、
2405と同じくらいの大きさで同じくらいの重量をもつモノを4343の天板の上に置いて聴いてみるといい。

きちんと調整された4343ならば、この変化量に驚く。
天板のどこに置くかでも変化する。

2405を天板に置くことで天板の振動モードは変化する。
天板だけが変化するのではない。
エンクロージュアの側板、前後のバッフル、底板はすべてつながっているわけだから、
天板の振動モードの変化は、他の部分の振動モードの変化へとつながる。

Date: 5月 26th, 2014
Cate: きく

音を聴くということ(試聴のこと・その4)

スロープ特性と極性の組合せをひとつひとつ聴いていっているとき、レベルはまったく手をつけなかった。
それからCDも一枚に決め、CDプレーヤーから試聴しているあいだは、一度も取り出すことなく聴く。

スロープ特性、極性を切り替える際には、コントロールアンプのボリュウムには手を触れない。
ボリュウムはそのまま、つまり音量は最初に決めたままである。

そしてCDプレーヤーは切り替えの際には、ポーズ・ボタンを押す。
停止状態にはしない。
チャンネルデヴァイダーの切り替え操作が終ったら曲の頭に戻し、再生ボタンを押す。

これをくり返し行う。
一枚のディスクの同じところを何度も何度も聴いていく。

何かを切り替えていくときに、他の箇所はまずいじらない。
ボリュウム操作をしてしまうと、厳密には同じ音量には設定し難い。
音量がわずかでも違ってくれば、スロープ特性の違いのみを聴きたいのに、
そこに音量の違いという要素が加わってくる。

CDプレーヤーをポーズ(一旦停止)にするのも同じ理由からである。
停止してしまうと、ディスクの回転が止る。
ふたたび再生ボタンを押すとディスクの回転が始まるわけだが、
CDプレーヤーにはサーボ技術が不可欠であり、
このサーボの立上り時に音が安定するのに、わずかな時間を必要とする。
だからポーズにしてディスクはつねに回転させた状態を維持するわけである。

Date: 5月 26th, 2014
Cate: きく

音を聴くということ(試聴のこと・その3)

今年一月にあるオーディオマニアのお宅に伺う機会があった。
バイアンプ駆動のシステムだった。

何枚かのCDを聴いて、気になるところがあって、
チャネルデヴァイダーのスロープ特性と極性の切り換えをいくつか試してみた。

できれば違うところを調整したかったのだけれど、私のシステムではないから、
スイッチで切り換えられる範囲であれば、元のポジションにすれば元に戻せるので、
この部分だけをいじってみた。

スロープ特性はハイカット、ローカット別個に指定できる。
ウーファーのハイカットを12dB/oct.で、上の帯域のローカットを18dB/oct.ということができる。
スロープ特性は12dB、18dB、24dBがあり、
ウーファーの正相・逆相、上の帯域の正相・逆相がそれぞれ指定できる。

最初はローカット、ハイカットとも12dB/oct.で、正相・正相、
その後に12dB/oct.のままウーファーを逆相、上の帯域を正相、
今度は12dB/oct.のままウーファーを正相、上の帯域を逆相、
さらに12dB/oct.のままでウーファー、上の帯域とも逆相にする。

同じことを18dB/oct.でもやる。
さらにウーファーのスロープ特性を12dB/oct.に、上の帯域のスロープ特性を18dB/oct.にして、
極性の切り替えを4パターン試していく。

今度はウーファーと上の帯域のスロープ特性を入れ替えて、
極性の切り替えをこれまた4パターンやっていく。

これで16通りの音を聴くことになる。
ほんとうは24dB/oct.の音も聴きたかったし、
12dB/oct.と24dB/oct.の組合せ、18dB/oct.と24dB/oct.の組合せも試してみたかったけれど、
あきらかに一緒に聴いていた人たちが退屈しているのがはっきりと感じられて、そこまではやらなかった。

Date: 5月 26th, 2014
Cate: 世代

世代とオーディオ(コンプレッションドライバーの帯)

コーン型、ドーム型ユニットを使ったスピーカーシステムからオーディオをスタートしても、
心には「いつかは大型ホーンとドライバーを組み合わせて……」という気持があった。
マニアならば、一度はホーン型を使うもの、
言い方をかえればホーン型を使いこなしてこそ、一人前のマニアという空気が確実にあった。

そんな空気の実感できたのは私ぐらいの世代が最後なのかもしれない。
いまでは中途半端に頭でっかちの人たちは、ホーン型なんて……、と否定する、
そんな空気を感じることがある。

ここではホーン型なのか、それともダイレクトラジエーター型なのか、
どちらが優れているのかを論じるわけではない。

ここで書きたいのはコンプレッションドライバーの、いわゆる帯のことについて、である。

JBLのドライバーにしろ、アルテック、ガウス、ヴァイタヴォックスなどの海外のドライバーだけでなく、
コーラル、マクソニック、オンキョーなどの国産のドライバー、
アルニコマグネットを採用したドライバーなら、ドライバーの後方に帯がはいっている。
たいていは銀色の帯である。

この帯がなければコンプレッションドライバーは黒い鉄のかたまりであり、
帯がはいっていることで見映えもよくなる。

けれどいうまでもなく、この帯は装飾のための帯ではない。

ダイアフラムがドライバー後方にあるタイプ(バックプレッシャー型)のダイアフラムを交換したことのある人、
もしくはカットモデルを見たことのある人ならば、
この帯が磁気回路のプレートであり、必然的にできるものだということを知っている。

つまりダイアフラムのボイスコイルは、この位置にあるわけで、
外側からボイスコイルの位置がすぐにわかるようになっていて、
ユニットを組み合わせてスピーカーを構築していく人にとって、
この帯はユニットの位置合せの目安にもなっていた。

既製品のスピーカーシステムだけを使っている人にとっては、
こんなことは知っていたからといって役に立つわけではないから、
以前では知らない方が恥ずかしかったのに、
いまでは知らない人の方が時として堂々としていたりする。

Date: 5月 26th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・4435のウーファー)

4430のウーファーは2235H、4435のウーファーは2234H(二発)と書いた。
けれどステレオサウンドを注意深く読んできた人の中には、あれっ? と思われる方もいると思う。

ステレオサウンド 61号での紹介記事のページに掲載されている4435のスペックには、
ウーファー:38cm×2(2234H、2235H)、とあるからだ。

マスコントロールリングをもつ2235Hを200Hz以下を再生するサブウーファーとして使っている。
ちなみに235Hのマスコントロールリングの重量は100g。

この仕様の4435は61号で紹介された、いわばサンプルだけのようで、
ステレオサウンド 62号掲載の井上先生による「JBLスタジオモニター研究」には、こう書いてある。
     *
4435には、振動系は2235Hと同じだが、マスコントロールリングのない2234Hが2本使用されている。なお、4435の最初に輸入されたサンプル(編注=本誌No.61の新製品欄で紹介したもの)では、低域は2234Hと2235Hの異種ウーファーユニットの組合せであったが、正規のモデルは2234Hが2本に変更されている。
     *
なぜJBLが4435の仕様をこれだけ早く変更したのか、その理由ははっきりとしない。
ステレオサウンド別冊「JBL 60th Anniversary」にも、4435のウーファーは2234Hとあるだけで、
サンプルでの2235Hとのスタガー接続についての記述はどこにも書いてない。

菅野先生が61号に書かれた4435の音──、
《一言にしていえば、その音は私がJBLのよさとして感じていた質はそのままに、そして悪さと感じていた要素はきれいに払拭されたといってよいものだった。私自身、JBLのユニットを使った3ウェイ・マルチアンプシステムを、もう10数年使っているが、長年目指していた音の方向と、このJBLの新製品とでは明らかに一致していたのである》
これはあくまでも2234Hと2235Hのスタガー使用の4435の音である。

では市販された4435の片側のウーファーを2235Hに交換すればサンプルと同じになるかといえば、
正規モデルの4435では100Hz以下で2234Hをもう一本加えている形なのに、
サンプルの4435では200Hz以下という違いがあるから、うまくいくかもしれないし、そうではないかもしれない。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・その3)

この新しいバイラジアルホーンを搭載した、ふたつの4400シリーズ。
4430は15インチ口径のウーファー2235Hを一発、4435は15インチ口径の2234Hを二発搭載している。

2235Hは4300シリーズに採用されてきた2231の改良型である。
そのためコーン紙の根元にマスコントロールリングが使われている。
2234Hは、このマスコントロールリングを取り外したものである。

となると当然振動系の実効質量は軽くなり、その分F0は高くなる。
低域の再生能力は多少狭まることになるけれど、4435では100Hz以下ではダブルウーファーとして動作させ、
100Hzより上の帯域ではホーンの真下に取り付けられているウーファーのみが鳴る。
こうすることでマスコントロールリングがないことによる低域のレスポンスの低下をカバーしている。

ここところが同じ15インチ口径のダブルウーファーでも、4350、4355とは違う点であり、
この4435のウーファーの使い方は、4435の25年後に60周年モデルと登場したDD66000に生きている。

この点に注目して、4435とDD66000を見ていくと、
DD66000の原型は4435ではないか、と思えてくる。

それはウーファーの使い方だけではない。
ホーンに関しても共通するものがある。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・その2)

アルテックとJBLの新しいホーン。
共通するところがあると同時に、そうでないところもある。

まずアルテックのマンタレーホーンMR94は奥行き71.1cm、開口部は86.4×161.0cmという、かなり大型である。
JBLの4430、4435に搭載されたバイラジアルホーンは、かなり短い。正確な寸法はわからないが、
写真を見ても、その短さはかなり特徴的ですらある。

バイラジアルホーン(マンタレーホーン)以前のホーンでも、
アルテックとJBLのホーンを比較すると、JBLはショートホーンであることが多い。
4350に搭載されているホーン2311-2308は短い。
2308がスラントプレートの音響レンズの型番で、2311がホーンの型番で、2311の奥行きは11.7cmしかない。
これでカタログに掲載されているクロスオーバー周波数は800Hzとなっている。

同じ時期のアルテックのホーンでクロスオーバー周波数が800Hzになっている811Bの奥行きは34.0cmある。

JBLのホーンが短い(短くできる)のにはわけがある。
そして短くしたことによるメリットとして、ホーンにつきまとうホーン臭さの要因でもあるホーン鳴きは、
当然、長いホーンよりも抑えられるわけだ。

JBLはバイラジアルホーンでも、このメリットを活かしている。
もっともその後JBLから単体ホーンとして登場したバイラジアルホーン2360、2366の奥行きは、
それぞれ81.5cm、139.0cmとかなり長い。

同時期のバイラジアルホーン2380、2385の奥行きは、どちらも23.6cm。
このホーンのカットオフ周波数は400Hzで、推奨クロスオーバー周波数は500Hzとなっている。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・その1)

ステレオサウンド 61号の新製品紹介のページに、JBLの4430と4435が取り上げられている。
菅野先生が書かれている。

4345に関しては半年ほど前に、4345という4343の上級機が登場するというアナウンスがあったのに対して、
4430、4435は型番からもわかるように、まったく新しいスタジオモニター・シリーズあるにも関わらず、
そういった事前のインフォメーションはまったくなく、いきなり登場した。

しかもその姿、システム構成のどちらも、それまで4300シリーズを見てきた者には驚く内容だった。
まず2ウェイであること。中高域はホーン型が受け持つが、そのホーンの形状がいままでみたことのないものだった。

バイラジアルホーンと呼ばれる、そのホーンは、注意深くみていくと、
前号(60号)の特集に登場したアルテックの、
これもまた従来のホーンとは大きく異る形状のマンタレーホーンと共通するところが見いだせる。

ホーン奥のスリットがどちらも縦に細長い。
音響レンズつきJBLのホーンの場合、ドライバーの取り付け部の形状は丸。
ドライバーの開口部も丸だから、そのまま取り付けられる。
JBLのホーンでもディフラクションホーン、ラジアルホーンはドライバー取り付け部は四角なため、
ドライバーとホーンとの間に丸から四角へと形状を変化させるスロートアダプターが必要となる。

つまりバイラジアルホーン以前のホーンでもホーン奥のスリットは長方形だった。
だが同じ長方形でもバイラジアルホーン以前は約1:3ほどの縦横比だったのに対し、
バイラジアルホーンではそうとうに細長くなっている。

ステレオサウンド 60号に載っているアルテックのマンタレーホーンをみると、
その細長いスリットがかなり奥に長い。開口部の広がり方もいままでのホーンを見慣れた目には特異にうつる。

くわしいことはわからなくとも、60号のアルテックのマンタレーホーン、61号のJBLのバイラジアルホーン、
新しいホーンが登場したことははっきりとわかった。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: re:code

re:code(その5)

記事の本数が4300になった時点で、JBLの4300シリーズのことを書き始めた。
まだ書いている。もう少しというか、まだまだ書いていくことがある。

いま4350のことを書いている。
4350の音を思い出しながら、
4350でいま聴いてみたいレコード(録音物)のことを思いながら書いていて気づくのは、
JBLのスピーカーの音の特質について、である。

4350の音は、生よりも生々しい。生を超える迫真性とでもいいたくなるリアリズムがある。
それがいったいどういうところから来るものなのか、
レコード(録音物)を家庭で再生するという行為において、
このJBLならではの特質はどう活きてくるのか、どう捉えるべきなのか。

こんなことを考えていた。
そして、二年前に書いていたことが浮んできた。

re:codeについて、である。
これからどういうふうに書いていくのかはまったく決めていないし、わからない。
けれど、re:codeについて書く必要がある、ということは実感している。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: audio wednesday

第41回audio sharing例会のお知らせ(試聴ディスクのこと)

いまJBLの4350について書いている。
その中でチャック・マンジョーネの「サンチェスの子供たち」のことについてふれたことで、
facebookで、このことが話題になった。
いくつかのコメントの中で、試聴ディスクについて知りたい、というのがあった。

最近では視聴と書く人が、少なくともインターネットでは多くなってきているが、
あくまでも試聴であり、試聴のためにかけるディスクを試聴ディスク、試聴LP、試聴CDという。

ステレオサウンドで働いていたから、かなりの数の試聴ディスクを聴いてきた。
それ以前、ステレオサウンドの読者だったころも、どんなディスクを使われているのかは非常に興味があった。

試聴ディスクとは、いったいどういうものなのか。
どういう基準によって、試聴ディスクを選ぶのか。

いわゆる優秀録音と呼ばれていれば試聴ディスクとして十分なのたろうか。

試聴といっても、例えばスピーカーやアンプの総テストでは、
かなりの数のスピーカーなりアンプを聴く。
そういうときに使うのも試聴ディスクである。

一方で新製品として登場してきたスピーカーなりアンプを聴くときに使うのも試聴ディスクである。

さらに試聴室でもいい、自分のリスニングルームでもいい。
あるシステムからいい音を抽き出すために調整していくために聴くディスクもまた試聴ディスクである。

試聴ディスクで、ひとつのテーマになる。

来月のaudio sharing例会では、この試聴ディスクをテーマにしようと思っている。

6月のaudio sharing例会は、4日(水曜日)です。
時間はこれまでと同じ、夜7時です。

場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 5月 24th, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その14)

「サンチェスの子供たち」と同時期のレコードで、すぐに浮んでくるのは、
フィリップスから出ていたコリン・デイヴィスによるストラヴィンスキーの「春の祭典」と「火の鳥」がある。
これらも試聴レコードとして登場していた。

ステレオサウンド 53号の瀬川先生の4343の記事にも「春の祭典」は出てくる。
〈「春の祭典」のグラン・カッサの音、いや、そればかりでなくあの終章のおそるべき迫力に、冷や汗のにじむような体験をした記憶は、生々しく残っている。〉
何度も読み返しては、その音を想像していた。

国産ブックシェルフの、25cmウーファーでも、
「サンチェスの子供たち」、「春の祭典」、「火の鳥」の録音がいいことははっきりとわかったし、
低音の凄さは伝わってくる。
とはいってもプリメインアンプで鳴らし、音量もけっこう出せた環境とはいえ、
4343、4350Aでこれらのディスクを鳴らしたのと比較すれば、違いは大きいのはわかっていても、
どのくらいの違いなのかは、はっきりとわからなかったころでもあり、
よけいに想像を逞しくしていた。

これらのディスクを4343で聴く機会はわりとすぐにあった。
瀬川先生が熊本のオーディオ店に定期的に来られていた時期があったからだ。
4343を内蔵ネットワークで鳴らして、これだけの音が鳴るのだから、
4343をマークレビンソンのML2のブリッジで低域を鳴らしたときの音はいったいどういうレベルなのか、
さらに4350Aを、やはりML2のブリッジで低域を受け持たせたときの凄さとは、いったいどういう音なのか。

本を読み、その音を想像し、
そのディスクを買ってきて自分のシステムで鳴らし、4343、4350Aでの音を想像する。
4343で同じディスクを聴けば、ML2のブリッジで鳴らした音を想像する──。

Date: 5月 24th, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その13)

瀬川先生のスイングジャーナルでの4350Aの組合せ記事、
ステレオサウンド 53号での4343のバイアンプの記事、
どちらにもチャック・マンジョーネの「サンチェスの子供たち」が出てくる。

「サンチェスの子供たち」は黒田先生も、ステレオサウンド 49号で、
「さらに聴きとるものとの対話を」で取り上げられている。

このころからステレオサウンドの試聴用レコードとしてもでてくようになってきた。

チャック・マンジョーネのレコードは一枚も持っていなかった私も、
ステレオサウンドをみて「サンチェスの子供たち」を買った。
輸入盤を買った(たぶん輸入盤しかなかったようにも記憶している)。

「サンチェスの子供たち」は二枚組だった。
いわゆるサントラ盤である。

一枚目の一曲目から聴いていく。
ギターを伴奏にドン・ポッターが、チャック・マンジョーネの詩による「サンチェスの子供たち序曲」を歌う。
歌が終ると、曲調は一変する。
ここが、実にスリリングである。

この序曲を4350Aで聴いたら、さぞかしスリリングだと思う。

当時はLPで聴いていた。
いまはCDで聴けるようになっている。

30年以上前のレコード。
当時はブックシェルフ型スピーカーだった。ウーファーの口径は25cmだった。
それからいろんなシステム(スピーカー)で、このディスクを聴いてきた。
その度に音は変る。

その意味で、レコードにおさめられている音楽は、決して不動でも不変でもない、といえる。
けれど、LPにしろCDにしろ、レコードそのものは変っていない。

30数年前、まだ高校生のころ買った「サンチェスの子供たち」のLP(いまも実家にある)は、
ジャケットに多少傷みはあるけれど、何かが変ったわけではない。

レコード(LP、CD)とはそういうものであり、
そういうものだからこそ、思い出させてくれる存在でもある。