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Date: 8月 29th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その23)

トランスのことに話を戻そう。

重量物であるトランスをうまく配置して、重量バランスがとれたからといって、
トランスが複数個あることによる問題のすべてが解消するわけではない。

トランスは、まず振動している。
ケースにおさめられ、ケースとトランスの隙間をピッチなどが充填されていても、
トランスの振動を完全に抑えられるわけではない。

トランスはそれ自体が振動発生源である。
しかも真空管パワーアンプでは複数個ある。
それぞれのトランスが,それぞれの振動を発生している。

チョークコイルも、特にチョークインプット方式での使用ではさらに振動は大きく増す。
しかも真空管アンプなのだから、能動素子は振動の影響を受けやすい真空管である。

一般的な真空管アンプのように、一枚の金属板に出力トランス、電源トランス、チョークコイル、
そして真空管を取り付けていては、振動に関してはなんら対策が施されていないのと同じである。

トランスと金属板との間に緩衝材を挿むとか、
その他、真空管ソケットの取付方法に細かな配慮をしたところで、
根本的に振動の問題を解消できるわけではない。

もちろん、振動に関して完璧な対策があるわけではないことはわかっている。
それでも真空管アンプの場合、
トランスという振動発生源が大きいし多いから、
難しさはトランジスターアンプ以上ということになる。

30年ほど前、オルトフォンの昇圧トランスSTA6600に手を加えたことがある。
手を加えた、というより、STA6600に使われているトランスを取り出して、
別途ケースを用意して、つくりかえた。

その時感じたのは、トランスの周囲にはできるだけ金属を近づけたくない、だった。
STA6600のトランスはシールドケースに収められていた。
すでにトランスのすぐそばに金属があるわけだが、
それでも金属板に取り付けるのは、厚めのベークライトの板に取り付けるのとでは、
はっきりと音は違う。

金属(アルミ)とベークライトの固有音の違いがあるのもわかっているが、
それでも導体、非導体の違いは少なからずあるのではないのか。

そう感じたから、トランスの周りからは配線以外の金属は極力排除した。
ベークライトの板を固定する支柱もそうだし、ネジも金属製は使用しなかった。

Date: 8月 28th, 2018
Cate: 戻っていく感覚

二度目の「20年」(続・初期衝動)

初期衝動を照れることなく、まして恰好つけることなく、
ただただ真っ正面から見ることができなければ、
初期衝動を素直にことばにすることはできない。

それができたとして、誰かに読んでもらうとかそういうことではなく、
ただただ自分のために、初期衝動をはっきりとことばにする必要はある。

ここにきて、やっとそう感じるようになった。

Date: 8月 27th, 2018
Cate: audio wednesday

第92回audio wednesdayのお知らせ(ULTRA DACを聴く)

7月半ばに「MQAで聴けるグラシェラ・スサーナ」を書いた。
これを憶えていた人ならば、9月5日のaudio wednesdayでのテーマというか、
メインとなるオーディオ機器がなんなのか、ある程度察しがついていたはずだ。

MQA対応のD/Aコンバーターである。
対応機種は、いまではメリディアン以外にもあるが、
今回聴くのはメリディアンのULTRA DACである。

メリディアンは、日本に輸入がはじまったばかりのころは、
ブースロイド・スチュアートだった。
型番にメリディアンとついていた。

モジュールアンプと呼ばれていた、と記憶している。
その後、パワーアンプ内蔵のフロアー型スピーカーシステムM1が登場した。
このころにはメリディアンがブランド名になっていた。

M1のスコーカーをいま眺めていると、ATCのドーム型スコーカーによく似ている。
メリディアンのスピーカーシステムは、パワーアンプ内蔵の、いわゆるアクティヴ型だった。
M20は、置き場所さえ確保できていたら、購入していたであろう。

メリディアンはCDプレーヤーも、イギリスのメーカーとしては早かった。
マランツ(フィリップス)のCD63をベースにネクステル塗装を施し、
アナログ回路にメリディアン独自の回路を採用したモノだった。

実際には高域の周波数特性を、あるところから1dBか2dBほどレベルを下げていた。
その後、アナログ回路に徹底的に取り組んだMCD-Proも出た。

アンプは、というと、MCAというユニークなプリメインアンプがあったし、
ここでも初期の製品にあったモジュールアンプという設計思想ははっきりとあった。
アンプもCDプレーヤーは、大きいモノはなかった。

アクティヴ型スピーカーシステム、デジタル技術にも積極的なメリディアンだけに、
スピーカーシステムに、デジタル信号処理技術を導入することも早かった。

メリディアンらしい、といえたし、
このころからメリディアンのオーディオ機器のサイズは大きくなっていく。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。
19時開始です。

Date: 8月 26th, 2018
Cate: 戻っていく感覚

好きな音、好きだった音(その9)

《狂気と見まごうばかりの尋常ならざる冷静さ》、
黒田先生の、モーツァルトのピアノソナタでのグレン・グールドの演奏について表現。

瀬川先生が、ステレオサウンド 53号でJBLの4343を、
同じころのスイングジャーナルで4350Aを、
それぞれマークレビンソンのML2のブリッジ接続で低域を、
通常の使い方でのML2で中高域を鳴らす、オール・レビンソンによるバイアンプ駆動の音、
これこそまさに《狂気と見まごうばかりの尋常ならざる冷静さ》だったように思う。

もちろんどちらの音も聴いていない。
ML2のブリッジの音は聴いている。
ML2の音も何度も聴いている。
4343のバイアンプ駆動の音もネットワーク使用時の音も、
4350Aの音も聴いている。

瀬川先生の文章も、何度読み返したことか。
聴いてみたい、と思ったし、いま聴いてみたい、と思う。

聴いてみたいと思っているのは、誰かが鳴らしたML2(六台)によるバイアンプ駆動の音ではなく、
瀬川先生が鳴らした4343、4350Aの音であるのだから、
思うこと自体が馬鹿馬鹿しい、ということになるんだろうが、
どんなに聴きたくとも聴けなかった音があるからこそ、オーディオマニアなんだ、ともいまはおもう。

そういう音をもたない者は、どんなにオーディオ機器にお金を注ぎ込んでいたとしても、
オーディオマニアではない、と断言できる。

聴けなかった──、
けれど、いまは、聴けなかった、その音を
《狂気と見まごうばかりの尋常ならざる冷静さ》と捉えるようになった。

その音は、きっと《狂気と見まごうばかりの尋常ならざる冷静さ》の極限、
少なくとも、あの時点(1979年)でのひとつのいきついたところでの音だったはずだ。

けれど《狂気と見まごうばかりの尋常ならざる冷静さ》ばかりが、
音ではないし、音楽でもないわけだから、
53号の最後に、瀬川先生は《どこか一ヵ所、私の求めていた世界とは違和感があった》
と書かれたのだろう。

Date: 8月 26th, 2018
Cate: 戻っていく感覚

二度目の「20年」(初期衝動)

「五味オーディオ教室」を最初に読んだ時の初期衝動を、
いま強引におもい出している。

Date: 8月 25th, 2018
Cate: デザイン

プリメインアンプとしてのデザイン、コントロールアンプとしてのデザイン(その6)

ヤマハのコントロールアンプといえば、私の年齢では、
まずC2とCIがすぐに浮ぶ。

C2は薄型の、
CIはコントロールアンプとして、テクニクスのSU-A2が出るまで最も多機能なアンプだった。

CIは、C2と違い、大きく重たかった。
そのころのプリメインアンプよりも大きく重たかった、という印象があるほどだ。
メーターもついていた。

それでもCIを、プリメインアンプだとは一度も思ったことはない。
コントロールアンプとしてのフロントパネルを持っていた。

そのころのヤマハのプリメインアンプにはCA2000、CA1000IIIなどがあった。
その後、A1が登場し、ヤマハのプリメインアンプのデザインも変化していく。

コントロールアンプもそうだった。
CI、C2のあとに、やや安価なC4、C6が出て、C50、C70も出てきた。
それからヤマハ100周年記念モデルとして、1986年にCX10000が登場した。

CX10000もCI同様の大きさと重さだった。
それでもコントロールアンプのデザインだった。
C4、C6などもそうだった。プリメインアンプと見間違うようなフロントパネルではなかった。

同じことはヤマハのプリメインアンプにもいえた。
コントロールアンプ的なフロントパネルをもつモノはなかった。

そういうことはきちんとしてメーカーである、とヤマハを認識していた。
だからこそ、ヤマハの5000番のコントロールアンプが、どういうデザインで登場するのか、
秘かに期待していた。

けれど、実際のC5000は、なんともプリメインアンプ的である。

Date: 8月 25th, 2018
Cate: デザイン

プリメインアンプとしてのデザイン、コントロールアンプとしてのデザイン(その5)

(その5)を書こうと思いながら、
あれこれ検索していたら、
ヤマハのアナログプレーヤーGT5000がオーストリアでは正式に発表になっているのを見つけた。

たしかに、日本ではまだ正式発表にはなっていなかった──、と思いながらスクロールしていったら、
Related ProductsとしてスピーカーシステムのNS5000といっしょに、
コントロールアンプのC5000パワーアンプのM5000も、そこには表示されていた。

NS5000発表のときから、いずれ5000番シリーズのセパレートアンプが出るのだろうと、
誰もが思っていたはず。
なので、特に驚きはないけれど、
今年11月のインターナショナルオーディオショウでお披露目か、と少しは期待している。

これで5000番シリーズで、音の入口から出口まで一応は揃った。
あとはCDプレーヤーを、どう出してくるか、である。
もしかすると、CDプレーヤーではなく、
新しいコンセプトのデジタルプログラムソース機器なのかもしれない。

なぜ、ここでC5000、M5000が発表されていることを書いているか、といえば、
C5000のデザインを見て、プリメインアンプなのか、と思ってしまったからである。

リアパネルを見れば、しっかりとコントロールアンプであることはわかる。
けれどフロントパネルは、なんともいえず、プリメインアンプにしか見えない。

しかもプリメインアンプとしてトップクラスのモノを思わせるのならばまだしも、
少なくとも写真を見るかぎりでは、中級クラスのプリメインアンプに見えてしまう。

実際にツマミやボリュウムに触れれば、
中級クラスのプリメインアンプとはあきらかに違う感触をもっているんだなろうな──、
とは思っているが、それにしても、なぜ、いま、このデザイン? と思わずにはいられない。

Date: 8月 24th, 2018
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その30)

ステレオサウンド 59号で《まして、鳴らし込んだ音の良さ、欲しいなあ》と、
瀬川先生が吐露するような書き方をされていた。

瀬川先生がJBLのパラゴンを自分のモノとされていたら、
どんな組合せで、どんな音で鳴らされただろうか。

リスニングルームがどうであったかによっても音量は変ってくるのはわかっている。
音量を気にせずに鳴らされる環境であっても、
瀬川先生はパラゴンを鳴らされる時、じつにひっそりした音量だったのではないか、と思う。

LS3/5Aが鳴らす世界を、ガリバーが小人の国のオーケストラを聴いている、と表現されたように。

パラゴンとLS3/5Aとでは、スピーカーシステムとしての規模がまるで違う。
搭載されているユニットを比較しても明らかである。

それでもパラゴンにぐっと近づいての、ひっそりした音量で聴く──。
椅子に坐ってであれば、斜め上から小人のオーケストラを眺めるような感じで、
床にじかに坐ってならば、小人のオーケストラのステージに顎を乗せて向き合う感じで。

そんな聴き方をされた、と思う。
だからアンプは精緻な音を出してくれなければならない。

そういえば瀬川先生はパラゴンの組合せとして、
マークレビンソンのLNP2とスレッショルドの800Aというのが、
「コンポーネントステレオのすすめ・改訂版」にあったのを思い出す。

Date: 8月 24th, 2018
Cate: 複雑な幼稚性

「複雑な幼稚性」が生む「物分りのいい人」(理解についての実感・その15)

ステレオサウンド 207号での柳沢功力氏のYGアコースティクスのHailey 1.2の試聴記、
その見出しは、次の通り。

《「ベイシー」では居並ぶブラスの金属色を
 最高の輝きで盛り上げ、音の抜けもよく鳴りも闊達》

私も見出しはよくつけていた。
特集が総テストの場合、一機種ごとの試聴記に見出しをつけていく。

基本的には試聴記から、できるだけいいところを拾い出してまとめるわけだが、
ローコストのモデルだと、なかなかそれが難しかったりする。

しかも文章を書くのと、見出しをつけていくのとでは、どこかでスイッチを切替えるようなところもある。
総テストの試聴記に見出しをつけていく場合、
つけやすいのからやっていくのが効率がいいように思えるのだが、
私は必ず低価格のモデルから、つまり登場順に見出しをつけていっていた。

見出しをつけはじめの数機種は、意外に時間をくう。
切替えがスムーズにいかないのと、試聴記の内容がやや厳しかったりするからだ。
それでも数本つけていくと、あとはかなりのスピードで処理していける。

今回のHailey 1.2の柳沢功力氏の試聴記の見出しは、あまりいい出来とは思わない。
試聴記が厳しいものだから、とはいえ、ベイシーのディスクのところだけの抜き書きでしかない。
しかも柳沢功力氏の、その部分を読むと、そこでも決してよく鳴っていた、とは読めない。

《ギンギンの再生》とあるし、
《強打するドラムスは最低域だけを「ドン!」と鳴らした》とある。

チクリチクリとしたところのある試聴記であり、
見出しはその部分の、さらなる抜き書きである。

見出しは、編集者の仕事である。
それはいまも同じはずだ。

ステレオサウンド編集部の誰かがつけた見出し。
それに染谷一編集長はOKを出しているから、誌面に載っている。

いまのステレオサウンドの見出しは、ネガティヴなことは少しでも除外しているように思える。

そのことを考慮して私が見出しをつけるなら、こうなる。
(かなり遠慮気味なので、いい出来とは思っていないし、五分以内と制約つきでのもの)

《木の音のような膨らみはなく、克明な音がする。
 表情は繊細にして緻密で、特有のリアリティを生む》

Date: 8月 24th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その22)

ここまで書いてきて、また横路に逸れそうなことを思っている。
現代真空管アンプとは、いわゆるリファレンス真空管アンプなのかもしれない、と。

ステレオサウンド 49号の特集は第一回STATE OF THE ART賞だった。
Lo-DのHS10000について、井上先生が書かれている。
     *
 スピーカーシステムには、スタジオモニターとかコンシュマーユースといったコンセプトに基づいた分類はあが、Lo-DのHS10000に見られるリファレンススピーカーシステムという広壮は、それ自体が極めてユニークなものであり、物理的な周波数特性、指向周波数特性、歪率などで、現在の水準をはるかに抜いた高次元の結果が得られない限り、その実現は至難というほかないだろう。
     *
こういう意味での、リファレンス真空管アンプを考えているのだろうか、と気づいた。
製品化することを前提とするものではなく開発されたオーディオ機器には、
トーレンスのReferenceがある。

ステレオサウンド 56号で、瀬川先生がそのへんのことを書かれている。
     *
「リファレンス」という名のとおり、最初これはトーレンス社が、社内での研究用として作りあげた。
アームの取付けかたなどに、製品として少々未消化な形をとっているのも、そのことの裏づけといえる。
 製品化を考慮していないから、費用も大きさも扱いやすさなども殆ど無視して、ただ、ベルトドライヴ・ターンテーブルの性能の限界を極めるため、そして、世界じゅうのアームを交換して研究するために、つまりただひたすら研究用、実験用としてのみ、を目的として作りあげた。
 でき上った時期が、たまたま、西独デュッセルドルフで毎年開催されるオーディオ・フェアの時期に重なっていた。おもしろいからひとつ、デモンストレーション用に展示してみようじゃないか、と誰からともなく言い出して出品した。むろん、この時点では売るつもりは全くなかった??、ざっと原価計算してみても、とうてい売れるような価格に収まるとも思えない。まあ冗談半分、ぐらい気持で展示してみたらしい。
 ところが、フェアの幕が開いたとたんに、猛反響がきた。世界各国のディーラーや、デュッセルドルフ・フェアを見にきた愛好家たちのあいだから、問合せや引合いが殺到したのだそうだ。あまりの反響の大きさに、これはもしかしたら、本気で製品化しても、ほどほどの採算ベースに乗るのではないだろうか、ということになったらしい。いわば瓢箪から駒のような形で、製品化することになってしまった……。レミ・トーレンス氏の説明は、ざっとこんなところであった。
     *
トーレンスのReferenceには、未消化なところがある。
扱いやすいプレーヤーでもない。
あくまでもトーレンスが自社の研究用として開発したプレーヤーをそのまま市販したのだから、
そのへんは仕方ない。

その後、いろいろいてメーカーからReferenceとつくオーディオ機器がいくつも登場した。
けれど、それらのほとんどは最初から市販目的の製品であって、
肝心のところが、トーレンスのReferenceとは大きく違う。

Lo-DのHS10000も、市販ということをどれだけ考えていたのだろうか。
W90.0×H180.0×D50.0cmという、かなり大きさのエンクロージュアにもかかわらず、
2π空間での使用を前提としている。

つまりさらに大きな平面バッフルに埋めこんで使用することで、本来の性能が保証される。
価格は1978年で、一本180万円だった。
しかもユニット構成は基本的には4ウェイ5スピーカーなのだが、
スーパートゥイーターをつけた5ウェイへの仕様変更も可能だった。

HS10000も、せひ聴きたかったスピーカーのひとつであったが、
こういう性格のスピーカーゆえに、販売店でもみかけたことがない。
いったいどれだけの数売れたのだろうか。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 岩崎千明, 瀬川冬樹

岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代(その10)

1978年の終り近くに「オーディオ彷徨」が出た。
ステレオサウンド 49号に黒田先生による書評が載っている。

そこに、こう書いてある。
     *
 目次の前に、「愛聴盤リスト」がのっています。これは、この本を編集を担当した細谷信二さんに個人的にたのんで、のせてもらったものです。岩崎さんの書き残されたものを読みたいと思うんなら、岩崎さんがどんなレコードを日頃おききになっていたのかを知りたいにちがいないと考えたからです。かくいうぼく自身が、それを知りたいと思いました。ですから、まずそれを、じっくりながめました。
     *
五年前に「良い音とは 良いスピーカーとは?」が出た。
いまも書店に並んでいたりする。
一年ほど前に手にとって奥付をみたら、三刷とあった。
売れているのだろう。

けれど、「良い音とは 良いスピーカーとは?」には瀬川先生の「愛聴盤リスト」は載ってない。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その21)

これまで市販された真空管パワーアンプを、
トランスの配置(重量配分)からみていくのもおもしろい。

ウエスギ・アンプのU·BROS3は、シャーシーのほぼ中央(やや後方にオフセットしているが)に、
出力トランス、電源トランス、出力トランスという順で配置している。
重量物三つをほぼ中央に置くことで、重量バランスはなかなかいい。

同じKT88のプッシュプルアンプのマイケルソン&オースチンのTVA1は、
シャーシーの両端にトランスを振り分けている。
片側に出力トランスを二つを、反対側に電源トランスとなっている。

電源トランスは一つだから、出力トランス側のほうに重量バランスは傾いているものの、
極端なアンバランスというほどではない。

ラックスのMQ60などは、後方の両端に出力トランスをふりわけ、前方中央に電源トランス。
完璧な重量バランスとはいえないものの、けっこう重量配分は配慮されている。

(その20)で、マッキントッシュのMC275、MC240はアンバランスだと書いたが、
MC3500はモノーラルで、しかも電源トランスが二つあるため、
内部を上から見ると、リアパネル左端に出力トランス、フロントパネル右端に電源トランスと、
対角線上に重量物の配置で、MC275、MC240ほどにはアンバランスではない。

現行製品のMC2301は、マッキントッシュのパワーアンプ中もっとも重量バランスが優れている。
シャーシー中央にトランスを置き、その両側に出力管(KT88)を四本ずつ(計八本)を配置。

出力は300W。MC3500の350Wよりも少ないものの、MC3500の現代版といえる内容であり、
コンストラクションははっきりと現代的である。
2008年のインターナショナルオーディオショウで初めてみかけた。
それから十年、ふしぎと話題にならないアンプである。
音を聴く機会もいまのところない。

インターナショナルオーディオショウでも、音が鳴っているところに出会していない。
いい音が鳴ってくれると思っているのに……。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その20)

真空管パワーアンプは、どうしても重量的にアンバランスになりがちだ。
出力トランスがあるから、ともいえるのだが、
出力トランスをもたないOTLアンプでも、
カウンターポイントのSA4やフッターマンの復刻アンプでは、重量的アンバランスは大きかった。

電源トランスが一つとはいえ、真空管のOTLアンプではもう一つ重量物であるヒートシンクがないからだ。
SA4を持ち上げてみれば、すぐに感じられることだが、フロントパネル側がやたら重くて、
リアパネル側は軽すぎる、といいたくなるほどアンバランスな重量配分である。

重量的アンバランスが音に影響しなければ問題することはないが、
実際は想像以上に影響を与えている。

出力トランスをもつ真空管アンプでは、重量物であるトランスをどう配置するかで、
アンプ全体の重量配分はほぼ決る。

ステレオアンプの場合、出力トランスが二つ、電源トランスが一つは、最低限必要となる。
場合によってはチョークコイルが加わる。

マッキントッシュのMC275やMC240は、重量配分でみれば、そうとうにアンバランスである。
マランツのModel 8B、9もそうである。
ユニークなのはModel 2で、電源トランス、出力トランスをおさめた金属シャーシーに、
ゴム脚が四つついている。
この、いわゆるメインシャーシーに突き出す形で真空管ブロックのサブシャーシーがくっついている。

サブシャーシーの底にはゴム脚はない。いわゆる片持ちであり、
強度的には問題もあるといえる構造だが、重量的アンバランスはある程度抑えられている、ともいえる。

Model 5は奥に長いシャーシーに、トランス類と真空管などを取り付けてある。
メインシャーシー、サブシャーシーというわけではない。
このままではアンバランスを生じるわけだが、
Model 5ではゴム脚の取付位置に注目したい。

重量物が寄っている後方の二隅と、手前から1/3ほどの位置に前側のゴム脚がある。
四つのゴム脚にできるだけ均等に重量がかかるような配慮からなのだろう。

でもシャーシー手前側は片持ち的になってしまう。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その19)

定電流点火のやっかいなのは、作るのが面倒だという点だ。
回路図を描くのは、いまでは特に難しくはない。

けれど作るとなると、熱の問題をどうするのかを、まず考えなくてはならない。
それに市販の真空管アンプ用の電源トランスではなく、
ヒーター用に別個の電源トランスが必要となってくる。

もっとも真空管アンプの場合、高電圧・低電流と低電圧・高電流とを同居しているわけで、
それは電源トランスでも同じで、できることならトランスから分けたいところであるから、
ヒーター用電源トランスを用意することに、特に抵抗はないが、
定電流回路の熱の問題はやっかいなままだ。

きちんとした定電流点火ではなく、
単純にヒーター回路に抵抗を直列に挿入したら──、ということも考えたことがある。

たとえば6.3Vで1Aのヒーターだとすれば、ヒーターの抵抗は6.3Ωである。
この6.3Ωよりも十分に高いインピーダンスで点火すれはいいのだから、
もっとも安直な方法としては抵抗を直列にいれるという手がある。

昔、スピーカーとアンプとのあいだに、やはり直列に抵抗を挿入して、
ダンピングをコントロールするという手法があったが、これをもっと積極的にするわけで、
たとえば6.3Ωの十倍として63Ωの抵抗、さらには二十倍の126Ωの抵抗、
できれば最低でも百倍の630Ωくらいは挿入したいわけだが、
そうなると、抵抗による電圧低下(630Ωだと630Vになる)があり、
あまり高い抵抗を使うことは、発熱の問題を含めて現実的ではない。

結局、定電流点火のための回路を作ったほうが実現しやすい。
定電流の直流点火か交流点火なのか、どちらが音がいいのかはなんともいえない。

ただいえるのは定電流点火をするのであれば、ヒーター用トランスを用意することになる。
それはトランスの数が増えることであり、トランスが増えることによるデメリット、
トランス同士の干渉について考えていく必要が出てくる。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その18)

ここまでやるのならば、ヒーター点火の周波数を50Hz、60Hzにこだわることもない。
もう少し高い周波数による交流点火も考えられる。
十倍の500Hz、600Hzあたりにするだけでも、そうとうに音は変ってくるはずだ。

そのうえで定電流でのバランス点火とする手もある。

つまりヒーター用電源を安定化するということは、
真空管のエミッションを安定化するということであり、
ヒーターにかかる電圧を安定化するということではない。

エミッションの安定化ということでは、重要なパラメーターは電圧ではなく電流なのだろう。
そうなると定電流点火を考えていくべきではないのか。

300Bだろうが、EL34、KT88だろうが、真空管全盛時代のモノがいい、といわれている。
確かに300Bをいくつか比較試聴したことがあって、刻印タイプの300の音に驚いた。

そういう球を大金を払って購入するのを否定はしないが、
そういう球に依存したアンプは、少なくとも現代真空管アンプとはいえない。

現代真空管アンプとは、現在製造されている真空管を使っても、
真空管全盛時代製造の真空管に近い音を出せる、ということがひとつある。
そのために必要なのは、エミッションの安定化であり、
それは出力管まで定電流点火をすることで、ある程度の解決は見込める。

もちろん、どんなに優れた点火方法であり、100%というわけではないし、
仮にそういう点火方法が実現できたとしても、
真空管を交換した場合の音の違いが完全になくなるわけではない。

それでも真空管のクォリティ(エミッションの安定)に、
あまり依存しないことは、これからの真空管アンプには不可欠なことと考える。