録音は未来/recoding = studio product(菅野沖彦・保柳健 対談より・その2)
「体験的に話そう──録音の再生のあいだ」での菅野先生の発言は、
レコード演奏という行為は、再生側だけの行為でなく、
録音側においても同じであることがうかがえる。
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菅野 録音するというのも、まず、自分の気に入った楽器で、気に入った演奏家でないと、全くのらないわけです。まあ、録音というのは、ある程度メカニックな仕事ですから、のらなくても、それは仕事が全然できないという意味ではないのですが、わがつまかもしれていが、我慢できないのです。
保柳 あなたの場合、録音するということがプレイするというような……。
菅野 それなんですよ。甚だ失礼ないい方をしますとね、演奏家を録音するというのと違うんですね。誤解されやすいいい方になってしまうのですが、録音機と再生機を使って自分で演じちゃうようなところがあるのです。
保柳 やはりね。どうもそんな感じがしていたのです。菅野さんは、おそらく、そういう録音をして作ったレコードにたいへんな愛着を持っているのではないですか。
菅野 それはね、実際にそこで演奏しているのは演奏家なのですけれど、自分の作ったレコードは、あたかも自分で演奏しているような、つまり演奏家以上に、私の作ったレコードに愛着を持っているんではないかと思われるくらいなんです。
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ステレオサウンド 47号に掲載されているから、いまから39年前のことであり、
菅野先生もまだレコード演奏家論を発表されていなかった。
「体験的に話そう──録音の再生のあいだ」という対談は、
当時読んだときよりも、いま読み返した方が、何倍もおもしろく興味深い。
保柳健氏については、47号掲載の略歴を引用しておく。
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文化放送ディレクターとして出発。各種番組に手をそめ、後に独立。わが国で初めての放送音楽プロダクション:を創設。音楽中心に、ルポからドラマまで幅広い番組制作を行う。現在はフリーのプロデューサーであり、ライターである。氏と同年代で、常になんらかの係り合いを持ってきた人たちに、菅野沖彦氏、レコード・プロデューサー高和元彦氏、オーディオ評論の若林駿介氏などがいる。保柳師の言葉をかりれば、「われわれはどういうわけか、現場から離れられない」。と、いう昭和ひとけた生まれである。
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「体験的に話そう──録音の再生のあいだ」がおもしろいのは、
保柳氏だから、ということが大きい。
録音という仕事を長年されながらも、
菅野先生と保柳氏は、立ち位置の違いがはっきりとあることが、
「体験的に話そう──録音の再生のあいだ」を読んでいくとわかるし、
その違い(コントラスト)があるからこそ、
菅野先生の録音へのアプローチが、はっきりと浮び上ってくる。