Date: 5月 27th, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(原音→げんおん→減音)

減音──、減りゆく音、減ってしまった音とすれば、それは録音系、再生系で失われていく音のこととなる。

マイクロフォンが空気の振動を電気信号に変換することから録音・再生のプロセスは始まるわけだが、
まずマイクロフォンが、その演奏の場にときはなたれた音のすべてを捉えているわけではない。
仮にマイクロフォンの振動板がとらえた音をなんの損失もなく100%電気信号に変換できたとしても、
マイクロフォンがすべての音を歪めずに拾えるとはいえない。

マイクロフォンには当然ながら、大きさがある。
どんな小さなマイクロフォンでもどこにマイクロフォンが設置されているのかすぐにわかる大きさはある。
マイクロフォンの中にも小さなモノもあれば比較的大きなモノもある。
つまりある大きさをもったモノが音を捉えるために設置されることで、
音の通り道の一部にマイクロフォンが立ちはだかっているのと同じことともいえる。

こんなことを考えるようになったのは、1980年ごろにアムクロン(クラウン)がPZMを出したからだ。
PZM(Pressure Zone Microphone)を、
(たしか無線と実験だったと記憶しているが)最初記事を読んだ時は、
なぜこういうマイクロフォンにする必要があるのか、なかなか理解できなかった。

私がPZMの記事を見かけたのは、その一回きりだったし、実際に使ったことはない。
録音においてどんな特徴をもつのかはわからない。
それでも、いまもクラウンがPZMを作りつぐけているということは、プロの現場で支持されているからであろう。
決してキワモノのマイクロフォンではないのだと思う。

実際のところはどうなのかはわからないが、私なりにPZMの形態とその使い方から考えると、
通常のマイクロフォンを通常の設置の仕方では、
音の波紋がきれいに拡散していくのを歪めてしまう可能性があり、
それを回避するためのモノとして登場してきた──、
そう思えてならない。

Date: 5月 27th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その7)

定電流出力のパワーアンプは定電圧出力のパワーアンプが、
負荷インピーダンスの変化に関係なく一定の電圧を供給するのに対して、
負荷インピーダンスが変化してもつねに一定の電流を供給する。

オームの法則では電流の二乗に負荷インピーダンスをかけた値が電力だから、
負荷インピーダンスが高い周波数では、定電流出力のパワーアンプを使った場合には出力が増すことになる。
この出力の、負荷インピーダンスに対する変化は、定電圧出力と定電流出力とでは正反対になるわけだ。

もちろん、どの周波数においても、8Ωならつねに8Ωというスピーカー(純抵抗ごときスピーカー)ならば、
定電圧出力パワーアンプでも定電流出力のパワーアンプでも、出力においては差は生じないことになるが、
現実のスピーカーシステムはf0ではインピーダンスが上昇するし、
中高域においてもインピーダンスが多少なりとも変動するものが大半であることはいうまでもない。

スピーカーの駆動において、定電流出力がいいのか、定電圧出力がいいのかは、
日本でも1970年代ごろのラジオ技術でかなり論議された、と聞いている。
いまでもラジオ技術では定電流駆動についての実験記事が載ることがある。

実は私も、定電圧出力か定電流出力かについては、
オーディオに興味を持ちはじめたころ、疑問に思った時期がある。

電圧と電流とでは、電力に結びつくのは電流である。
スピーカーを駆動するにはパワーが必要である。
とくに低能率のスピーカーにおいてはより大きなパワーを必要とする。
ということは電流をいかに供給できるか、ということであって、
それならば定電流出力のほうが、実は本質的ではないか、と考えたわけだ。

もちろんオームの法則はすでに知っていたからf0においてインピーダンスが上昇すれば、
f0における出力は、仮に40Ωになれば5倍の出力になるわけで、
スピーカーの周波数特性はインピーダンス・カーヴそのままになることは想像できたし、
定電圧出力を前提にスピーカーシステムはまとめられていることも知ってはいた。

にもかかわらず、それでも……と思うところもあった。

Date: 5月 26th, 2012
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past)を入力していて……(続々続・作業しながら思っていること)

トリオ・ブランドでの製品、ケンウッド・ブランドの製品の中からひとつ選ぶのは、
プリメインアンプのKA7300Dである。

1977年当時、78000円だった、いわば中級クラスのプリメインアンプが、
いまも欲しいトリオのオーディオ機器である。

L02T、L02Aの例を持ち出すまでもなく、このころのトリオはケンウッド・ブランドで意欲的な製品を出していた。
完成度の高いモノもあったし、どこか実験機的な未消化の部分を残したモノもあったけれど、
ケンウッドは次はどんなアプローチをしてくるんだろうか、という楽しみ、期待もあった。

そういうケンウッド・ブランドの製品と較べると、KA7300Dには際立った特徴はない、といえばない。
トリオ・ブランドの他の製品と較べても、どこか際立っているところがあるかといえば、あまりない。

型番末尾のDからわかるように旧作KA7300をDCアンプ化したKA7300Dの登場は私が中学3年のとき。
いつかはマークレビンソンLNP2、SAE Mark2500……、そんなことを妄想している日々において、
KA7300Dはがんばれば手の届きそうなところにいてくれた、良質なアンプだった。

KA7300DとKEFの104aBを組み合わせることができたら─……、この組合せを手に入れることができたら……、
そんなことを思っていたから、いまでもトリオのオーディオ機器として真っ先に頭に浮び、
そして欲しいと思うのは、このKA7300Dとなってしまう。

このころのトリオのプリメインアンプは型番の下三桁の番号によって、
設計者が違うためなのか、音の傾向も異る、といわれていた。
300がつくシリーズはクラシックがうまくなるプリメインアンプだったようで、
KA7300Dの上級機としてKA9300もあった(価格は150000円)。

KA9300の音は聴いたことがないけれど、評判の良かったアンプである。
KA7300Dと聴き比べれば、そこには値段の差がはっきりと音に表れてくるだろうが、
KA9300には思い入れもないし、なぜか欲しいと思ったことは一度もない。
KA9300ならば、ケンウッド・ブランドのL01Aが、その後に透けて見えてくる感じがあるからだろうか。

いま冷静に振り返ってみても、この時代のプリメインアンプは充実した内容のモノが割と多かったと感じる。
だからといって、それより後に登場したアンプよりも音がいい、というわけではない。
いまとなっては旧いアンプだし、中級機だったからそれほど耐久性のあるパーツが使われているわけでもない。
手入れも必要となってくる。内部に手を入れることになったら、私だったら、少し手を加えることになる。

面倒といえばたしかにそうなんだけれども、この時代のプリメインアンプのいくつかは、
そうやって使ってみるのも楽しいだろうな、と思わせてくれる。

KA7300Dは、私にそう思わせてくれるプリメインアンプの中で、価格的に安いモノだ。

Date: 5月 25th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その6)

真空管アンプの歴史を調べてみたからといって、
ランシングが実際使っていたアンプの詳細がはっきりしてくるわけではない。

だから、どこまでいっても憶測に過ぎないのだが、
ランシングが使っていたアンプはNFBはかけられていたても、
出力トランスはNFBループに含まれていなかった、と思う。

出力段はプッシュプルだったのではないか、と思う。
D130のように高能率のスピーカーでは、ハム、ノイズが目立つ。
だから、少なくとも直熱三極管のシングルアンプということはなかったはず。

せいぜいいえるのは、このくらいのことでしかない。
にも関わらず、わざわざ「D130とアンプのこと」というテーマをたててまで書き始めたのは、
スピーカーとアンプとの関係の変化について考えてみたかったからである。

現在のスピーカーは定電圧駆動されることを前提としている。
つまり定電圧出力のパワーアンプで鳴らしたときに特性が保証されているわけだ。

定電圧アンプとは負荷インピーダンスの変化に関係なく一定の電圧を供給するというもの。
スピーカーはf0附近でインピーダンスが上昇するのがほとんどである。
定電圧アンプはf0でインピーダンスが数10Ωに上昇していてもインピーダンスが8Ωであっても、
10Vなら10Vの電圧を供給する。

オームの法則では電力は電圧の二乗をインピーダンスで割った値だから、
電圧は負荷インピーダンスの変化に関係なく一定だから、
インピーダンスの高いところでは電力(つまりパワーアンプの出力)は小さく、
インピーダンスの低いところでは大きくなる。
これはカタログを見ても、出力の項目に8Ω負荷時、4Ω負荷時のそれぞれの値をみればすぐにわかることである。

現在市販されているパワーアンプのほぼすべては定電圧出力といえる。
定電圧があれば定電流がある。
パワーアンプにも定電流出力がある。

Date: 5月 24th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その5)

リークのPoint Oneにしろウィリアムソン・アンプにしろ、
1940年代後半に出力トランスを含んで、あれだけのNFBをかけられたのは、
パートリッジ製の出力トランスがイギリスにはあったから、といえるのではないだろうか。

この時代に、アメリカでパートリッジのトランスがどれだけ流通していたのかは、私は知らない。
当時のアメリカの雑誌にあたれば、そのへんのことは掴めるだろうが、
いまのところははっきりしたことは何も書けない。

ただマッキントッシュのA116、マランツのModel 2の登場時期からすれば、
パートリッジのトランスが流通していたとしても、それほどの量ではなかったのかもしれない。

それにウィリアムソン・アンプの発表と同時期に
アメリカではオルソン・アンプが話題になっていることも考え合わせると、
少なくともランシングが生きていた時代のアメリカのパワーアンプは、
メーカー製も自作も含めて、出力トランスがNFBループに含まれることはほとんどなかったと推測できる。

1947年7月にマサチューセッツの単グルウッドで行われたRCAのラジオ・テレビショウで、
オーケストラの生演奏とレコード再生のすり替え実験で使われたアンプが、オルソン・アンプである。
ここで使われたスピーカーはLC1Aで、12台がステージの前に設置されている。

オルソン・アンプの回路構成は、6J5で増幅した後にボリュウムがはいり(いわばここがプリ部にあたる)、
双三極管6SN7の1ユニットで増幅した後に6SN7ののこりのユニットによるP-K分割で位相反転を行ない、
出力段は6F6を三極管接続したパラレルプッシュプルとなっている。
NFBはかけられてなく、出力トランスもパートリッジの分割巻きといった特殊なものを使わずにすむ。

しかもオルソン・アンプの回路図には調整箇所がない。
ウィリアムソン・アンプには、出力管のカソードに100Ωの半固定抵抗、グリッド抵抗に100Ωの半固定抵抗がある。

この時代としては特殊で高性能なトランスも必要としない、調整箇所もなし、ということで、
アマチュアにも再現性の高いように一見思えるオルソン・アンプだが、
たとえば電源部の平滑コンデンサーの定格は450V耐圧の50μF、40μF、20μFという、
当時としては大容量の電解コンデンサーを使っている。ウィリアムソン・アンプのこの部分は8μF。

いまでこそ450V耐圧の50μFの良質なコンデンサーは入手できるものの、
オルソン・アンプが発表されたころの日本製のコンデンサーには、
これだけの耐圧とこれだけの容量のものはなかったはず。

しかもオルソン・アンプの電源トランスのタップは390Vとなっていて、
これを5Y3(整流管)と50μFのコンデンサーインプットだから
出力管の6f6にかかるプレート電圧は定格ぎりぎりに近く意外に高い。
そのためRCA製の6F6を使えば問題なく動作したオルソン・アンプだが、
日本製の6F6ではすぐにヘタってしまいダメになった、という話を聞いたか、読んだことがある。

とはいえランシングはアメリカに住んでいたわけだから、こんな問題は発生しなかったわけだ。

Date: 5月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その4)

A116の回路構成は、ウィリアムソン・アンプにかなり近いものになっており、
それまでの15W-1、50W-1とはこの点でも異っている。
もちろんマッキントッシュの独自のユニティ・カップルド回路と組み合わせたものである。

このA116のほぼ2年後にマランツのModel 2が登場する。
Model 2はダンピングファクター調整機構をもっていて、そのため通常の電圧帰還のほかに電流帰還もかけている。
さらにModel 2は出力管のEL34をUL接続している。
UL(Ultra Linear)接続が「Audio Engineering」誌に発表されたのが1951年11月号のこと。

Model 2や、その後のマッキントッシュのアンプについて書いていくと脱線していくだけだからこの辺にしておくが、
アメリカにおいて出力トランスがNFBループに含まれるようになり、
しかも安定したNFBがかけられるようになっていったのは1950年代の半ばごろ、といっていいと思う。

1949年9月29日に自殺したランシングは、これらのパワーアンプを聴いてはいない。
いったいどんなアンプだったのか。
ウィリアムソン・アンプ以前に、出力トランスをNFBループにいれたアンプとして、
やはりウィリアムソン・アンプと同じイギリスのリークのPoint Oneがある。

Point One(ポイントワン)という名称は、歪率0.1%を表したもので、
1945年に登場したType 15は出力段にKT66の三極管接続のプッシュプルを採用し、
歪率0.1%で15Wの出力を実現していたパワーアンプである。

リークの管球式パワーアンプといえば、BBCモニタースピーカー用のアンプとしても知られている。
そのアンプのひとつ、1948年に登場したTL12は、
Type 15と同じでKT66の三極管接続のプッシュプルの出力段をもち、
初段はEF36、位相反転はECC33のカソード結合で、一見ムラード型アンプと同じにみえるが、
初段と位相反転段のあいだにはコンデンサーがはいっている点が異る。

TL12の回路図を見て気づくのは、出力トランスが分割巻きになっていることだ。
TL12の内部写真でトランスの底部(端子側)をみると、パートリッジ製のように思える。
だとするとウィリアムソン・アンプと同じ銘柄の出力トランスということになる。

Date: 5月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その3)

1951年には50W-2がマッキントッシュから出ている。
50W-1からの変更点については詳しいことははっりきしないが、
50W-2でも出力トランスはNFBループに含まれていない。

マッキントッシュのパワーアンプで出力トランスがNFBループに含まれる(2次側からNFBをかけている)のは、
1853年発売のA116からである。
A116は業務用として開発されたアンプで、その後のMC30、MC60とはシャーシー・コンストラクションも、
シャーシーの仕上げも異る。型番のつけ方も、これアンプだけ違っている。

A116は実際にウェスターン・エレクトリックのトーキーシステムに採用されている。
話は少し脱線してしまうが、このA116について、伊藤先生が語られている。
     *
マッキントッシュを使ったアンプリファイアーの番号はA116というんですが、これはたぶんマッキントッシュの型番だと思います。というのは、これと同じところにウェスターン26というアンプリファイアーがあるんです。このアンプの年代が1954年8月になっていて、中のサーキットはA116とまったく同じなんです。(中略)
このA116、すなわちウェスターン26ですね、これは私も見ましたし音も聴きました。ちょうど映画がシネマスコープになりはじめたころで、シネマスコープはアンプが4台必要ですから、それまでのウェスターンの製品ではとても大きくて取り付けられなかったんです。(中略)
(A116は)いわゆるハイフィデリティー用でしょう。だから高域から低域まで、スキーンと伸びたすばらしい音がしました。だけどね、このアンプをトーキーに使ったときに、一つの問題があったんです。それは、あまりに帯域が広いために、余計なビンビン、バリバリ、ドンドコというノイズが出てきて困ったことがあるんです。もっとも、トーキー用にするために方々にフィルターを入れて取ってはいますけどね。やはり、アンプリファイアーの癖として、フレケンシー・レンジの広い奴はトーキーに持ってくると困るねえ。……それで泣いた事があります。
(ステレオサウンド別冊 世界のオーディオ〈マッキントッシュ〉「劇場やスタジオでつかわれたマッキントッシュ」より)
     *
A116は伊藤先生が語られているように業務用アンプとして日本にもはいってきており、
仙台日活劇場、田川東洋劇場、京都東洋現像所試写室、東映京都撮影所試写室、大映京都撮影所試写室、魚津大劇、
スイト会館(大垣)、内田橋劇場(名古屋)、知多キネマ(半田)、鶴城映画劇場(西尾)、
大映東京撮影所試写室に設置、使用されていた。

A116はさらにRCAの放送設備用アンプとしても使われており、
RCAの製品としての型番はM111229、50W-2もM111236という型番になっている。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その2)

日本においてはウィリアムソン・アンプのことが広く知れ渡るようになったのは、
1947年の「Wireless World」の記事ではなく、2年後の49年の同誌8月号に掲載された、より詳細な記事であり、
この記事が翌50年のラジオ技術3月号に掲載されてから、ということだ。

アメリカではどうだったのだろうか。
当時の日本と比べれば、出力トランスの優秀なものはいくつもあったと思う。
けれどパートリッジ製のトランスと同等の性能のトランスで、
出力トランスの2次側から20dBものNFBをかけて高域で発振しないトランスは、
それほど多くはなかったのではなかろうか。
だからこそ、ウィリアムソン・アンプはアメリカでは注目されていったように思う。

JBLのD130は1948年に登場している。
ウィリアムソン・アンプの最初の記事の1年後なのだが、
アメリカに住むランシングがこのときウィリアムソン・アンプを手にしていたとは思えない。

ランシングがどんなアンプを使っていたのか、で、もうひとついえることは、
自作の真空管アンプ、もしくは電蓄の真空管アンプに近いものであった可能性がある、ということ。

いわゆるハイファイアンプと呼べる真空管アンプが登場するのは、もう少し後のことである。
マッキントッシュがユニティ・カップルド回路で特許を取得したのが1948年、D130と同じ年。
マッキントッシュの設立は翌49年1月のことである。
マッキントッシュの最初のアンプはパワーアンプ15W-1、50W-1である。

一方マランツの設立は1951年で、最初のアンプはコントロールアンプのModel 1で、
パワーアンプのModel 2の登場は1956年のことである。

マッキントッシュの15W-1、50W-1の回路がどうなっているのかは知らない。
回路図を見たことがないからだが、1951年に登場した20W-2の回路図を見ると、
出力トランスの2次側からのNFBはない。
おそらく15W-1、50W-1も出力管とそれにともなう出力の違いはあっても、
基本的な回路は20W-1と同じと考えていいはずだ。

となるとマッキントッシュの最初のパワーアンプも出力トランスの2次側からのNFBはなかった、といえる。
NFBは出力管のカソードから初段管のカソードへとかけられている。
もちろんプッシュプル構成なのでNFBの経路は2つあるわけだ。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past)を入力していて……(続々・作業しながら思っていること)

チューナーの名器といえば、まず浮ぶのはマランツの10Bと、
その設計者であるセクエラが、自分の名前をブランドとしたセクエラのModel 1が、
それぞれ真空管、トランジスターのチューナーの、価格的にも性能的に最高のチューナーとして存在している。

国産メーカーでは高周波に強いメーカーとしてトリオがある。
ケンウッドと社名を変更したいまでもアマチュア無線機を製造しているトリオは、
1957年に日本初のFMチューナーを開発したメーカーであり、その前身は高周波部品を手掛ける春日無線である。

社名がトリオ時代だったころ、アメリカでは使用していたブランド、ケンウッドを,
国内では最高級ブランドとして使いはじめたのが、1979年に発表したプリメインアンプL01A、
チューナーのL01T、アナログプレーヤーのL07Dからである。

いまではすっかり昔のケンウッド・ブランドのイメージはなくなってしまっているけれど、
1981年のL02T、翌82年のL02Aのころのケンウッドのブランド・イメージはマニア心をくすぐってくれた。

プリメインアンプのL02Aの価格は55万円。
いまではプリメインアンプでも100万円を超すものが珍しくなくなっているけれど、
この時代に55万円という価格は、きちんとしたセパレートアンプが購入できる金額でもあった。

L02Aよりも先に登場したケンウッド・ブランドのセパレートアンプ、L08CとL08Mはトータルで48万円。
プリメインアンプのL02Aの方が価格的に高かっただけでなく、
トリオという会社がケンウッドというブランドにかける熱意が感じられるモノだった。

L02Aは測定データも良かった。
ステレオサウンド 64号で長島先生がやられた、
負荷インピーダンスを8Ωから1Ωへと順次切替えを行っての測定で、
もっとも優秀な結果を出したのが、実はL02Aだった。

64号ではプリメインアンプだけでなくセパレートアンプも含まれている。
価格的にはL02Aよりもずっと効果で物量も投入されているパワーアンプよりも、L02Aは優っていた。

このL02Aとペアとなるチューナーとして開発されたL02Tが、
国産チューナーとしては最高のモノといってもいいだろう。

けれど、トリオの現在までの製品で、ひとつだけとなったら、L02Tは選ばない。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その1)

6年ぐらい前のことになるが、
このときはmixiをやっていて、そこで「JBLのランシングはどんなアンプを使っていたのか」という質問を受けた。

JBLブランドのアンプが登場するのはランシングが亡くなってから、
真空管からトランジスターへ移行してからである。
ランシングが、どんなアンプで自らのスピーカーユニットを鳴らしていたのかは、
いくつかな資料を見てもまったく手掛かりがない。

確実にいえることは、真空管アンプだ、ということだけ。
真空管アンプといっても、いろいろな形態がある。
どんな真空管アンプなのか、は、もう想像するしかない。

真空管アンプで、20dBもの高帰還アンプとして登場したウィリアムソンアンプは、
イギリスの雑誌「Wireless World」の1947年4/5月号で論文発表されている。

ウィリアムソン・アンプは、電圧増幅段に使われているのはL63/6J5、
出力段はKT66を三極管接続にしたプッシュプル。
位相反転は2段目のP-K分割。初段とこの位相反転とのあいだは直結となっている。
NFBは出力トランスの2次側から初段のカソードへとかけられている。

いまウィリアムソン・アンプの回路図を眺めても、
ウィリアムソン・アンプの登場を体験していない世代にとっては、
当時の人が受けた衝撃の大きさはなかなか理解しにくいが、
真空管アンプの歴史を少しでも調べていった人ならば、その大きさの何割かは実感できると思う。

ウィリアムソン・アンプは、イギリスの雑誌に発表されたことからもわかるようにイギリスで生れた。
そしてウィリアムソン・アンプの要となる出力トランスは、分割巻きのトランスで知られるパートリッジ製である。

このパートリッジ製の出力トランスの優秀性のバックアップがあったからこそ、
20dBものNFBを安定にかけられた、ということだ。
つまり当時ウィリアムソン・アンプを実現するには、
パートリッジ製と同等の性能をもつ出力トランスが必要だったことになる。

Date: 5月 21st, 2012
Cate: 朦朧体

ボンジョルノはLCネットワーク支持なのか

アンプの鬼才とたとえられるジェームズ・ボンジョルノ。
いま現在Ampzilla 2000で復帰し、ボンジョルノのつくるアンプに魅かれてきた者にとっては、
これからも、いまぐらいの規模でいいから、ずっと続いていってほしいと願いたくなる。

ボンジョルノはGASの設立者として、日本では広く知られるようになったわけだが、
GAS以前にもアンプ設計の仕事には携わっており、彼の経歴はAmpzilla 2000のウェブサイトで見ることができる。

ハドレー(このブランドを知らない世代のほうがいまや多いのかもしれない)のパワーアンプ、622C、
マランツのMode1 15といった旧いソリッドステートアンプから始まっており、
アンプだけでなくチューナーやカートリッジの設計・開発も行っていたことが、わかる。

GAS、その次に始めたSUMOは彼の会社である。
ここではアンプ、チューナー、カートリッジを作っている。
いまの会社ではチーフエンジニアとしてAmpzilla 2000、Son of Ampzilla、Ambrosiaを生み出している。

ふと気づくのは、マルチアンプシステムに欠かすことのできない
エレクトリックデヴァイディングネットワーク(チャンネルデヴァイダー)がないことだ。

チューナーも手掛けることのできたボンジョルノにとっては、
エレクトリックディヴァイディングネットワークにおいても、非凡なるモノをつくってくれたように思う。
なのにボンジョルノは手掛けていない。

正しくは日本のクラウンラジオから3ウェイのエレクトリックデヴァイディングネットワークを出している。
ただ、このクラウンラジオの製品がどういったものかは私は知らないし、
SUMO時代にThe Goldの採用し特許を取得している回路は、クラウン・ラジオへ売却している。
(日本にはクラウン・ラジオがあったため、アメリカのアンプメーカー、CROWNがそのブランド名を使えず、
アムクロンとして流通しているわけだ。)

このころのボンジョルノはSumoがうまくいかず大変だったと聞いているから、
クラウン・ラジオへの特許の売却はそういう事情だったのかもしれない。
このクラウン・ラジオから出た製品は、ボンジョルノがつくりたいモノとして製品化したのか、
それともクラウン・ラジオからの依頼として設計したモノなのかは、まったくわからない。

ただGAS時代、SUMO時代にもエレクトリックディヴァイディングネットワークは手掛けていないことからすると、
ボンジョルノ自身は、エレクトリックデヴァイディングネットワークを必要としていない男なのだろう。
つまりマルチアンプ駆動には関心がない、マルチアンプの必要性を感じていない、ということだろう。

ボンジョルノは、いったいスピーカーシステムは、何を鳴らしているんだろうか。

Date: 5月 21st, 2012
Cate: モーツァルト

モーツァルトの言葉を思い返しながら……(その2)

Twitterには140文字という制約がある。
だから「モツレク」と表記するんだ、という人もいよう。
でも、私はTwitterでも「モーツァルトのレクィエム」と書く。

「モツレク」と書くのも口にするのも、はっきり嫌いだからである。

以前Twitterで、「モツレク」について書いた。
数日前も書いた。
今回、それに対して「なにがいけないんですか」という返信をもらった。

だから「美しくないからです。オーディオは美を求めるものだと、私は信じているからです。」と返事した。
それに対して「モーツァルトにそんなことを言ったら笑われるんじゃないかなあ。」と。

笑われるであろうか。

「モツレク」という表記には、美がない、と言い切ろう。
そして、「モツレク」を平気で使う人は、「モーツァルトのレクィエム」への愛がないんだ、ともいおう。

またきっと、「モーツァルトに笑われるんじゃないかなあ」と、「モツレク」の人は言うに違いない。

モーツァルトは
「天才を作るのは高度な知性でも想像力でもない。知性と想像力を合せても天才はできない。
愛、愛、愛……それこそが天才の塊である」といった男である。

そういうモーツァルトの音楽を聴く聴き手に求められるのも、愛のはず。
モーツァルトの音楽についての知識ではなく、愛、愛、愛であろう。他に何がいるのか。

思うのは、音楽を愛するということは、そこに美を見出すこと、そして生み出すこと、ということだ。

Date: 5月 21st, 2012
Cate: モーツァルト

モーツァルトの言葉を思い返しながら……(その1)

ブログに限らずウェブサイトでも、インターネットでは文字数の制限はない、といっていい。
だからできるだけ固有名詞は略することなく書くようにしている。

例えばスピーカーといってしまわずに、スピーカーシステム、スピーカーユニットと分けるようにしているし、
スピーカーと書くときは、あえてそうしている。

インターネットはそうできるわけだが、雑誌だと文字数の制限が厳しいこともある。
写真の説明文などはきっちりと文字数が決っていて、
その制約の中でどれだけの情報を伝えることができるかは書き手の能力によるわけだが、
だからといって安易に固有名詞を、しかも勝手に略することはしない。

だから他の箇所を削って、なんとか文字数を合せていく。
ときには文字の間隔を詰めて、という手段もとることもある。
いまはパソコンの画面上で文字詰めも行えるが、
私がステレオサウンドにいたころは写植の切貼りもやった。
そんなことまでしても、とにかく固有名詞の省略はまずしなかった。
それが当り前のことだったからだ。

不思議なことに、ここ数年、なぜかインターネットで、安易で勝手な、固有名詞の省略を目にすることが増えてきた。
代表的なものが、モーツァルトのレクィエムを「モツレク」と、
ベートーヴェンの交響曲第七番を「ベト7」とかである。

モツレク──、
これを最初目にしたときは、唖然とした。
なぜんこんなふうに省略しなければならないのか。
「モーツァルトのレクィエム」だと12文字、「モツレク」だと4文字。8文字分稼げる。

100文字、200文字の制限であれば8文字分の余裕は、正直助かる。
でも、「モツレク」とは絶対にしない。

Date: 5月 20th, 2012
Cate: 現代スピーカー

現代スピーカー考(その28)

仮に巨大な振動板の平面型スピーカーユニットを作ったとしよう。
昔ダイヤトーンが直径1.6mのコーン型ウーファーを作ったこともあるのだから、
たとえば6畳間の小さな壁と同じ大きさの振動板だったら、
金に糸目をつけず手間を惜しまなければ不可能ということはないだろう。

縦2.5m×横3mほどの平面振動板のスピーカーが実現できたとする。
この巨大な平面振動板で6畳間の空気を動かす。
もちろん平面振動板の剛性は非常に高いもので、磁気回路も強力なもので十分な駆動力をもち、
パワーアンプの出力さえ充分に確保できさえすればピストニックモーションで動けば、
筒の中の空気と同じような状態をつくり出せるであろう。

けれど、われわれが聴きたいのは、基本的にステレオである。
これではモノーラルである。
それでは、ということで上記の巨大な振動板を縦2.5m×横1.5mの振動板に二分する。
これでステレオになるわけだが、果して縦2.5m×横3mの壁いっぱいの振動板と同じように空気を動かせるだろうか。

おそらく無理のはずだ。
空気は押せば、その押した振動板の外周付近の空気は周辺に逃げていく。
モノーラルで縦2.5m×横3mの振動板ひとつであれば、
この振動板の周囲は床、壁、天井がすぐ側にあり空気が逃げることはない。
けれど振動板を二分してしまうと左側と振動板と右側の振動板が接するところには、壁は当り前だが存在しない。
このところにおいては、空気は押せば逃げていく。
逃げていく空気(ここまで巨大な振動板だと割合としては少ないだろうが)は、
振動板のピストニックモーションがそのまま反映された結果とはいえない。

しかも実際のスピーカーの振動板は、上の話のような巨大なものではない。
もっともっと小さい。
筒とピストンの例でいえば、筒の内径に対してピストンの直径は半分どころか、もっと小さくなる。
38cm口径のウーファーですら、6畳間においては部屋の高さを2.5mとしたら約1/6程度ということになる。
かなり大ざっぱな計算だし、これはウーファーを短辺の壁にステレオで置いた場合であって、
長辺の壁に置けばさらにその比率は小さくなる。

Date: 5月 20th, 2012
Cate: 現代スピーカー

現代スピーカー考(その27)

スピーカーの振動板を──その形状がコーン型であれ、ドーム型であれ、平面であれ──
ピストニックモーションをさせる(目指す)のは、なぜなのか。

スピーカーの振動板の相手は、いうまでもなく空気である。
ごく一部の特殊なスピーカーは水中で使うことを前提としているものがあるから水というものもあるが、
世の中の99.9%以上のスピーカーが、その振動板で駆動するのは空気である。

空気の動きは目で直接捉えることはできないし、
空気にも質量はあるものの普通に生活している分には空気の重さを意識することもない。
それに空気にも粘性があっても、これも、そう強く意識することはあまりない。
(知人の話では、モーターバイクで時速100kmを超えるスピードで走っていると、
空気が粘っこく感じられる、と言っていたけれど……)

空気が澱んだり、煙たくなったりしたら、空気の存在を意識するものの、
通常の快適な環境では空気の存在を、常に意識している人は、ごく稀だと思う。

そういう空気を、スピーカーは相手にしている。

空気がある閉じられた空間に閉じこめられている、としよう。
例えば筒がある。この中の空気をピストンを動かして、空気の疎密波をつくる、とする。
この場合、筒の内径とピストンの直径はほぼ同じであるから、
ピストンの動きがそのまま空気を疎密波に変換されることだろう。

こういう環境では、振動板(ピストン)の動きがそのまま空気の疎密波に反映される(はず)。
振動板が正確なピストニックモーションをしていれば、筒内の空気の疎密波もまた正確な状態であろう。

だが実際の、われわれが音を聴く環境下では、この筒と同じような状況はつくり出せない。
つまり壁一面がスピーカーの振動板そのもの、ということは、まずない。