手がかり(その2)
中学・高校時代、振り返ってみると、
もっとも長く聴いていたのは、グラシェラ・スサーナのレコードだったかもしれない。
クラシックも聴いていたし、ケイト・ブッシュの歌にも衝撃を受けていた。
テレビから流れてくる音楽とはまったく異質の、そして私にとっては新しい音楽を聴きはじめたころ、
それでもクラシックを聴いた後には、グラシェラ・スサーナのレコードを、
どれか一曲でも、スサーナの歌を聴くことが多かった。
クラシックのレコードは、
これは五味先生と瀬川先生の影響なのだが、どうしても輸入盤で手に入れたい、と思っていた。
少ない小遣いとアルバイトで得た、そう多くはない収入で買うのであるから、
買いなおす必要のないように、国内盤ではなく輸入盤にしたかった。
けれど、私の住んでいた田舎町にはレコード店はあっても、
輸入盤のクラシックのレコードまでは取り扱っていなかった。
輸入盤のレコードを買うには、バスに乗って約1時間、
熊本市内のレコード店に行かなければ買えなかった。
往復のバス代で輸入盤の安いものだと、もう少しで買えそうな金額になる。
頻繁に出かけて買いに行く、ということはできない。
そして、東京のように品揃いが豊富というわけではない。
聴きたいレコードが、輸入盤で必ず店頭に並んでいるわけでもなかった。
そんな時代にレコードを買って、聴いていた。
そんな事情もあって、グラシェラ・スサーナのレコードは圧倒的に揃えやすかったから、
順調にコレクションは増えていった。
クナッパーツブッシュの「パルジファル」を輸入盤で聴きたい、と思っていた高校生のころは私は、
グラシェラ・スサーナを聴いていた。