オリジナルとは(微小か微弱か)
MC型カートリッジは、一部の製品を除けば出力電圧はMM型(IM型、MI型などを含め)カートリッジよりも低い。
おおまかにいって一桁低い出力電圧である。
カートリッジの信号がもともと微小信号で、
MC型ではさらに低くなるためか、微弱な信号という表現をする人もいる。
オルトフォンのSPU-Aのカタログ上の出力電圧は、0.25mV(5cm=/sec.)、
シュアーのV15 TypeIIIは3.5mVだから、この電圧の差は大きいと感じるし、
SPU-Aの出力を、V15 TypeIIIよりも微弱だという思いたくもなるだろう。
このふたつのカートリッジを例にあげたのは、
1978年秋にステレオサウンドから発行されたHIGH-TECHNIC SERIESのVol.2、
「図説・MC型カートリッジの研究」で、
長島先生が「MC型カートリッジの特性の見方」の章で取り上げられているからだ。
1978年秋だから私は高校1年になっていた。オームの法則は中学校で習うからもちろん知っていた。
知ってはいたものの、「図説・MC型カートリッジの研究」を読んで、知っていただけなのを知った。
そしてカタログの数値の見方も知ることとなった。
長島先生はSPU-AとV15 TypeIIIを比較されている。
このふたつの出力電圧は上に書いた通り。
SPU-AはMC型だから負荷インピーダンスは低く、1.5Ω、V15 TypeIIIはMM型だから47kΩ。
電圧と抵抗(負荷インピーダンス)がわかっているから、出力電流がオームの法則から導き出せる。
SPU-Aの出力電流は166μA、V15 TypeIIIは0.106μAと、
出力電圧ではV15 TypeIIIのほうが10倍以上高い値だったが、電流値は逆転して1000倍以上SPU-Aが高くなる。
このことは出力電力の大きさに関係してくる。
電力は電圧×電流だから、SPU-Aは41.66nW、V15 TypeIIIは0.2606nWと、
約160倍近く SPU-Aの方が大きいわけだ。
(説明のため電流を書いているけれど、電力は電圧の二乗を負荷インピーダンスで割れば算出できる。)
これだけの電力の違いがあると、MM型カートリッジよりもMC型カートリッジの信号が微弱とは書けない。
そしてつねにインピーダンスに注意を払うようになった。