Date: 10月 24th, 2011
Cate: 欲する
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何を欲しているのか(その21)

グレン・グールドのピアノしか聴かない──、
こんなことを口にする音楽の聴き手がいるのは、日本だけなのだろうか。

グレン・グールドは、コンサートをドロップアウトしている。
だから、いうまでもないことだけど、
グールドの音楽の聴き手は、グールドのレコード(録音)の聴き手である。

グールドは19801年に、録音25周年を記念して “The Glenn Gould Silver Jubilee” を出している。
この2枚組のアルバムは、日本では1枚ものとして発売されている。
なにも2枚分の録音を1枚にまとめた、というわけではなく、
2枚目をまるごとないことにしての発売であった。

“The Glenn Gould Silver Jubilee” の2枚目におさめられていたのは “A Glenn Gould Fantasy” だった。
1980年当時、日本では発売されなかった、
つまりCBSソニーの人たちが、オリジナル通りの2枚組で出すよりも、
なかったことのようにして1枚の音楽のLPとして出した方が売れるはず、
という判断したであろう “A Glenn Gould Fantasy” はグールドによる、
いわゆるひとり芝居(セルフ・インタヴューでもある)をおさめたものである。

セルフ・インタヴューといっても、”A Glenn Gould Fantasy” は奇妙奇天烈な作品といってもいいだろう。
ピアノをひくグールドからはなかなか想像できないグールドがそこにはいて、
でもピアノをひくグールドも、”A Glenn Gould Fantasy” でひとり芝居をやっているグールドも、
同じひとりのグレン・グールドであり、たったひとりのグレン・グールドである。

グレン・グールドのピアノしか聴かない人は、”A Glenn Gould Fantasy” も聴かないことだろう。

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