時代の軽量化(その19)
太った豚より痩せた狼であれ。
一時期、よくいわれていたものだ。
はっきりとは憶えていないし、
検索してみても、いつごろから、誰が言い始めたことなのかはっきりとしない。
私が十代の終りごろからハタチすぎくらいまでに、
よく見聞きしたように思う。
私の周りにも、真顔で「太った豚より痩せた狼であれ」という男がいた。
豚、狼というのが精神的な分類であることはわかったうえで、
ややひねくれたところのある私は、
豚なのか狼なのかは、本人には選べないし、
選べるのは太っているか、痩せているか──、ではないのか。
それを真顔でいう人に向って返したことはないけれど、
いま彼らは、どう思っているのだろうか。
(その18)で引用した菅野先生の文章は1975年のものだが、
まだそのころは私は「五味オーディオ教室」にであっていない。
なので「世界のオーディオ」のラックス号を読んだのは、
ステレオサウンドで働くようになってからである。
《肥った馬はやせていき、やせた馬は死んでいき、肥った豚が増えてくる。ついには、やせた豚と肥った豚だけの世の中になってしまう》、
ゆえに、ここのところではうんうんと頷いていた。
やせた豚と肥った豚だけの世の中。
そうなりつつある。
ひさしぶりに読みなおして、五十年近く前に書かれたこととは、
わかっていても、予言めいていると思うし、
ここで私は「時代の軽量化」をテーマにしているけれど、
それは近年のことではなく、ずっと以前から悪循環の輪なのかもしれない。