Date: 11月 13th, 2020
Cate: 五味康祐
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「三島由紀夫の死」から50年(その1)

今年(2020年)は、ベートーヴェンの生誕250年、
チャーリー・パーカーの生誕100年であるだけでなく、
日本だけでも、デビュー50年を迎える人(ミュージシャン)、グループがある。

なにかのひょうしに、デビュー50年という文字をみて、
この人もそうなんだ、と今年のはじめは何度も思った。

けれどコロナ禍で、予定されていた公演や催し物などは、
多くが中止(延期)になっているはず。

50年といえば、三島由紀夫 没後50年でもある。
50年前は、私はまだ7歳だった。

その日、父と母がニュースを見て、ひじょうに驚いていた記憶があるが、
三島由紀夫の死というニュースに関しては、ぼんやりした記憶しか残っていない。

三島由紀夫の死を強く意識したのは、
五味先生の「三島由紀夫の死」を読んでからだった。

それ以前に、三島由紀夫の小説は、いくつかは読んでいたけれど、
三島事件のことは、まったく頭になかった。

「三島由紀夫の死」を読んで、三島由紀夫の死のことをおもっていた。

2017年1月の「三島由紀夫の死」で、
五味先生の文章の最後のところを引用した。

もう一度、書き写しておこうとおもったが、やめよう。
ほかに書き写したいところがある、
読んでほしいところがある。
     *
五年前、自動車で二人の生命を私は轢いた。その直後に自裁することを私は考えた。「五味は死ぬのではないか?」事故のあと現場検証で、ニュースカメラのフラッシュを浴びながらこの辺でブレーキを踏んだと説明する私を、横で見ていた係り官が言ったそうだ。あのとき私が自殺してもそれほど不自然ではなかったろう。
 その私が死なずに、三島由紀夫は死んだ。彼の割腹を人は意外だというが、五年前に死ななかった私自身も私には意外である。三島君の自殺と、死なない私はその意外性において、少なくとも私の内面では等質だ。むろんこんなことは人には分ってもらえないし、こんなことを誰もわからないほうがいい。でもそれがあるので、三島君の死は、私には二重に衝撃だったのである。
 私の死ななかった理由は自分の口で言うことではないだろう。どう弁解したところで、私はこわくて死ねなかったのである。私は神にすがった。音楽ばかりを聴いた。すぐれた音楽がぼくたちにもたらしてくれる浄化作用に浴さなければ、今のように生き耐えてこられなかったろうと、このことは当時にも書いた。本当に、あの時私を支えてくれたものは文学書ではなく音楽だったから、ブラウン管の三島君を見ていて、どうして音楽を聴いてくれなかったんだろう、きっとそうすれば、今いるようなそんな姿で君は立たずに済んだろうと、私はテレビへ言いつづけていた。
 三島事件そのものに関しては、さまざまな意見や解釈が述べられているが、これについて川端康成先生はどう考えていらっしゃるか、川端先生の発言をみるまでは、ぼくらはこの事件をあげつらうべきではないと私は思っている。文人のこうした節度は今のジャーナリズムには通用しないだろうが、私のこれは気持である。従って三島事件を論じるのではない。私と三島君との心の関わり合いを述べておきたい。
 自動車事故のあと、私の執行猶予を乞う嘆願書が裁判所に出された。その嘆願書に三島君は署名してくれた。そのことがあるので判決のあと彼を訪ねてお礼を言った。今は言ってもいいと思う、この嘆願書は、志賀直哉、川端康成、小林秀雄、井伏鱒二、井上靖、三島由紀夫、柴田錬三郎、水上勉、亀井勝一郎、保田與重郎の諸氏の連署で出されたもので、判決のあと私はお礼を述べて回った。そして詫びを言った。文人として一番いけないことを私はしたからだ。でもこの時の私に或いは晩餐を用意し、或いは他出先からいそいで戻って、対応して下すった方々の私に告げられた言葉の一つ一つを、肝に銘じて忘れない。三島君を訪ねたのは夜になってからだった。三島家にはフランスのカメラマンが何人か来ていて、賑やかに撮影していた。そんな騒ぎから抜け出し三島邸と少し離れた私の車の所まで、彼は送り出してくれた。三島君が礼儀正しい作家であったことは知られている。でもあの時私の置かれている立場へは、どんな対応もできたろう。「死なないで下さいよ」車のそばで三島君はそう言った。三島君とは共通の友人である林富士馬氏の話が出たあとだった。交通事故のあと、訪ねてくれた林君に私は殴りかかったことがある。そういう狂乱に本当は私はいたのだが、そんな私と知って死ぬなと三島君は言ってくれたのだろうか。
     *
「死なないで下さいよ」と言った三島由紀夫、
《三島君のしたことは痛いほど私にはわかった》と書かれている五味先生。

昭和は遠くなった──、
ほんとうにそうなのだろうか。

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