アーノンクールのマタイ受難曲
五年前に書いている。
美という漢字について、である。
美という漢字は、羊+大である。
形のよい大きな羊を表している、といわれても、
最初は、なかなか実感はわかなかった。
まず、なぜ羊なのか、と多くの人が思うだろう、私も思った。
大きな羊は、人間が食べるものとしてではなく、
神に捧げられる生贄を意味している──。
神饌としての無欠の状態を「美」としている、ときけば、
美という字が羊+大であることへの疑問は消えていく。
羊+大としての「美」。
それは英語のbeautyとイコールではない。
もう何度か、同じことを書いてきている。
なのに、いまごろになって気づいたことがある。
アーノンクールのマタイ受難曲のジャケットのことだ。
このディスクが出たのは2000年。
そのころは、「美」という漢字のもつ意味を知らなかった。
だから特に気づくこともなかった。
アーノンクールのマタイ受難曲のジャケットには羊の絵が使われている。
生贄としての羊と思われる絵は、
フランシスコ・デ・スルバラン「神の仔羊」である。
いまごろになって気づいて、
アーノンクールのマタイ受難曲を聴きたい、と思うようになった。