Date: 12月 1st, 2017
Cate: 五味康祐, 瀬川冬樹
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生命線上の「島」

週刊新潮 1980年4月17日号の特集2は、五味先生のことだった。
そこに、こうある。
     *
 帰国後、八月に東京逓信病院に入院。二週間にわたる検査の後、千鶴子夫人は担当医師の口から、夫が肺ガンであることを告げられた。
 むろん、この時、本人にはそのことは伏せられ、「肺にカビが生える病気です」と説明することにした。肺真菌症も同様の症状を呈するからである。
 もっとも、かねてから、手相の生命線上に円形の「島」が現われるときはガンにかかる運命にあり、これからガンは予知できるのだ、といっていた当人は、自分の掌を見つめて「ガンの相が出ている」とはいっていた。
 しかし、やはり事が自分自身の問題となると、そう頭から自分の予知能力を信じることは出来なかったらしい。
 九月に手術。十一月に退院。そして、友人たちが全快祝いの宴を開いてくれたが、その二次会の席から、〝全快〟した本人が顔色を変えて帰ってきた。友人の一人であったさる医師が、酔っぱらったあげく、「お前はガンだったんだぞ」と口をすべらしてしまったのである。
「どうなんだ」
 と奥さんを問いつめる。
「冗談じゃありませんよ。なんなら今から先生に確かめてみましょうか」
 奥さんがこう開きなおると、
「いらんことをするな」
 と、プイと横を向いてしまった。
 もともと、入院していた当時からも、見舞に訪れる知人には「肺にカビが生えた」と説明しながら、「ガンらしいと思うんだがな」といって、相手の表情をうかがい、さぐりを入れる、というようなことを繰り返していた。この観相の達人にして、やはり、正面から宣告を受けるのは恐ろしく、さりとて不安で不安でたまらない、という毎日だったのだろう。
     *
五味先生の手相の本は、私も持っていた。
生命線上に円形の「島」ができると……、というところは憶えている。
自分の掌をすぐさま見て、ほっとしたものだった。

週刊新潮の、この記事を六年前に読んで、やはり「島」が現れるのか、と思ったし、
瀬川先生の掌はどうだったのたろう、とおもった。

「島」が現れていたのか、
瀬川先生は五味先生の「西方の音」、「天の聲」などは読まれていても、
手相の本は読まれていなかったのか……、
おもったところで、どうなるわけでもないのはわかっていても、
どうしてもおもってしまう。

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