一人称の音(その6)
三人称の音といえば、私が頭に浮べるのはトーキー用スピーカーである。
ウェスターン・エレクトリック、シーメンスといった旧いスピーカーである。
その次に(というか少し範囲をひろげて)アルテック、ヴァイタヴォックスが浮んでくる。
いずれもが劇場用として開発されたスピーカーばかりである。
つまり聴き手はひとりではない、必ず複数、それも多人数を相手にするスピーカーである。
これらははっきりと三人称の音といえる。
アンプに関しては一人称の音に惹かれがちの私なのだが、
スピーカーに関しては、必ずしもそうではなく、むしろ三人称の音に惹かれるがちである。
スピーカーに限らず、
スピーカーと同じトランスデューサーであるカートリッジに関しても、そうだ。
一人称の音と感じられるモノよりも、三人称の音と感じられるモノを選ぶ傾向があることを、
これまでのことをふりかえって気づいている。
私の中では、オルトフォンのSPU、EMTのTSD15といったカートリッジは、
一人称の音のするカートリッジではなく、三人称の音のカートリッジなのである。
どちらも無個性の音がするわけではない。
TSD15はかなり個性的ともいえる。
それでもどちらも三人称の音であり、
個性が強いから一人称、個性がないから三人称と感じているわけではない。