情報・情景・情操(その6)
われわれが耳にしている音場再生方法は、ほとんどすべて主観的・音響心理的なものである。
よほど専門家でなければ、客観的・物理的な方法による音場再生を聴くことはできない、と思いがちだが、
ひとつある、バイノーラル録音である。
バイノーラル録音されたものをヘッドフォンで聴くことは、まさしく客観的・物理的な音場再生方法である。
客観的・物理的な音場再生方法の重要なのは、
録音時のマイクロフォンと位置と最盛時のスピーカーの位置が相関関係にあることが、第一に挙げられる。
マイクロフォンを4本使って録音したのであれば、スピーカーの4本用意して、
マイクロフォンと同じように設置することが求められる。
前項に引用した文章には記述はないが、
おそらくマイクロフォンの指向性とスピーカーの指向性も近似でなければならないはずだ。
しかも再生する空間は無響室が求められる。
部屋の響きが、収録されている現場の響きにまじり合うことを拒否してのことであっても、
音楽の、現実的な聴取環境ではない。
たとえ、客観的・物理的な音場再生によって素晴らしい音・音響が得られたとしても、
無響室で音楽を聴きたいとは、これっぽっちも思わない。
バイノーラル録音のヘッドフォンでの再生は、条件のふたつともクリアーしている。
マイクロフォンとヘッドフォンの相関関係は、ほぼ同じ。
さらにヘッドフォンは再生する部屋の影響は関係ない。
無響室ではないけれど、無響ではあることは確かだ。
いわばミニマルな客観的・物理的な音場再生だ。
いま入手できるバイノーラル録音のものは、ここにも書いているグールドのSACDがある。