デコラゆえの陶冶(その6)
金が欲しい!
私もデコラの音に触れたときに、そう思っていた。
デコラを買えるお金だけではなく、デコラを置ける部屋をも用意するだけのお金が欲しい!、
と思った。
五味先生は
《デッカ本社の応接室で、あの時ほどわたくしは(金が欲しい!)と思ったことはない。》
と書かれている。
これまでに数々のオーディオ機器を聴いてきて、欲しいとおもったことはある。
その欲しいと思ったオーディオ機器を手に入れるために、金が欲しい! と思ったこともある。
でも、デコラを聴いたときほど、金が欲しい! と思ったことはない。
初めて聴くことができたデコラは、満足のいく感興ではなかったにもかかわらず、
私にそう思わせた。
同時に、S氏(新潮社の齋藤十一氏)は、デコラだったからあの方法、
コレクションから追放していくレコードを決めていけることに気がついた。
文字の上では、齋藤十一氏がデコラだということは知ってはいた。
デコラの音がどういう音であるのかも文字の上では或る程度は知っていたし、想像していた。
それでも、哀しいかな、そこでとまっていた。
それ以上は、実際にデコラの音に触れて、気づいたわけだ。