デコラゆえの陶冶(その7)
カスリーン・フェリアーのバッハ/ヘンデルのアリア集を聴きたい、とも、
デコラを聴いた時に思っていた。
いまもデコラで、この愛聴盤を聴きたい、と思う。
フェリアーのこの録音はモノーラル録音であり、
ずっとモノーラル録音の盤を聴いてきた。
けれどフェリアーのアリア集は、
バックのオーケストラのみをステレオ録音にしたレコードも出ている。
デッカともあろうものが、なんと阿呆なことをするものだと、
そのレコードの存在を知ったときには思っていた。
だから手にすることもなかった。聴いてもいない。
けれど、ひさしぶりに、或るところでデコラと対面した。
ターンテーブルが不調でレコードを聴くことはできなかったけれど、
丁寧に磨き上げられた、そのデコラを眺めているうちに、
そうなのか、デッカは、もしかするとデコラでフェリアーを鳴らすために、
わざわざオーケストラをステレオ録音に差し替えて出したのか……、と思っていた。
デッカのデコラは、最初はモノーラルだった。
その後、1959年に、ここでデコラと書いているステレオ・デコラが登場した。
だから本来ならばデコラと書いた場合は、モノーラルのデコラであり、
ステレオのほうはステレオ・デコラとするべきである。
にも関わらず私にとってデコラは、ステレオ・デコラであり、
モノーラルのデコラについて話すときは、モノのデコラと言ったりしてしまう。
本末転倒だな、とわかっていても、
そのくらい、私にとってデコラとはステレオ・デコラのことであり、
それはデッカの人たちにとってもそうだったのかもしれない、
と気づかせてくれたのが、フェリアーのオーケストラ差し替え盤だった。