モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その7)
実際に試したわけではないが、テクニクスのSB-M1から把手を外して、
レベルコントロールの凹みを良質の自然素材(たとえばウール)で埋める。
これだけで聴感上のS/N比はそうとうに高くなるはずだ。
凹み部分からの不要輻射を吸音し、把手部分の共鳴もなくしてしまえるからだ。
この手の実験はステレオサウンドの試聴室でかなりやってきた。
だから確実に、そうなると断言できる。
聴感上のS/N比が高くなることは、多くの人の耳が認めることだろう。
けれど、その音をいいと判断するかどうかは、また違ってくる。
聴感上のS/N比は確実に良くなっているのだから、
音は良くなっている──、とはいえる。
それでもメーカーは、把手込み、レベルコントロールの凹み込みで音を追い込んでいたのであれば、
聴感上のS/N比が高くなったかわりとして、音のバランスが若干変化するし、
音のアクセントといえるものがなくなり、印象としてもの足りなさをおぼえてしまうことも考えられる。
いわゆるノイズも音のうち、ということだ。
この点が、SB-M1とAPM6の大きな違いである。
スピーカーシステムにおける聴感上のS/N比の向上は、
SB-M1、APM6登場以降のスピーカーにおける潮流となっていく。
この視点からみれば、
SB-M1は1970年代までのスピーカーシステムのひとつとしての登場であり、
APM6は1980年代のスピーカーシステムのはじまりとしての登場といえる。
同じエスプリのAPM8は、SB-M1と同じといえる。