毅然として……(その12)
ヨッフムによる「レクィエム」は、ドイツ・グラモフォンから廉価CDとして出た。
ジャケットもそっけない、いかにも廉価盤と思わせるものだった。
モーツァルト生誕250年の年、ドイツ・グラモフォンからヨッフムの「レクィエム」が出た。
今回のCDは廉価盤ではなくなっていた。
冒頭の鐘の音から始まる。
オルガンによる前奏、人びとのざわめきが聴こえる。
そしてヨッフムの演奏が聴こえてくる。
この日の演奏が、通常のコンサートホールでの演奏と大きく異るのは、
途中途中に司祭による典礼の朗読がはさまっていることだ。
廉価CDでは、この典礼の朗読もすべてカットされ、
いわゆる通常のライヴ録音としてのモーツァルトのレクィエムとして編集されている。
同じ日の同じ演奏なのに、この二枚のCDを聴くと、印象の違いだけでなく、
こちら側の聴き手としての態度も同じではなくなっている。
マスタリングの違いもあるようで、二枚のCDの音はまったく同じというわけではない。
それでもおさめられているのはヨッフムの演奏であることには変わりない。
それでも「冒頭の鐘の音からすでに身の凍るような思いのする」のは、
モーツァルト生誕250年に出たCDである。
鐘の音、オルガンの前奏、人びとのざわめき──、
これらが静まった後にはじまるヨッフムの第一音は、決して同じには聴こえない。