Date: 12月 24th, 2013
Cate: 程々の音
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程々の音(その8)

「五味オーディオ教室」からの引用だ。
     *
 かつてヴァイオリニストのW氏のお宅を訪れたとき、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを聴かせてもらったことがある。そのあと、オーケストラを聴いてみたいと私は言い、メンデルスゾーンの第四交響曲が鳴り出したが、まことにどうもうまい具合に鳴る。わが家で聴くオートグラフそっくりである。タンノイIIILZは何人か私の知人が持っているし、聴いてきたが、これほどナイーブに鳴ったのを知らない。「オリジナルですか?」とたずねた。そうだという。友人のは皆、和製のエンクロージァにおさめたもので、箱の寸法など寸分違いはないのに、キャビネットがオリジナルと国産とではこうまで音は変わるものか。
(中略)
 でも本当に、わが耳を疑うほどよい響きで鳴った。W氏にアンプは何かとたずねるとラックスのSQ38Fだという。「タンノイIIILZとラックス38Fは、オーディオ誌のヒアリング・テストでも折紙つきでした。〝黄金の組合わせ〟でしょう」と傍から誰かが言った。〝黄金の組合わせ〟とはうまいこと言うもので、こういうキャッチフレーズには眉唾モノが多く、めったに私は信じないことにしているが、この場合だけは別だ。なんとこころよい響きであろう。
 家庭でレコードを楽しむのに、この程度以上の何が必要だろう、と私は思った。友人宅のIIILZでは、たとえばボリュームをあげると欠陥があらわれるが、Wさんのところのはそれがない。カートリッジはエンパイアの九九九VEだそうで、〈三位一体〉とでも称すべきか、じつに調和のとれた過不足のないよい音である。
 畢竟するに、これはラックスSQ38Fがよく出来ているからだろうと私は思い、「ラックスもいいアンプを作るもんですな」と言ったら「認識不足です」とW氏に嗤われた。そうかもしれない。しかしIIILZと38Fさえ組合わせればかならずこううまくゆくとは限らないだろうことを、私は知っている。つまりはW氏の音楽的教養とその生活が創造した美音というべきだろう。W氏は、はじめはクォードの管球アンプで聴いていたそうである。いくらか値の安い国産エンクロージァのIIILZでも聴かれたそうだ。そのほかにも、手ごろなスピーカーにつないで試した結果、この組合わせに落着いた、と。
 私事ながら、私はタンノイ・オートグラフを鳴らすのにじつに十年を要した。それでもまだ満足はしていない。そういうオートグラフに共通の不満がIIILZにもあるのは確かである。しかし、それなら他に何があるかと自問し、パラゴン、パトリシアン、アルテックA7、クリプッシ・ホーンなど聴き比べ(ずいぶんさまざまなアンプにつないで私はそれらのエンクロージァを試聴している)結局、オートグラフを手離す気にはならず今日まで来ている。それだけのよさのあることを痛感しているからだが、そんな長所はほぼW家のIIILZとラックス38Fの組合わせにも鳴っていた。
     *
ヴァイオリニストのW氏とは、
ステレオサウンド 19号に載っている「五味オーディオ巡礼」に登場された鷲見健彰氏のこと。

この五味先生の文章を読んでいたからこそ、
「コンポーネントステレオの世界 ’77」でのコーネッタが置いてある部屋、
そこでのアンプ(ラックスのSQ38Fではないけれど、管球式ということで共通している)との組合せ、
これらのことが、コーネッタというスピーカーがなんであるのか、
ほとんど知らないままでも、とても良さそうな組合せに思えた。

この組合せにも、
五味先生が書かれているところの「長所」が鳴っているはずだ、と。

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