夜の質感(その6)
マーラーの人生には、闇が待ち構えていた。
こう書いた所で、本当なのかどうかなんて、いま生きている者は誰もほんとうのところはわからない。
ただ想像で書くだけだ。
闇が待ち構えていた、としても、
それはマーラーに限ったことではない、ともいえる。
人すべて、皆、闇が待ち構えている。
ただ闇が待ち構えている、その気配に気づくか気づかずに生きていけるのか、
そんな違いがあるだけなのかもしれない。
こうやって書き連ねたところでなにも本当のところがはっきりしてくるわけではない。
もうマーラーはこの世にいないのだから。
われわれはマーラーの残した曲を聴くだけである。
それも誰かが演奏したものを通して。
オーディオマニアは、さらに録音されたもの、
オーディオという、一種のからくりを通して聴いている。
古い録音のマーラーも、最新録音のマーラーも聴ける。
いくつものマーラーをそうやって聴いてきた。
聴いていないレコードも、まだ少なくない。
実演よりもレコードでのマーラーを聴くことが圧倒的に多かった。
そうやって聴いてきた。
そして、私はバーンスタインのマーラー全集をとる。
CBSに録音した旧録ではなく、ドイツ・グラモフォンでの新録をとるのは、
私にとって、マーラーの闇を感じられるのが、
濃密な闇が感じられるのがバーンスタインの新録だからである。