wearable audio(その3)
もしステレオサウンドから離れることなく仕事を続けていたら、
ボディソニックの存在を思い出すこともなかったかもしれない。
25でステレオサウンドを辞め、27のときに左膝を骨折した。
八ヵ月後の28のときに、左膝に入っていたプレートを取り除く手術のため、もう一度入院した。
いまだったらiPhoneをもって入院するだろうが、
当時(1990年ごろ)はそんなものはなかった。
入院のあいだの時間つぶしは、本を読むか、テレビを見るかだった。
本は家でも読める。
いまもだが、テレビはもうずっと所有していない。
だからテレビばかり見て、時間をつぶしていた。
9時消灯とはいえ、10時くらいまではイヤフォンをつけてテレビをみていることは黙認されていた。
骨折した時の入院は一ヵ月半くらいだったが、プレートを取り除くだけの入院だから、短い。
続きが気になるドラマはあまり見なかった。
そのときはNHKのニュースを見ていた。
水俣病の女性が登場していた。
消灯時間を過ぎていたから、部屋の電気は消されている。
ベッドに横になって、イヤフォンをつけて見ていた。
こんなにも涙はながれるものか、とおもっていた。
そして、このNHKのニュースを見るために、骨折したのかもしれない──、
そんなふうにも思っていた。