Archive for 5月, 2022

Date: 5月 18th, 2022
Cate: ディスク/ブック

モントゥーのフランク 交響曲二短調

中庸ということについて考えるとき、
菅野先生がお好きだった演奏家の録音を聴くようにしている。

昨晩、ピエール・モントゥーの演奏を聴こう、と思い立ったのも、そういう理由からだった。
菅野先生はモントゥーをお好きだった以上に尊敬されていた。

モントゥーのディスクは、それほど持っていないというよりも、かなり少ない。
でもTIDALには、かなりの数のアルバムがラインナップされている。

どのアルバムを聴こうか。
まずはMQAで聴けるアルバムから聴こう、と思いながら眺めていると、
フランクの交響曲二短調が目に留った。

シカゴ交響楽団を指揮してのもので、TIDALではMQA Studio(176.4kHz)で聴ける。
MQA Studioであっても44.1kHzもある。

モントゥーのフランクは、昨晩初めて聴いた。
こんなにもすごい演奏なのか、と驚いていた。

フランクの交響曲二短調を聴いたのも久しぶりだった。
いままで聴いてこなかったわけではないが、
この曲の熱心な聴き手ではなかった。

それでも好きな指揮者が録音すれば買って聴いてきた。
けれど、この交響曲に胸を打たれることはなかった。
なのに昨晩は違っていた。

世の中には、私がまだ出逢っていない素晴らしい演奏がある。
けっこうな数ある、といっていいだろう。

さほど期待せずに聴きはじめただけに、
モントゥーのフランクには圧倒された。

Date: 5月 18th, 2022
Cate: 世代

世代とオーディオ(あるイベント・その1)

私がステレオサウンドにいたころから、
タンノイをスピーカーを買うのは日本人だけだ、
そんなことをいうオーディオの関係者はいた。

同じことをいうオーディオマニアもいる。
いまも少なからずいることだろう。

なにもタンノイに限らない。
JBLだったり、アルテックだったりする。
昔からの、ホーン型を採用してきたメーカーが、
こうやって揶揄する人たちが昔からいる。

でもインターネットが普及してからわかるのは、
決してそんなことはない、ということだった。

日本にもいろいろな人たちがいるように、
海外もいろんな人たちがいる。

タンノイ、JBL、アルテックといったスピーカーで聴く人たちはいる。
こういったホーン型のスピーカーだけでなく、
たとえばセレッションのDittonシリーズが、
意外にもオーディオ雑誌ではなく、他の雑誌がリスニングルームをとりあげた場合、
けっこう登場したりもしている。

一本の記事を、今日教えてもらった。
教えてくれたのは、私よりも一世代ほど若いMさん。

Donna Leakeという若い女性が取り上げられている記事は、
なかなか興味深い。

彼女の部屋は、楽しそうな雰囲気に充ちている。

ドナ・リーク(Donna Leake)という人が、
どれだけ有名なのかは私は知らないが、
来週火曜日(5月24日)に、八王子にあるクラブSHeLTeRに来てイベントを行う、とのこと。

イベントは21時からで、
ドナ・リークによるDJが始まるのは日付が変ったころかららしい。

時間的に迷うところなのだが、面白そうと思っている。

Date: 5月 18th, 2022
Cate: 広告

オーディオ雑誌と広告(その8)

HiViがKindle Unlimitedで読めることは知っていても、
これまで読んでこなかったけれど、
月刊誌から季刊誌になるということで、最新号(6月号)を読んでみた。

ベストバイが特集であるにもかかわらず、
広告が少なすぎて驚いてしまった。

季刊誌になるぐらいだから広告が減ってきているのだろうなぁ、
と思っていたけれど、ここまで少なくなってきているのに、
しかもベストバイが特集の号で、これだけしか広告が集まらないのか──、
その現実に、いったいいつからこんなふうになっていったのか、
あれこれ思ってしまった。

HiViを読んでこなかった私は、
HiViが月刊誌ではなくなるのは、まだ先のことのように思っていたが、
毎号読んできた人ならば、月刊での発行は厳しいと感じていたことだろう。

ホームシアター・メーカーが雑誌に広告を出す余裕がなくなったのか。
そんなふうには思えない。

けれど現実に、広告は少ない。
季刊誌になったからといって急に増えるのだろうか。

Date: 5月 18th, 2022
Cate: ショウ雑感

2022年ショウ雑感(その4)

OTOTENの出展社が発表になっている。

これですべての出展社なのかはわからないが、
いまのところ中国のESD ACOUSTICの名はない。

2019年のOTOTENで、
オールホーンの5ウェイシステムで、
ユニットは励磁型のスピーカーシステムを発表していたメーカーである。

2017年創立のメーカーということ、
規模の大きさもあってか、
トータルのシステムとしての音には、いろいろ注文をつけたくなるものの、
この会社が今後どうなっていくのかは楽しみでもあったが、
コロナ禍のためOTOTENが中止で、その後、音がどうなっていったのかは知りようがない。

もう一社楽しみにしていたのが、富士フイルムである。
φという独自のスピーカーシステムのプロトタイプを発表していたが、
2018年、2019年、どちらも人気がありすぎてブースに入ることが出来ず、
いまだ聴けていない。

2020年のOTOTENを三度目の正直で聴けるか、と期待していたけれど、
今年が三度目になるか、と期待していたけれど、いまのところ出展しないようである。

Date: 5月 18th, 2022
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(オンキヨーのこと・その4)

オンキヨーの倒産で今後困る人は、
オンキョーの製品を使っている人である。

パイオニアの製品はどうなるのだろうか。
オンキヨーがパイオニアのAV事業部を買収してからのパイオニア・ブランドの製品は、
オンキヨーの修理扱いとなるだろうが、それ以前の製品に関してはどうなるのか。

現時点でわかっているのは、
オンキヨー&パイオニア修理センターサービス指定店 スカイシステムが、
オンキョー、パイオニア、そしてサンスイの製品の修理を行ってくれる、とのこと。

この会社は、
ウェブサイトによるとオンキヨーの大阪サービス指定店として三十年以上携わってきた、とある。

Date: 5月 17th, 2022
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その37)

黄金の組合せとは、アナログディスク全盛時代だからこそ、と、
改めて、この項を書きながら思っているところだ。

スピーカーがあり、アンプがあり、
そしてカートリッジがあってのいわば三位一体ともいえる絶妙の組合せだからこそ、
黄金の組合せと呼ばれたのだろう。

タンノイのIIILZ、ラックスのSQ38F、オルトフォンのSPU-G/T(E)、
この三つが揃っての黄金の組合せなのだ。

もしカートリッジがSPU-G/T(E)ではなく、
SPU-G/T(E)と正反対の性格の音のカートリッジだったらどうなっただろうか。

SPU-G/T(E)よりも透明で繊細な音だけれども、
低音の豊かさ、充足感に乏しいカートリッジでは、
《〝黄金〟の鳴らす簡素な音の世界》は奏でられなかったはずだ。

私が考えた組合せでも、そうだ。
カートリッジがピカリングのXUV/4500Qだったからこそ、である。

瀬川先生が考えられる《現代の黄金の組合せ》もまた、
アナログディスクゆえの組合せである。

瀬川先生はCDの音を聴かれていない。
瀬川先生が長生きされていたら──、
1990年ごろに現代の黄金の組合せについて何か書かれていたとしたら、
どんなことを書かれただろうか。

Date: 5月 17th, 2022
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(オンキヨーのこと・その3)

5月13日の夕刻、オンキヨー倒産のニュースがあった。
オンキヨーホームエンターテイメントが自己破産である。

ソーシャルメディアでも話題になっていた。
私が目にしたニュースのなかには、名門の破産、といった見出しをつけているところもあった。

いくつかの記事のなかで、
とんちんかんなことを書いている東洋経済の記事は、なかなか笑える。

名門(?)、
オンキヨーは名門だったのか。
そんなことを思いながらも、オンキヨーが消えても何の感情もわかない。

悲しい、とか、寂しいといった感情はない。
むしろここ二、三年、悪いウワサを耳にしていた。

いいウワサはまったくなかった。
悪いウワサのどれが本当なのかはっきりしないから取り上げなかったけれど、
オンキヨーはホームシアターを積極的に展開していくつもりだったのだろう。
そのためのメリディアンの輸入元になった、と思っている。

けれど結果はどうだったのか。

幸いなことにメリディアンの無入元はハイレス・ミュージックに戻っている。
e-onkyoもまったく別会社になっているから、オンキヨーとは関係ないので安心。

Date: 5月 17th, 2022
Cate: 映画

Doctor Strange in the Multiverse of Madness(その5)

四日前の(その4)で、HiViが隔月刊か季刊になってしまうかもしれない──、
と書いたばかりだった。

今日、正式に告知されている。
6月17日発売の7月号が月刊HiViの最終号になり、
9月16日発売が季刊HiViの一号になる、とのこと。

こんなにも早く月刊誌ではなくなるとは……、と少々驚いている。
自分で書いていたものの、
早くて来年くらいかな、ぐらいに思っていたし、
月刊誌からいきなり季刊誌ではなく、隔月刊誌で様子見て──、
そんなふうにも思っていたからだった。

昨晩は「シン・ウルトラマン」を観に行っていた。
日比谷のTOHOシネマズで観ていた。

映画館に人が集まっている、と感じていた。
1980年代よりもにぎわっているという感じでもあった。

だからといってホームシアター雑誌が売れるわけでもないのか。
なんとなくだが、Mac雑誌に似たような状況のようにも思える。

私がMac雑誌を読みはじめた1992年ごろは、
Mac Japan、Mac Power、Mac Life、Mac Worldが月刊誌として出ていた。
それから数年後、Mac JapanがMac Japan ActiveとMac Japan Brosに分れた。
Mac Powerの姉妹誌としてMac Peopleが出て、
日経Mac、Mac User、Mac fanも創刊された。

これだけのMac雑誌があり、
コンビニエンスストアでもMac Powerが、
私鉄沿線の小さな駅の売店でもMac Peopleが売られているのを見ている。

それがいま残っているのは、Mac fan一誌のみである。

だからといってMacを含めてAppleの製品が売れていないのかといえば、
まったくそんなことはなく、その逆である。
なのにMac雑誌は寂しい限りである。

とにかくHiViが季刊誌になる。
一冊のボリュウムはステレオサウンドと同じくらいになるのだろうか。
それに年四冊のうち12月発売の号は、
HiViグランプリとベストバイの特集なのは変えないようである。

Date: 5月 16th, 2022
Cate: 黄金の組合せ
1 msg

黄金の組合せ(その36)

黄金の組合せで思い出すことが、一つ私にはある。
瀬川先生が熊本のオーディオ店に定期的に来られていた時のことだ。

別項「ある組合せ」ですでに書いているが、
私の希望でスペンドールのBCII、ラックスのLX38、ピカリングのXUV/4500Q、
この組合せが鳴らした音は、いまでもはっきりと思い出せるだけでなく、
その時、瀬川先生が「これはひじょうにおもしろい組合せだ。ぼくも聴いてみたい組合せ」と言われた。

一曲鳴らし終った後に、
「いやー、これはほんとうにいい音だ。玄人の組合せだ!!」と言ってくださった。
ちょうど最前列の真ん中の席が空いていたので、そこに座られ、
瀬川先生のお好きなレコードを、もう一枚かけられて、
そのときの楽しそうに聴かれていた表情と、「玄人の組合せ」という褒め言葉が、
高校生だった私には、二重にうれしかった。 

この組合せは、黄金(絶妙)の組合せ、といっていいかもしれない。

BCIIもLX38も、音の輪郭が甘いほうである。
そこに同じ傾向のカートリッジをもってきては、どうにも聴けない音になってしまうところを、
カートリッジにXUV/4500Qをもってきてピリッとさせる──、
そんなふうに瀬川先生が解説してくださった。

「BCIIとLX38がこんなに合うとは思わなかった」とも言われた。 
その約半年後に、ステレオサウンドの別冊として出たコンポーネントの組合せの本に、
カートリッジは異っていたけど、菅野先生も、BCIIとLX38を組み合わされている。

なのでBCIIとLX38の相性はかなりいいといえる。

Date: 5月 16th, 2022
Cate: High Resolution

MQAのこと、オーディオのこと(その12)

アナログディスクの人気がいまも高いようである。
過去のアナログ録音がアナログディスクで復刻されるだけでなく、
デジタル録音もアナログディスクで登場してきたりする。

マスターがデジタル録音であれば、
カッティング前の過程でアナログに変換される。
どこのD/Aコンバーターが使われるのか──、
そのことへの興味よりも、MQAでエンコード/デコードしたら、
どういう仕上がりとなるのだろうかに、とても興味がある。

そろそろMQA処理のアナログディスクが登場してきてもよさそうなのに。

Date: 5月 15th, 2022
Cate: ちいさな結論

ちいさな結論(問いつづけなくてはならないこと・その5)

美しく聴く、ということは、自分と和する心をもつことなのだろう──、
と(その3)で書いた。

二年前のことだ。
このとき、あえて書かなかったことがある。

自分と和するということは、醜い自分、愚かな自分──、
そういった自分とも和するということである。

Date: 5月 15th, 2022
Cate: きく

音楽をきく(その3)

「どうでもいいことがどうでもよくはなくて、しかしどうでもよくはないものがなくても音楽はきける」、
これは「ステレオのすべて ’77」掲載の黒田先生の文章のタイトルである。

黒田先生自身によるタイトルなのか、編集者によるものなのか、
そこは判然としないが、私は黒田先生がつけられたのではないだろうか、と勝手に思っている。

ここには二枚のディスクが登場する。
一枚はフルトヴェングラーのベートーヴェンのレコードである。
もう一枚はシンガーズ・アンリミテッドのレコードである。

これらのレコードをきいている男は同じではなく、二人である。
フルトヴェングラーのレコードをきいている男は、
倉庫のようなところで、裸電球の下でフルトヴェングラーのベートーヴェンをきいている。

シンガーズ・アンリミテッドのレコードをきいている男は、
高級マンションの一室で、調度品も周到に選ばれていて、
そういう環境で、シンガーズ・アンリミテッドの歌をきいている。

黒田先生は《音楽の呼ぶ部屋がある》とも書かれている。
そして、こうまとめられている。
     *
 要するに、お気に召すまま──だとは思う。みんなすきかってにやればそれでいい。倉庫のようなところでシンガーズ・アンリミテッドをきこうと、気取った猫足の椅子にふんぞりかえってフルトヴェングラーをきこうと、誰もなにもいわない。しかし、無言のうちに、そこでひびいた音楽が、そのききてを裁いているということを、忘れるべきではないだろう。
     *
黒田先生が、この文章を書かれた時よりも、
いまは実にさまざまなところで音楽がきける時代だ。
スマートフォンとイヤフォンがあれば、それこそトイレの個室でも音楽をきける。

そういう時代だから、
「どうでもいいことがどうでもよくはなくて、しかしどうでもよくはないものがなくても音楽はきける」、
このタイトルをじっくりと読み返してほしい。

Date: 5月 14th, 2022
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その35)

現代の黄金の組合せは可能なのか。
それに対する瀬川先生の答は、次のとおりである。
     *
 さて、そうであるなら、こんにちの最新録音を、十二分とまではゆかないにしても一応、聴きとれるだけの能力を具えながら、かつての〝黄金の組合せ〟的に、全体として必ずしも大がかりな形をとることなく、そして価格的にも大げさでない、いわば〝現代の黄金の組合せ〟といったものが考えられるものか、どうだろうか。
 結論を先に言ってしまうなら、現代ではもはや、十年前のように明確に、これ一組、と言い切れるほどの絶妙の組合せは考えられなくなっていると思う。というのは、現在では、十年前と違って、水準をつき抜けた優秀なパーツが、非常に数多く出揃っているからで、またそれに加えて、すでに述べてきたように、音楽の種類もまた聴き手の要求も、おそろしく多様になってきていることもあって、たった一組の〝絶妙の〟組合せに話を絞ることは難かしい。
 とはいうものの、黄金のあるいは絶妙の組合せ、というタイトルは、これ自体なかなか魅力的なテーマであって、必ずしも一種類に限らなくとも、いろいろとリストアップしながら考えてみたい誘惑にかられる。果して現代の黄金の組合せとは、どんな形になりうるのか、いくつかの考えをまとめてみたくなってきた。

 かりに、価格や大きさを無視して考えてみると、たとえばこんな組合せが……。
     *
残念なことに、瀬川先生の、この原稿は未完成であり、
前書きにあたる、この部分はここで終っている。

肝心の、現代の黄金の組合せに対する瀬川先生が考えられたかたち、
それについての部分はまったくない。
ただ後半にあたる録音を俯瞰したところはある。

その最後のところに、こう書かれている。
《レコードの録音は、ほんとうに変りはじめている。そういう変化を前提として、そこではじめて、これからの再生装置のありかたが、浮かび上ってくる。》
そして──以下次号──、ともある。

前書きを書かれ、後半の録音についても書かれたあとに、
現代の黄金の組合せについてのところを書かれるつもりだったのか。

なので、瀬川先生がどんな組合せを考えられたのか、
提示されたであろうかは、もう想像するしかないが、
きっとそこにはロジャースのPM510の組合せは登場していたはずだ。

Date: 5月 14th, 2022
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その34)

《しかし十年を経たいま、右の装置が〝黄金〟のままでいることはもはや困難になっている》
と瀬川先生は、はっきりと書かれている。

その理由として、《ここ数年来、飛躍的に向上したレコードの録音の良さに対して、カートリッジもアンプもスピーカーも、すでに限界がみえすぎている》
ことを挙げられている。

オルトフォンのSPU-G/T(E)にしても、
ラックスのSQ38シリーズにしても、タンノイのIIILZもそうなのだが、
当時の最新の録音に十全に対応できている、とはもう言い難かったことを、
瀬川先生は少し具体的に書かれている。

そのうえで、こうも書かれている。
     *
 念のためつけ加えておきたいが、この〝黄金の組合せ〟を、定期的に点検調整し、丁寧に使いこんであれば、そして、鳴らすレコードもこの装置の能力にみあった時代の録音に限るか、又はこんにちの録音でもその音を十全に生かしてないことを承知の上で音楽として楽しんでゆくのであれば、はたからとやかく言う筋のものではないかもしれない。ただ、レコードの誠実な聴き手であろうとすれば、かつての〝黄金〟も、こんにち必ずしも「絶妙」とは認め難くなっているという現実を、冷静に受けとめておく必要はあると思う。
     *
いいかえれば、黄金の組合せ(絶妙の組合せ)は、
オーディオ機器のことだけで成立しているわけではなく、
レコード(録音物)をふくめて成立することであるだけでなく、
最も重要なのがレコード(録音物)のことである。

ここを抜きにして黄金の組合せについて語るのは、
なんとも片手落ちでしかないし、本質がわかっていないともいえる。

Date: 5月 14th, 2022
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その33)

ステレオサウンド 57号は1980年12月発売の号である。
そこでの《もう十年ほど昔の話》ということだから、
黄金の組合せは1970年ごろの話である。

もういまから五十年ほど昔の話である。
瀬川先生の文章の続きを引用しよう。
     *
 タンノイ(ここで言う「タンノイ」は、最近の製品ではなく、レクタンギュラー・ヨーク以前の旧製品に話を限る)は、IIILZに限ったことではないが、鳴らしかたのやや難しいスピーカーだった。かつての名機オートグラフから最良の音を抽き出すために、故五味康祐氏がほとんど後半生を費やされたことはよく知られているが、いわば普及型のIIILZも、へたに鳴らすと高音が耳を刺すように鋭い。当時普及しはじめたトランジスターアンプの大半が、IIILZをそういう音で鳴らすか、それとも、逆に味も素気もないパサパサの音で鳴らした。またIIILZオリジナルエンクロージュアは密閉型で、容積をギリギリに小さく設計してあったため、低音が不足がちで、そのことがよけいに音を硬く感じさせやすい。つまりこんにち冷静にふりかえってみれば弱点も少なくないスピーカーであったからこそ、その弱点を補うような性格の組合せをよく考えなくては、うまく鳴りにくかったのだが、その点、ラックスの38Fは、鋭い音を一切鳴らさず、低音を適当にゆるめる性格があって、そこが、IIILZとうまくあい補い合った。そして、オルトフォンSPUの低音の豊かさと音の充実感が、全体のバランスを整えて、その結果、費用や規模に比較してまさに絶妙、「黄金」と呼ぶにふさわしい組合せができ上ったのだった。高音をややおさえて、うまく鳴らしたときのこの組合せから鳴る(とくに弦の)音色の独特の張りつめた気品と艶は、聴き手を堪能させるに十分だった。当時でも私はもっと大型装置をうまくならしていたが、それでも、ときとしてこの〝黄金〟の鳴らす簡素な音の世界にあこがれることがあった。あまりにも大がかりな装置を鳴らしていると、その仕掛けの大きさに空しさを感じる瞬間があるものだ。〝黄金の組合せ〟には、空しさがなく充足があった。
     *
この文章からわかるのは、互いにうまく補い合った組合せが、
いわゆる黄金の組合せと呼ばれるシステムであって、
大事なのは、《空しさがなく充足があった》のところである。

つまり黄金の組合せとは、絶妙の組合せである。