Date: 5月 14th, 2022
Cate: 黄金の組合せ
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黄金の組合せ(その33)

ステレオサウンド 57号は1980年12月発売の号である。
そこでの《もう十年ほど昔の話》ということだから、
黄金の組合せは1970年ごろの話である。

もういまから五十年ほど昔の話である。
瀬川先生の文章の続きを引用しよう。
     *
 タンノイ(ここで言う「タンノイ」は、最近の製品ではなく、レクタンギュラー・ヨーク以前の旧製品に話を限る)は、IIILZに限ったことではないが、鳴らしかたのやや難しいスピーカーだった。かつての名機オートグラフから最良の音を抽き出すために、故五味康祐氏がほとんど後半生を費やされたことはよく知られているが、いわば普及型のIIILZも、へたに鳴らすと高音が耳を刺すように鋭い。当時普及しはじめたトランジスターアンプの大半が、IIILZをそういう音で鳴らすか、それとも、逆に味も素気もないパサパサの音で鳴らした。またIIILZオリジナルエンクロージュアは密閉型で、容積をギリギリに小さく設計してあったため、低音が不足がちで、そのことがよけいに音を硬く感じさせやすい。つまりこんにち冷静にふりかえってみれば弱点も少なくないスピーカーであったからこそ、その弱点を補うような性格の組合せをよく考えなくては、うまく鳴りにくかったのだが、その点、ラックスの38Fは、鋭い音を一切鳴らさず、低音を適当にゆるめる性格があって、そこが、IIILZとうまくあい補い合った。そして、オルトフォンSPUの低音の豊かさと音の充実感が、全体のバランスを整えて、その結果、費用や規模に比較してまさに絶妙、「黄金」と呼ぶにふさわしい組合せができ上ったのだった。高音をややおさえて、うまく鳴らしたときのこの組合せから鳴る(とくに弦の)音色の独特の張りつめた気品と艶は、聴き手を堪能させるに十分だった。当時でも私はもっと大型装置をうまくならしていたが、それでも、ときとしてこの〝黄金〟の鳴らす簡素な音の世界にあこがれることがあった。まりにも大がかりな装置を鳴らしていると、その仕掛けの大きさに空しさを感じる瞬間があるものだ。〝黄金の組合せ〟には、空しさがなく充足があった。
     *
この文章からわかるのは、互いにうまく補い合った組合せが、
いわゆる黄金の組合せと呼ばれるシステムであって、
大事なのは、《空しさがなく充足があった》のところである。

つまり黄金の組合せとは、絶妙の組合せである。

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