Archive for 6月, 2013

Date: 6月 20th, 2013
Cate: バッハ, マタイ受難曲, 五味康祐

ヨッフムのマタイ受難曲(タワーレコードに望むこと)

今回のヨッフムのマタイ受難曲もそうだが、
タワーレコードはオリジナル企画として、独自にCD復刻を行っている。
こういう企画はありがたい。

私がタワーレコードの、この企画に望むのは、
五味康祐・愛聴盤シリーズである。

ヨッフムのマタイ受難曲は今回復刻された。
次は、ミヨーの「子と母のためのカンタータ」を復刻してほしい。
ミヨー夫人が朗読をつとめたものだ。
いまナクソスのサイトでMP3では聴けるようになっているものの、
やはりCD、もしくは16ビット・44.1kHzのダウンロードで聴きたい気持がつよい。

それからアンドレ・メサジェの「二羽の鳩」。
これのLPは「子と母のためのカンタータ」とほぼ同時期に手に入れたもの、
ある事情で手もとにはない。
しかも演奏者が誰だったのかを、はっきりとおぼえていない。

まだある。ヴィヴァルディのヴィオラ・ダモーレ。
五味先生の著書を読んでも演奏者が誰なのかはっきりしないが、
どうもアッカルドによるものらしい。

まだまだあるけれど、この三枚、
無理ならばミヨーだけでも復刻してもらいたい。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: 型番

型番について(その9)

MC型カートリッジの構造は、各メーカーによって異る点はあるものの、
まずカートリッジ本体の半分ほどを占めるマグネットがあり、
このマグネットの前後に磁気回路を形成するポールピースがある。

オルトフォンのSPUでは前方ポールピースの片方の先端部に孔が開けられ、
ここをカンチレバーが貫通している。
後方ポールピースにさらに円柱状のポールピースが固定され、
この円柱状のポールピースがカンチレバーの近くまで伸びてきていて、
針先、カンチレバー、コイルなどう含む振動系はサスペンションストリングによって、これに固定される。

カンチレバーはたいていパイプであり、
サスペンションストリングの先端はストリングホルダーと呼ばれる部品によってカンチレバー内で固定され、
サスペンションストリングの大部分は円柱状のポールピースに、これもまたストリングホルダーによって固定される。

ストリングホルダーは、径も長さも異なるふたつが、それぞれカンチレバーとポールピースにあるわけだ。
このふたつのストリングホルダーの間にダンパーがある。
このダンパーの中心をサスペンションストリングが貫通している。

サスペンションストリングはたいては腰の強い金属製のワイヤーなのだが、
ダンパーの厚みが存在するために、支点が不明確になる問題が発生しやすい。

つまりダンパーが薄ければ薄いほど前後のストリングホルダーは近接することになる。
そうなればサスペンションストリングだけの部分は短くなる。
この部分が短くなればなるほど支点は明確になり、
長くなればそれ分がたわむことになり、支点が不明確になってしまう。

初期のSPUでは後方のストリングホルダーの先端が細くなるように加工され、
この細い先端がダンパーを貫通し、図を見る限りカンチレバー内のストリングホルダーと接触している。
もちろん接触部分は丸めてある。

これが中期のSPUでは後方のストリングホルダーは短く先端の加工がなされていない。
つまり単純は円柱状で、しかもダンパーを貫通することなく円柱状のポールピース内から出てこない。
これでは前方のストリングホルダーとの間にダンパーの厚み分だけの距離が生じ、
ダンパーの厚み分だけサスペンションストリングはたわむわけで、
支点も初期のSPUではコイルとダンパーの接触面よりも針先寄りにあったのが、
中期ではダンパーの中心へと、つまり後方に移動して支点が「点」というよりも線に近くなっている。

後期のSPUでは初期と中期の中間といえるストリングホルダーの長さと構造になっていて、
支点も初期型に近いところまで戻っている。

とはいうものの初期のSPUのワンポイントといえる支点の設定にくらべれば、
まだ甘い設定といわざるを得ない。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その5)

1978年だったか、ビクターがダイレクトカップル方式と名づけたMC型カートリッジを発表した。
このMC1は好評で、すぐさまシリーズ機としてMC2Eが出て、
さらにMC5E、MC101E、MC-L10と続き、MC-L1000が最終モデルとなった。

古くはウェストレックスの10A、ノイマンのDST、サテンのカートリッジなどの一部のカートリッジをのぞけば、
発電コイルはカンチレバーの根元近くにある。
理想は針先に発電コイルが直接取り付けられていることであるが、
これを実現するにはいくつかのクリアーすべき問題点がある。

いちばん大きな問題は、コイルの軽量化である。
カンチレバーの根元にコイルがあるのは、針先に直接もしくは近接しているのとでは、
振動系の実効質量において大きな差が生ずる。

針先近くにコイルをもってくるためには、
しかも針圧を重くせずに、という条件がついていれば、コイルそのものをかなり軽量化しなければならない。

ビクターはそれをIC製造技術を応用し、ウェハー上に蒸着した導体をフォトエッチングした、
いわゆるプリントコイルを実現することで、この問題をクリアーしている。
MC1に採用されたプリントコイルの重量は200μgで、通常のコイルの数10分の1ということだった。

発電コイルそのものは小さく軽くなっていても、
針先から1.5mmというきわめて近くに取り付けることで、その分コイルの振幅幅は大きくなるため、
出力電圧は0.2mV、針圧は1.5g±0.2gという値を実現していた。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: 型番

型番について(その8)

オルトフォンのSPUは、私がオーディオに関心をもちはじめた時には、
すでにロングセラーモデルだった。
シュアーのV15もロングセラーモデルという意味ではそういえなくもないけれど、
V15はTypeII、TypeIIIと改良・変更されていた。

なのにSPUはずっとSPUのままだった。
デンオンのDL103の歴史もながいけれど、SPUはそれよりも長い。
そんなカートリッジが、1970年代の後半においても現役カートリッジとして、
ほかのカートリッジでは得られない魅力を持っていることで、
少しばかりの欠点といえる面ももつものの、
私も、いつかはSPUと思っていた。

発売されたころからSPUはずっとSPUなのだから、
中身もそのまま変らずにいたのだと思っていた、ステレオサウンド 48号を読むまでは。

このころのステレオサウンドには、
井上先生と菅野先生による「ロングランコンポーネントの秘密をさぐる」という記事が連載されていた。
48号では、JBLのパラゴン、QUADのESLとともにオルトフォンのSPUがあった。

井上先生の発言は、だから少しばかりショックだった。
     *
井上 特に初期のSPUは、巻き枠のほぼちゅうしんにピボットがあったわけ。うしろのサスペンションストリングスが2重になっていまして、そこだけが細いから完全に回転運動をするという絶妙な構造になっていた。途中で合理化して一本になっちゃったけど、最近は初期のものに近い構造になっている。
     *
そしてSPUシリーズ/サスペンション機構の変遷という解説図が載っていた。
井上先生の発言だけでははっきりしないところが、この図を見れば一目瞭然だった。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その15)

AGI・511とQUAD・405、どちらもこの時代のアンプとしてはいち早くOPアンプを採用している。
405の電圧増幅に使われているOPアンプはLM301、405-2からはTL071である。
511のOPアンプはすでに書いているようにフォノイコライザーにはフェアチャイルドのμA749で、
ラインアンプには511bからは不明だが、511、511aはLF357である。
ただ511のごく初期のモノにはラインアンプには405と同じLM301が使われている。

このLM301は一般的な樹脂モールド型ではなくメタルCAN型であり、
Googleで画像検索すれば、LM301使用の511の内部写真を見つけ出すことができる。

LM301からLF357への早い時期での切り替えの理由ははっきりとしないが、
おそらくスルーレイトに関することだと思う。
511のハイスルーレイトともいえる250V/μSという値は、
実はフォノイコライザー部のみの値であり、
フィードフォワードもフォノイコライザーにのみ使われている。

ラインアンプはLF357に変更されてから、スルーレイト50V/μsである。
ラインアンプはNFBのみかけられている。
ただ出力に挿入されている直流成分をカットのためのコンデンサーの両端からNFBをかけている。

それから511と405に共通していることであげられるのは、
どちらも電源スイッチをもたないということ。

511のフロントパネル右下にはスイッチがある。
ただしこれはアンプ本体の電源スイッチではなく、
リアパネルにあるACアウトレットのON/OFFのためである。
511は常時通電型である。

405も405-2からはリアパネルに電源スイッチが設けられたが、もともとない。
QUADのパワーアンプは管球式のIIにしてもトランジスターの303にしても、電源スイッチはない。

22とIIの組合せでは、パワーアンプ(II)からコントロールアンプ(22)へと電源が供給され、
22の電源のON/OFFと連動するようになっている。

33と303組合せでは、303の電源を33のACアウトレットからとることで連動できる。
405に電源スイッチがないのも、コントロールアンプの電源のON/OFFと連動させるためであり、
その意味でも511と405は使い勝手面での相性もいいといえるわけだ。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その14)

QUAD・405のフィードフォワード回路の基となっているのは、
フィードバック理論の発明者、H. S.ブラックが、
フィードバックよりも9年前に発明していた技術であり、
ブラックは4つの抵抗からなるブリッジ回路にしていたのを、
QUADのピーター・ウォーカーは2つの抵抗、残り2つの抵抗をそれぞれコンデンサー、コイルに置き換えている。

フィードバックよりもフィードフォワードのほうが先に生まれていながら、
フィードバック理論の方ばかり普及していったわけである。
そのフィードフォワード理論を、ウォーカーは4年かけて実用化している。

405に採用されたフィードフォワード回路はカレントダンピングと名づけられ、
1974年のAESで発表されている。
4年の歳月が、405を完成し発表するまでなのか、
AESで発表するまでなのかははっきりしないが、
仮にAES発表までに4年かかったとしたら、1970年ごろから、ということになる。

ウォーカーは1916年生れだから、54歳。
かなりの試行錯誤の末、カレントダンピングは生れたのかもしれない。
ウォーカーが実際にどのようにフィードフォワードの問題を解決していったのかはわからない。

AGIのスピーゲルはスーパーコンピューターを使い、フィードフォワード技術を実現している。
ウォーカーがスーパーコンピューターを使っている図は思い浮ばない。
ESLを実用化・実現したときと同じように進めていったように思う。

フィードフォワードという同じ技術用語でくくられても、
AGI・511とQUAD・405では、フィードフォワードの利用の仕方に違いがある。

違いは当然ある。
それでも同じ時期にフィードフォワード理論を、
現実のアンプへ応用していったふたりのエンジニアによるアンプだけに、
不思議と共通するところもある。

Date: 6月 19th, 2013
Cate: 型番

型番について(その7)

日本のオーディオメーカーは、型番についても、いわばマメである。
型番が同じであれば、製造ロットが違うモノをもってきて中を見比べてみても、ほぼ同じである。
まったく同じ、といってもいいぐらいである。

けれど海外のオーディオメーカーとなると、同じ型番であっても、
製造時期が違えば、ずいぶん仕様が違ってきているモノも少なくない。

有名なのがマークレビンソンのアンプである。
LNP2は1974年にバウエン製モジュール搭載で登場して以来、
日本においては並行輸入対策として末尾にLがつくようになったが、
アメリカ及びそのほかの国では製造中止になるまでLNP2のままで、
型番に変更はなかった。

LNP2の中身はずいぶん変化している。
ここで、そのことについて細かく書きはしないが、
マークレビンソン製のモジュールになってからでも、
初期のLNP2と後期のLNP2とでは、音の違いは、LNP2に惚れ込んでいる者にとって無視できないレベルである。

型番がずっと変っていない海外製品には、
有名なモノではJBLのD130があり、オルトフォンのSPUがある。

Date: 6月 19th, 2013
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その28)

ダグラス・サックスがレコード再生システムの改良形として、
光学式による音溝のトレースをするプレーヤーシステムとなると、実際にはどういうモノになるだろうか。

ダグラス・サックスがインタヴューにこたえていた時点では、
そういうプレーヤーは存在しなかったけれど、いまはエルプの製品がある。

ただ機械式トレースを光学式トレースに置き換えただけのプレーヤーであれば、
そのプレーヤーの出力信号は、
従来の機械式トレースのモノ、つまりMC型なりMM型カートリッジの出力信号ということになる。
しかもRIAAカーヴのイコライジングを必要とする出力信号である。

でもエルプ以外のメーカーが、仮に光学式トレースのアナログプレーヤーを開発したとしても、
そういうふうにはしないはず。
必ずラインレベルでの出力にして、イコライジングも行い、
コントロールアンプのライン入力にそのまま接続できるように仕上げる。

そしてイコライザーカーヴもRIAAだけでなく、各種カーヴを使えるようにする。
回転数もSPの78回転も加えて、
つまりこれまで100年以上の歴史をもつアナログディスクのすべてを一台のプレーヤーで再生できるようにする。

これが、ひとつのアナログプレーヤーの在り方といえるし、
ここからアナログプレーヤーの在り方について、その細部について考えていく──、
それがプレーヤーにおける「オリジナル」を考えていくことである、と私はおもう。

Date: 6月 19th, 2013
Cate: 調整

オーディオ機器の調整のこと(その11)

軽量・軽針圧用という思い込みを払拭して眺めてみれば、
3009/SeriesIIIこそが、SME初のユニバーサル・トーンアームなのではないか、と、そうも見えてくる。

カートリッジの交換は自分で使ってみるまでは、
ヘッドシェル交換型に較べると面倒なような気もするだろうが、
交換用パイプCA1を複数本(つまりカートリッジ本数分)持っていれば、
カートリッジの交換はむしろやりやすくなっている。

CA1は1977年当時、9500円していた。
3009/SeriesIIIの価格は65000円。
チタニウムを硬化処理したパイプということを考えれば、決して高価とはいえない。

当時の単売されていたヘッドシェルの一般的な価格からすれば、
数倍の値付けがされているのだから、高いと思う人もいたかもしれない。

このころは、もうヘッドシェルもけっこう高価なものが登場していた。
たとえばフィデリティ・リサーチのFR-S/4はアミルブロックからの削り出しということもあって7500円していたし、
ソニーのSH160はカーボンファイバーにアルミカバーを取り付けた仕様で、これも7500円だった。
サエクのULS3Xは、酸化アルミニウム結晶体で、11000円と飛び抜けて高価だった。

CA1はヘッドシェルとパイプが一体になっていての9500円である。

Date: 6月 19th, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その4)

瀬川先生が、以前こんなことをはなされた。

MC型カートリッジはMM型カートリッジよりも(値段が)高い傾向にある。
MC型カートリッジの材料費という点での原価は、それほど高くない。
MC型カートリッジがどうしても高価になってしまうのは、手作業によってつくられるから。

MC型以外のMM型、MI型ではコイルは固定されていて動かない。
MC型はその名が示すようにコイルがカンチレバーの後方に取り付けられていて、動く。
このコイルの質量をできるだけ小さくすれば、そのカートリッジの振動系の実効質量は小さくなる。
とはいえ人が、そのコイルを巻くわけだから、小型軽量にするにも限度があるし、
あまり小型化して発電効率が低下しすぎても、別の問題が発生することになる。

MC型カートリッジを製造しているメーカーには、
熟練のコイル巻き専門の人がいた、ときいている。
たとえば専門メーカーであったスペックスは、広告で「日産21個」をうたっていた。
20個が就業時間内で、残業時間で1個ということだった。

そういう性質の製品だから、コイルを巻く人が数人いれば、
そこには、たとえ検査で合格したとはいえ、わずかなバラつきは生じる。
MC型カートリッジは同じ会社の同じ型番の、同じ時期につくられたモノを10個、
その音を比較試聴すれば、わずかとはいえ、差が生じることになる。

そういう違いは、他の要素も関係していたとしても、
おもにコイルの巻き具合だという話をきいたことがある。

Date: 6月 19th, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その3)

銅線を巻いたものは、オーディオ機器にはいろんなところで使われている。
コイルがまずある。

アンプの部品としてのコイルもあれば、
カートリッジの中で発電するものとしてのコイルがあり、
スピーカーユニットにはボイスコイルがある。

コイルを鉄心にふたつ以上巻いたもの、つまりトランスがある。
トランスは音声信号用と電源用とがある。
最近ではスイッチング電源用(高周波用)もある。

それにモーターにも巻線技術は使われている。
プログラムソースがアナログ全盛時代にくらべると、
モーターの使われ方は減ってきている。
けれど以前はアナログプレーヤー、オープンリールデッキ、カセットデッキ、CDプレーヤー、DATデッキなどで、
モーターは重要なパーツだった。

巻枠に銅線を巻きつけていくだけ──、
そんなふうにトランスのことを捉えている人がいるのかもしれない。
たしかに何かに銅線を巻きつけていく作業である。
だが自分でやっていみると、巻線の技術は誰にでもできることではない。

いわゆるガラ巻きと呼ばれる、いいかげんな巻き方ならば誰にでもできよう。
けれど巻枠に対して銅線が浮かないように、ある一定のテンションを与えて巻いていく。
しかもトランスは一回巻けば終りではなく、
二層、三層……と巻きつけていく。

トランスの製造なんて、さほど難しいものではない、と思う人は、
一度トランスをバラしてみるといい。
シールドケースがあるものはシールドケースをはぎとり、
トランス本体を取り出して、巻線をバラしていく。
そんな作業を自分でやってみれば、トランスをつくることの大変さが少しはわかるはずだ。

Date: 6月 18th, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その2)

タンゴ(Tango)の名のつくトランスがなくなるのは、
ほぼ間違いなくトランスをつくる職人の高齢化と、
若い職人がいないことによるものであろう。

6月5日に四谷三丁目の喫茶茶会記で行った「岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代」において、
元パイオニアの片桐さんが話されたことがあった。

「昔、オーディオの御三家はサンスイ、トリオ、パイオニアといわれていて、実は順番もそうだった。
理由はサンスイは古くからトランスを作ってきていたし、トリオもコイルを作ってきていた。
パイオニアはスピーカーは作ってきていたけど……」

トランスを作ってきていたから、御三家の中で一番──、
このことに頷かれる人もいれば、そうでない人もいる。
私は頷くほうである。

トランスを作ってきたことより、アンプやスピーカーの優れたモノを作れれば、
それでいいのではないか、そちらの方が重要ではないのか。

たしかにそうではある。
けれどトランス、コイルの優れたモノを作るのに必要な基本的な技術は、
巻線の技術であることを思い出してほしい。

Date: 6月 18th, 2013
Cate: きく

舌読という言葉を知り、「きく」についておもう(その4)

本を朗読してもらう、
朗読者がトレースしたものを、きくことになる。

レコード(LPやCD)をオーディオで再生して、
レコードにおさめられている音楽をきく行為は、
どこか本を誰かに朗読してもらい、それをきく行為に似ている。

本には文字が並んでいる。
LPには文字ではなく溝が刻んである。
CDにはピットが並んでいる。

LPの溝はカートリッジの針先がトレースする。
CDのピットは、レーザーがトレースしていく。

そうやってトレースされたことによる電気信号を増幅し処理して、
スピーカーの振動板を動かし、空気の疎密波をつくる。

LPやCDという本を、
オーディオという朗読者が読み上げてくれる。
ここには聴き手(読み手)によるトレースは存在しないことになる。

Date: 6月 18th, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その1)

先週、何気なくアクセスしたノグチトランスのウェブサイトのトップページに、
タンゴ・トランスが製造中止になる、と書かれていた。
このニュースを知った人による注文が殺到していて、たいへんなことになっているようだ。
だから、あえてリンクはしない。

タンゴ・トランスは、真空管アンプを以前から自作してきた者にとって、
ラックス、タムラとともに、主要パーツを製造してくれたありがたいメーカーであった。

ラックスがまずトランスの単売をやめた。
日本製のトランスは、だからタンゴとタムラになった。
もちろん、他にもいくつかトランスメーカーはあったし、いまも製造しているところもある。
けれど、無線と実験、ラジオ技術に掲載される自作記事に使われるトランスとなると、
タンゴとタムラばかり、といえなくもない。

タムラはいまも製造している。
けれど数年前に大幅な値上げをした。
この値上げの幅が大きすぎて、上杉アンプはタンゴ・トランスへと移行した。

とはいえ、タムラのトランスの値上げを一方的には批判しにくい。
いまの時代に、よく製造してくれている、という気持がやはりあるからだ。

タンゴ・ブランドを使っていた平田電機製作所が、何年前だったか、
もう忘れてしまっているから、けっこう経っている、といってもいいのだろうか、
廃業した時にタンゴ・トランスもなくなるかと思われたが、
アイエスオーがブランドを引き継ぎ、製造は継続された。

そのアイエスオーが今夏廃業することになった。

もうどこかがタンゴ・ブランドを引き継ぐことはないと思われる。
タンゴ・トランスは、もうじきなくなる。

Date: 6月 18th, 2013
Cate: 「空間」

この空間から……(その7)

例えばピアノと比較すれば、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとギターも同じ弦楽器ということになる。

ヴァイオリンやチェロの音とギターの音は聴けば、すぐにわかる違いがあるにしても、
ボディの形は大きくみればヴァイオリンとギターはくびれているところも同じだし、
ネックがありヘッドがあり、弦が複数本張ってある、ということても、
ピアノとの比較においては同種の楽器といえよう。

それでもヴァイオリン、チェロなどは弦とボディのあいだに駒があり、
弦の張り方にギターとの違いがあるし、
共鳴のためにボディにあけられている孔の形状、大きさ、数が違う。

ギターは丸でひとつ、ヴァイオリン、チェロなどはいわゆるf字孔でふたつ。
ギターでは弦のすぐ下にある孔は、ヴァイオリン、チェロなどでは真下にはない。

大きな括りではギターもヴァイオリンも弦楽器であっても、
孔という「窓」のあり方は違っている。

左右ふたつのスピーカーの間に形成されるもの、
これを「窓」とすれば、ヴァイオリン、ギターで孔が違うのは同じように、
人によって違ってきて当然のことのはず。

これが、別項「オプティマムレンジ」に関係してくるような気がしている。