Archive for 5月, 2012

Date: 5月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その3)

1951年には50W-2がマッキントッシュから出ている。
50W-1からの変更点については詳しいことははっりきしないが、
50W-2でも出力トランスはNFBループに含まれていない。

マッキントッシュのパワーアンプで出力トランスがNFBループに含まれる(2次側からNFBをかけている)のは、
1853年発売のA116からである。
A116は業務用として開発されたアンプで、その後のMC30、MC60とはシャーシー・コンストラクションも、
シャーシーの仕上げも異る。型番のつけ方も、これアンプだけ違っている。

A116は実際にウェスターン・エレクトリックのトーキーシステムに採用されている。
話は少し脱線してしまうが、このA116について、伊藤先生が語られている。
     *
マッキントッシュを使ったアンプリファイアーの番号はA116というんですが、これはたぶんマッキントッシュの型番だと思います。というのは、これと同じところにウェスターン26というアンプリファイアーがあるんです。このアンプの年代が1954年8月になっていて、中のサーキットはA116とまったく同じなんです。(中略)
このA116、すなわちウェスターン26ですね、これは私も見ましたし音も聴きました。ちょうど映画がシネマスコープになりはじめたころで、シネマスコープはアンプが4台必要ですから、それまでのウェスターンの製品ではとても大きくて取り付けられなかったんです。(中略)
(A116は)いわゆるハイフィデリティー用でしょう。だから高域から低域まで、スキーンと伸びたすばらしい音がしました。だけどね、このアンプをトーキーに使ったときに、一つの問題があったんです。それは、あまりに帯域が広いために、余計なビンビン、バリバリ、ドンドコというノイズが出てきて困ったことがあるんです。もっとも、トーキー用にするために方々にフィルターを入れて取ってはいますけどね。やはり、アンプリファイアーの癖として、フレケンシー・レンジの広い奴はトーキーに持ってくると困るねえ。……それで泣いた事があります。
(ステレオサウンド別冊 世界のオーディオ〈マッキントッシュ〉「劇場やスタジオでつかわれたマッキントッシュ」より)
     *
A116は伊藤先生が語られているように業務用アンプとして日本にもはいってきており、
仙台日活劇場、田川東洋劇場、京都東洋現像所試写室、東映京都撮影所試写室、大映京都撮影所試写室、魚津大劇、
スイト会館(大垣)、内田橋劇場(名古屋)、知多キネマ(半田)、鶴城映画劇場(西尾)、
大映東京撮影所試写室に設置、使用されていた。

A116はさらにRCAの放送設備用アンプとしても使われており、
RCAの製品としての型番はM111229、50W-2もM111236という型番になっている。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その2)

日本においてはウィリアムソン・アンプのことが広く知れ渡るようになったのは、
1947年の「Wireless World」の記事ではなく、2年後の49年の同誌8月号に掲載された、より詳細な記事であり、
この記事が翌50年のラジオ技術3月号に掲載されてから、ということだ。

アメリカではどうだったのだろうか。
当時の日本と比べれば、出力トランスの優秀なものはいくつもあったと思う。
けれどパートリッジ製のトランスと同等の性能のトランスで、
出力トランスの2次側から20dBものNFBをかけて高域で発振しないトランスは、
それほど多くはなかったのではなかろうか。
だからこそ、ウィリアムソン・アンプはアメリカでは注目されていったように思う。

JBLのD130は1948年に登場している。
ウィリアムソン・アンプの最初の記事の1年後なのだが、
アメリカに住むランシングがこのときウィリアムソン・アンプを手にしていたとは思えない。

ランシングがどんなアンプを使っていたのか、で、もうひとついえることは、
自作の真空管アンプ、もしくは電蓄の真空管アンプに近いものであった可能性がある、ということ。

いわゆるハイファイアンプと呼べる真空管アンプが登場するのは、もう少し後のことである。
マッキントッシュがユニティ・カップルド回路で特許を取得したのが1948年、D130と同じ年。
マッキントッシュの設立は翌49年1月のことである。
マッキントッシュの最初のアンプはパワーアンプ15W-1、50W-1である。

一方マランツの設立は1951年で、最初のアンプはコントロールアンプのModel 1で、
パワーアンプのModel 2の登場は1956年のことである。

マッキントッシュの15W-1、50W-1の回路がどうなっているのかは知らない。
回路図を見たことがないからだが、1951年に登場した20W-2の回路図を見ると、
出力トランスの2次側からのNFBはない。
おそらく15W-1、50W-1も出力管とそれにともなう出力の違いはあっても、
基本的な回路は20W-1と同じと考えていいはずだ。

となるとマッキントッシュの最初のパワーアンプも出力トランスの2次側からのNFBはなかった、といえる。
NFBは出力管のカソードから初段管のカソードへとかけられている。
もちろんプッシュプル構成なのでNFBの経路は2つあるわけだ。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past)を入力していて……(続々・作業しながら思っていること)

チューナーの名器といえば、まず浮ぶのはマランツの10Bと、
その設計者であるセクエラが、自分の名前をブランドとしたセクエラのModel 1が、
それぞれ真空管、トランジスターのチューナーの、価格的にも性能的に最高のチューナーとして存在している。

国産メーカーでは高周波に強いメーカーとしてトリオがある。
ケンウッドと社名を変更したいまでもアマチュア無線機を製造しているトリオは、
1957年に日本初のFMチューナーを開発したメーカーであり、その前身は高周波部品を手掛ける春日無線である。

社名がトリオ時代だったころ、アメリカでは使用していたブランド、ケンウッドを,
国内では最高級ブランドとして使いはじめたのが、1979年に発表したプリメインアンプL01A、
チューナーのL01T、アナログプレーヤーのL07Dからである。

いまではすっかり昔のケンウッド・ブランドのイメージはなくなってしまっているけれど、
1981年のL02T、翌82年のL02Aのころのケンウッドのブランド・イメージはマニア心をくすぐってくれた。

プリメインアンプのL02Aの価格は55万円。
いまではプリメインアンプでも100万円を超すものが珍しくなくなっているけれど、
この時代に55万円という価格は、きちんとしたセパレートアンプが購入できる金額でもあった。

L02Aよりも先に登場したケンウッド・ブランドのセパレートアンプ、L08CとL08Mはトータルで48万円。
プリメインアンプのL02Aの方が価格的に高かっただけでなく、
トリオという会社がケンウッドというブランドにかける熱意が感じられるモノだった。

L02Aは測定データも良かった。
ステレオサウンド 64号で長島先生がやられた、
負荷インピーダンスを8Ωから1Ωへと順次切替えを行っての測定で、
もっとも優秀な結果を出したのが、実はL02Aだった。

64号ではプリメインアンプだけでなくセパレートアンプも含まれている。
価格的にはL02Aよりもずっと効果で物量も投入されているパワーアンプよりも、L02Aは優っていた。

このL02Aとペアとなるチューナーとして開発されたL02Tが、
国産チューナーとしては最高のモノといってもいいだろう。

けれど、トリオの現在までの製品で、ひとつだけとなったら、L02Tは選ばない。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その1)

6年ぐらい前のことになるが、
このときはmixiをやっていて、そこで「JBLのランシングはどんなアンプを使っていたのか」という質問を受けた。

JBLブランドのアンプが登場するのはランシングが亡くなってから、
真空管からトランジスターへ移行してからである。
ランシングが、どんなアンプで自らのスピーカーユニットを鳴らしていたのかは、
いくつかな資料を見てもまったく手掛かりがない。

確実にいえることは、真空管アンプだ、ということだけ。
真空管アンプといっても、いろいろな形態がある。
どんな真空管アンプなのか、は、もう想像するしかない。

真空管アンプで、20dBもの高帰還アンプとして登場したウィリアムソンアンプは、
イギリスの雑誌「Wireless World」の1947年4/5月号で論文発表されている。

ウィリアムソン・アンプは、電圧増幅段に使われているのはL63/6J5、
出力段はKT66を三極管接続にしたプッシュプル。
位相反転は2段目のP-K分割。初段とこの位相反転とのあいだは直結となっている。
NFBは出力トランスの2次側から初段のカソードへとかけられている。

いまウィリアムソン・アンプの回路図を眺めても、
ウィリアムソン・アンプの登場を体験していない世代にとっては、
当時の人が受けた衝撃の大きさはなかなか理解しにくいが、
真空管アンプの歴史を少しでも調べていった人ならば、その大きさの何割かは実感できると思う。

ウィリアムソン・アンプは、イギリスの雑誌に発表されたことからもわかるようにイギリスで生れた。
そしてウィリアムソン・アンプの要となる出力トランスは、分割巻きのトランスで知られるパートリッジ製である。

このパートリッジ製の出力トランスの優秀性のバックアップがあったからこそ、
20dBものNFBを安定にかけられた、ということだ。
つまり当時ウィリアムソン・アンプを実現するには、
パートリッジ製と同等の性能をもつ出力トランスが必要だったことになる。

Date: 5月 21st, 2012
Cate: 朦朧体

ボンジョルノはLCネットワーク支持なのか

アンプの鬼才とたとえられるジェームズ・ボンジョルノ。
いま現在Ampzilla 2000で復帰し、ボンジョルノのつくるアンプに魅かれてきた者にとっては、
これからも、いまぐらいの規模でいいから、ずっと続いていってほしいと願いたくなる。

ボンジョルノはGASの設立者として、日本では広く知られるようになったわけだが、
GAS以前にもアンプ設計の仕事には携わっており、彼の経歴はAmpzilla 2000のウェブサイトで見ることができる。

ハドレー(このブランドを知らない世代のほうがいまや多いのかもしれない)のパワーアンプ、622C、
マランツのMode1 15といった旧いソリッドステートアンプから始まっており、
アンプだけでなくチューナーやカートリッジの設計・開発も行っていたことが、わかる。

GAS、その次に始めたSUMOは彼の会社である。
ここではアンプ、チューナー、カートリッジを作っている。
いまの会社ではチーフエンジニアとしてAmpzilla 2000、Son of Ampzilla、Ambrosiaを生み出している。

ふと気づくのは、マルチアンプシステムに欠かすことのできない
エレクトリックデヴァイディングネットワーク(チャンネルデヴァイダー)がないことだ。

チューナーも手掛けることのできたボンジョルノにとっては、
エレクトリックディヴァイディングネットワークにおいても、非凡なるモノをつくってくれたように思う。
なのにボンジョルノは手掛けていない。

正しくは日本のクラウンラジオから3ウェイのエレクトリックデヴァイディングネットワークを出している。
ただ、このクラウンラジオの製品がどういったものかは私は知らないし、
SUMO時代にThe Goldの採用し特許を取得している回路は、クラウン・ラジオへ売却している。
(日本にはクラウン・ラジオがあったため、アメリカのアンプメーカー、CROWNがそのブランド名を使えず、
アムクロンとして流通しているわけだ。)

このころのボンジョルノはSumoがうまくいかず大変だったと聞いているから、
クラウン・ラジオへの特許の売却はそういう事情だったのかもしれない。
このクラウン・ラジオから出た製品は、ボンジョルノがつくりたいモノとして製品化したのか、
それともクラウン・ラジオからの依頼として設計したモノなのかは、まったくわからない。

ただGAS時代、SUMO時代にもエレクトリックディヴァイディングネットワークは手掛けていないことからすると、
ボンジョルノ自身は、エレクトリックデヴァイディングネットワークを必要としていない男なのだろう。
つまりマルチアンプ駆動には関心がない、マルチアンプの必要性を感じていない、ということだろう。

ボンジョルノは、いったいスピーカーシステムは、何を鳴らしているんだろうか。

Date: 5月 21st, 2012
Cate: モーツァルト

モーツァルトの言葉を思い返しながら……(その2)

Twitterには140文字という制約がある。
だから「モツレク」と表記するんだ、という人もいよう。
でも、私はTwitterでも「モーツァルトのレクィエム」と書く。

「モツレク」と書くのも口にするのも、はっきり嫌いだからである。

以前Twitterで、「モツレク」について書いた。
数日前も書いた。
今回、それに対して「なにがいけないんですか」という返信をもらった。

だから「美しくないからです。オーディオは美を求めるものだと、私は信じているからです。」と返事した。
それに対して「モーツァルトにそんなことを言ったら笑われるんじゃないかなあ。」と。

笑われるであろうか。

「モツレク」という表記には、美がない、と言い切ろう。
そして、「モツレク」を平気で使う人は、「モーツァルトのレクィエム」への愛がないんだ、ともいおう。

またきっと、「モーツァルトに笑われるんじゃないかなあ」と、「モツレク」の人は言うに違いない。

モーツァルトは
「天才を作るのは高度な知性でも想像力でもない。知性と想像力を合せても天才はできない。
愛、愛、愛……それこそが天才の塊である」といった男である。

そういうモーツァルトの音楽を聴く聴き手に求められるのも、愛のはず。
モーツァルトの音楽についての知識ではなく、愛、愛、愛であろう。他に何がいるのか。

思うのは、音楽を愛するということは、そこに美を見出すこと、そして生み出すこと、ということだ。

Date: 5月 21st, 2012
Cate: モーツァルト

モーツァルトの言葉を思い返しながら……(その1)

ブログに限らずウェブサイトでも、インターネットでは文字数の制限はない、といっていい。
だからできるだけ固有名詞は略することなく書くようにしている。

例えばスピーカーといってしまわずに、スピーカーシステム、スピーカーユニットと分けるようにしているし、
スピーカーと書くときは、あえてそうしている。

インターネットはそうできるわけだが、雑誌だと文字数の制限が厳しいこともある。
写真の説明文などはきっちりと文字数が決っていて、
その制約の中でどれだけの情報を伝えることができるかは書き手の能力によるわけだが、
だからといって安易に固有名詞を、しかも勝手に略することはしない。

だから他の箇所を削って、なんとか文字数を合せていく。
ときには文字の間隔を詰めて、という手段もとることもある。
いまはパソコンの画面上で文字詰めも行えるが、
私がステレオサウンドにいたころは写植の切貼りもやった。
そんなことまでしても、とにかく固有名詞の省略はまずしなかった。
それが当り前のことだったからだ。

不思議なことに、ここ数年、なぜかインターネットで、安易で勝手な、固有名詞の省略を目にすることが増えてきた。
代表的なものが、モーツァルトのレクィエムを「モツレク」と、
ベートーヴェンの交響曲第七番を「ベト7」とかである。

モツレク──、
これを最初目にしたときは、唖然とした。
なぜんこんなふうに省略しなければならないのか。
「モーツァルトのレクィエム」だと12文字、「モツレク」だと4文字。8文字分稼げる。

100文字、200文字の制限であれば8文字分の余裕は、正直助かる。
でも、「モツレク」とは絶対にしない。

Date: 5月 20th, 2012
Cate: 現代スピーカー

現代スピーカー考(その28)

仮に巨大な振動板の平面型スピーカーユニットを作ったとしよう。
昔ダイヤトーンが直径1.6mのコーン型ウーファーを作ったこともあるのだから、
たとえば6畳間の小さな壁と同じ大きさの振動板だったら、
金に糸目をつけず手間を惜しまなければ不可能ということはないだろう。

縦2.5m×横3mほどの平面振動板のスピーカーが実現できたとする。
この巨大な平面振動板で6畳間の空気を動かす。
もちろん平面振動板の剛性は非常に高いもので、磁気回路も強力なもので十分な駆動力をもち、
パワーアンプの出力さえ充分に確保できさえすればピストニックモーションで動けば、
筒の中の空気と同じような状態をつくり出せるであろう。

けれど、われわれが聴きたいのは、基本的にステレオである。
これではモノーラルである。
それでは、ということで上記の巨大な振動板を縦2.5m×横1.5mの振動板に二分する。
これでステレオになるわけだが、果して縦2.5m×横3mの壁いっぱいの振動板と同じように空気を動かせるだろうか。

おそらく無理のはずだ。
空気は押せば、その押した振動板の外周付近の空気は周辺に逃げていく。
モノーラルで縦2.5m×横3mの振動板ひとつであれば、
この振動板の周囲は床、壁、天井がすぐ側にあり空気が逃げることはない。
けれど振動板を二分してしまうと左側と振動板と右側の振動板が接するところには、壁は当り前だが存在しない。
このところにおいては、空気は押せば逃げていく。
逃げていく空気(ここまで巨大な振動板だと割合としては少ないだろうが)は、
振動板のピストニックモーションがそのまま反映された結果とはいえない。

しかも実際のスピーカーの振動板は、上の話のような巨大なものではない。
もっともっと小さい。
筒とピストンの例でいえば、筒の内径に対してピストンの直径は半分どころか、もっと小さくなる。
38cm口径のウーファーですら、6畳間においては部屋の高さを2.5mとしたら約1/6程度ということになる。
かなり大ざっぱな計算だし、これはウーファーを短辺の壁にステレオで置いた場合であって、
長辺の壁に置けばさらにその比率は小さくなる。

Date: 5月 20th, 2012
Cate: 現代スピーカー

現代スピーカー考(その27)

スピーカーの振動板を──その形状がコーン型であれ、ドーム型であれ、平面であれ──
ピストニックモーションをさせる(目指す)のは、なぜなのか。

スピーカーの振動板の相手は、いうまでもなく空気である。
ごく一部の特殊なスピーカーは水中で使うことを前提としているものがあるから水というものもあるが、
世の中の99.9%以上のスピーカーが、その振動板で駆動するのは空気である。

空気の動きは目で直接捉えることはできないし、
空気にも質量はあるものの普通に生活している分には空気の重さを意識することもない。
それに空気にも粘性があっても、これも、そう強く意識することはあまりない。
(知人の話では、モーターバイクで時速100kmを超えるスピードで走っていると、
空気が粘っこく感じられる、と言っていたけれど……)

空気が澱んだり、煙たくなったりしたら、空気の存在を意識するものの、
通常の快適な環境では空気の存在を、常に意識している人は、ごく稀だと思う。

そういう空気を、スピーカーは相手にしている。

空気がある閉じられた空間に閉じこめられている、としよう。
例えば筒がある。この中の空気をピストンを動かして、空気の疎密波をつくる、とする。
この場合、筒の内径とピストンの直径はほぼ同じであるから、
ピストンの動きがそのまま空気を疎密波に変換されることだろう。

こういう環境では、振動板(ピストン)の動きがそのまま空気の疎密波に反映される(はず)。
振動板が正確なピストニックモーションをしていれば、筒内の空気の疎密波もまた正確な状態であろう。

だが実際の、われわれが音を聴く環境下では、この筒と同じような状況はつくり出せない。
つまり壁一面がスピーカーの振動板そのもの、ということは、まずない。

Date: 5月 19th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(微小か微弱か)

MC型カートリッジは、一部の製品を除けば出力電圧はMM型(IM型、MI型などを含め)カートリッジよりも低い。
おおまかにいって一桁低い出力電圧である。

カートリッジの信号がもともと微小信号で、
MC型ではさらに低くなるためか、微弱な信号という表現をする人もいる。
オルトフォンのSPU-Aのカタログ上の出力電圧は、0.25mV(5cm=/sec.)、
シュアーのV15 TypeIIIは3.5mVだから、この電圧の差は大きいと感じるし、
SPU-Aの出力を、V15 TypeIIIよりも微弱だという思いたくもなるだろう。

このふたつのカートリッジを例にあげたのは、
1978年秋にステレオサウンドから発行されたHIGH-TECHNIC SERIESのVol.2、
「図説・MC型カートリッジの研究」で、
長島先生が「MC型カートリッジの特性の見方」の章で取り上げられているからだ。

1978年秋だから私は高校1年になっていた。オームの法則は中学校で習うからもちろん知っていた。
知ってはいたものの、「図説・MC型カートリッジの研究」を読んで、知っていただけなのを知った。
そしてカタログの数値の見方も知ることとなった。

長島先生はSPU-AとV15 TypeIIIを比較されている。
このふたつの出力電圧は上に書いた通り。
SPU-AはMC型だから負荷インピーダンスは低く、1.5Ω、V15 TypeIIIはMM型だから47kΩ。

電圧と抵抗(負荷インピーダンス)がわかっているから、出力電流がオームの法則から導き出せる。
SPU-Aの出力電流は166μA、V15 TypeIIIは0.106μAと、
出力電圧ではV15 TypeIIIのほうが10倍以上高い値だったが、電流値は逆転して1000倍以上SPU-Aが高くなる。

このことは出力電力の大きさに関係してくる。
電力は電圧×電流だから、SPU-Aは41.66nW、V15 TypeIIIは0.2606nWと、
約160倍近く SPU-Aの方が大きいわけだ。
(説明のため電流を書いているけれど、電力は電圧の二乗を負荷インピーダンスで割れば算出できる。)

これだけの電力の違いがあると、MM型カートリッジよりもMC型カートリッジの信号が微弱とは書けない。
そしてつねにインピーダンスに注意を払うようになった。

Date: 5月 18th, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(原音→げんおん→現音)

現音──、現れた音は、つまりは再生音のことである。

マイクロフォンが捉えた空気の疎密波を電気信号に変換し処理し、
LP、CD、ミュージックテープという形態で聴き手に届けられたモノから、
ふたたび電気信号に変換しスピーカーを駆動して空気の疎密波をつくり出すことで、
音が、そして音楽が聴き手の前に現れるわけだから、現音=再生音ということになる。

ただこれではあまりにも当り前すぎて、あえて当て字を当て嵌めて考えていく意味がない。
現音=再生音から離れたところでの現音とは、
何かを変えたり調整がうまくいったこ聴き手に姿を現す音のことだともいえよう。

昔はよく「レコードにはこんな音まで刻まれていたのか!」という表現が使われていた。
それまで聴こえてなかった音、意識されなかった音がはっきりと意識できるようになれば、
これはまさに現音であり、現音のいい例でもある。

調整の過程では時として使っているオーディオ機器の限界が見えてくることもある。
それまではそのオーディオ機器の音の個性として感じられていたのに、
そうなってしまうと音のクセとして気になってしまう。これも現音の一例だと思う。

「現」という漢字には、いままでみえなかったものがみえるようになるという意味がある。
だから、いままで聴こえてこなかった音がきこえてくるようになるのも現音であるわけだが、
その一歩先には、まさに目に見えるような音としての現音がある。

この現音は、ただ単に音像定位がいいとか、音像が浮び上る、とか、そういったこととは違う。
はっきりと、そういう音像とは違うものとしての現音を聴いた体験があるからだ。

Date: 5月 18th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その23)

アナログプレーヤーとテープデッキを対比してみると、
アナログプレーヤーのカートリッジはテープデッキのヘッドである。
モーターはアナログプレーヤーにもテープデッキにも欠かすことのできない重要なパーツである。
アナログプレーヤーのターンテーブルは、テープデッキ(オープンリール)ではリールだろう。
トーンアームがキャプスタンか。

テープデッキの再生用アンプが、アナログ再生でのフォノイコライザーにあたるわけだが、
再生用アンプがコントロールアンプからテープデッキに統合・搭載されるのがごく当り前の流れとなったのに対し、
フォノイコライザーはコントロールアンプにずっと搭載されたままだった。

なぜフォノイコライザーは、コントロールアンプ(またはプリメインアンプ)の中に存在し続けたのだろうか。

カートリッジの出力レベルは低い。
MC型カートリッジで、しかも低インピーダンスで鉄芯を省いた空芯型ともなれば、さらに低くなる。
まさしく微小信号であり、RIAA録音カーヴにより低域では加えてレベルが低くなる。

この微小信号をトーンアームのパイプ内の細いケーブルを通し、
トーンアームの出力のところから出力ケーブルが延びている。
ヘッドシェル内に昇圧トランスを内蔵したオルトフォンSPU-GTは特殊な例で、
それ以外のカートリッジは微小信号のまま、アンプまで伝送するという、不合理性が残ったままである。

ヤマハが発表したヘッドアンプHA2は専用ヘッドシェルが付属していて、
ヘッドシェル内にヘッドアンプ初段のFETを収め電圧−電流変換を行い、
ヘッドアンプ本体まで電流伝送するという、微小信号の扱いに配慮した製品だった。
最近では同様の手法を、DCアンプの製作者として知られる金田明彦氏が無線と実験に発表されている。

微小信号は、さまざまな影響を受けやすい。
接点の汚れや接触の不完全さ、外来ノイズ、それにケーブルそのものの影響も、
レベルの高い信号よりも受けやすいのは当然といえる。

いまはどうなんだろう──。
ずっと以前はトーンアームの出力ケーブルは、
MM型カートリッジ用とMC型カートリッジ用をきちんと用意しているメーカーがいくつかあった。

MM型用は静電容量の少ないもの、MC型用は直流抵抗の低いもの、とわけられ、
本来ならばカートリッジをMM型、MC型の両方を交換して使うのであれば、
交換のたびごとに出力ケーブルも交換したほうがいい(プレーヤーによってはひどく面倒なものもあるけれど)。

Date: 5月 17th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その22)

国内メーカーは総合メーカーと呼ばれるだけあって、
いくつものメーカーが、カートリッジからフォノイコライザーまで揃う。

たとえばテクニクス。
ターンテーブルは、有名なSP10がある。専用ベースのSH10B3がある。
開発時期は後にずれているがトーンアームにはEPA100があり、
カートリッジはそれこそいくつもの機種が存在するが、
EPA100と同時期に登場し型番的にも組み合わせることを前提としていると思われるEPC100Cがある。

これらの組合せがテクニクスによる、1970年代後半のアナログプレーヤーのひとつのかたちと受け取っていい。
フォノイコライザーは、どうだろう。

単体のフォノイコライザーは同時期に発売されていないから、
コントロールアンプに搭載されているフォノイコライザーを対象とするわけだが、
この時期のテクニクスのコントロールアンプには、SU-A2とSU9070IIがある。
価格は前者が160万円で後者が12万円と大きな差がある。
SP10MK2は15万円、EPA100とEPC100Cはどちらも6万円、SH10B3が7万円だからトータルで34万円。
価格的にはSU9070IIのほうが近くても、トップモデルということではSU-A2か。

SP10MK2+EPA100+EPC100C+SH10B3の組合せに、SU-A2をもってきてもSU9070IIをもってきたとしても、
そこにコンプリートされたという印象は、ほとんど感じられない、というのが正直な感想。

これはなにもテクニクスだけにいえることではない。
デンオンには有名な、誰でも知っているDL103があるけれど、
このDL103の本領を発揮するためのプレーヤーシステムということになると、
いったいどういうシステムになるのだろうか。
ターンテーブルは? トーンアームは? フォノイコライザー(コントロールアンプ)は?
(デンオンには業務用のプレーヤーが存在しているから、この機種がそうなるのか。)

デンオンにはDP100にストレート型のトーンアームを搭載したDP100Mというプレーヤーシステムがある。
このDP100Mの登場は1981年ごろ。トーンアームの造りをみてもDL103というよりも、
軽針圧のDL303、DL305のほうが適しているように見える。
フォノイコライザー(コントロールアンプ)はPRA2000ということになるのか。

こんなふうにビクターは? ヤマハ? Lo-Dは? トリオは? マイクロは?……と考えていっても、
EMTの930st、927Dst、928といったプレーヤーシステムが使い手に与えるコンプリート感は稀薄である。

Date: 5月 17th, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(原音→げんおん→)

ハイ・フィデリティ(High-Fidelity)再生は、高忠実度再生と訳され、
一般的には原音に対して高忠実度再生ということになっている。

この「原音」の定義がやややっかいなのだが、ここではあえてふれずに、
原音は(げんおん)であって、パソコンで「げんおん」と入力すると、大抵は原音と変換される。
けれど、「げん」と「おん」に分解して変換すれば、
原音以外に、限音、源音、現音、弦音、幻音、減音……などと変換することができる。

弦音(つるおと)以外は当て字なのだが、限られた音の限音、源(みなもと)となる音の源音、
現れた音の現音、幻の音の幻音、減りゆく音、減ってしまった音の減音……とすれば、
それぞれに、どういう音なのかを考えてもよさそうな気もしてくる。

Date: 5月 16th, 2012
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past)を入力していて……(続・作業しながら思っていること)

まず国内メーカーでやってみた。

国内メーカーとして思いつくままあげていくと、
アキュフェーズ、ヤマハ、ソニー(エスプリ)、トリオ(ケンウッド)、パイオニア、テクニクス、デンオン、
ナカミチ、フォステクス、ラックス、ダイヤトーン、サンスイ、オーレックス、Lo-D、オンキョー、
オーディオテクニカ、オーディオクラフト、フィデリティ・リサーチ、サエク、コラール、スタックス、ティアック、
ビクター、マイクロ、こういったところがぱっと浮ぶ。

これらのメーカーの中で、まず最初に「欲しい!」という意味で浮んできたのは、
自分でもやや意外なのだが、ヤマハのCT7000である。

型番からわかるようにチューナーである。
スピーカーやアンプ、カートリッジでもなく、個人的にもあまり関心のないチューナーが真っ先に浮んできた。

ヤマハには代表的なオーディオ機器はいくつもある。
まず浮ぶのは、やはりスピーカーシステムのNS1000M。
それからプリメインアンプのCA2000(もしくはCA1000III)、
コントロールアンプのC2かCI、パワーアンプではBI、あとはカセットデッキのTC800などが、頭にすぐ浮ぶ。
1970年代の製品ばかりになってしまう。
もっと新しいヤマハの製品を思い出そうとしても、私にとってはヤマハというイメージと強く結びついているのは、
やはり上に挙げたモノということになる。

NS1000Mがこれらの中ではもっともヤマハを代表する製品かもしれない。
1970年代なかごろにはスウェーデン放送局で正式モニターとして採用されたし、
上に挙げた製品の中でもロングセラーといえるのはNS1000Mである。

MS1000Mは、ステレオサウンドの試聴室で井上先生が鳴らされた音は良かった。
一般にイメージされているNS1000Mの音より、ずっとこなれた鳴り方をしてくれて、
やっぱりいいスピーカーなんだぁ、と認識を改めたことがある。

私にとってのヤマハのオーディオ・イコール・NS1000Mであっても、
あえてひとつだけ選ぶとしたら、実物を見ることもなかったCT7000である。