Archive for 3月, 2010

Date: 3月 17th, 2010
Cate: 素朴

素朴な音、素朴な組合せ(その8)

アルテックの755Eをもっていたことがある。

ときどき箱から取り出しては鳴らしていたけど、
755Eのために専用のエンクロージュアを設計してつくろう、とは考えていなくて、
なんとなくもっていた、という感じだった。

あるとき、友人と、その友人が、755Eを聴いてみたい、という。
エンクロージュアはないから、たまたまもっていたアメリカ製のダンボール箱を切り開いて、
適当な大きさの平面バッフルがわりにした。

このころのアメリカ製のダンボール紙のなかには、指で弾くと、けっこう硬い感じの音がするものがあって、
このときのダンボール紙も、そういうものだった。

これまた適当に真中当りに、755Eの口径とだいたい同じくらいの孔をあけて、
755Eのケツを手でもち、もう片方の手でダンボール製の平面バッフルの上辺をもって、という、
かなりいいかげんなセッティングで鳴らした。

たまたま3人いたからできるやりかたで、スピーカーの正面で聴けるのはひとりだけ。
一曲ごとに代り番こに聴く。

このときの音は、意外にもウケた。

Date: 3月 16th, 2010
Cate: 素朴
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素朴な音、素朴な組合せ(その7)

2S305の陰にかくれてしまっているのか、2S208を見る(聴く)機会は、ほとんどないようだ。
私も、2S208はカタログで知っているだけで、ある。

値段で判断するものではないが、参考までに書いておくと、
2S305搭載のPW125は40,000円、TW25は28,000円。
2S208搭載のPW201は12,000円、TW501は7,000円(1974年当時の価格)。

2S305は200,000円、2S208は120,000円(どちらも1本の価格)と、
ユニットの価格差ほどシステムとしての価格差は開いていないが、
これだけ違うと、2S305と2S208のクォリティはかなり異るものだろう。

こんなことを思っても仕方のないことだが、2S208と同じように、
コンデンサーだけの-6dB/oct. 減衰特性のネットワーク仕様の2S305があったら、
どんな音がしたのだろうか、ぜひ聴いてみたい、という気持が沸いてくる。

もしも、いま状態のいい2S305と2S208があったならば、どちらが素朴な音を聴かせてくれるのだろうか。
そして、-6dB/oct.仕様の2S305なるものがあったとしたら、
通常仕様の2S305よりも、もうすこし素朴な音を聴かせてくれるのだろうか……。

2S305も2S208も、使用ユニットはショートボイスコイルである。
振動板は紙のコーン型。新素材を使っているわけではなく、これといった特徴はそう多くはない。
技術的特徴の面白みは少ない。

だからといって、いま風の、意を凝らしたスピーカーシステムとくらべて、
ツマラナイとするのは、どうだろうか。

たしかに意を凝らしたスピーカーシステムではない、が、意を尽くしたスピーカーシステムではある。

Date: 3月 15th, 2010
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(その15)

非対称ノイズが、音質を阻害する、とさきほど、つい「疎外」と変換ミスしたままだった。

けれど、疎外(疏外)のほうが、非対称ノイズがどういうものかを、暗に定義づけしているのかもしれない。
ヘーゲルの用語としての「Entfremdung」──疎外(疏外)──。

Date: 3月 15th, 2010
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(その14)

この項のタイトル候補は、もうひとつあっった。
「Symmetry Noise(シンメトリーノイズ、対称性ノイズ)」だ。

漠然とではあるが、音質に寄与するノイズは、シンメトリーのイズではなかろうか、と思っている。
そして音質を阻害するノイズは、Asymmetry Noise(非対称ノイズ)であろう、と。

Symmetry Noise にしなかったのは、あまりにも漠然としすぎていたから。
なんとなく、このタイトルでは先が書けなくなりそうな気もしていた。
それでも、ここまで「Noise Control/Noise Designという手法」を書いてきて、
S/N比のなかにふくまれるのかもしれないが、
symmetry noise / asymmetry noise 比というものもあるのかもしれないと感じている。

Date: 3月 14th, 2010
Cate: 素朴

素朴な音、素朴な組合せ(その6)

まずは訂正から。

2S305のハイパスフィルターが、コンデンサーひとつによる-6dB/oct.である、
と思っていて、そう書いてしまったが、
どうも気になって手持ちのダイヤトーンのカタログを調べてみたら、私の記憶違いであった。

2S305のウーファーは30cm口径のPW125、トゥイーターがTW25、
ネットワークはTW25専用として単売されていたHP170で、遮断カーブは12dB/oct.である。

こんな勘違いをしてしまったのは、
2S305の姉妹機2S208の仕様と記憶がごっちゃになってしまっていたからである。
2S208は、ウーファーは20cm口径のPW201、トゥイーターはTW501で、
ネットワークはコンデンサーがひとつ挿入されているだけ。

カタログによると、コンデンサーの値は2〜4μF、とある。

PW125は機械的フィルターによって、1.5kHz以上はなだらかに減衰するよう設計されている。
PW201は、口径が小さいこと、トゥイーターが変更されていることもあってか、
2kHz以上から減衰する設計になっている。

2S208のクロスオーバー周波数は、カタログ上では2kHzとなっている。
なのにトゥイーターのハイパスフィルター用のコンデンサーの値に幅があるのは、なぜだろう。

Date: 3月 13th, 2010
Cate: 素朴

素朴な音、素朴な組合せ(その5)

要素を減らしたもの=シンプル・イズ・ベストではない、とわかったうえで、
それでも、あえて構成要素の少ないスピーカーシステムを、
これまでの数多くの市場に出廻った製品の中から選ぶとすると、ダイヤトーンの2S305が、まず浮んでくる。

このスピーカーは、コーン型ウーファーとコーン型トゥイーターによる2ウェイ構成で、
よく知られているようにネットワークは、
トゥイーターへの低域信号をカットするコンデンサーひとつのみである。
トゥイーターの能率をウーファーと合わせるためのレベルコントロールも、
ない、という徹底したものだ。

トゥイーターの能率は磁束密度をコントロールすることで、ウーファーと能率を合わせている。
マルチウェイのスピーカーシステムで、ここまで構成要素を減らすことは、もう無理である。

JBLの4311も部品点数の極端に少ないネットワークだが、
レベルコントロールまでは省略していない(できていない)。

2S305のウーファーの高域のカットは、ボイスコイルボビンとコーン紙とのあいだに、
コンプライアンスをもつ材料を挿入することで、機械的フィルターを構成している。

何を使っていたかまでは忘れてしまったが、経年変化により、この部分が硬化してしまえば、
機械的フィルターは動作しなくなり、2S305本来の音は得られなくなる。

Date: 3月 12th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その23)

2230も2231も設計者は、エド・メイだ。
エド・メイによれば、アクアプラス処理を施したウーファーは、
カットオフ周波数が比較的低い4ウェイ構成においては、問題は発生しないが、
もうすこし高い周波数(たとえば4333の800Hz)になると、
アクアプラスによりダンプされたコーン紙が、中低域より上の帯域で波打つこと、
さらに感度も低下する、らしい。

最低共振周波数はアクアプラス処理したものと同等か、より低い値にまでひろげ、
同時に中低域の改善をはかるためにあみ出したのが、質量制御リングである。

アルミ製のリングを、コーン紙とボイスコイル・ボビンとの接合部に装着するという手法で、
軽くて堅いコーン紙を採用しながら、振動系の質量はこのリングによってふえ、
最低共振周波数も低くすることが可能になっている。

この手法のポイントは、質量を駆動点・振動板のほぼ中心に集中させていることだ。

Date: 3月 12th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その22)

4344のネットワークは3144だが、JBLのサイトに回路図はない。

ステレオサウンドが1982年に出版した別冊「Sound Connoisseur(サウンドコニサー)」に、
4344のネットワークの回路図は載っている。

4345と4344は、ウーファー以外のユニットは共通とはいうものの、
ベースとなるウーファーそのものが、口径も18インチと15インチで異り、
表面からはわからないが、コーン紙の裏を見比べると、4345のウーファー2245Hは白い。
ランサプラス処理(以前はアクアプラスと呼ばれていた)が施されているからだ。
4350の最初期型に搭載されていたウーファー2230ではじめて採用されたさの手法は、
低域の最低共振周波数を下げるとともに、ダンピング効果もある。
ある種の塗装をコーン紙に施すわけだが、国内メーカーのいくつかが、試みたことがあるという話をきいている。
塗り方にもノウハウがあるため、うまくいった例はほとんどない、らしい。

この処理だけでなく、2245Hは、2231A(H)や2235Hとは、あきらかに異る設計である。

2231A(H)も2235Hも、アクアプラス処理はされていない。
かわりに質量制御リング(Mass Control Ring)を採用している。

Date: 3月 11th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その21)

もうひとつ目につくことは、タップ付きのコイルの採用である。
2441と2405のレベルを落とすために使われている。

4355のネットワーク3155は、4344のネットワーク3144、4345のネットワーク3145と共通する設計である。
ちなみに4345と4344のネットワークの型番は異るものの、実際にはまったく同じものである。
少なくとも回路図はコイルやコンデンサーの定数すべて同じ。

4344のネットワークが4343のネットワークと比較して語られたことがあったためだろうか、
一部の人のあいだで、JBLがタップ付きのコイルを使い出したのは4344(もしくは4345)から、と言われているようだが、
この手法そのものは新しいものではなく、BBCモニターではよく使われているし、
JBLのスタジオモニターでも、4333、4320などですでに使われていたし、
それ以前のスピーカーシステムにもある。

4320のネットワーク4310のコイルは、タップがひとつだけでなく3つ出ていて、
これらのタップを切り替えることで、レベルをコントロールしている。

こうやって見ていくと、4343(4341)、4350のネットワークのほうが、
JBLの製品のなかでは、やや異色の設計ともいえる。

Date: 3月 11th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その20)

4350の後継機4355は、ウーファーが2231Aから、4344にも使われている2235Hへ、
ミッドバスは2202であることは同じだが、フェライト仕様の2202Hへ、
ミッドハイは2440からダイアフラムが改良され高域のレスポンスが伸びた2441へ、と変更されている。

トゥイーターの24045は変更なしだが、途中のロットからこれもフェライト仕様の2405Hになっているようだ。

ネットワークは3107から3155に変更されている。
3107と3155の回路図を見比べると、それだけで、4350と4355の開発者が代っていることがわかる。

3155ではレベルコントロールが増えている。ミッドハイの2441用のが増えている。
4350の2202と2440のように、固定はされていない。
さらに通常のネットワークのように、ミッドハイにはローパス(ハイカット)フィルターがはいり、
この部分に関してはバンドパスフィルターになっている。

さらに細かい点を見ていくと、使用されているすべてのコンデンサーに、
小容量(0.01μF)のコンデンサーが並列につながっている。高域特性の改善のためである。
また連続可変のアッテネーターのカバーが、4343、4350に使われていた磁性体ではなくなっている。

ネットワークをおさめていた金属ケースも排除されている。

Date: 3月 10th, 2010
Cate: 複雑な幼稚性

「複雑な幼稚性」(その6)

他者からの「承認」がえやすい音とは、いいかえれば「わかりやすい」音である。

なぜ、わかりやすい音のスピーカーが登場してきて、増えてきているのか。
それはオーディオ評論がもつ「曖昧さ」「恣意性」と関係しているし、
これらをなくそうとしようとすることから、生れてきたのかもしれない。

かたちのない音を、言葉で表現することの難しさは、だれもが痛感していることだろう。
この難しさがあるから、面白いといえるのだが、同時に誤解も生じている。
わりと多く使われる音の表現でも、表現する側はいい意味で使っていたとしても、
受けとり手によって、否定的な意味に捉えられることは、別に珍しくもない。

いわゆる「文学的表現」に近くなればなるほど、誤解の生じる可能性は高くなる、といってもいいだろう。

書き手の能力も読み手の能力も、より問われるからだ。

ならば、即物的な表現、そっけない表現の方が、誤解は少なくなるだろう。
さらに数量的な表現となれば、もうすこし詳細に伝えることもできるようになるだろう。

Date: 3月 9th, 2010
Cate: 書く

続々続・毎日書くということ

テーマはいくつもあるのに、ときに書くのにひどく苦労する日がある。

なぜか、と思って振り返えれば、そういう日の多くは、書いては消し、をやっている。
文章が気に入らないから、消す。
なぜか、といえば、感情がこもっているから。

演奏や歌で、「感情をこめて!」と音楽の先生が、生徒に向って注意する、という、
映画や小説などで、よくありそうなシーンだが、
「感情をこめた」演奏や歌は、ほんとうに名演奏なのか──、聴く人の心を打つ、とは私は思っていない。

演奏家や歌手に求めたいのは「心をこめた」演奏なり歌である。

感情をこめているようでは、文章もダメである。
こめるのは「心」であり、私が「この人の書いたものはすべて読みたい」と思った人たち、
川崎先生、黒田先生、瀬川先生、そして五味先生の書かれる文章は、
その人ならではの「心」がこもっていた。

私は、まだ未熟だ。

Date: 3月 8th, 2010
Cate: 情景, 言葉

情報・情景・情操(その2)

情報量が多いことが「善」だとして、情報量の追求をしていく行為で、
注意してほしいのは、その過程において「あからさま」にしていくことに快感をおぼえてしまうことだ。

「あからさま」な音は、すべての音が主張をしはじめる。
大げさな表現では、すべての音が自己顕示欲をむき出しにしてくる。

そこには慎みも恥らいは、ない。
そんな音に、品位は存在しない。

音と音楽のあきらかな違いが、このへんにありそうな気がする。

Date: 3月 7th, 2010
Cate: 素朴

素朴な音、素朴な組合せ(その4)

モノーラル録音を、モノーラルで再生すること──スピーカーも1本──も、
素朴な音とは? を考えていくうえで忘れてはならないことではないか。

要素が増えていくことで可能になることもある一方で、
要素を減らしていくことで見えてくることもあるはずだからだ。

Date: 3月 7th, 2010
Cate: 言葉

続々続・語り尽くすまで

決着点も、きっとある。