スイングジャーナルの試聴室にて、鳴り響いた音を、瀬川先生はこう書かれている。
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本誌試聴室で鳴ったこの夜の音を、いったいなんと形容したら良いのだろうか。それは、もはや、生々しい、とか、凄味のある、などという範疇を越えた、そう……劇的なひとつの体験とでもしか、いいようのない、怖ろしいような音、だった。
急いでお断りしておくが、怖ろしい、といっても決して、耳をふさぎたくなるような大きな音がしたわけではない。もちろん、あとでくわしく書くように、マークレビンソンのAクラス・アンプの25Wという出力にしては、信じられないような大きな音量を出すこともできた。しかしその反面、ピアニシモでまさに消え入るほどの小さな音量に絞ったときでさえ、音のあくまでくっきりと、ディテールでも輪郭を失わずにしかも空間の隅々までひろがって溶け合う響きの見事なこと。やはりそれは、繰り返すが劇的な体験、にほかならなかった。
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この日、鳴らされたレコードは、記事には、2枚だけ表記してある。
「サンチェスの子供たち/チャック・マンジョーネ」
(アルファレコード:A&M AMP-80003〜4)
「ショパン・ノクターン全21曲/クラウディオ・アラウ」
(日本フォノグラム:Phlips X7651〜52)
試聴が終ったのが深夜1時ごろだったと、Kさんから聞いている。
だから、最初にかけられたチェンバロのレコード、それに上記のレコード以外にも、
かなりの枚数のレコードをかけられたはすだ。
そのなかの1枚がアース・ウィンド&ファイヤーの「太陽神」である。
瀬川先生が、Kさんに「最近、どんなレコードを聴いているんだ?」とたずねられたとき、
彼が取り出してきたのが「太陽神」であり、かなり気にいられた、とのことだ。
「太陽神」のエピソードは、ステレオサウンドに書かれている。
世田谷・砧の新居のリスニングルームで、
4343をマイケルソン&オースチンのモノーラルのパワーアンプM200を鳴らされたときのことだ。
ステレオサウンドの52号のセパレートアンプの特集号の巻頭エッセーをお読みいただきたいが、
あるオーディオ関係者が瀬川先生のお宅を訪ねられたとき、
ちょうど「太陽神」をものすごい音量で鳴られていたときで、
遮音には十分な配慮が施されたリスニングルームにも関わらず、外までかなり大きい音が洩れていた、
そして、その人はなんど玄関の呼出しのベルを鳴らしても、瀬川先生が気づいてくれなくて、
「太陽神」が鳴り終るまで、玄関で待っておられた、こんなことを書かれていた。
M200はEL34を8本使用した、かなり大規模な構成で、
出力は型番が示すように200W(Aクラス動作にすることも可能で、その時は60W)。
このとき瀬川先生のリスニングルームで鳴っていた音も、「劇的なひとつの体験」だったのだろう。