Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×九 825Ω)
自作トランスの音の、私なりに一言で表せば、「ロスレスの音」。
もちろんロスがまったくないわけではない。そんなことは、十分わかっている。
周波数レンジ的にも、STA6600はどちらかといえばナローなだけに、
それだけですでにロスがあるといえるわけだが、
それでも、そんなふうに感じさせるだけの音の勢いがある。
フォルティシモで、音が頭打ちを感じさせずに、伸びていく。
ネガティヴな意味でのスタティックな印象は、かけらもなかった。
菅野先生が、パイオニアの無帰還アンプC-Z1、M-Z1に使われた「蛇口全開の音」、
この表現もぴったりくる。
C-Z1、M-Z1には、すこし遅れてH-Z1が登場した。
型番が示すようにヘッドアンプで、もちろん無帰還アンプで、
パイオニア独自のSLC(Super Linear Circuit)を採用していた。
SLCといっても、C-Z1、M-Z1がトランジスターによる構成に対し、H-Z1はFETによる。
H-Z1はひじょうに凝った内容のヘッドアンプで、
シャーシー内部には電波吸収材を採用、電源トランスにも使っていたと記憶している。
さらに電解コンデンサーの、通常は金属製の筒を、渦電流の発生を抑えるためガラス製にしたり、
プリント基板の銅箔も、通常数倍の厚みにした無酸素銅を採用、
といま同じことをやろうとしたら、いったいどのくらいの価格になるのだろう、と思いたくなるほど、
細部にわたって技術者のこだわりが実現されていた。
それだけのモノだけに、筐体もヘッドアンプとしてはかなり大型で、
価格も、当時のヘッドアンプとしてはもっとも高価だった(たしか20万円越えていた)。
H-Z1の音には、じつは期待していた。
H-Z1の音を聴いたのは、ステレオサウンドの試聴室で、C-Z1、M-Z1に通じる「蛇口全開の音」、
それを内部のこだわりのように、もっと洗練された音で鳴ってくれるのでは、とそんなふうに期待していた。