「光を聴く旅」
いま「光を聴く旅」を読み返している。
サブタイトルは、MY CD STORY。傅さんのCDストーリーである。1987年に出ている。
背表紙に、黒田先生の文章が綴られている。
*
傅信幸は細い綱を渡った。一方には音楽という渓谷がひろがり、
一方にはオーディオという岩山がせまっていた。
傅信幸の渡った綱の先には、虹色の小さな盤があった。
彼は、コンパクトディスクのきかせてくれる
音楽に耳を傾けつつ、
持って生まれた,まるで子供のような好奇心と実行力で、
西に飛び、東に走った。
コンパクトディスクは
オーディオの最新技術がうみだした製品である。
しかし、傅信幸にとって、
それは、新しく登場した単なる道具ではありえず、
彼が愛してやまない音楽を刻んだ盤であった。
コンパクトディスクを物と考え、
その技術的解説に終始するところでとどまることも、
傅信幸にはできただろう。
しかし、傅信幸は、あまりにも音楽が好きだった。
そのために、彼は、
音楽を収納するコンパクトディスクのむこうに、
その誕生にかかわった人たちのドラマをみようとした。
そして、見事、彼は、細い綱を渡りきって、
その過程を、人懐っこさの感じられる、
達意の文章で綴った。
*
20年前に読んだときも、この黒田先生の文章にふかく頷いた。
そして、いま、もっとふかく頷いている。
SACD、DVD、Blu-Ray DVD、HD-DVDなど、直径12cmの光学ディスクが、いまある。
これらは、すべてCDから生まれてきた、といえるだろう。
そのCDは、どうやって、1982年10月1日に生まれてきたのか。
「光を聴く旅」は、出版されたのが早すぎたのかもしれない。
というよりも、絶版になっているのが、惜しい本である。
当時、読んだ人も、手もとにあれば、読み返してみてほしい。
面白さが、きっと増しているはずだ。
そして、「光を聴く旅」には、オーディオ・ジャーナリズムが、はっきりとある。