Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 10月 18th, 2019
Cate: 218, MERIDIAN

メリディアン 218を聴いた(喫茶茶会記の場合・その3)

今日、喫茶茶会記にメリディアンの218をセッティングしてきた。
USBをSPDIFに変換するD/Dコンバーターもセッティングしてある。

218での音が、これからずっと聴けるようになっている。
たったそそれだけのこと、といってしまえば、そうかもしれない。

けれど、MQAの音を多くの人に聴いてもらえる環境が常にあるということは、
素直に嬉しい。

これまでは喫茶茶会記では、audio wednesdayで、
メリディアンのULTRA DAC、218を用意できた時だけだった。
だからこそ嬉しいわけだ。

218に関心のない人にはどうでもいいことだが、
218のシリアルナンバーは、218から始まっている。

Date: 10月 15th, 2019
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(silver version・その6)

その1)は、三年前の春である。
先日、やっとシルバーパネルのLNP2と対面できた。

当り前のことだが、写真そのままの印象のLNP2だった。

その2)でも書いているのだが、
LNP2にはいくつかの特別なLNP2がある。
シリアルナンバー1001のLNP2、シルバーパネルのLNP2の他に、
私には特別なLNP2が、もう一台ある。

瀬川先生が愛用されていたLNP2である。

(その2)でも書いているように、
瀬川先生愛用のLNP2とは、
私がステレオサウンドで働き始めたばかりのころ、
1982年1月、試聴室隣の倉庫に、置かれてあった。

ツマミに触れるのさえ憚れる──、
そんな気さえした。

いずれ、倉庫から誰かの手に渡っていくLNP2であることはわかっていた。
いまどこかに、誰の元にあるのか。
何もわかっていない。

シリアルナンバーも記憶していない。

それでもシリアルナンバー1001のLNP2、シルバーパネルのLNP2が集まっているところに、
いつの日か瀬川先生愛用のLNP2も来るのかもしれない。

Date: 10月 14th, 2019
Cate: 218, MERIDIAN

メリディアン 218を聴いた(喫茶茶会記の場合・その2)

今週半ば以降に、喫茶茶会記にメリディアンの218が導入される。
通常の使用では、マッキントッシュのMCD350のデジタル出力を218に接続することになる。

218と同時に、USBをSPDIFに変換するD/Dコンバーターも導入予定である。
これで来月以降のaudio wednesdayで、218を、MQA-CDを聴けるようになる。

Date: 10月 7th, 2019
Cate: 218, MERIDIAN, ULTRA DAC

2,500,000円と125,000円(リモコンのこと)

2,500,000円(ULTRA DAC)と125,000円(218)は、
リモコンが付属するかしないかの違いがある。

ULTRA DACはリモコンがついてくる。
218にはついてこない。

リモコンがついてくるついてこないの違いなんて、
関係ない、と思われる人もいるだろうが、
ULTRA DACにしても218にしても、DSPを活かした機能に関してはリモコンが必要になる。

しかも218のリモコンは、iPhoneかiPadで動くアプリMeridian IP Controlのことである。
つまりiPhone、iPadがなければ、218の機能を使いこなすことは、
現時点ではできない。

iPhoneでできるのならば、Androidで動くスマートフォンでも……、と思われるかもしれないが、
将来はどうなるかわからないが、いまのところAndroidのスマートフォンには用意されていない。

それにULTRA DACについてくるリモコンは、
一般的なリモコンと同じ赤外線を使っているが、
218のリモコン、つまりiPhoneには赤外線の機能はない。

そのため、218とリモコンとして使うiPhoneは、
同一ネットワークに接続されている必要がある。

こんなふうに書いてしまうと、難しいことのように思われるかもしれないが、
このブログを読まれている人は、インターネットに接続されているわけだから、
基本的に、そのネットワークにLANケーブルで218を、Wi-FiでiPhoneを接続すればいい。

特に難しいことはない。
同一ネットワークに218とiPhoneが接続されていれば、
Meridian IP Controlですぐに使えるようになる。

ULTRA DACと218の価格の違いには、こういうところも含まれているわけだ。

Date: 10月 6th, 2019
Cate: 218, MERIDIAN, ULTRA DAC

2,500,000円と125,000円(その2)

10月2日のaudio wednesdayでは、
後半、MacBook Airをシステムに加えて、Roonによる音も聴いている。

iPhoneにRoonのアプリを、その場でインストールする。
こういう時、なんて便利な世の中になったのか、と実感する。

Roonでいくつかの曲を聴いて後、
マリア・カラスの「カルメン」を聴いた。
96kHzの音源であった。

マリア・カラスの「カルメン」は、
2018年12月のaudio wednesdayでも聴いている。
ULTRA DACで聴いている。

この時のことは「メリディアン ULTRA DACで、マリア・カラスを聴いた」で書いている。
この時聴いたのはCDである。
44.1kHz、16ビットの、通常のCDである。

この時のマリア・カラスは、強烈だった。
いまも耳の奥にしっかりと刻み込まれている。

特に、ULTRA DACのフィルターをshortにした時のマリア・カラスは、
姿こそ見えないけれど、確かに私の目の前にいた、と感じた。

声楽を志す者であれば、誰もがULTRA DACのshortの音を手に入れようとするだろう。
声楽を専門とする人ほど、この時の音のすごさを理解することだろう。

とにかく、どうやって歌うのか。
声楽の素人である私ですら、なんとなくであっても、そうとうにリアルに感じられるほどだ。

その時の音と、218での96kHzのマリア・カラスの「カルメン」。

音源のスペック的には、今回の96kHzが有利である。
なんでもかんでも数字・数値で音を判断しようとする人にとっては、
96kHzというだけで、いい音に聴こえるのだろう。

218での、96kHzのサンプリング周波数のマリア・カラスは良かった。
バックのコーラスはよく広がるし、マリア・カラスの声もいい。

ULTRA DACでの音を聴いていなければ、満足したはずだ。
でもULTRA DACでのマリア・カラスを聴いてしまっている。

Date: 10月 5th, 2019
Cate: 218, MERIDIAN, ULTRA DAC

2,500,000円と125,000円(その1)

タイトルを見ただけで、なんのことかわかる人は、
MQAに興味を持っている人、
メリディアンの二つのD/Aコンバーターに関心を持っている人である。

2,500,000円はULTRA DACの、
125,000円は218の税抜き価格である。

ULTRA DACは218の20台分である。
どちらも優れたオーディオ機器である。

それでも12月発売のステレオサウンドの特集、
ベストバイでは、どちらも高い点数を得ることはないだろう。

ベストバイということでは、218のほうが、ULTRA DACよりもそうである、ということはできる。
ULTRA DACと218は価格だけでなく、サイズの違いも大きい。
容積で計算すれば、ULTRA DACは218の何台分だろうか。

ULTRA DACと218を、喫茶茶会記でのaudio wednesdayで聴いた人はいる。
でも片方だけという人もいる。

218だけを聴いた人は、特にULTRA DACとはどれだけ差・違いがあるのか、
気になるところのはずだ。

私も、実は直接比較試聴しているわけではない。
それでも自分でセッティングしたシステムの音でのことだから、
おおよその想像はつく。

ULTRA DACと218は、価格ほどの違いはない、ともいえるし、
価格以上の格の違いがある、ともいえる。

どんな音楽を、どう聴くのかによって、ここはどちらにも揺れる。
218は、本筋の音を鳴らしてくれる。

これで充分だよ、といいたくなる気持は私だって強い。
だからこそ、audio wednesdayに来てくれた人にすすめるし、
喫茶茶会記の店主、福地さんにもすすめたわけだ。

10月になったので、消費税が8%から10%になり、
218の購入もその分高くなっている。

それでも218は、ベストバイとして自信をもってすすめることができる。

Date: 8月 13th, 2019
Cate: 218, MERIDIAN

メリディアン 218を聴いた(210 Streamerの登場)

facebookを眺めていたら、
Meridian 210 Streamerという文字が飛び込んできた。
写真も、もちろんあった。

218と同じといえる筐体。
facebookでは、YouTubeへのリンクもあった。

もちろんメリディアンのウェブサイトにも、210のページはある。

218を聴いていない人にとっては、どうということのない製品に思えるだろうが、
218でMQAの音を聴いている人は、おっ、と思うはずだ。

Date: 8月 3rd, 2019
Cate: MERIDIAN, ULTRA DAC

メリディアン ULTRA DACを聴いた(その36)

スピーカーにもプリエコーの発生はある。
デジタルフィルターにもプリエコーの発生がある。

それぞれ逆相か同相かという違いはあるにしても、どちらにもあるわけだ。

にもかかわらずプリエコーが音に影響を与えていることを確認するには、
スピーカーからの音をまたねばならない。
スピーカーからの音を聴いて判断するしかない。

スピーカーは遅れている──、
以前からずっといわれ続けてきている。

瀬川先生の「オーディオABC」には、こんなことが書かれてあった。
     *
 スピーカーの研究では、かつて世界的に最高権威のひとり、といわれた H. F. Olson 博士(「音響工学」をはじめとして音響学に貢献する研究書をたくさん書いています)が日本を訪れたとき、日本のオーディオ関係者のひとりが、冗談めかしてこうたずねました。
「オルソン先生、ここ数年の間に、レコードやテープの録音・再生やアンプに関しては飛躍的な発展をしているのに、スピーカーばかりは、数十年来、目立った進歩をしていませんが、何か画期的なアイデアはないもんでしょうか」
 するとオルソン博士、澄ましてこう言ったのです。
「しかし、あなたの言われる〝たいしたことない〟スピーカーを使って、アンプやレコードの良し悪しが、はっきり聴き分けられるじゃありませんか?」
 これには、質問した人も大笑いでカブトを脱いだ、という話です。
 むろん、この返事はアメリカ人一流のジョークで包まれています。けれど、なるほど、オルソン博士の言うように、私たちは、現在の不完全なスピーカーを使ってさえ、ごく高級な二台のアンプの微妙な音色の差を確実に聴き分けています。スピーカーがどんなに安ものでも、アンプをグレードアップすれば、すれだけ良い音質で鳴ります。
 けれど右の話はあくまで半分はジョークなのです。スピーカーはやっぱり遅れているのです。
     *
スピーカーの歪率は、アンプのそれよりも大きい。
桁が違うほどに大きいけれど、アンプの微妙な差を、そのスピーカーで聴き分けている。
というより、聴き分けるしかない。

聴き分けられるということは、アンプの歪とスピーカーの歪は、
歪率という数字で表わしきれない違いがあるからに違いない。

プリエコーに関してもそうなのかもしれない。
電気系が発するプリエコーと機械系・振動系が発するプリエコーが、
現象としては近いものであっても、同じとは考えにくい。

そして、確かな裏づけをなにか持っているわけではないが、
スピーカーの中でも、ホーン型は、プリエコーに関して敏感に反応してしまうのではないか。

Date: 7月 30th, 2019
Cate: MERIDIAN, ULTRA DAC

メリディアン ULTRA DACを聴いた(その35)

デジタルフィルターが発生するプリエコーについて知った時にまず考えたのは、
スピーカーが発するプリエコーのことである。

スピーカーユニットのボイスコイルにプラスの信号が加われば、
ボイスコイルは前に動こうとする。
その際に発生する反動を、磁気回路を含むフレームが受け止める。

この反動は、フレームがすべて吸収してくれるのであればなんら問題はないが、
現実はそうではなく、フレームを伝わって、
振動板外周のフレームから輻射される。

この現象は、ダイヤトーンが、DS1000の開発時に測定し、
カタログなどで発表している。
目にした人もけっこう多いはずだ。

フレームはほとんどが金属であり、
振動が伝わる内部音速はかなり速い。
そのため、振動板外周のフレームから輻射される音は、
振動板が発する音よりも先である。

つまり、これも一種のプリエコーである。
ただし、ボイスコイルが前に動こうとする際に発生する反動故に、
ここでの輻射は逆相である。

デジタルフィルターのプリエコーが同相であるのは、この点が違うが、
プリエコーであることにはかわりない。

同相と逆相のプリエコーならば、打ち消し合いが起るかも……、
そんなバカなことも考えてみたりしたが、
プリエコーが音に影響を与えていることは、
スピーカーで実験してみれば、すぐにわかることである。

ダイヤトーンのように測定して対策を講じているメーカーもあれば、
そうでないメーカーのスピーカーも数多くあった。

そういうスピーカーで、われわれはCDの音を聴いているわけだ。
そこでプリエコーの発生が、元の信号にないのは理解しても、
それがどの程度、どんなふうに音に影響を与えるのか──、
知りたいのはそこであったけれど、答はどこにもなかった。

Date: 7月 29th, 2019
Cate: MERIDIAN, ULTRA DAC

メリディアン ULTRA DACを聴いた(その34)

初期のCDプレーヤーに、ほぼ共通していえたのは、
音の伸びやかさに欠ける、というか、窮屈さを感じてしまうことである。

その原因についてあれこれいわれていた。
そのひとつがアナログフィルターの存在である。

デジタルフィルターを搭載していないCDプレーヤーでは、
かなり高次のハイカットフィルターが必要となる。

ソニーでいえば、CDP101は9次で、CDP701ESは、
ソニーのプロ用CDプレーヤーCDP5000と同じ11次のフィルターになっている。
そうとうに急峻なフィルターである。

高次になればなるほど部品点数は増えるし、
精度の高いフィルターを実現するには、細かな配慮も必要となる。

コストも当然かかるようになる。

デジタルフィルターを採用すれば、アナログフィルターはもっと低次のもので済む。
設計も楽になるし、部品点数も少なくなる。

なにより高次のフィルターよりも、低次のフィルターのほうが、音への影響は少なくなる。
デジタルフィルターとアナログフィルターとの併用で、
高次のアナログフィルターだけと同等か、それ以上のフィルター特性を実現できれば、
メーカーがどちらを選択するかは明らかだ。

それにアナログフィルターを構成する部品は、
量産したからといってさほどコストダウンは狙えない。

デジタルフィルターはLSI化されているから、量産効果ははっきりと出る。

1988年、デジタルフィルターを搭載していないCDプレーヤーはなかったはずだ。

Date: 7月 29th, 2019
Cate: MERIDIAN, ULTRA DAC

メリディアン ULTRA DACを聴いた(その33)

1982年10月に登場したCDプレーヤーのなかで、
デジタルフィルターを搭載していたのはマランツ(フィリップス)のCD63だけだったはずだ。

ソニーにしてもオーレックス、Lo-D、デンオン、ケンウッド、パイオニア、テクニクス、ヤマハ、
どのモデルもデジタルフィルターは搭載していなかった、と記憶している。

ソニーがデジタルフィルターを搭載した最初のモデルは、CDP502ESである。
その前に出たCDP701ESも、一号機のCDP101もデジタルフィルターはなかった。

CD63だけが、4倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターを搭載していたわけだが、
それすらも登場当時は、ほとんどの人が知らなかったはずである。

そのころすでにステレオサウンドで働いていたけれど、
私だけでなく、他の編集者も、デジタルフィルターを知っていた者はいなかった。

ただCD63に搭載されていたD/AコンバーターのTDA1540は、
14ビットだということはみな知っていた。
どうやって16ビットに対応しているんだろうか、
そのことにみな疑問をもっていても、そこにデジタルフィルターが関与していることは、
まったく知らなかった。

国産CDプレーヤーでデジタルフィルターを搭載した最初のモデルは、
NECのCD803である。
とはいえ、CD803の登場と同時に、
デジタルフィルターがどういうものなのか理解したわけでもなかった。

マランツの二号機CD73(1983年)の解説で、デジタルフィルターが搭載されている、と書いていても、
ではデジタルフィルターがどういう動作をするのかをわかっていたわけではない。

このころはデジタルフィルターありなし、そんなこと関係なしにCDプレーヤーの音を聴いていたわけだ。
1983年登場の、各社の第二世代機では、ソニーのCDP701ESは良くできていた。

CDP701ESは、半年ほど使っていたことがある。
知人が購入したCDP701ESを借りていた時期である。
1984年ごろのことだ。

CDプレーヤーの進歩は早かった。
1983年登場のトップモデルとはいえ、CDP701ESは、過去のモデルになりつつあった。
それでも自分の部屋で聴いていると、意外に音がいいことに気づいた。

ステレオサウンドの試聴室で聴いた印象よりも、ずっといい。
そのころは気づかなかったけれど、
デジタルフィルターを搭載していなかったこともあったのかもしれない。

Date: 7月 28th, 2019
Cate: MERIDIAN, ULTRA DAC

メリディアン ULTRA DACを聴いた(その32)

ラックスのDA7と同じ1988年、
無線と実験の読者投稿欄に、ユニークなD/Aコンバーターの自作記事が載った。

楠亮平氏という方によるNOS DAC(Non Over Sampling D/A converter)である。

記事に掲載されていた回路図は、
こんなに少ない素子数でD/Aコンバーターが自作できるのか、というくらいだった。

デジタルフィルターを排除したD/Aコンバーターだった。
詳細までは記憶していないが、
デジタルフィルターの問題点を指摘してのものだったようにも記憶している。

NOS DACは、この記事だけで終りはしなかった。
自作派の人たちのあいだでも、さまざまなNOS DACが作られていったのは、
Googleで検索してみればすぐにわかることだし、
メーカーからも製品化されたこともあるし、現行製品でもある。

デジタルフィルターとの組合せが前提設計のD/Aコンバーターでは、
デジタルフィルターを省いてしまうと、技術的な問題点が発生する──、
そういう指摘の記事も読んだことがある。

それはそうだろう、と思いながらも、NOS DACはプリエコー、ポストエコーが発生しない。
そのことに(そのことだけではないだろうが)音質的メリットを感じる人がいる。

そうでなければ、単なるキワモノ的な記事で終っていただろう。
少なくとも1988年には、プリエコー、ポストエコーの問題を指摘する流れが生れていた。

もっとも現在では、FIR型デジタルフィルターでも、
対称型ではなく非対称型の設計にすることでプリエコーを抑えている。

プリエコーとポストエコーとでは、プリエコーの方が音質上影響が大きい、といわれている。

Date: 7月 28th, 2019
Cate: MERIDIAN, ULTRA DAC

メリディアン ULTRA DACを聴いた(その31)

CDプレーヤーに搭載されているデジタルフィルターの問題点、
プリエコー、ポストエコーの発生についてメーカーが指摘したのは、
ラックスが最初ではないだろうか。

1988年にラックスが出してきたD/AコンバーターのDA07は、
フルエンシー理論によるD/A変換を実現している。
この時、DA07のカタログや資料で、一般的なデジタルフィルターが、
プリエコー、ポストエコーを発生させてしまうことが指摘されていた。

原信号には存在しないプリエコーとポストエコー。
これらが問題となってきたのは、DA7の登場より後のことである。

確か、この時点ではフルエンシーD/AコンバーターはLSI化されていなかった。
その後、フルエンシーD/Aコンバーターは、
新潟精密がLSI化している。
FN1242Aである。

十年くらい前までは入手可能だったが、
いまでは新潟精密もなくなっているし、FN1242Aの入手も難しいだろう。

DA07は意欲作だった。
200W+200Wクラスのパワーアンプ並の筐体のD/Aコンバーターだった。

ペアとなるトランスポートDP07と組み合わせた音は、
ここでも意欲作ということばを使いたくなるものだった。

聴いていてすごい、と感じるところもあった、
欲しいという気持は起きてきた。

それでもDP07の大きさと恰好、
DP07とDA07を二つ並べたときに受ける印象は、
欲しい、という気持を萎えさせてしまうところも、私は感じてしまった。

いまになって、ラックスのDA07を思い出すのは、
メリディアンのULTRA DACを聴いてしまったからでもある。

Date: 5月 11th, 2019
Cate: TANNOY

タンノイはいぶし銀か(その6)

いぶし銀のごとき味わい、とか、いぶし銀といえる音などと表現してあるのを見て、
読み手側は、いったいどんな音を想像しているのか。

いぶし銀を言葉で説明してくれといわれて、
こういう音だとすらすら答えられる人は多いのか少ないのか。

普段からいぶし銀という表現を使っている人でも、
わかりやすく説明してくれ、といわれると、どう答えるのか。

「タンノイの音だよ」という答が返ってくるかもしれない。
なんと具体的で、これほど曖昧な答もない。

それでも答える側は、それでわからないのか、と思っているかもしれない。

なかには「うちの音がそうだよ」と答える人もいよう。
いぶし銀がどういう音なのか、わからなければ、うちの音を聴きに来ればいい、
そんなふうにいってくれる人もいるだろう。

聴きに行ったとしよう。
それでわかるのは、「うちの音がそうだよ」と答えた人が考えているいぶし銀の音でしかない。
その音を、十人に聴かせたら、何人がいぶし銀と感じるのかはなんともいえない。
一人もいないかもしれない。

百人くらい聴いたとしたら、数人は「確かにいぶし銀ですね」というかもしれない。
いぶし銀で表現される音に対する共通認識は、そのくらいではないのか。

タンノイの音を、どこかで聴いて、これがいぶし銀といわれる音なのか……? と感じる。
どこかで聴いたタンノイの音は、百人いれば百人とも違うはずだ。

どこかの販売店で聴いたタンノイ、
オーディオショウで聴いたタンノイ、
オーディオマニアのリスニングルームで聴いたタンノイ、
そして自分の部屋で鳴らしたタンノイ、
どこにいぶし銀といえる音はあるのだろうか。

もう、そこから出てきた音を、そうおもうしかないのか。

オーディオマニアが、心の中に抱きつづけている幻想としての「いぶし銀」。
それは時として、おもわぬ美音を生んでいくかもしれない。

Date: 5月 11th, 2019
Cate: TANNOY

タンノイはいぶし銀か(その5)

ステレオサウンド 207号の特集で、
和田博巳氏は、《他の弦楽器は艶やかというよりはいぶし銀のごとき味わい》とされている。
オーディオ的音色としての、ここでの「いぶし銀」と読めるし、
弦楽器の艶やかさがさほど感じられない、
もしくは表立ってこないから「いぶし銀」という表現を使われたのか。

確かにタンノイの、
それもフロントショートホーンをもたないスピーカーは、
最初から艶やかな弦楽器の音が聴ける、とは私も思っていない。

けれど、それはもう昔のことなのかもしれない──、とも思う。
ステレオサウンドを辞めてから、新品のタンノイのスピーカーを聴く機会はほとんどない。
それにステレオサウンドを辞めてから三十年以上が経っているから、
いつまでもタンノイのスピーカーを、昔の印象だけで語れないだろう。

そんなふうに思っているから、
ほんとうにタンノイの新しいArdenは、《いぶし銀のごとき味わい》なのか、と勘ぐりたくなる。

それに別項「真空管アンプの存在(KT88プッシュプルとタンノイ・その1)」で書いたように、
フロントショートホーンのないGRFメモリーから、魅惑的な弦の音を聴いている。

烏の濡れ羽色的艶っぽさではないけれど、それは《いぶし銀のごとき味わい》ではなかった。

結局、タンノイの音色がいぶし銀というのは、思い込み(バイアス)ではないだろうか。
こう書いてしまうと、
そういう思い込みをつくったのはステレオサウンドであり、
オーディオ評論家ではないか、といわれる。

でも、はたしてそうだろうか。
私には、どこからともなくわいてきた、ある種のバイアスのような気がしてならない。

その2)で、
意外にもイギリスのユニットのフレームの仕上げから来ているようである、と指摘した。

視覚的イメージから起きてきた幻想がいぶし銀なのかもしれない。
当時は、海外のオーディオ機器を聴こうと思っても、
そう簡単に聴けるわけではなかった。
それに非常に高価だった時代がある。

写真や、ウィンドウに飾られている実物を眺めての憧れが生んだ「いぶし銀」。
これを悪い、とは私はおもわない。
思わないけれど……、
いつまで、そんなふうに語り継いでいくのか──、ともおもう。