メリディアン ULTRA DACを聴いた(その35)
デジタルフィルターが発生するプリエコーについて知った時にまず考えたのは、
スピーカーが発するプリエコーのことである。
スピーカーユニットのボイスコイルにプラスの信号が加われば、
ボイスコイルは前に動こうとする。
その際に発生する反動を、磁気回路を含むフレームが受け止める。
この反動は、フレームがすべて吸収してくれるのであればなんら問題はないが、
現実はそうではなく、フレームを伝わって、
振動板外周のフレームから輻射される。
この現象は、ダイヤトーンが、DS1000の開発時に測定し、
カタログなどで発表している。
目にした人もけっこう多いはずだ。
フレームはほとんどが金属であり、
振動が伝わる内部音速はかなり速い。
そのため、振動板外周のフレームから輻射される音は、
振動板が発する音よりも先である。
つまり、これも一種のプリエコーである。
ただし、ボイスコイルが前に動こうとする際に発生する反動故に、
ここでの輻射は逆相である。
デジタルフィルターのプリエコーが同相であるのは、この点が違うが、
プリエコーであることにはかわりない。
同相と逆相のプリエコーならば、打ち消し合いが起るかも……、
そんなバカなことも考えてみたりしたが、
プリエコーが音に影響を与えていることは、
スピーカーで実験してみれば、すぐにわかることである。
ダイヤトーンのように測定して対策を講じているメーカーもあれば、
そうでないメーカーのスピーカーも数多くあった。
そういうスピーカーで、われわれはCDの音を聴いているわけだ。
そこでプリエコーの発生が、元の信号にないのは理解しても、
それがどの程度、どんなふうに音に影響を与えるのか──、
知りたいのはそこであったけれど、答はどこにもなかった。