Archive for category ステレオサウンド特集

Date: 7月 2nd, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その11)

QUADのESLの把手は、なぜついているのだろうか。

当時のカタログでも、ESLの設置のしかたとして、後方に十分なスペースをとるように指示されている。
その指示どおりの設置をしたら、その部屋においてはESLが中心となってしまうだろう。

ESLが登場した当時、このスピーカーシステム、そしてQUADのシステム一式で家庭内で音楽を楽しむ人たちが、
スピーカーシステムだけのために、こういう設置をとるとは、なかなか思えない。

たとえば日本にはちゃぶ台がある。使わないときには脚を折り畳み壁にタテかける。
ESLの把手も、こういうことのためにつけられているのではなかろうか。

聴かないときに部屋の片隅に置いておく、レコードを楽しみたいときには手前に持ってきて設置する。
ESLは軽い。片手で持てる。

満足できる音量が得られなければスピーカーシステムに近づいて聴く、と書いたが、
正しくはスピーカーとリスニングポイントの距離を近づける、である。

1人がけの比較的軽い椅子ならば、文字通りスピーカーシステムに近づいて聴くことは簡単だろう。
でも3人だけのソファーだったり、椅子とスピーカーシステムのあいだには、たいていテーブルがある。

そうなると重いソファーを移動して、さらにテーブルも移動してまで、
スピーカーシステムとの距離を近づけることは、まずやらない(やれない)。

実際には、それほど重くなければスピーカーシステムを近づけるほうが、現実的ともいえる。

Date: 7月 1st, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その10)

黒田先生が、当時のラジオに耳を近づけて聴かれた理由は、音量に限りがあったからで、
同じ理由で近づいて聴くことが時として必要になるスピーカーシステムとしてQUADのESLがあろう。

旧型のESLは能率もそれほど高くはないし、
1970年代までのアンプでは満足にドライブできるモノが少ないこともあって、
十分な音量が得ることは難しいされていた。

私の経験では、SUMOのThe Gold級のパワーアンプをもってくれば、
それほど広くない部屋ではかなり満足感のある音量で再生は可能になるけれど、
それ以前のパワーアンプでは、高域でのインピーダンスが低下するコンデンサー型スピーカーに対して、
安定動作を求めることは厳しいことがあったのも、音量が得にくかったことに関係しているだろう。

当時のオーディオ雑誌を読めば、ESLである程度の音量感を得たいのならば、近づいて聴くといい、という記述がある。
岩崎先生も、このことを書かれている。

近づくことで音量感は増す。
それだけでなくスピーカーとの関係は、より緊密、密接になっていくのではなかろうか。

QUADのESLの裏側上部には、指をかけられるようになっている。片手でひょいと持ち上げられる。
なぜ、このようになっているのか。
頻繁に、というほどではないにせよ、ある程度の移動を考慮してのためであろう。

Date: 6月 14th, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その9)

少し長くなるが、黒田先生の文章を引用しよう。
     *
ぼくは、子どものころ、ラジオに耳をこすりつけるようにして、きいた経験がある。そんなに近づかないとしても、ともかくラジオで可能な音量にはおのずと限界があったから、たとえば今のように、スピーカーからかなりはなれたところできくというようなことは、当時はしなかった。いや、したくとも、できなかった。そこで、せいいっぱい耳をそばだてて、その上に、耳を、ラジオの、ごく小さなスピーカーに近づけて、きいた。(中略)ラジオとききてとの間にはということだが、いとも緊密な関係があった──と、思う。そのためにきき方がぎごちなくなるというマイナス面もなきにしもならずだったが、あの緊密な関係は、それなりに今もあるとしても、性格的に変質したといえなくもない。リスニング・ポジションを一定にして、音量をかえながら、レコードをきく──というのが、今の、一般的なきき方だとすれば、あのラジオのきき方は、もう少しちがっていた。
 そういう、昔の、ラジオをきいていたときの、ラジオとききての間にあった緊密な関係を、キャスターのついた白い台の上にのった再生装置一式のきかせる音は、思いださせた。それは、気持の上で、レコードをきいているというより、本を読んでいるときのものに近かった。
     *
黒田先生が若いころにきかれていたラジオとちがい、
このときのテクニクスのコンサイス・コンポとビクターの小型スピーカーS-M3の組合せは、
音量不足を補うために近づくということは、する必要はない。

音質にしても音量にしても、当時のラジオのそれとは較べものにならないくらいによくなっているにもかかわらず、
黒田先生は、
「再生された音と、それをきく人間の関係という、ごく基本的なところでは、すくなからぬ共通点」
を見出されている。

Date: 5月 29th, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その8)

キャスター付の白い台の上に置かれたコンサイス・コンポとビクターのスピーカーとの組合せで、
黒田先生が、最初にかけられたレコードは、シンガーズ・アンリミテッドの「フィーリング・フリー」。

そのつぎにイ・ムジチのモーツァルトにかわり、ベン・シンドラ、さらにケイト・ブッシュのレコードというように、
いろんなレコードを、5時間聴き続けた、ということを、ステレオサウンドの47号に書かれている。
     *
キャスターのついた白い台の前ですごした5時間の間、そのときかけるレコードによって、耳からスピーカーまでの距離をさまざまにかえた。もっとも、それはかえようとしてかえたのではなく、後から気がついたら、それぞれのレコードによって、台を、手前にひきつけたり、むこうにおしやったりしてきいていたのがわかった。むろん、そういうきき方は、普段のきき方と、少なからずちがっている。
     *
この黒田先生の文章を読んだとき、私は15歳。
このきき方に、すごくあこがれたことを、いまでもはっきりと思い出すことができる。

そして、こういう「きき方」ができるシステムを、つねに一組用意しておこう、とも思っていた。

Date: 5月 11th, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その7)

スピーカーシステムの位置と聴取位置の関係について考えるとき、まず思い出すのは、
ステレオサウンド 47号に黒田先生が書かれた、テクニクスのコンサイス・コンポについての文章だ。

そこには「ぼくのベストバイ これまでとはひとあじちがう濃密なきき方ができる
というタイトルがつけられていた。

47号発売時の1978年には、テクニクス、ダイヤトーン、オーレックス、パイオニアから、
小型のコントロールアンプ、パワーアンプ、FMチューナーが、シリーズとして発売されていた。
そのなかで、もっとも小型化に成功していたのは、テクニクスのコンサイス・コンポだった。

コントロールアンプSU-C01、パワーアンプ SE-C01、チューナーST-C01で、
横幅は297mm、高さ49mmで共通、奥行きはだけはわずかに違い、
SU-C01が241mm、SE-C01が250mm、ST-C01が255mm。
パワーアンプの SE-C01は、スイッチング電源を採用していたはずだ。

黒田先生は、このコンサイス・コンポと、アナログプレーヤーのB&OのBeogram4000、
ビクターの小型スピーカーシステム、S-M3を、すべてキャスター付の白い台にのせられた。

Date: 4月 16th, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その6)

カメラの三脚のいいものになると、しっかりしたつくりで、当然三点支持なので、ガタつきなくセッティングできる。
高さをかえるのも簡単だし、スピーカーの振りも水平方向だけでなく垂直方向にも自在に変えられる。
だから、以前、瀬川先生が目の前でやってくださったように、
KEFの105の中高音域ユニットを調整することで、音のピントを見事に合わせられたことを、
他の小型スピーカーでもできるようになる。

導入を真剣に考えて、カタログを見ていた時期があったが、結局、試すことはなかった。

試聴室で、たとえば数時間という制限時間の中で、あれこれレコードをかけかえながら、
レコードに応じて(というよりも録音に応じて)、
スピーカーのセッティングをこまかく調整していくということは、けっこう楽しんでやれるものだ。

けれど、仕事を終えて自宅で聴くときには、さすがにそういうことをしたい気持には、なかなかならないものだ。

もちろんいじるときには集中して行なっても、一段落したら、あまり細かいところは、
そうしょっちゅういじりたいわけではない。

Date: 4月 15th, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その5)

曲によって、身をのり出して聴くことはある。椅子の背にもたれかかって聴くこともある。
だから、多少は、いつものリスニングポジションにいても、耳の位置は前後している。

けれど、より積極的に、スピーカーシステムとリスニングポジションの関係を変えている人は、
ほんとうにいるんだろうか。

スピーカーシステムの位置は、ある程度決まったら、微調整していく。
音を聴いて、また少し動かして、音を聴く。これを何度となくくり返し、スピーカーのセッティングを詰めていく。
その過程では、ほんのわずかな差で、一挙に音のピントが合うこともあり、
そういう位置をさぐり当てたのならば、本音では、もう動かしたくはない。

まして曲によって、大胆にスピーカーシステムを前に出したり、左右にひろげたり、
振り角も変えたり、ということは、能動的な音楽の聴き方といえるだろうが、
実際にはなかなかやろうという気にはなれなかったりする。

以前セレッションのSL600を使っていた時、スタンドにカメラの三脚を使うのはどうだろう、と考えたことがある。
曲によって、録音によって、カメラをのピントを合わせるかのように、
スピーカーシステムのセッティングを合わせていく。そういう聴き方を、いちど考えたことがある。
まだ23歳、若かった時のことだ。

Date: 4月 14th, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その4)

身近というくらいだから、己の身体の近くにあること、
それに、つね日ごろ慣れ親しんでいるという意味もあるだろう。

そうなると、やはりメインシステムこそ、「いい音を身近に」ということになり、
先に進めなくなってしまう。
手軽でもなく、気楽でもなく、あくまでも「身近」である。
「身近」は距離をあらわしてもいる。
オーディオにおいては、物理的な距離、心理的な距離だろう。

まず考えていきたいのは、物理的な距離、からである。

短絡的に、スピーカーと聴き手の距離が短い関係こそ、
いわゆるニアフィールドリスニングが「いい音を身近に」であるはずがない。

われわれは、オーディオで音楽を聴くときに、聴きたい曲に応じて音量を変える。
同じ曲でも、聴く時間帯、心理状態によっても音量を変える。

こまめに音量を変える人もいれば、あまりいじらない人もいるだろうが、
まったくいじらない人は、まずいないだろう。
音量は変える。
さらに人によってはトーンコントロールやグラフィックイコライザー、パラメトリックイコライザーをいじって、
もっと積極的に音を変えていく人もいるだろう。

そういう人でも、リスニングポジションを、聴く曲に応じて変える人は、そうはいないだろう。

Date: 4月 14th, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その3)

一般雑誌が「いい音を身近に」というテーマで記事を作るのであれば、
なんとなく、その内容については想像がつくし、納得がいく。

けれどオーディオ雑誌であるステレオサウンドが「いい音を身近に」ということになると、
一般雑誌と同じものでは、意味がないだろう。

一般雑誌の読者は、ことさらオーディオにはつよい関心のない人たちに向けての記事であるだろう。
ステレオサウンドを購入して読む人は、すでにそれなりの装置をそろえ、
納得いくまで、音を追い込んでいっている人たちであるし、
たとえ初心者であっても、同じタイトルの記事がそれぞれの載っていたとしても、
一般雑誌のほうを参考にする人ではないはずだ。

そういう人たちにむけての「いい音を身近に」ということであるならば、
これは意外に難しいテーマのように思えてくる。

ステレオサウンドが、どういう答えを提示しているかは、私は知らない。
ステレオサウンドを読んでいないから、ステレオサウンドの記事について、あれこれ書くつもりはない。

ここから先、書いていくのは、あくまでも「いい音を身近に」を、
私ならこう考える、についてである。

Date: 4月 13th, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その2)

「いい音を手軽に」だったら、即理解できる。
けれど、あくまでも「身近に」であって、身近に置く、ということが、
サイトの説明文ではくりかえされている。

価格、大きさ、重さもほどほどのものが、果して「身近」なのだろうか。
そして、高価で、大きく、重いものは、身近ではない存在なのだろうか。

すくなくとも、私にとって、いま部屋にあるオーディオこそが、身近な存在である。
文字通り、身近に置いて音楽を楽しんでいる。
これは、なにも私だけではないはず。オーディオに真剣に取り組んでこられた人にとって、
メインのシステムこそ、もっとも身近な存在であり、音楽を楽しめる存在でもあるはずだ。

手塩にかけたメインシステム意外に、もうひとつ別のシステム、
よく言われるサブシステムも所有していて、そちらで聴く時間のほうが、
メインシステムで聴くよりも圧倒的に長いというのであれば、「身近」なシステムは、
サブシステムの方となる。

それでも、やはり私の頭から「手軽」という言葉は消えない。

Date: 4月 13th, 2010
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その1)

「いい音を身近に」──、
いま書店に並んでいるステレオサウンド 174号の特集のテーマとなっている。

174号を購入していない。川崎先生の連載が終ってから、ステレオサウンドを購入するのは、すっぱりやめた。

なので、174号も読んではいない。
なのに、あえて「いい音を身近に」を、テーマとしてたてたのは、
いましがた早瀬さんと話して、共通のテーマで書こう、ということになったからである。

正直なところ、このテーマが、よく理解できない。
「身近に」のところに、「?」がつく。考えるほど「?」は大きくなる気がする。

ステレオサウンドのサイトには、次の文章が載っている。

この特集は、オーディオ愛好家のみならず、多くの音楽愛好家の皆さんに、いい音のオーディオシステムを身近に置いて音楽を楽しんでいただきたいという願いを込めて企画したものです。ここで紹介・推薦しているオーディオ機器は50万円以下が中心となっており、最高でも100万円まで。また、大きさと重さもほどほどで、すべてのモデルが身近に置きやすい機器です。

やはり、よくわからない。
どこが「身近」なのかが。