「いい音を身近に」(その11)
QUADのESLの把手は、なぜついているのだろうか。
当時のカタログでも、ESLの設置のしかたとして、後方に十分なスペースをとるように指示されている。
その指示どおりの設置をしたら、その部屋においてはESLが中心となってしまうだろう。
ESLが登場した当時、このスピーカーシステム、そしてQUADのシステム一式で家庭内で音楽を楽しむ人たちが、
スピーカーシステムだけのために、こういう設置をとるとは、なかなか思えない。
たとえば日本にはちゃぶ台がある。使わないときには脚を折り畳み壁にタテかける。
ESLの把手も、こういうことのためにつけられているのではなかろうか。
聴かないときに部屋の片隅に置いておく、レコードを楽しみたいときには手前に持ってきて設置する。
ESLは軽い。片手で持てる。
満足できる音量が得られなければスピーカーシステムに近づいて聴く、と書いたが、
正しくはスピーカーとリスニングポイントの距離を近づける、である。
1人がけの比較的軽い椅子ならば、文字通りスピーカーシステムに近づいて聴くことは簡単だろう。
でも3人だけのソファーだったり、椅子とスピーカーシステムのあいだには、たいていテーブルがある。
そうなると重いソファーを移動して、さらにテーブルも移動してまで、
スピーカーシステムとの距離を近づけることは、まずやらない(やれない)。
実際には、それほど重くなければスピーカーシステムを近づけるほうが、現実的ともいえる。