「いい音を身近に」(その5)
曲によって、身をのり出して聴くことはある。椅子の背にもたれかかって聴くこともある。
だから、多少は、いつものリスニングポジションにいても、耳の位置は前後している。
けれど、より積極的に、スピーカーシステムとリスニングポジションの関係を変えている人は、
ほんとうにいるんだろうか。
スピーカーシステムの位置は、ある程度決まったら、微調整していく。
音を聴いて、また少し動かして、音を聴く。これを何度となくくり返し、スピーカーのセッティングを詰めていく。
その過程では、ほんのわずかな差で、一挙に音のピントが合うこともあり、
そういう位置をさぐり当てたのならば、本音では、もう動かしたくはない。
まして曲によって、大胆にスピーカーシステムを前に出したり、左右にひろげたり、
振り角も変えたり、ということは、能動的な音楽の聴き方といえるだろうが、
実際にはなかなかやろうという気にはなれなかったりする。
以前セレッションのSL600を使っていた時、スタンドにカメラの三脚を使うのはどうだろう、と考えたことがある。
曲によって、録音によって、カメラをのピントを合わせるかのように、
スピーカーシステムのセッティングを合わせていく。そういう聴き方を、いちど考えたことがある。
まだ23歳、若かった時のことだ。