「いい音を身近に」(その8)
キャスター付の白い台の上に置かれたコンサイス・コンポとビクターのスピーカーとの組合せで、
黒田先生が、最初にかけられたレコードは、シンガーズ・アンリミテッドの「フィーリング・フリー」。
そのつぎにイ・ムジチのモーツァルトにかわり、ベン・シンドラ、さらにケイト・ブッシュのレコードというように、
いろんなレコードを、5時間聴き続けた、ということを、ステレオサウンドの47号に書かれている。
*
キャスターのついた白い台の前ですごした5時間の間、そのときかけるレコードによって、耳からスピーカーまでの距離をさまざまにかえた。もっとも、それはかえようとしてかえたのではなく、後から気がついたら、それぞれのレコードによって、台を、手前にひきつけたり、むこうにおしやったりしてきいていたのがわかった。むろん、そういうきき方は、普段のきき方と、少なからずちがっている。
*
この黒田先生の文章を読んだとき、私は15歳。
このきき方に、すごくあこがれたことを、いまでもはっきりと思い出すことができる。
そして、こういう「きき方」ができるシステムを、つねに一組用意しておこう、とも思っていた。