Archive for category TANNOY

Date: 7月 9th, 2009
Cate: TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その33)

バッキンガム、ウィンザーでの試みが、実際にどのように音に反映されていたのかは、
どちらも残念なことに、聴く機会がなかったため、なんともいえない。

少なくとも商業的には日本ではうまくいかなかったと思われる。
アーデンはどこのオーディオ店でも見かけたが、バッキンガムとウィンザーは、いちども見かけたことがない。

バッキンガム、ウィンザーが登場した1970年代後半は、
日本では、オートグラフ、GRFやレクタンギュラーヨークといった機種の印象がまだまだつよかったこともあり、
現代的、いいかえれば合理的な設計思想のバッキンガムに対しては、拒否反応が、多少なりともあったのだろうか。

安易な音響レンズはともかくとして、話題になるだけの内容はそなえていたと思っているだけに、残念である。
1979年にステレオサウンドから出版された「世界のオーディオ」のタンノイ号に、
タンノイの生き字引といわれていたリビングストンに、瀬川先生がインタビューされている。

Date: 7月 9th, 2009
Cate: TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その32)

バッキンガムとウィンザーの違いは、
サブウーファーの数とそれにともなうエンクロージュアのプロポーションにある。
核となる25cm口径の、音響レンズ付の同軸型ユニットは共通、サブウーファーは30cm口径のものが、
バッキンガムは2本、ウィンザーは1本で、クロスオーバー周波数は、どちらも350Hzと3.5kHz。

厳密にいえば、バッキンガムはウーファーを並列接続しているため、ユニットのインピーダンスは16Ωで、
ウィンザーのウーファーは8Ωという違いはある。
最近、ほとんど注目されなくなったが、BL積は、とうぜんだが16Ωのユニットの方が高い。

見ためは、バッキンガムとくらべるとウィンザーは、ややずんぐりむっくりしたプロポーション。
価格はウィンザーが35万円(1本)なのに、ウーファー1本増え、エンクロージュアの高さが、
ほぼウーファー1本分だけ増したことからすると、65万円(1本)と、
30万円の価格差(ほぼ2倍の価格)は大きいように感じられる方もおられるだろう。

バッキンガムの価格におけるエンクロージュアのしめる割合はそうとうにあるということだろうし、
また、それは、しっかりとつくっているということを示しているといっていいだろう。

Date: 7月 8th, 2009
Cate: TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その31)

バッキンガム、ウィンザーは、中心となる同軸型ユニットが、他のタンノイのシステムのものとは違うだけでなく、
エンクロージュアのつくりも、アーデンが、エンクロージュアの剛性を、あえてそれほど高くしないことで、
適度なブーミングを意図的にねらっているとしか思えない、やや緩めといえるつくりに対して、
バッキンガム、ウィンザーのつくりは、同じメーカーの、同じ時期の製品とは思えないほど、
ロックウッドのMajorシリーズのエンクロージュアを意識したかのような、
ひじょうにしっかりとしたものに仕上っている。

パーティクルボードを主として使っているが、積層構造で、外装から、
VENEER(ツキ板)、PARTICLE BOARD(パーティクルボード)、VENEER、
BITUMEN LAYERS(アスファルト層)、PARTICLE BOARD、
BITUMEN LAYERS、ABSORBTION FORMとなっている。

外形寸法は、アーデンが幅60×高さ95×奥行き37cm、
バッキンガムは幅60×高さ117.5×奥行き45.4cmと、大きな差はないのに、
バッキンガムは95kgと、アーデン(43kg)の2倍以上の重量だ。
バッキンガムは、25cm口径の同軸型ユニットに、30cm口径のウーファーが2本、
アーデンは38cm口径の同軸型ユニットが1本と、ユニット総重量の違いはあるものの、
バッキンガムのエンクロージュアは、重くしっかりとつくられている。

おそらくタンノイの歴史の中で、バッキンガム以前で、これほど高剛性のエンクロージュアは存在しない。
タンノイは、ワイドレンジ化にあたって、単にウーファーを追加しただけでなく、
まったく新規に、細部を再検討していることが、うかがえる。

Date: 7月 7th, 2009
Cate: TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その30)

タンノイがハーマングループだったころ、1977年に、バッキンガムとウィンザーが出た。
同軸型ユニットを中心としながらも、ウーファーを追加しワイドレンジ化を図ったシリーズである。

これらに使われた同軸型ユニットの口径は25cmだが、イートンに採用されていたHPD295Aではなく、
新たに開発されたユニットで、従来のタンノイの同軸型ユニットが、
ウーファーとトゥイーターのマグネットを兼用していたのとは異なり、
フェライトマグネットを、ウーファー用、トゥイーター用とそれぞれ独立させている。

さらにトゥイーター・ホーンの開口部には、JBLのスタジオモニターの影響からなのだろう、
音響レンズがとりつけられている。

そのこともあって、ウーファーのコーン紙はストレートになっている。
これまではカーブドコーンがトゥイーターのホーンの延長の役割を果していたが、
音響レンズの存在によって、この、いかにもイギリス的な発想による合理的な構造は変更を受けてしまってた。

クロスオーバー周波数は、従来の同軸型ユニットが1kHzなのに対し、
バッキンガム、ウィンザー搭載の新型ユニットは、3.5kHzとかなり高くなっているのは、
ウーファーをホーンの延長として使っていないためである。

Date: 3月 3rd, 2009
Cate: Autograph, TANNOY

井上卓也氏のこと(その18)

井上先生には、ずっとききたいことがあった。
そう、タンノイのオートグラフの組合せのことだ。

オートグラフで、山崎ハコの「綱渡り」や菅野先生録音の「サイド・バイ・サイド」でのベースが、
「世界のオーディオ」タンノイ号に書かれているとおりに鳴ったのか、きいてみたことがある。

「こまかいことを言うと、そりゃ、ベースの音は、バックロードホーンだから、
(最初の「ウ」のところにアクセントを置きながら)ウッ、ウーンと鳴る。
でも腰の強い低域で、表情のコントラストも豊かだし、聴いて気持いいから、いいんだよ」
(「ウーン」は、バックロードホーンを通って出てくる、遅れをともなう音を表されている)

楽しそうに話してくださった。
「あれは、ほんとうにいい音だった」とも言われたことも、思い出す。

Date: 2月 16th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その10)

ロックウッドのMajor Geminiが存在していなかったら、
井上先生のオートグラフの組合せも、もしかしたら違う方向でまとめられたかもしれないと思ってしまう。

井上先生は、オートグラフの組合せの試聴の、約2年ほど前にMajor Geminiを、
ステレオサウンドの新製品の試聴で聴かれている。
このときの音、それだけではなく過去に聴かれてきた音が、井上先生のなかでデータベースを構築していき、
直感ではなく直感を裏打ちしていく。

何も井上先生だけに限らない。オーディオマニアならば、皆、それまで聴いてきた、いくつもの音は、
いま鳴らしている音と無縁なはずはないだろう。

ただ音の判断において、なにがしかの先入観が働く。
HPD385Aを搭載していようと、国産エンクロージュアであろうと、
オートグラフは、やはり「オートグラフ」である。

プレジションフィデリティのC4、マークレビンソンのML2Lとの組合せでも、
オートグラフからは、音量のことさえ、それほど多くを求めなければ、ひじょうに満足の行く音が鳴っていた。
それでも、井上先生は、先に進まれた。

それはMajor Geminiの音を聴かれた経験から、タンノイのユニットの可能性、変貌ぶりを、
感じとられていたことによる裏打ちがあってのことだと思う。

Date: 2月 14th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その9)

井上先生は、こうも語られている。
     *
従来のオートグラフのイメージからは想像もつかない、パワフルでエネルギッシュな見事な音がしました。オートグラフの音が、モニタースピーカー的に変わり、エネルギー感、とくに、低域の素晴らしくソリッドでダンピングの効いた表現は、JBLのプロフェッショナルモニター4343に優るとも劣らないものがあります。
     *
この部分だけを読んでいると、
ステレオサウンド 42号に載っているロックウッドのMajor Gemini のイメージそのものと思えてくる。

ステレオサウンドの新製品紹介のページが現在のようなかたちになったのは、56号からで、
それ以前は、山中先生と井上先生による対談形式だった。

井上先生は、ここで、
「異常なほどの音圧感にびっくりするのではないかと思う。ある種の空気的な圧迫感、迫力がある」
さらに「低域がよくなったせいか、中域から高域にかけてホーンユニットの受けもっている帯域が、
かちっと引きしまっているような印象」と語られ、
山中先生は、タンノイのオリジナルなシステムにくらべてエネルギッシュな音になって」
タンノイ・アーデンと比較して「ソフトな音というイメージとは大きく違って、
音が引きしまっていて、業務用のシステムだという感じ」だとされている。

くり返すが、Major Geminiも、搭載ユニットは、井上先生が組合せに使われ、
最終的に出てきた音に驚かれたたオートグラフと同じHPD385Aだ。

Date: 2月 11th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その8)

井上先生は、ML2Lのかわりに選ばれたのはマッキントッシュのMC2205。
MC2205は200W+200Wの出力をもつが、井上先生はオートグラフの能力からして、
まだまだいけると感じられて、300W+300WのMC2300を持ってこられる。

コントロールアンプも、プレシジョンフィデリティのC4からコンラッド・ジョンソンのプリアンプを試され、
これらとは180度の方向転換をはかり、最終的にはマークレビンソンの LNP2Lを選択されている。

これはなかなか他の人にはマネのできない組合せだと感じた。
井上先生は、スピーカーがどう鳴りたがっているかを瞬時に察する能力に長けておられる。

自宅にスピーカーを持ち込んで長期間にわたって使いこなすのであれば、
どう鳴らしていくかがもちろん最重要なことだが、
ステレオサウンドの試聴室で、数時間の間に、組合せをまとめるには、
目の前にあるスピーカーを、どう鳴らせるか──、
擬人的な言い方になるが、スピーカーの鳴りたいように鳴らすことが、ときには求められる。

そのためには出てきた音に、先入観なしに素直に反応し、
経験に裏打ちされた直観でもって、アンプやプレーヤーを選択していく。

こうやって書いていると、そう難しいことのようには思えない方もいるだろう。
だがやってみると痛感されるはずだ。
生半可な経験と知識では、井上先生の、このオートグラフの組合せは、まず思いつかない。

大胆な組合せのように見えて、実はひじょうに繊細な感覚があってこそできるのだ。

LNP2LとMC2300が鳴らすオートグラフの音は、
引き締り、そして腰の強い低域は、堅さと柔らかさ、重さと軽さを確実に聴かせると語られている。
具体的な例として、爆発的なエレキベースの切れ味や、くっきりしたベースの音、
「サイド・バイ・サイド」のアコースティックなベースの独特の魅力をソフトにしすぎることなく
クリアーに聴かせるだけのパフォーマンスをもっていることを挙げられている。

これは誇張でも何でもない。
井上先生も、こういうオートグラフの音は初めて聴いた、とされている。

ここで使われたオートグラフは、輸入元のティアック製作の国産エンクロージュアに、
ウーファーのコーン紙の裏に補強リブのついたHPD385Aがはいったものだ。
五味先生がお使いだったモニターレッドをおさめたオリジナル・オートグラフと違う面を持つとはいえ、
エンクロージュアの構造は、オリジナルモデルそのままである。
タンノイの承認を受けた、歴としたオートグラフである。

Date: 2月 11th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その7)

井上先生のタンノイ・オートグラフの組合せは、最初、伝統的なタンノイのいぶし銀と言われる音の魅力を、
スピーカーが高能率だけに小出力だが良質のパワーアンプで引き出そうという意図から始まっている。

だからまず組み合わされたのは、プレシジョンフィデリティのC4とマークレビンソンのML2Lである。
この組合せの音は、予想通りの精緻で美しい音がしたと語られている。

思い出していただきたいのは、ML2Lについて前に書いたことだ。
井上先生は、ML2Lのパワーの少なさを指摘されていた。
普通の音量ではなまじ素晴らしい音がするだけに、そのパワーの少なさを残念がられていた。

井上先生がそう感じられたのは、この組合せの試聴においてであることがわかる。
井上先生は、こう語られている。
     *
鮮明に広がるステレオフォニックな音場感のよさと音像定位の美しさが魅力的ですね。これはこれで普通の音量で聴く場合には、一つのまとまった組合せになります。ただ、大音量再生時のアンプ側のクリップ感から考えてみると、これはオートグラフのほうにはまだ十分に大音量をこなせる能力があるということになります。
     *
記事に掲載されているところだけ読んだのでは、井上先生が感じておられた微妙なところは、
残念ながら伝わってこない。
致し方ないだろう。書き原稿ではないし、あくまで井上先生が話されたものを編集部がまとめているものだけに。

それでも、アンプ側のクリップ感、普通の音量、といったところに、
それとなくML2Lの出力の少なさに対する不満が表れている。

Date: 2月 11th, 2009
Cate: TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その6)

ロックウッドのMajorのエンクロージュアは、ダブルチェンバーをもった、やや特殊なバスレフ型だ。
アカデミー・シリーズは、フロントバッフルとリアバッフルを4本のボルトナットで、
強固に締めつけるとともに、リアバッフルを留めているネジもかなりの本数使っている。

Majorもアカデミーも、どちらも、同時期のタンノイの純正のシステム、
アーデンやバークレイのエンクロージュアとは相当に異るつくりとなっていた。

写真ではMajorの仕上げはなかなかのように思えるが、
実物を見ると、意外にラフなところも見受けられて、ちょっとがっかりしたものだが、
出てきた音には、素直に驚いた。

タンノイのスピーカーといえばアーデンしか聴いたことはなかったが、
同じスピーカーユニット(HPD385A)が、こんなふうに変身するのか、と、
アーデンとMajorを聴いて、驚かれない人は少ないだろう。

エンクロージュアが違うと音がどう変化するのかの、好例といえる。
もっともアーデンは23万9千円、Majorは48万8千円と倍以上するのだが(ともに1本の価格)。

井上先生は、ステレオサウンド 42号の新製品紹介で、Major Geminiについて、山中先生と語られている。

Date: 2月 11th, 2009
Cate: TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その5)

同じスピーカーユニットを使っても、エンクロージュアが違えば、音は大きく変ってくる。
スピーカーユニットの性能、可能性が高いほど、エンクロージュアの役割の重要さは比例して高くなる。

スピーカーユニットとエンクロージュアの関係を語るのは、どれだけ言葉を尽くしても語り尽くせぬほど、
切っても切れぬ強固な関係といえよう。

特にタンノイにおいては、かなり以前から、
エンクロージュアの存在が大事であるとマニアの間で言われつづけてきた。

長島達夫先生は、タンノイのユニットは、エンクロージュアとの関係において、
サウンドボックスのダイアフラムの役割を果たすものと捉えられていた。
一般的なスピーカーとは異るアプローチによるエンクロージュアの考え方から、
タンノイのスピーカーシステムはつくりあげられている、ということだった。

いわばかなりやっかいで、扱い難いユニットといえるだろう。
このタンノイのスピーカーユニットを使って、システムとして成功した数少ない例が、
タンノイと同じイギリスのロックウッド社だ。

ロックウッドの製品には、38cm口径ユニットを2本縦に並べて搭載したMajor Geminiと、
1本だけのMajorという大型スピーカーと、
ブックシェルフサイズのアカデミー・シリーズがあった。

Date: 2月 11th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その4)

タンノイ・オートグラフでジャズなんて無理、というのは、私の思い込みでしかなかったわけだ。

まぁ無理もないと思う。16歳だった。オーディオの経験も、いまの私と較べてもないに等しいし、
まして井上先生と較べるなんて……、くらべようとすること自体無理というもの。
当時は、わずかな経験と、本から得た知識だけで、オートグラフでジャズは無理、とそう思い込んでしまっていた。

タンノイ、オートグラフという固有名詞をはずして考えてみたら、どうだろうか。
38cm口径の同軸型ユニットで、フロントショートホーンとバックロードホーンの複合型エンクロージュア。
イギリス製とか、タンノイとか、そういったことを無視してみると、
決してジャズに不向きの構成ではないことに気がつく。

岩崎先生は、JBLのハークネスをお使いだった。
ステレオサウンドの記事でもバックロードホーンを何度か取りあげられているし、
「オーディオ彷徨」のなかでもバックロードホーンについて熱っぽく語られている。

ジャズとバックロードホーンは、切り離しては語れない時期が、たしかにあった。

JBLのバックロードホーン・エンクロージュアとオートグラフとではホーン長も違うし、構造はまた異る。
だから一緒くたに語れない面もあるにはあるが、ジャズが鳴らない理由は特に見あたらない。

ユニットにしてもそうだ。
タンノイのユニットがクラシック向きだというイメージが浸透し過ぎているが、
ロックウッドのスピーカーシステムを一度でも聴いたことがある人ならば、
タンノイの同軸型ユニットのもつ、別の可能性を感じとられていることだろう。

Date: 2月 10th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その3)

LNP2とMC2300で鳴らされるオートグラフは、
従来のオートグラフのイメージからは想像もつかない、パワフルで引き締った音がした、
と井上先生は語られている。

さらにモニタースピーカー的な音に変り、エネルギー感、
とくに低域の素晴らしくソリッドでダンピングの効いた表現は、4343にまさるとも劣らない、とある。
たしかに、ここで語られるとおりの音が鳴っていたら、まさしくオートグラフのイメージからは想像できない。

この組合せの音について、井上先生に直にきいてみたい、
ステレオサウンドで働くようになってから、そう思っていた。

Date: 2月 10th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その2)

井上卓也の名前を強烈に感じたのは、
1977年にステレオサウンドの別冊として刊行されていた「コンポーネントステレオの世界 ’78」と
1979年刊行の「世界のオーディオ」シリーズのタンノイ号である。

「世界のオーディオ」のタンノイ号で強烈だったのは、タンノイを生かす組合せは何か、という記事だ。
ここで井上先生は、タンノイのバークレイ、アーデン、ウィンザー、バッキンガムの他に、
GRFとAutograph(オートグラフ)の組合せをつくられている。
驚くのは、オートグラフの組合せで、高能率の、
このスピーカーにあえてハイパワーアンプのマッキントッシュのMC2300を組み合わせて鳴らされている。

しかもコントロールアンプは、マッキントッシュと対極にあると、当時思っていたマークレビンソンのLNP2である。

79年といえば、まだ16歳だった私のオーディオの思い込み、常識を、軽く破壊してくれた組合せである。
本文を読んでいただくとわかるが、MC2300のパワーメーターが、ときどき0dBまで振れていた、とある。
つまり300Wのパワーが、オートグラフに送りこまれていたわけだ。

それでジャズだ。
菅野先生録音の「サイド・バイ・サイド」を鳴らされている。
山崎ハコの「綱渡り」も聴かれている。

この人は、何かが違う、この記事を読みながら、そう感じていた。

Date: 2月 9th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 五味康祐

タンノイ・オートグラフ

五味先生の本「五味オーディオ教室」でオーディオにどっぷりつかってしまった私にとって、
五味先生の書かれたものが、いわば「核」である。

だからタンノイのオートグラフは、JBLの4343とも、他のどんなスピーカーとも、
私の裡では、別格の存在であり、憧れである。
2000年に、タンノイがオートグラフを復刻した時は、真剣に欲しいと思った。
親になんとか借金してでも、と思いもしたが、
オートグラフを迎え入れる部屋が用意できない。
それに、いくらなんでも500万もの借金は、頼めない。

「なぜ、限定なんだろう」と憾んだものだ。

タンノイには、オートグラフと、ほぼ同じ構成のウェストミンスターがある。
いまのウェストミンスター・ロイヤル/SEは何代目だろうか。
息の長いスピーカーで、確実に改良され、堂々とした風格をもつ。

オートグラフでなくてもいいじゃないか、
ウェストミンスターのほうがずっと使いやすいだろう、という声が、裡にある。

オートグラフとウェストミンスター、どちらがいいか、そんなことを人に聞かれたら、
ためらわずウェストミンスター・ロイヤル/SEをすすめる。
だが自分のモノとするとなると、話は違う。

やはりオートグラフである。

ウェストミンスターは、何度か、ステレオサウンドの試聴室で聴いている。
聴き惚れたこともある。
試聴室で、ひとり鳴らしたブラームスのピアノ協奏曲のロマンティックな甘美さは、
いまも耳に残っている。
これがブラームスだ、そう思って聴いていた。
アバドとブレンデルの演奏だった。

そうなのだ、私にとって、ウェストミンスターはブラームスである。
オートグラフはベートーヴェンである。

この違いは、私にとって、決定的であり、どうやっても埋められない違いである。

言葉足らずで、なんのことか、わかってもらえないだろう。
それでも求めるのは、ベートーヴェンであり、オートグラフである。