Archive for category 真空管アンプ

Date: 5月 15th, 2009
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その46)

トランジスター、真空管などの能動素子を並列接続することで、
とくに増幅回路の初段が発生するノイズは、後段でさらに増幅されるため、できるだけおさえたいだけに、
初段の能動素子の並列化で、ノイズフロアーは確実に下がる。
同時に、長島先生が指摘されているように、微小レベルの信号も打ち消される。
初段で失われた微小レベルの信号は、何をやっても復活することはない。

ノイズレベルが下がり、微小レベル信号が打ち消されると、ノイズフロアーに埋もれていた音も減る、
もしくはなくなるかもしれない。
すると聴感上のSN比が向上したように錯覚しやすい。
ノイズフロアーレベルは下がっているのだから、SN比は向上しているのは事実である。
でも、くり返すが、微小レベルの信号も損なわれている。

ならばノイズフロアーはそのままでも、ノイズに埋もれた音はあるけれど、
打ち消されて聴こえなくなるよりは、アナログディスク再生ならでは、といえないだろうか。
耳をすませば、聴こえてくるのだから。

Date: 5月 14th, 2009
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その45)

SPA1HLは、いうまでもなくフォノイコライザーアンプであり、
アナログディスクを再生するためのアンプである。

なぜ、こんなわかりきったことを書くかといえば、アナログディスク再生は、
デジタルの再生と決定的に違うところが、ひとつある。

アナログディスク再生では、ノイズに埋もれた音も聴きとれる、ということだ。
アナログディスクのスタティックなSN比は、それほど高いものではない。
ダイレクトカッティング・レコードで知られていたシェフィールドのダグラス・サックスが、
ステレオサウンド 55号のインタビューに答えているが、
「よくカットされたラッカー盤から上質のレコードを使いうまく整盤されたレコード」で、
ノイズを測ると、「5cm/secの基準レベルからマイナス65dBかもう少しよいSN比」ということだ。

ただし、あくまでも注意深く作られたレコードにおいて、での値である。
精選されていないプラスチック材料や平凡なプロセスのレコード」のSN比は、55dBぐらいになってしまうとのこと。

基準レベルより、−55dB以下の信号は聴こえないかというと、そんなことはない。
アナログディスクの場合、ノイズフロアーに埋もれている音でも、耳をすませば聴きとれる。

もちろん人により、どこまでノイズに埋もれた音が聴きとれるかは、個人差があろう。
それでも装置の性能が高く、万全の調整がなされていれば、
ノイズレベルよりも低いレベルの、微弱な楽音も再生が可能だということ。
この点が、デジタル(デジタル録音でデジタルディスクでの再生)との違いである。

Date: 5月 13th, 2009
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その44)

アンプメーカーは、五味先生がやられていた真空管選別はコスト高につながるため無理だとしても、
あるレベルのクォリティをもつ真空管を大量に確保しておく必要がある。

アンプ製造のために必要であるだけでなく、修理のため戻ってきたアンプのためにも、
メーカーの責任として、かなりの数のストックが必要となる。
その苦労は、マランツ、マッキントッシュが真空管アンプを製造していた時代よりも、
いまははるかにたいへんなことである。

長島先生もSPA1HLの開発では、ここで苦労されたと思う。
昔の良質なECC83を挿せば、比較的容易に実現できるSN比を、1980年代後半に大量に入手できるECC83で、
#7と最低でも同じレベル、もっと高いSN比の実現を求められていたはずだ。
そうでなければ、「マランツ#7への恩返し」という言葉は、長島先生の性格からして使われない。
私は、長島先生とのおつきあいから、そう信じている。

いま大量に入手できる真空管での高SN比の実現──、
初段の並列接続は有効な手段だったはずだけに、私は「試された」、と推測した。

Date: 5月 13th, 2009
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その43)

マランツ#7が登場した1958年、マッキントッシュC22が登場した翌59年、真空管全盛時代で、
良質の真空管を大量に調達することは容易なことである。

真空管アンプのSN比は、回路構成、コンストラクションなどだけで決まるものでなく、
同規格の真空管でも製造メーカー、製造時期が異ることでも、SN比は左右される。
真空管に被せるシールドケースの種類によっても、すくなからず、というよりも意外と変わる。

真空管アンプを使う楽しさ(人によってはめんどうなこと)は、真空管の選別にもある。
SN比だけでなく、とうぜん音も、おもしろいように変わる。
モノーラル時代よりもステレオになり、選別の苦労(楽しさ)は増している。
左右チャンネルの同じ箇所に使う真空管は、ブランド、製造時期が揃っているだけでなく、
実際に音を聴いて、音色やノイズの出方が揃っている(似ている)ものを、
ステレオイメージをきちんと再現するためにも、選びたい。

さらにプッシュプルのパワーアンプの出力管の選別は難しくなる。
4本(パラレルプッシュプルだったら8本)、
特性、音、ノイズの質(たち)が揃っているものを選び出すわけだから。

五味先生は、「オーディオ愛好家の五条件」のなかで、真空管選びのたいへんさについて書かれている。
     ※
もちろん、真空管にも泣き所はある。寿命の短いことなどその筆頭だろうと思う。さらに悪いことに、一度、真空管を挿し替えればかならず音は変わるものだ。出力管の場合、とくにこの憾みは深い。どんなに、真空管を替えることで私は泣いてきたか。いま聴いているMC二七五にしても、茄子と私たちが呼んでいるあの真空管──KT88を新品と挿し替えるたびに音は変わっている。したがって、より満足な音を取戻すため──あるいは新しい魅力を引出すために──スペアの茄子を十六本、つぎつぎ挿し替えたことがあった。ヒアリング・テストの場合と同じで、ペアで挿し替えては数枚のレコードをかけなおし、試聴するわけになる。大変な手間である。愚妻など、しまいには呆れ果てて笑っているが、音の美はこういう手間と夥しい時間を私たちから奪うのだ。ついでに無駄も要求する。
 挿し替えてようやく気に入った四本を決定したとき、残る十二本の茄子は新品とはいえ、スペアとは名のみのもので二度と使う気にはならない。したがって納屋にほうり込んだままとなる。KT88、今一本、いくらするだろう。
 思えば、馬鹿にならない無駄遣いで、恐らくトランジスターならこういうことはない。挿し替えても別に音は変わらないじゃありませんか、などと愚妻はホザいていたが、変わらないのを誰よりも願っているのは当の私だ。
 だが違う。
 倍音のふくらみが違う。どうかすれば低音がまるで違う。少々神経過敏とは自分でも思いながら、そういう茄子をつぎつぎ挿し替えて耳を澄まし、オーディオの醍醐味とは、ついにこうした倍音の微妙な差意を聴き分ける瞬間にあるのではなかろうかと想い到った。数年前のことである。
 以来、そのとき替えた茄子はそのままで鳴っているが、真空管の寿命がおよそどれぐらいか、正確には知らないし、現在使用中のテープデッキやカートリッジが変わればまた、納屋でホコリをかぶっている真空管が必要になるかもしれない。これはわからない。だが、いずれにせよ真空管のよさを愛したことのない人にオーディオの何たるかを語ろうとは、私は思わぬだろう。

Date: 5月 13th, 2009
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その42・余談)

インターネットの普及と拡大、検索サイトのおかげで、
以前なら、言葉のみで説明されていた技術内容が、回路図で確かめられるようになってきた例がいくつもある。

SAEのシリーズアウトプット回路もそうだし、
スレッショルドのステイシス回路がいったいどういうものだったのかも、
STASIS1の回路図のダウンロードによって、数年前に、やっとわかった。

いまはダウンロードできなくなっているが、スレッショルドの一連のアンプの回路図は、
PASSのサイトから入手できた。
主宰者のネルソン・パス自身が、アメリカの自作アンプマニアが集まるフォーラムに、
FTPサイトのアドレスを書き込んできたからだ。

ルボックスA740とスチューダーA68の違いもわかった。

JBLのスピーカー、4311はウーファーはネットワークを介さずスルーだと言われていた。
事実、回路図を見ると、ウーファーにネットワークは介在していない。
それどころかスコーカーもネットワークも、ローカットのコンデンサーが一個あるだけで、
ハイカットフィルターのコイルはない。
つまり4311のネットワークを構成する部品は、スコーカーとトゥイーターのローカット用の、
たった2つのコンデンサーのみである。

1990年ごろから登場して始めてきた、インピーダンス補正や位相補正を、
ネットワークの構成を複雑化、多素子化しておこなっている、能率も低い一部のスピーカーとは、
正反対の見事な、大胆で潔い設計である。

クロスオーバーネットワークを複雑化することが必ずしも悪いわけではないが、
真空管パワーアンプにとっては、かなりきびしい負荷になっているのは事実である。

とにかく辛抱強く検索結果を見ていくと、意外な資料に出会すことがある。

Date: 5月 13th, 2009
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その42・補足)

マランツ#7とつねに比較対象となるマッキントッシュのC22。

#7のフォノアンプは3段K-K帰還型、C22は2段P-K帰還型。
だから増幅段数の少ないC22のほうが安定している、と思い込まれている方がいる。
真空管アンプを自作された方、回路図を読んだことのある方なら、
#7とC22のフォノアンプの増幅段数は、どちらも2段であり、
終段がカソードフォロワーという構成は同じであることは、周知のことである。

3段K-K帰還型、2段P-K帰還型とは増幅段数のことをではなく、NFBの掛け方を示している。
Kはカソード、Pはプレートのことで、
#7の3段K-K帰還型とは、終段のカソードフォロワーのカソードから、初段のカソードにNFBを返していること、
C22の2段P-K帰還型は、終段のカソードフォロワーからではなく、
二段目のプレートから初段のカソードへとNFBを返していることを表している。

使用真空管はどちらもECC83/12AX7で、増幅段数も2段であり、#7もC22も、フォノアンプのゲインは、
定数の違いはあるものの、1kHzにおいて、約40dBと、ほぼ同じだ。

ただしC22は、3段目のカソードと2段目のカソードを330kΩの抵抗で接続している。
この抵抗で、ポジティヴフィードバック(PFB)をかけ、
高域における出力電圧のマージンをかせいでいる設計だ。

C22も、アンプ全体で使用している真空管の数は6本。その使い方も#7と同じで、
フォノアンプとラインアンプの終段(カソードフォロワー)を、
1本の真空管を左右チャンネルに振り分けている。

Date: 5月 13th, 2009
Cate: 真空管アンプ, 長島達夫

真空管アンプの存在(その42)

SMEのSPA1HLは、私の記憶に間違いがなければ、ECC83を4本使っていたはずだ。
回路構成はマランツ#7と同じ、3段K-K帰還型だから、両チャンネルで6ユニット、つまり3本のECC83で足りる。

#7はラインアンプを含め、アンプ全体で6本のECC83/12AX7を使っている。
チャンネルセパレーションの確保ということを重視すれば、
1本の双三極管を、左右チャンネルに振り分けることは、まずしない。

#7の回路構成だと、1本のECC83を、フォノアンプの手段とラインアンプの初段に振り分ける使い方をすれば、
左右チャンネルに振り分けることなく、片チャンネルあたり3本のECC83を使うことができると考えがちだが、
#7では、フォノアンプの終段とラインアンプの終段のカソードフォロワーは、左右チャンネルで振り分けている。

ヒーター回路との絡みもあって、こういう選択にしたのだろうか。

#7のフォノアンプのイミテーションをそっくりそのまま再現するのであれば、
SPA1HLの使用真空管は3本ですむ。なのに4本である。
それぞれの真空管を左右チャンネルに振り分けることなく使うのではあれば、
片チャンネルあたり3ユニット、つまり1本半で足りる。

あまる1ユニットをどう使うか。
おそらく長島先生は、試作・開発の過程で、このあまる1ユニットを利用して、
初段の並列接続を試みられたのではなかろうか。
SN比を高めるために……。

Date: 3月 30th, 2009
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その41)

ステレオサウンド 42号では、53800円のオンキョーのIntegra A-5から195000円のマランツのModel 1250まで、
35機種のプリメインアンプを取りあげている。

入力ショート時とカートリッジ実装時(シュアーのV15 TypeIIIを使用)のSN比の実測値を見ていくと、
各機種間の差は、入力ショート時の値のほうが大きく、カートリッジ実装時では、差が縮まっている。
つまり実使用時においては、カタログ上の値ほどの差はない、とも言えるわけだ。

入力ショート時とカートリッジ実装時の値がほぼ同じという優秀な機種もいくつかあるが、
多くの機種は後者の値が数dBほど低くなっている。

唯一例外なのが、35機種中1機種だけの管球式のラックスのSQ38FD/IIで、
入力ショート時は78.8dBなのに、カートリッジ実装時は80.8dBと、
トランジスターアンプと、ほぼ同じレベルのSN比となっている。

マランツ#7のSN比(もちろんカートリッジ実装時)は、どのレベルなのだろうか。

Date: 3月 29th, 2009
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その40)

フォノイコライザーアンプのSN比は、通常、入力をショートした状態で測定された値が、
メーカーから発表されているが、実際にユーザーが使用する状態でのSN比といえば、
当然だが、入力にカートリッジなりMC型カートリッジの昇圧トランスの2次側か、
ヘッドアンプの出力がつながれているときの値である。

ステレオサウンドが、42号(1977年春号)のプリメインアンプ特集で、
入力ショート時とカートリッジ実装時の、ふたつのSN比を測定し公表している。

話はすこし逸れるが、このころのステレオサウンドの特集は、とにかくボリュームがあった。
42号の特集の最終ページは、392である。編集後記がある奥付が536ページ。

1977年と2009年の今とでは、状況は違う。新製品の数は、いったいどれだけ増えたのか。
取りこぼしがないように新製品を取りあげれば、ページはすぐに不足してくる。

ステレオサウンドは、いつのころからか、弁当に例えるなら、幕の内弁当だけになってしまったのではないだろうか。
あれもこれも、と楽しめる幕の内弁当の方が売上げはいいだろう。安定しているだろう。

以前のステレオサウンドは、とんかつ弁当だったり、焼き魚弁当のときもあれば、
煮物中心だったりと、毎号、主菜は大きく変わっていた。そして食べごたえ(読みごたえ)があった。

42号のようにプリメインアンプの特集ばかりの号は、主菜がひとつに決まっている弁当と同じで、
プリメインアンプに関心のない人には魅力的ではないだろう。
とんかつが食べたくない人は、どんなにおいしくてボリュームがあるとんかつ弁当を差し出されても、
すこしも嬉しくないだろう。幕の内弁当だったら無難なのに、と思うかもしれない。

ステレオサウンドは1年に4冊しか出ない。
しかも年末の号は、ベストバイとステレオサウンド・グランプリが特集で、これこそ幕の内弁当的内容である。

だからこそ、他の号は幕の内弁当ではないほうが、
冬号の幕の内弁当がおいしく魅力的になると思ってしまうのだが……。

Date: 3月 24th, 2009
Cate: 真空管アンプ, 長島達夫

真空管アンプの存在(その39)

長島先生は、マランツ#7を、フォノイコライザーのみ使用されていた。
トーンコントロールやフィルターを含むラインアンプはパスされ、
REC OUTから出力を取り出し、DAVENのアッテネーターを外付けにするという構成だった。

SPA1HLの構成も、また、ほぼ同じである。
出力は固定と可変の2系統を備え、回路構成もマランツ#7と同じ3段K-K帰還型のフォノイコライザーである。
3段構成ということは、真空管はECC83/12AX7(双三極管)だから、
左右チャンネル合わせて3本、つまり6ユニットで足りる。

マランツ#7では、初段と2段目で1本のECC83、つまり左右チャンネルで独立しているが、
終段のカソードフォロワーは、1本のECC83を左右チャンネルに振り分けて使っている。

SPA1HLを取りあげた号のステレオサウンドも手もとにないため、
SPA1HLがどのように真空管を使っているのか、はっきりと思い出せないが、
おそらく長島先生は、初段に、ECC83の並列接続を試されたのではないか、というよりも、
間違いなく試され、その音を聴かれていると、ほとんど根拠らしい根拠はないけれど、私は確信している。

Date: 3月 23rd, 2009
Cate: 真空管アンプ, 長島達夫

真空管アンプの存在(その38)

SMEではなく、オルトフォン・ブランドのSPA1HLが登場したとき、取材・試聴は長島先生だった。

普段どおり試聴ははじまった。
数枚のレコードを聴いた後で、満足げな顔をされた長島先生が、「どうだい?」と、
私がどう感じたのか、きいてこられた。
その後、「内部を見てみよう」と言って、天板を取り、説明してくださった。

その詳しさと言ったら──
長島先生が設計者本人なんだな、ということがわかるほどだった。

説明は、裏板まで取って、続いた。
さらに「このコンデンサーを見つけ出すのが大変だったんだよ」まで言われた。
国内外の著名なコンデンサーは、ほとんどすべて試聴した上で、選択されたもので、
いわゆるオーディオ用と呼ばれている部品ではないし、私も初めて見るコンデンサーだった。

間接的に、自分が設計者と言われている発言だが、それでも「設計した」とは言われないので、
だから、こちらもあえて問わずに、
誰かに、説明するのが楽しくて嬉しくて、といった長島先生の話を、楽しく、ずっと聞いていた。

Date: 3月 15th, 2009
Cate: 真空管アンプ, 長島達夫

真空管アンプの存在(その37)

ステレオサウンド別冊のHIGH TECHNICシリーズのVol.2で、長島先生は、
ジョン・カールのローノイズ化の手法を高く評価されている。

私がステレオサウンドで働きはじめたころも、長島先生は、
「ジョン・カールの、あの手法は巧妙で、見事だよ」と言われていたのを思い出す。

それがいつの日からか、トランジスターや真空管などの能動素子を並列接続して、
ノイズを打ち消すことによってSN比を高めるジョン・カールの手法に対して、
「ノイズを打ち消すとともに、ローレベル領域の信号も打ち消している」と、はっきり言われるようになった。
たしか1984年ごろからだっただろう。

どんなにリニアリティの揃っているものを選別しても、ローレベルのリニアリティがぴたっと揃っているわけでなく、
だからこそノイズを打ち消すこともできる反面、信号も失われていく、
そんなふうに説明してくださった。

そして、その打ち消されてしまう信号領域こそ、音楽の表情を、
活き活きと豊かなものにしてくれるかどうかを、大きく左右する、とつけ加えられた。

そのころは、なぜ、突然、能動素子の並列接続に対する評価を変えられたのか、理由はわからなかった。
しばらく経ち、オルトフォン・ブランドで最初は登場したSMEのフォノイコライザーアンプ、
SPA1HLが、その答えとなった。

Date: 2月 25th, 2009
Cate: 真空管アンプ, 長島達夫

真空管アンプの存在(その36)

私にとっての真空管アンプの手本は、まだある。
audio sharingで、その資料集を公開しているウェスターン・エレクトリック、
それからテレフンケン、ノイマンの、真空管全盛時代のアンプ群、
それから長島達夫先生のこともあげておきたい。

長島先生は、マランツの#7と#2の組合せを使っておられた。
その長島先生が設計・監修をなされたのが、
SMEから1986年に出たフォノイコライザーアンプSPA1HLと
翌87年に登場のラインアンプSPLIIHEの2機種である。

もちろん、どちらも真空管式で、マランツ#7への長島先生の恩返しでもある。

SMEのアンプは長島先生の設計だ、というウワサを耳にされた方は少なからずおられるようで、
私も数回、訊ねられたことがある。そのときはすっとぼけていたが、
ステレオサウンド別冊「往年の真空管アンプ大研究」のなかで、是枝重治氏が272ページに書かれている。
     ※
本誌創刊(註:「管球王国」のこと)前の『真空管アンプ大研究』の取材時の出来事ですが、帰路の車中で長島達夫先生が発した「僕が設計した某ブランドの球プリアンプは、マランツ#7への恩返しだった」とのお言葉は、今でも耳に残っています。
     ※
「マランツ#7への恩返し」は、私も長島先生から直接聞いている。

Date: 2月 21st, 2009
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その35)

昔からのオーディオマニアは、マランツやマッキントッシュ、QUADを見たり聴いたり、
実際に自分のモノとして使われた方も少なくないだろう。

#7やC22、22などを見慣れた目からすると、「遅れてきたガレージメーカー」の真空管アンプをみると、
私みたいに、ついつい細かいことを言いたくなる人もおられるだろう。

私にとって、真空管アンプの手本、見本は全盛時代の真空管アンプであり、
伊藤喜多男先生のアンプである。

1977年ごろの無線と実験に載ったシーメンスEdの固定バイアスのプッシュプルアンプ、
サウンドボーイに、詳細がカラーページで紹介されたEL34のプッシュプルアンプ、
そしてコントロールアンプのRA1501、
これらの記事を穴が開くほどじっくり見て読んできた者からすると、
遅れてきたガレージメーカーのアンプは、詰めが甘いと感じてしまう。

ヒーターに関してもそうだ。
半導体アンプには存在しない、このヒーターの処理をどうするかは、ひじょうに重要なことである。
ヒーター(フィラメント)こそ、真空管の源と言えるのに、
信号回路に直接的でないためか、安易に処理してしまっている印象がつよい。

Date: 2月 21st, 2009
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その34)

最近では、真空管に嵌めるリング状のアクセサリーが出ていることからもわかるように、
真空管に対する振動面での配慮が、実際の音、そして聴感上のSN比に大きく関わってくる。

ボリュームをあげて、真空管を指で軽く弾くと、スピーカーから音が出る。
シールドケースを被せて、同じく指で弾くと、当然のことで、スピーカーからの音も変化する。
シールドケースの違いによっても、音は変化する。

真空管に向かって大きな声で叫んでみるのもいいだろう。
できればフォノイコライザー部の真空管で、試してみてほしい。

ここが真空管と半導体素子との大きな違いであり、
ヒーター(フィラメント)の有無も、またそうである。