Archive for category 試聴/試聴曲/試聴ディスク

Date: 6月 28th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その8)

どんなオーディオ評論家でも試聴ディスクを使って(聴いて)、オーディオ機器の試聴をする。
そしてなんらかの試聴記をしたためる。

新製品紹介の記事であれば、そこで聴いた新製品がどういった製品なのか、
どういった技術がもりこまれているのか、などについて書き、
実際に聴いた音の印象を書いていくわけだが、
この部分について、このディスクのこの部分はこんなふうに鳴った、
別のディスクのあの曲のあの部分は……、と書く人がいる。

そして、そんなふうに書く人を、具体的に試聴記を書いている、として、
この人の書くものは信じられる、とする読者がいる。

こんな記述をインターネットのいくつかのところで見かけたことがある。
そこにはそのオーディオ評論家の名前も書いてあった。

この人は、この人の書くものを全面的に信じるのか、
それも試聴記の書き方が具体的だから、ということでなのか──、
私はそんなふうに受けとっていた。

そこにあった名前はここでは書かないけれど、
私がまったく信用していない人であったし、この人の試聴記の書き方は具体的でもなんでもないことは、
ステレオサウンドをながいこと読んできた人ならばすでに気づかれているはずだ。

Date: 6月 17th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その7)

ステレオサウンド 44号の発売とともに、
ブレンデルのモーツァルトのピアノ協奏曲のレコードを買ったわけではない。
45号が出てもまだ買っていなかった。
近所のレコード店に置いてなかったというのも理由のひとつだが、
他に買いたいレコードはかなりの数あったから、つい先延ばしにしていた。

なのでしばらくは黒田先生の試聴ディスクを一枚も聴かずに、その試聴記を読んでいた。
それぞれのレコードの5つのチェックポイントについては、
特集記事の前半にまとめられているから、黒田先生の試聴記を理解するには、
チェックポイントのページと行き来しながら読む必要があった。

これが10枚すべての試聴ディスクを持っていて聴き込んでいればそんな手間は必要なかっただろうが、
そのころは私はそうする必要があった。

44号、45号の黒田先生の試聴スタイルは、いまでも意義のあることだったと考えているが、
ページ数に制限があれば、読者にわずかとはいえ負担を強いることになる。
それう厭わずに読む人もいれば、そうでない人もいるのが現実だ。

ステレオサウンドの誌面構成は納得のいくものではあったけれど、
読みやすさという点では問題があり、黒田先生の意図をうまく読者に伝えていたかについては疑問も残る。

このやり方はあれこれ考えて細部を見直しても、誌面に限りのある実際の本に向いているとはいえない。
そのためか、このスタイルの試聴は44号と45号限りだった。

Date: 6月 17th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その6)

ステレオサウンド 44号、45号で黒田先生が試聴ディスクとしてあげられた10枚は、
すべて買いたい、と思ったけれど、このころはまだ中学三年。
そんな余裕はなかったから、ブレンデルのモーツァルトのピアノ協奏曲を選んで買った。

このころの私は五味先生の影響を強く受けたばかりのころだから、
カラヤンのヴェルディの序曲・前奏曲集は真っ先に外した。
クライバーの「こうもり」は欲しかったけど、二枚組ということで後回しに。
こんなふうに一枚一枚リストから削ってのブレンデルのレコードだった。

黒田先生は試聴曲として第22番の第三楽章の冒頭1分20秒ほどを使われている。
この時間のなかでの5つのチェックポイント。
実際に聴きながら、こういうところに気をつけて試聴されているのかと、初心者なりに納得していた。

その上で黒田先生の試聴記をもう一度読む。

44号、45号での黒田先生の試聴記は、
曖昧さの排除ということで、各チェックポイントについて30字以内で書かれている。
一枚のディスクに5つのチェックポイントだから、一枚の試聴ディスクにつき150字、
10枚のディスクだから、1500文字の試聴記となっていた。

具体的にこんなふうに書かれていた。
4343でのブレンデルのモーツァルトのピアノ協奏曲についての試聴記である。

❶音像はくっきりしていてい、しかもピアノのまろやかなひびきをよく示す。
❷木管のひびきのキメ細かさをあますところなく示す。
❸ひびきはさわやかにひろがるが、柄が大きくなりすぎることはない。
❹しなやかで、さわやかで、実にすっきりしている。
❺ひびきの特徴を誇張しない。鮮明である。

これだけではわかりにくいと感じる人もいるだろう。
ここでの黒田先生の試聴記は、
あくまでも各レコードについてのチェックポイントについての文章を読んだ上での試聴記である。
しかも、黒段背性と同じように、10枚のディスクを聴いていればこそ掴みやすい試聴記でもある。

Date: 6月 16th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その5)

ステレオサウンド 44号と45号で黒田先生が使われた試聴ディスクは次の通り。

ヴェルディ/序曲・前奏曲全集(カラヤン/ベルリンフィルハーモニー)
モーツァルト/ピアノ協奏曲第22番(ブレンデル、マリナー/アカデミー室内管弦楽団)
シュトラウス/「こうもり」(クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団、プライ、ヴァラディ、ポップ他)
珠玉のマドリガル集(キングズ・シンガーズ)
浪漫(タンジェリン・ドリーム)
アフター・ザ・レイン(テリエ・リピダル)
ホテル・カリフォルニア(イーグルス)
ダブル・ベース(ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ)
タワーリング・トッカータ(ラロ・シフリン、エリック・ゲイル他)
座鬼太鼓座

カラヤンのヴェルディをいちばん長く聴かれている(約4分30秒)、
ほかのレコードは1分強から2分ほどである。

誌面にはB&Kの測定器(Type 2112、Type 2305)による各レコードのレベル記録グラフが掲載されていて、
それぞれのレコードのチェックポイントについての解説も載っている。

ヴェルディの序曲集では仮面舞踏会の前奏曲が試聴曲として使われていて、
まず出だしでは、「ヴァイオリンによるピッチカートが左から鮮明にききとれるか」、
それから「フルートとオーボエのピアニッシモによるフレーズの音色が充分にかわるか」とある。

こんな感じで、各レコードの五つのチェックポイントについて書かれているし、
各レコードについての試聴レコードとして寸評もある。

Date: 6月 15th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その4)

ステレオサウンドに出てくる試聴レコードのすべてでなくとも、
何割かを自分のモノとして聴くことは、試聴記をより理解するための指標ともなる。

音を言葉で表現することの難しさはここであらためて書くまでもないことで、
これまでもいろいろな試みがなされてきた。
それでも音を誌面だけで伝えることの困難さは、まったく変っていない。

それだからこそオーディオ雑誌を読む楽しみというのが、
オーディオそのものの趣味とは別のものとして成り立っているともいえる。

言葉で表現された音を、
その試聴記を書いた人が聴いた音と重ね合わせていく作業には、
そのとき使われた試聴レコードがあるとないとでは、ずいぶん違ってくる。

どのディスクのどの部分を試聴用として使うのか。
そのことがわかっていても、どう聴かれたのかについては、なかなかわからない。

ステレオサウンド 44号、45号のスピーカーシステムの特集における黒田先生の試聴レコードは、
実に興味深かった。
ステレオサウンドを読みはじめて一年が経ったころのスピーカーの特集。
そこで黒田先生は10枚の試聴レコードの50のチェックポイントについて、淡々とした試聴記を書かれていた。

Date: 6月 14th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その3)

東京に住んでいればオーディオ店も当時は数多くあった。
ちなみにダイナミックオーディオは、当時、秋は原と新宿以外に六本木、新橋、渋谷、丸の内にも店舗があった。

そういう環境であれば、そういう場に赴けば、あれこれ試聴できるだろう。
お金を持っていない中学生、高校生でも、他に購入しそうな客がいて、
その人が試聴をしていれば、音を聴くことはできたと思う。

それが私が住んでいた田舎ではそうはいかない。
熊本市内にオーディオ店はあった。
けれど東京のオーディオ店と比較できるところは、当時は一店舗だけだった。
そこに行くにも時間と交通費が、小遣いと新聞配達のバイト代だけの高校生にとってはけっこう負担だった。

とにかく、このころの私は渇望していた。
オーディオのこと、音楽のことを、とにかく知りたかった(聴きたかった)。
それはステレオサウンドの誌面の世界を少しでも実体験(追体験)してみたかった、ともいえる。

ステレオサウンドで高い評価を得ていたオーディオ機器を聴きたい。
でも、そうそう聴けるわけではない。
聴けたとしても、そう長い時間で聴けるわけでもないし、くり返し聴けるわけでもない。

それでもレコードは、当時もいまと変らぬ価格だったから、決して安くはなかった。
けれどオーディオ機器に比べれば、ずっとずっと買いやすい。

レコードならば、すべとはいかないまでも何枚かは買える。
自分のモノであれば、いつでも聴きたい時にくり返し聴ける。

これが当時の私にとっては、ステレオサウンド誌面の実体験(追体験)であった。

Date: 6月 8th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その2)

私がステレオサウンドを読み始めたころには、試聴ディスクのリストが必ず載っていた。
レコード番号も表記されていたから、それが国内盤なのか輸入盤なのかもわかった。

試聴は複数の人が合同で行うときもあれば、
一人ひとり別々の時のあるから、
試聴ディスクに、その違いは出てくる。

一人ひとりであれば、一人ひとりの試聴ディスクが書いてある。
合同試聴の場合は、数枚のレコードが書いてあるけれど、
それらのディスクがどういうふうに選ばれたのか、その詳細については書いてない。

互いに長年一緒に仕事をしてきている人たちだから、
それほどもめることなく試聴ディスクは決るんだろうな、と読者のころはそう思っていた。

試聴ディスクのリストは、オーディオに関しても初心者、
音楽の聴き手としても初心者であった私にとって、いいガイドになっていた。

試聴ディスクのすべてを、当時は買えはしなかった。
それでも何枚かは買っていく。

次はこのディスクを買いたい、とも考える。
新しいステレオサウンドが出て、そこに試聴ディスクが書かれていれば、
その中に新しいディスクが登場していれば、音楽の好き嫌いにあまり関係なく、一度は聴いてみたい。

Date: 6月 6th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その1)

オーディオ機器は音を出す機器であるから、
物理特性が優れているからといって、オーディオ機器として音楽を鳴らすための機器として優秀とは限らない。

聴かなければわからないのがオーディオであるし、
聴くことによってよけいにわからなくなるのもオーディオである。

であるにしても、とにかく聴かなければ何も始まらない。

聴くためには必要なのはオーディオ機器だけではない。
プログラムソースが必ず必要となる。

判断のために音を聴くことを試聴という。
その試聴のためにかけるディスク(LPなりCDのこと)を試聴ディスク(試聴LP、試聴CD)という。

いまではほとんどのオーディオ雑誌で試聴を行った場合、
記事にはどの人が、どの試聴ディスクを使ったのかが表示されている。

そこからいろんなことを読みとろうとすれば、できる。

試聴ディスクのリストも、試聴記とともに重要なことである。
でも、この試聴ディスクのリストも、昔はほとんど掲載されることはなかった。

試聴に使った機材についてのリストはあっても、試聴ディスクに関してはなかった。
ステレオサウンドのバックナンバーをみても、最初のころは試聴ディスクについての記述はなかった。