試聴ディスク考(その10)
黒田先生がステレオサウンド 44号、45号で試みられた試聴記は、
試聴記の前に7ページにわたる「スピーカー泣かせのレコード10マイの50のチェックポイントグラフ」がある。
この7ページ(扉を入れると8ページ)があるからこそ、即物的な言葉での試聴記が成り立っている。
それに、もし44号、45号でのスピーカーシステムの試聴を黒田先生ひとりだとしたら、
おそらく、こういう試聴記にはされなかったのではないか。
44号、45号での試聴は黒田先生の他に岡先生、瀬川先生も試聴記を書かれている。
試聴は岡先生と黒田先生が一緒に、瀬川先生はひとりで行なわれている。
黒田先生にとって、ここでの岡俊雄、瀬川冬樹は、
ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界」で鼎談のメンバーでもある。
このころの黒田先生と瀬川先生のレコード音楽に対しての聴き方・接し方に違いはあっても、
信頼関係があったはずだ。
それらがあっての、44号、45号での、あの試聴記であるということを忘れてはならないし、
これらを抜きにして、似たような試聴記といっしょにするわけにもいかない。
このことがわからない人が、このディスクのこの部分がこう鳴った、という、
いわば印象記にすぎない、もっといえば試聴メモの写し書きを、具体的な試聴記とありがたがっている──、
私にはそう見えてしまう。