Posts Tagged 黒田恭一

Date: 8月 5th, 2014
Cate: ジャーナリズム,

賞からの離脱(その32)

ステレオサウンド 43号から47号への変化を、不満に感じてもいた。
43号のやり方のままでいいじゃないか、なぜ変えるのか、と思っていた。
それでも47号では43号のベストバイにはなかったやり方もあった。

まず特集の巻頭には、瀬川先生による「’78ベストバイ・コンポーネントを選ぶにあたって」という、
10ページ、約三千字の文章があった。

それから黒田先生によるテクニクスのコンサイスコンポについて書かれた文章、
約一万字の「ぼくのベストバイ これまでとはひとあじちがう濃密なきき方ができる」があり、
架空の質問に対して、各選者が答えるページ「読者の質問に沿って目的別のベストバイを選ぶ」もあった。

これらの記事は、目的に応じたベストバイ選びということだった。
それにこのころのベストバイでは、各選者の「ベストバイ・コンポーネントを選ぶにあたって」もあった。

47号のベストバイに不満は感じながらも、満足して読んでいた。
それに47号は表紙もよかった。

SMEの3009 SeriesIIIにシュアーのV15 TypeIVを取り付けて、
ヘッドシェルとカートリッジのアップ。
当時高校生だった私は、これを模写したことがある。

V15 TypeIVのボディの質感、3009 SeriesIIIのシェル、アームパイプの質感はうまく描けなかったけれど、
定規と分度器を使いながら、輪郭だけはしっかりと描いていた。

でも47号はあまり売れなかったのかもしれない。
表紙がアナログプレーヤー関連だったから。

Date: 8月 4th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その10)

黒田先生がステレオサウンド 44号、45号で試みられた試聴記は、
試聴記の前に7ページにわたる「スピーカー泣かせのレコード10マイの50のチェックポイントグラフ」がある。

この7ページ(扉を入れると8ページ)があるからこそ、即物的な言葉での試聴記が成り立っている。
それに、もし44号、45号でのスピーカーシステムの試聴を黒田先生ひとりだとしたら、
おそらく、こういう試聴記にはされなかったのではないか。

44号、45号での試聴は黒田先生の他に岡先生、瀬川先生も試聴記を書かれている。
試聴は岡先生と黒田先生が一緒に、瀬川先生はひとりで行なわれている。

黒田先生にとって、ここでの岡俊雄、瀬川冬樹は、
ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界」で鼎談のメンバーでもある。

このころの黒田先生と瀬川先生のレコード音楽に対しての聴き方・接し方に違いはあっても、
信頼関係があったはずだ。

それらがあっての、44号、45号での、あの試聴記であるということを忘れてはならないし、
これらを抜きにして、似たような試聴記といっしょにするわけにもいかない。

このことがわからない人が、このディスクのこの部分がこう鳴った、という、
いわば印象記にすぎない、もっといえば試聴メモの写し書きを、具体的な試聴記とありがたがっている──、
私にはそう見えてしまう。

Date: 9月 21st, 2008
Cate: 異相の木, 黒田恭一

「異相の木」(その1)

「異相の木」は、黒田(恭一)先生が、
ステレオサウンドに以前連載されていた「さらに聴きとるもののとの対話を」のなかで、 
ヴァンゲリスを取りあげられたときにつけられたタイトルである。 

おのれのレコードコレクションを庭に例えて、
そのなかに、他のコレクションとは毛色の違うレコードが存在する。
それを異相の木と表現されていたように記憶している。

この号の編集後記で、KEN氏は、
自分にとっての異相の木は八代亜紀の「雨の慕情」だ、と書いている。

異相の木は、人それぞれだろう。自分にとっての異相の木があるのかないのか。 
その異相の木は、ずっと異相の木のままなのかどうか。 
そして異相の木は、レコードコレクションだけではない。
オーディオ機器にもあてはまるだろう。

Date: 9月 15th, 2008
Cate: 黒田恭一

ホセ・カレーラスの歌

ホセ・カレーラスがいったい何枚のディスクを出しているのか、知らない。 
ネットで調べれば、すぐにわかることだろうが、数にはあまり興味がないため、
だから、すべて聴いているわけではない。

そういう聴き手である私にとって、
ホセ・カレーラスの数あるディスクの中で、 大切なのは、二枚だ。 
一枚はラミレスの「ミサ・クリオージャ」。 
はじめて、このディスク(というかこの曲)を聴いた時、 
ヨーロッパのクラシックとは違う、こういう美しさもあったのかと驚き、柄にもなく敬虔な気持ちになったものだ。
いまも、ときおり聴く。 

もう一枚は「AROUND THE WORLD」。
タイトルどおり、各国の代表的な歌をカレーラスが、その国の言葉で歌っている。 
国内盤のタスキで、黒田先生の文章が読める。
これが、また素晴らしくいい。 
     ※
汗まみれの、力まかせの熱唱なら、未熟な歌い手にだってできる。 
しかし、声をふりしぼっての熱唱では、ききての胸にしみじみとしみる歌はきかせられない。
充分に経験をつんだ歌い手が表現の贅肉をそぎおとして、静かに、淡々とうたったときにはじめて、
耳をすますききての心の深いところで共鳴する歌がある。
このアルバムで、ホセ・カレーラスのきかせてくれているのが、そういう、味わい深い歌である。
今のカレーラスだけに咲かせられた、いろどり深く、香り幽き秋の花にでもたとえるべきか。 
     ※
この黒田先生のすてきな文章を読みたくて、 
輸入盤のほかに国内盤も買ったほどである(国内盤は友人にプレゼント)。

Date: 9月 4th, 2008
Cate: 黒田恭一

「目的地」

ステレオサウンド38号からもうひとつ。 
黒田恭一氏の文章から。 

「したがってぼくは、目的地変動説をとる。 
さらにいえば、目的地は、あるのではなく、つくられるもの。 
刻一刻とかわるその変化の中でつくられつづけられるものと思う。 
昨日の憧れを今日の憧れと思いこむのは、 
一種の横着のあらわれといえるだろうし、 
そう思いこめるのは、仕合せというべきだが、 
今日の音楽、ないし今日の音と、 
正面切ってむかいあっていないからではないか。」 

いま読んでも、するどくふかいと感じる。
この文章と、アバド、ポリーニによるバルトークのピアノ協奏曲は同時代である。