Archive for category ラック

Date: 10月 19th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その11)

ヤマハのGTR1Bはかなりの台数が売れた、と聞いている。
ヤマハのGTR1Bは製造中止になったが、後継のGTR1000がいまも売られている。

ヤマハのGTラックの成功は、他社からのラックの登場を促した。
それまでの国産メーカーから発売されていたラックは、縦型横型ともに、
レコードの収納スペースが最下段にあり、アンプ、チューナー、カセットデッキが収納でき、
天板のところにアナログプレーヤーを置く、というものだった。
そしてキャスターつきのものが多かった。

GTラック以降、登場してきたラックは、それまでの一般的なラックとは大きく違ってきた。
そしてこのころから海外製のラックも輸入されるようになってきた。
それまでの海外製のラックといえば、バーズリイ(Barzilay)、スターコンビ(Star Combi)、B&Oぐらいだった。
これらは家具としてのラックだった。

これらの海外製のラックと1980年代中頃から輸入されるようになってきたラックには、
はっきりとした違いがあった。
このことはGTラック以降登場してきたラックにも同じことがいえる。

それまではオーディオ機器とレコードの収納家具としてのラックから、
オーディオ機器の置き台としてのラックへと変化していった。
そして高価になっていった。

GTラック登場以前の国産のラックは、五万円前後のモノが大半だった。
ヤマハのマリオ・ベリーニ・デザインのラックでも、安価なモノ(BLC105T)は28000円からあったし、
最も高価なBLC203Rでも86000円だった。

BLC203Rはレコード収納がふたつあり、約100枚のLPが収納でき、
アクセサリーやカセットテープが収納できる引き出しもふたつある。
アンプやチューナーは三台収納できるように棚板があり、プレーヤーが置ける天板もかなり大きめのサイズだった。
外形寸法はW164.4×H120.0×D46.0cmだった。

Date: 2月 12th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その10)

ヤマハのGTR1Bには脚と呼べるものがない。
底板がそのまま床に触れている。
そのため床の条件によっては、どこかすこし浮きがちになる。

これをそのままほっておくわけにはいかない。
せっかくの重量級のラックがガタついていては、あえてGTR1Bを使う意味が薄れてしまう。

ガタツキを簡単にとる方法は浮いている箇所にクサビ状のものを挿し込む。
ガタツキはこれでとれるけれど、
このクサビにどういった材質のものを使うのか、
それにクサビをいれても、浮いている面積が広い場合は、
床とGTR1Bの底板との間に、わずかな隙間が生じてしまう。

そうなると底板が床とべったり接している部分と隙間が生じている部分、クサビを介して接している部分とができる。
これはけっして望ましいとはいえない。

そうなると……、と頭を使う。

こうやってGTR1Bにしても、ただポンと床に置いて、
そのGTR1Bの上にまたポンとオーディオ機器を置くのと、
これまで書いてきたこと、また書いていないことも含めて、
きっちりとセッティングしたのとでは、結果として出てくる音に差が生じるのは当然のことである。

これらのことをラックの使いこなしと書いてしまうと、
少々おかしなことになるが、GTR1Bに限らず、世評の高いラックを購入したからといって、
それだけでうまくいくわけがないことは、私があえて書くまでもないことのはずだ。

Date: 2月 9th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その9)

ラックの天板・棚板の上でオーディオ機器を前後させて、
ある程度いいポイントを見つけるとともに、前後移動による音の変化の傾向をつかんだら、
今度は左右に動かしてみる。

この左右方向の移動でも音は変る。
特にアナログプレーヤーは左右移動の音の変化が大きい傾向にある。

左右方向に動かして、自分にとっていい音のポイントが、左に大きくずらしたところにあったとする。
だが前後方向の移動と違い、左右のどちらかに大きくずれていると、見た目のバランスがよくない。

なのでたいていは左右に関しては真ん中に置くことが、私の場合は多い。

それにしてもなぜオーディオ機器を移動することによって音が変化するのか。

どんなに分厚く振動しにくいといわれている材質の天板・棚板であっても、
振動を皆無にすることは不可能である。
どんなものでも振動している。

この振動が、上に置くオーディオ機器の脚の位置、荷重によって変化していく。
前に動かせば、脚の位置はとうぜん前寄りになるし、天板・棚板の前のほうに荷重がかかる。

四点の脚ならば四つのポイントで、三点支持ならば三つのポイントで、
機器の荷重を支えているともいえるし、天板・棚板を押えているともいえる。

Date: 2月 6th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その8)

思い込みが、いい音を思い込んでいる本人だけにいい音を聴かせることはある。
だが、そうやってのいい音には、遅かれ早かれ気がつく。
思い込みが強ければ強いほど、気がつかなかったりするけれど。

実際にはラックの天板なり棚板のどの位置に置くのがいいのか、とはいえない。
天板、棚板の上でアンプなりCDプレーヤーを動かしてみる。

最初は基準として真ん中に置いて、音を聴く。
それからオーディオ機器を前に移動する。
落ちないぎりぎりまで手前に持ってきて、そのときの音を聴く。
今度は反対に後に移動して、また音を聴く。

真ん中、手前、後と、三つの音を聴いたことになる。
システムがうまく調整されていれば、
この移動による音の差は、決して小さくはない。

動かしたからといって、あるアンプがまったく別のアンプに変るわけではないが、
音のバランスが変化していることに、まず気がつくはずだ。

三つの位置のどこかに、求める音に近いところがあるはず。
たとえば手前に持ってきたときの音が、すべての面ではいいとは感じられなくても、
全体としては求めている音に近ければ、
次の段階として、真ん中と手前の中間の位置に移動して音を聴いてみればいい。

このときの音の判断によって、もう少し真ん中寄りにするのか、それとも手前寄りにするのか。
すこしずつ移動距離が短くしていくことで、追い込んでいく。

Date: 2月 5th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その7)

とにかくGTR1Bの天板の真ん中にくるようにオーディオ機器を置く。
後にもっていったり、前寄りにしたり、左右どちらかにずらして置いたりは、この段階ではしない。

とはいえ、ラックの天板、棚板の真ん中に置くのが必ずしもベストというわけではない。
にも関わらず、神経質そうに天板の真ん中に置くのを、ミリ単位で測る人がいる。
そして、それが音がもっともいい、という。

アンプでもCDプレーヤーでもいいのだが、たいてい脚は四つもしくは三つついている。
これらの脚に均等に荷重がかかっているのであれば、
つまりオーディオ機器の重量バランスが完璧であれば、
ラックの天板・棚板の真ん中に置くのがいちばんいい、というのはわかる。

だが現実には、重量バランスはたいていがどこかに偏っている。
偏っていれば、すべての脚に均等の荷重というわけにはいかない。
それにすべてのアンプなりCDプレーヤーの脚が、筐体底部の四隅に取り付けられているとはかぎらない。

メーカーによっては脚の位置を前後で変えているものもある。
それに三点支持で、三つの脚のものも少なくない。

そういったオーディオ機器の場合でも、とにかくきちんと真ん中に置くことが、
もっとも音がいいと思い込み、定規できちんと合わせている人を見ていると、
滑稽というよりも、なんといったらいいのだろうか、
思い込みの激しいことはシアワセなんだなぁ、と羨ましいのとは違うけれど、
ほんのちょっとだけそれに似たものを感じないわけではない。

Date: 2月 4th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その6)

ヤマハのGTR1B一台に対してオーディオ機器一台という使い方をしていたわけだが、
GTR1Bのどこにオーディオ機器(アンプ、CDプレーヤー、アナログプレーヤー)を置くのかでも、音は変化する。

天板に置くのか、それともGTR1Bの中に置くのか。
このふたつの置き方による音の違いは、決して小さくはない。

天板に置けば、オーディオ機器の周りは開放空間であるのに対し、
GTR1B内部に置けば、開放管の中に置くわけで、オーディオ機器の前後のみが開放だが、
他はラックによって囲まれている状態であり、このことが音に影響している。

どちらの音を良しとするのかは、人によって、聴く音楽によって異るだろうが、
音がすっと拡がってくれるのは、天板に置いた場合である。

だからステレオサウンド試聴室では常に天板にオーディオ機器を設置していた。

細かいことを書けば、天板のどの位置に置くのかでも、音は変化していく。

試聴室は、試聴のための場であり、そのための準備(設置)が要求されるわけだから、
オーディオ機器はGTR1Bの中央にくるのを基準としていた。

これはあくまでもアンプ、CDプレーヤーなどの筐体を上から見た際に、
前後、左右が均等になるように置く、ということである。

Date: 2月 3rd, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その5)

ヤマハのラックGTR1Bは、その形からもわかるように、一種の開放管であり、
つまりは開放管としての共鳴・定在波の発生があり、
これを抑えることも、GTR1B固有の音を和らげることにつながっていく。

具体的にはステレオサウンド試聴室ではラック内に、天然素材の吸音材を入れていた。
吸音材といえば、すぐにグラスウールを思い浮べる人もいるけれど、
聴感上のS/N比的にはグラスウールは不適であり、天然素材の吸音材でなければならない。

あまり入れ過ぎてうまくいかないところがあり、
適度の量(意外に少ない量である)は自分で見つけて行くしかない。
最初は思い切りラック内を満たすほどに入れてみればいい。
その状態の音と、何も入れていない状態の音、ほんの一枚だけ入れた状態の音、
中間ぐらいに入れた音、それぞれの音を聴いたうえで、増やしたり減らしていく。

GTR1Bは木製の開放管である。
板厚は50mmだし、素材は一種類。
それゆえに固有音があるところに集中しやすいともいえるが、
逆にとらえれば、固有音が分散されにくいわけであり、
固有音の正体(どの帯域にそれがあるのか)をしっかりと見極めれば、
その対策(固有音を和らげること)は、それほど難しくはない、といえる。

複数台のGTR1Bをぴったりとつけずに離して置くのも、問題を複雑化しないためである。
だからステレオサウンド試聴室では棚板を使うことは一度もなかった。
ラック内部に、何かモノをいれるということもやらないようにしていた。

あくまでも天板にオーディオ機器を置く、ただそれだけのために使っていた。

Date: 1月 17th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その4)

ラックの使いこなし、と書いてしまうと、いかにも変な感じがするけれど、
ヤマハのGTR1Bの使い方は、最初のころとしばらく経ってからでは変ってきている。

GTR1Bはつねに試聴室では四台横一列に並べていた。
最初のころは、四台をくっつけて置いていた。

それでも、それまで使っていたテーブルにアンプやCDプレーヤーなどを置くよりは、
いい結果が得られていたから、特に問題とは考えていなかった。

それに試聴風景は撮影することが多い。
そういう時のことを考えても、ぴしっと並べてある、という印象のためにも、
ぴったりくっつけていたわけである。

どんな材質にも固有音があるということは、
どんなモノにもやはり固有音がある、というわけで、
GTR1Bにも、GTR1Bの固有音があり、試聴室という場所に置かれるラックとして、
そういう固有音はできれば抑えたい。

これが個人のリスニングルームであれば、その固有音をうまく活かす音づくりもあるけれど、
試聴室はあくまでもさまざまなオーディオ機器を試聴するための部屋であるのだから、
固有音に対しても違ってくるわけだ。

そういうわけで、GTR1Bにはいくつかの方法で、
GTR1Bの固有音を抑える(というより和らげる)ようにしていた。

そのひとつが、少し離して置くことである。

Date: 1月 16th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その3)

ヤマハのGTR1Bのステレオサウンド試聴室への導入はかなり早かった。
四台のGTR1Bが届いた。

それまで使っていたのは、いわゆるテーブルだった。
昔のステレオサウンドのバックナンバーをの試聴風景の写真をみれば、
どういうテーブルなのか、すぐにわかるし、中央に金属製の柱があるタイプである。

このテーブルから一転して、33kgという重量のGTR1Bの導入は、
音だけでなく試聴室の雰囲気もかなり変えたところがある。

GTR1Bには棚板が一枚附属してくる。
ただし本体は板厚50mmだが、棚板は割と標準的な厚みだった。
ステレオサウンド試聴室で、この棚板を試聴に使ったことはない。

GTR1Bのステレオサウンド試聴室での使い方は、
ラックというよりも、あくまでもそれまで使っていたテーブルの役割のかわり、
つまり置き台としてのものだった。

どんな素材にも叩けばなんらかの音がすることからわかるように、
それぞれに固有音があり、同じ材質でも厚みをませばQが高くなる。

GTR1Bの50mmの板厚は、マニアにとって嬉しい厚さともいえる反面、Qが高くなっているため、
あれこれ条件を変えて試聴していくとはっきりしていくことだが、
中域が、いい表現をすれば明快になるし、少し悪い表現では中域にあきらかな固有音がのってくる。

とはいえ一台36000円で、これだけのつくりのラックが買えるということ、
そして細かいことをいっていけば、あれこれ指摘できるけれど、
このラックの性格を掴んだ上で工夫すれば、
置き台の、ひとつの傾向である重厚長大型に好適といえるラックである。

Date: 1月 15th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その2)

1982年あたりごろから、使いこなしのうえでいくつかの変化がはっきりとあらわれはじめてきた。

スピーカーの設置でも、それまでは部屋のどこに置くのか、スピーカーの振りの角度はどうするのか、
といったことに加えて、置き台に対する関心が増してきて、
たとえばフロアー型システム用として、
ダイヤトーンからDK5000という良質の木材のキューブが製品化されたし、
ブックシェルフ型システム用としては、スタンドの比重がそれまでよりもずっと大きくなっていった。

それまでのブックシェルフ型用のスタンドといえばキャスター付の鉄パイプ製が大半だった。
パイプを叩けばカンカンと響く。
しかも形状が横からみるとコの字型をしており、強度も十分だったとはいえなかった。

それが木製のスタンドが登場しはじめ、
ブックシェルフ型スピーカーが重量を増していく傾向とともに、
スタンドもよりしっかりしたものになっていく。
構造も材質も吟味されるようになった。

小型システム用のスタンドとなると、自分でなんとかするしかなかったのが、
イギリスでは専用スタンドがついてくるモノがあらわれはじめ、
日本よりもイギリスの方が小型スピーカー用スタンドは数が多かった、と記憶している。

置き方による音の変化の問題は、
スピーカーだけにとどまらず、そのころ登場したCDプレーヤー、それにアンプでも、
少しずついわれるようになってきた。

そうなるとラックの重要性が増しはじめたころに、タイミング良く登場したのが、
ヤマハのラック、GTR1Bだった。

50mm厚の板を使った四角い箱である。
前後は開放で、重量は33kgという、しっかりしたラックというよりも、箱だった。

Date: 1月 3rd, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その1)

HI-FI STEREO SUIDEが10冊ほどある。
田中一光氏デザインの表紙のものだ。

記憶を呼び起こすために、パラパラとめくる。
あっ、こんな製品があった、あった、となる。

スピーカーやアンプ、プレーヤーに関してはあまりそんなことはないけれど、
アクセサリー関係となると、あった、あったと思う回数が増える。

ずいぶん様相が変った、というところもある。
あまり変らないな、と思うところもある。

1970年代と比べて、大きく変ったともいえるし、
別の面からみるとあまり変っていないともいえるのが、ラックである。

アンプやCDプレーヤーなどのオーディオ機器を収納する、あのラックである。

以前のラックは横型、縦型があり、
レコードも収納できるようになっていた。

いわゆるシステムコンポーネント用のラックともいえる。
中にヤマハのBLCシリーズは、マリオ・ベリーニによるデザインのラックで、
ヤマハもそのことを広告、カタログで謳っていたし、
BLC103は五味先生も使われていたラックだ。

このころのラックは、音質的に優れていることを謳っていたモノはひとつもない。
音質に考慮したラックが登場しはじめるきっかけとなったのは、
ヤマハのGTR1ではなかろうか。